天井と、人の影が視界に入る。腹の上に誰か乗っている。
腕も脚も上がらない。身体が鉄の塊みたいに重い。腹から声が出せない。
視線を動かす。大きな黒い瞳がこちらを見ていた。
馬乗りになっているのはダフだった。
気づけば首に手がかけられ、力を込められていた。
ダフの額から血が滴り落ちる。
そうだ。俺がやったんだ。
謝罪の言葉を考える。浮かんだそばから霧散していく。
首が締まる。血流が止まる。思考がまとまらない。
ごめん、ごめんな。息と変わらない大きさで、それだけを繰り返す。
「謝らなくたっていいよ」
「でも、」
「ああするしかなかったでしょ?」
遮られる。そんなことはない。俺がもっと慎重で、もっと強ければ。
ダフが俺の目を見つめる。
「なん、だよ」
「気にしなくていいんだよ」
それならどうして、こんなこと。
辛うじて動いた手で、ダフの手首をつかむ。
首に込められた力が緩む。
「やめる?」
開きかけた口を閉じ、言葉を飲み込んでしまう。
なんでお前がやめようとするんだ。悪いのは俺だ。
黒い目が見ている。
「なんで、って思ってるでしょ」
見透かされている。
「タミヤ君がそうしてほしいって思ったからだよ」
言わずとも全て暴かれていく。
「僕はタミヤくんの言う通りにする」
こんなことさせちゃいけない。わかっているのに。
首筋を撫でられる。理性を溶かすように、断つように。
首の真ん中を親指がさすった。皆より目立つ喉仏を、俺の成長の証を。責めるように、愛おしむように。
「やめないで……くれ」
声を絞り出す。
「わかったよ」
手の触れたところに体重がかかる。さっきよりも強く、力が込められる。
もっと、もっと強く。
体が勝手にのたうつ。血で額が濡れる。
苦しい。心臓が暴れる。涙が勝手に溢れてくる。
ぼやけた視界の向こう側、ダフはなんだか満足げな顔をしていた。
――ガクン。
身体が跳ねて目が覚めた。
首をさする。痛みはない。額も汗で湿っているだけだ。
寝転んだままため息をつき、腕で目を塞ぐ。
夢だと知って、あろうことか俺は落胆していた。
夢の中で言われた通り、俺が望んだのかもしれない。どうしたいのか、どうされたいのか。これからどうすればいいのか。ひとつもわからない。
わからないけど、行かないでほしい。そんな顔して行かないでくれ。