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    lebe_schwer

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    lebe_schwer

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    本当は2話までに書き上げる予定だった話。
    めざポケ2話、最高of最高だった……

    #サトカス

    再び、ここから「あ」
    研究のお手伝いで訪問したオーキド研究所、の応接間。そこで見つけた一枚の集合写真に、目が釘付けになる。
    写真いっぱいのポケモンと笑顔の人達。その真ん中で笑っていたのは、相棒のピカチュウを肩に乗せたサトシだった。

    「いい笑顔しちゃって」
    写真の中のサトシにつられて思わず笑みが零れたけど、同時に最近の悩みを思い出して固まってしまう。
    最近の悩み。それはーーマスターズトーナメントで優勝したサトシに、おめでとうが言えていないこと。
    決勝戦の様子は中継で見ていたんだから、その日の内に『優勝おめでとう』の一言を伝えたら良かったのに。あいつの連絡先を知らないばかりに祝いの言葉一つが言えないまま、時間が過ぎてしまった。
    もう言わなくてもいいかと投げやりにはなれず。かといって、祝いたいからと誰かにサトシの連絡先を聞くことはなんだか癪で。
    どうしたら悩みが解決するだろうか。

    「なんだい、その顔」
    不意にかけられた声に慌てて後ろを振り返る。そこにいたのはオーキド博士、ではなくシゲルだった。久しぶりの遭遇に目を丸くする。
    「なんでシゲルが?私、オーキド博士に用があるんだけど」
    「おじい様に急ぎの連絡が来たから、代わりに僕が君の相手を任されたんだよ」
    そう話しながら、シゲルがティーセットをテーブルに置く。白磁に繊細な模様がつけられたティーカップ。ぱっと見ただけで高そうだと感じた。
    「座ったらどうだい。ちょうど美味しい茶葉をもらったんだ」
    「うん。ありがとう」
    素直に誘いを受け、正面のソファに腰かける。
    座り心地の良いソファに感動している間に、シゲルは慣れた手つきで紅茶の支度をしていく。これまたお高そうな銀のティースプーンで茶葉をポットに入れて、熱々の湯を注ぐと、芳しい紅茶の香りがふわりと漂った。その香りを閉じ込めるようにポットに蓋をして、
    「それで、なんの考え事をしていたんだい?」
    不意に投げ込まれた問いかけに、ぎくりと肩が震えた。
    「な、なんのことよ」
    「写真を見ながらひどい顔をしていたじゃないか。まあ、そこまで興味はないから、話したくないなら構わないよ。紅茶を蒸らす時間が暇だから聞いてみただけさ」
    そう言葉を連ねる間もシゲルの視線がこちらに向くことはない。彼にとっては、ほんの何気ない問いかけなんだろうか。ブラッキーが刺繍されたティーコジーをティーポットにかける様を居心地悪く見つめる。ーーことり。小さな砂時計の水色の砂がサラサラと落ちていく。それを見ながら、スゥと軽く息を吸って。

    「サトシにおめでとうを言ってないなって思ってただけよ」
    誰にも話すつもりはなかった蟠りが音になる。

    「……それだけ?」
    「そうよ。時間が経って言いづらいの」
    ようやくこちらを見たシゲルから拍子抜けしたように聞き返されて、思わずむっと唇を曲げる。自分的には全然それだけの悩みじゃないのだから。(言うんじゃなかった)シゲルから顔を背け、頬杖をつく。砂時計の砂が落ち切るまではまだまだ時間がかかりそうだ。
    あとはもう沈黙だけが流れるばかり、と思った時。

    「ほら」
    言葉と共に何かが飛んできて、思わず声を上げそうになった。目の前で浮遊していたのは"呼び出し中"と表示されたスマホロトム。通話相手はーーーー『サトシ』
    「えっ!?ちょっ、なんで!?」
    慌てている間に呼び出し中が通話中へと切り替わる。

    『もしもし、シゲル?』
    聞こえてきたのは、サトシの声だった。
    いきなり何をやってくれているのか。視線だけでシゲルに訴えるけれど、我関せずといった様子でそっぽを向いている。

    『おーい、シゲル?悪戯か〜?』
    訝しげに問いかける声に、ぐっと手を握る。女は度胸よ。
    「久しぶり、サトシ」
    「えっ?え、あっ……もしかして、カスミ!?」
    「そ〜よ」
    サトシにとっても思いもよらない通話相手だっただろう。声だけでも大慌てしているのがわかって笑ってしまう。
    「あれ?これ、シゲルのだよな」
    「今ね、オーキド研究所に来てるのよ。そこでシゲルに会ったの」
    「へぇ、そうなんだ」
    少し話している間に落ち着いたらしく、サトシの声が段々と明るくなっていく。懐かしい声に心がほわりと温かくなる。
    『俺はさ、今いろんな場所に行ってるんだ』
    「え〜?あんた、もう旅に出てるの?もうちょっとゆっくりしたらいいのに」
    この前マスターズトーナメントが終わったばかりだと言うのに、もう新しい旅を始めているとは。相変わらず忙しないやつだと呆れていたら、電話の向こうで笑う気配がした。
    『もう十分休んだって。それに世界にはまだまだ知らないポケモンが沢山いるんだから、じっとしてなんかいられないだろ!

    だって、俺の夢はポケモンマスターになることだからな!』

    初めて出会ったあの日からずっと変わらない、壮大な夢を語る声が、真っ直ぐ心のど真ん中に突き刺さる。
    きっと電話の向こうのサトシは、お日様にも負けないくらいキラキラと輝いた顔をしているのだろう。

    (いいなぁ)自信満々に夢を語るサトシに対して抱いたのは、羨ましさと少しの悔しさ。
    私にだって夢がある。サトシとタケシと出会う前から抱いてきた、とても大事な夢。
    ジムリーダーになってからは胸の奥に仕舞い込んでいた夢が、久しぶりに顔を覗かせる。
    忘れてないよ。私の大事な夢。

    『おおっ!なんだあのポケモン!』
    はしゃいだ声がして、近くでピカチュウが明るく鳴く声も聞こえた。よかった、あの子も元気にしているのね。
    『カスミ、ごめん!なんか用があったんだろうけど』
    「……いいわよ。また今度で。早く行きなさい」
    『おう!じゃあ、またな!』
    そう言うとこちらの返事を待たずに通話が切れてしまった。せめて返事くらい聞きなさいよ。本当に忙しないんだから。

    「折角の機会だったのに、言えなかったね」
    「うん。でも良いわ。また機会はあるもの」
    差し出されたティーカップを受け取って、立ち上る湯気と優しい香りに口元を緩める。

    「ねえ、シゲル。オーキド博士にしばらくお手伝いはお休みしますって伝えておいてくれるかしら」
    「なんでか聞いても?」
    「私、しばらくジムリーダーはお休みにすることにしたの」
    吐息で紅茶を冷ましつつ答えたら、シゲルは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに苦笑をした。

    「今決めたのかい?」
    「ええ。だってサトシに負けていられないもの」
    キラキラと眩しい、アイツの夢を追う姿に触発されてしまったのだから仕方ない。
    水ポケモンマスターになる。
    その夢を追いかけるなら今だと、心が告げてくる。その衝動に、今は身を任せてしまいたくなった。
    少し温度の下がった紅茶を一口飲み込む。すっきりした味わいの紅茶は、とても美味しく感じられた。

    「あ、それから。サトシの行きそうな所って分かる?」
    旅をしていれば、そのうちサトシにも出会うだろう。
    確率は低いのに、なぜかアイツとはどこかで出会う予感がする。

    その時には、素直に伝えるんだ。
    おめでとうの祝福と、かっこよかったの賛辞の言葉を。
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