手を引かれている。
科学が大好きな少年は特別抵抗しようともしなかった。ただ目の前の師匠に連れられるがまま、たなびく白衣を眺めている。
昔からそうだった。ゼノはいつも強引に千空の手を引いて、知らない世界へと導いてくれた。千空が何度その手を振り払っても____実験に失敗しても、ゼノの理想には協力できないと伝えても、変わらずにまた手を握り直してくれた。
だが、なにもかも昔と同じというわけでもない。例えば温度。あの部屋のコンピュータから繋がれた無機質で冷たいキーボードとは違って、今千空の右手には心臓から血管を通して伝わる熱がある。ゼノの長い鉤爪が手首の包帯に触れて、彼が千空と同じ合理的な理由でそれを身につけていることに、妙にくすぐったさを感じた。実は、手を引かれているというのは比喩ではない。とある国で開かれた何やら無意味そうな会議から帰ってきたばかりのゼノは、久々に弟子の顔を見ても一言も発さず、ただ研究所の長い廊下を、千空の一歩先を歩いている。
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