様子のおかしい執着ジェパと様子のおかしい盗撮魔ンポのジェパサンああなんて素敵なジェパード様!!!
誰がみても羨む美貌、輝く金髪、光るスカイブルーの瞳、鋭く美しく甘さの残る顔つき、たくましい体つき、建創者の一族ランドゥー家の長男、シルバーメイン戌衛官、その厳しく見える容姿とは裏腹に優しさを秘める内面、そのことから、誰が言ったかベロブルグの初恋泥棒とさえ呼ばれている。あの見た目で、あの声で、危機から助けられてしまっては、堕ちない人間は居ないだろう。どれだけ賛辞の言葉を並べても表し足りない、それがこのサンポ・コースキが愛するジェパード・ランドゥーなのだ。
だから今日も今日とて新しいジェパードの一面を求めてしまうのは、仕方がないことだと思いません?
見つからないように身を隠し、宇宙を駆けずり回って手に入れた超高性能カメラを構えてしたなめずりするサンポ。そのカメラがとらえるはもちろん風になびいて煌めいているあの金髪だった。ただ公務に従事しているだけの戌衛官はこのカメラの方を見向きもしない。だが偶然こちらの方に目を向けた瞬間、カメラのシャッターをきった。
「なかなか良く撮れてるんじゃないでしょうかまさかこちら側を向いてくれるとは!今日はついてますねえ!」
上機嫌でさっき撮れた写真を眺める。隠れて撮っているせいでまったくカメラ目線ではないが、目線が外れているおかげで少し物憂げな表情の戌衛官様が写っていた。
「はあ、うふふ、今日も素敵なお顔ですねえ。」
きゅう、とその翡翠色の瞳を細めて、少し興奮した声音でそっと呟いていた。カメラの中のデータもサンポの私用スマホのカメラロールもすべてあの金髪が写っている。どれもこちらを向いていない。すべて盗撮。れっきとした犯罪行為である。だが、サンポはそんなことを気にする様子は全くなかった。盗撮用のカメラをしまい、何もなかったかのような笑顔でジェパードの前に姿を現す。
「今日もお仕事お疲れ様です。ジェパード様。」
怪訝な目でこちらを睨みつけてくるジェパード。
「はぁ、君か。何か企んでいるんじゃないだろうな。」
「まさか!そんなわけありませんよぉ!僕は、れっきとした一般市民ですから。」
「それなら、さっさとどこか行ってくれ。容疑もかかっていない一般市民なら、僕の仕事を邪魔しないでくれ。」
なんてどうでもいいやり取りをし、冷たくあしらわれ、サンポはジェパードの前から姿を消す。いつものことだ。そしてこのあとわざと残しておいた証拠をシルバーメインの誰かが見つけ、それで追いかけてくるジェパードと、いつものように追いかけっこをする。これが、愛すべきサンポの日常だった。
サンポは、この日常をとても気に入っていた。手に入れて、閉じ込めて、自分だけのものにしたいな、なんて思わないわけではないけど、そんなことをしたらこの星中大騒ぎになることだろう。まあ真正面から戦う単純な力勝負ではこっちが負けるのが目に見えている。それに、雪原の中、皆を護るその背中がみれなくなるのは少し惜しい。これまでの犠牲、護るべきベロブルグの民、ランドゥーの血筋、朽ちることのない志、その全てを背負ってそこにたっているジェパード・ランドゥー。まだこの星からそんな男を盗んでしまうには早いだろう。でもいつか、もうこの星から危機や危険が完全に取り除かれ、誰一人恐怖にさらされることがなくなったら、そのときは、あの存護の男を盗んでみてもいいだろう。なんてそんなことを思わないこともない。とにかく、このサンポ・コースキはジェパード・ランドゥーを愛しているのだ。それはもう、ジェパードがどんなときにどんな顔をするのか確かめて切り取ってしまわないと気が済まないくらいに。ジェパードが何処に住んでいるのか、いつ目覚めて、朝ごはんには何をたべて、その後に何をして、家を出るのか、勤務中は何をするのか、どこにいるのか、いつ休憩するのか、どこでするのか、誰が彼を好ましく思っているのか、疎ましく思っているのか、いつ勤務が終わるのか、帰るときにはどの道を使って帰るのか、家に着いた後は、何をするのか......それら全てをサンポは知っていたし、いつもと違うことがあればそれの理由まできちんと調べていた。助けた民からお礼をもらったから、いつもは簡易食料で済ませていたところをサンドイッチを食べていた、とか、慕っているお姉さんに、ちょっとしたお土産を送りに行ったとか、愛している妹さんのためにサバイバルグッズを買いに行ったとか。
風になびく青い髪、怪しく細められる翡翠の瞳、常に弧をかいている口元、飄々とした態度、心優しいと自称する怪しい商人、商人を名乗るにしては鍛えられた体つき、青髪のイケメン、信じてはいけない狡猾な詐欺師、雪原に足跡を残さない軽い身のこなし、信用してはいけないと分かっているのに何故だが騙されてしまう、どれだけ悪評を挙げようと納得される、それがジェパード・ランドゥーが追いかけるサンポ・コースキだった。ジェパードは必ずやサンポ・コースキをとっ捕まえて罪を償わせ、これ以上の被害を出さないようにしなくてはならないのだ。だからこんなふうに情報を集めてしまうのは仕方のないことだ。目の前の壁に新しく手に入れた情報を書き込みながら、何となく言い訳をする。その壁一面にはビッシリとサンポの目撃情報やら、証拠写真やら、被害者の証言やらが書き込まれていた。その壁を掛けたカーテンで隠し、ため息をつく。以前まだマシだった時に姉に見られ絶叫され死ぬほど心配されたので隠すことにしたのだ。あそこまで絶叫しなくてもいいのに、とジェパードは思っているが、壁一面にサンポの情報が書き込まれているのは普通に異常事態だ。だが、ジェパードは気づいていないみたいだった。詐欺行為を繰り返し、ジェパードが追いかけるも証拠不十分で逮捕には至らない、サンポが関わった痕跡があるにはあるのに決定打とはならない、故に現行犯で捕まえないと逮捕できないのに、直接実行することが少ないのでなかなか捕まえられない。ようやく証拠をつかんだと思いきや目の前で逃げられ、いろいろ取り下げられた後にまたひょっこり出てくるのだ。それだけでなく、何もしていないのに、やたらとちょっかいをかけてくるのだ。からかうような笑みを浮かべこちらに話しかけてくる。大して意味のない会話を交わし、サンポが姿を消したころに部下が犯罪の痕跡を見つけてくるのだ。これが忌々しいジェパードの日常だった。