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    ユメミル5⃣さんが知らないお墓に参る話 モブ視点だしほぼモブの人生の話

     いつものように墓を手入れしに来ていた。
     墓地に足を踏み入れれば、いつも見かける人が墓参りを終えて帰ろうとしていた。名前も知らない顔見知りに挨拶し、先祖のもとへ向かう。
     水を汲んできて、荷物を降ろした。
     飛んできていた葉っぱや花びらを拾う。申し訳程度に墓石を磨く。打ち水をして、新しい花と水を供える。
     この墓に入った人たちのことはよく知らない。好きで世話しているわけではない。親の怪我やら親族の死やらでお鉢が回ってきただけだ。だから好物を供えるなんて気の利いたことはできないし、並べたお菓子もありあわせのもの。
     線香に火をつけ、墓石に向かって手を合わせた。
     この一連の流れと墓地で会う人は、私の人生に染み込みつつあった。知らないなりに彼らのことを考える時間もできた。

     私が去るころにはすでに、新しい花びらが墓石に張り付いていた。墓地の隅にある藤棚から飛んできたのだろう。ちょうど花が咲く時期だ。
     藤棚の下にはベンチがあった。時間帯によっては井戸端会議の会場になる。
     今は昼食時だし、こんなところでピクニックをする人もいないだろう。そう考え、そちらに一歩踏み出した。

     目的のベンチには先客がいた。
     右目を眼帯で隠した、見知らぬ青年。
     大した荷物は持っておらず、私のように掃除に来たわけではないようだった。墓を見るでも花を見るでもなく、ただ宙を見つめていた。
     歩き出した手前、立ち止まることができなかった。そのまま藤棚の陰に入り、ベンチの左端に座った。
     非常に居心地が悪い。少し休憩しようと思っただけなのに、なんだってこんなことになるのか。溜息すらつけない、窮屈な時間だ。
     この青年が何をしに来ていようが、私の知ったことではなかった。ただ、どこか浮世離れした様子に妙な違和感があった。今考えれば私は、彼をよそ者として警戒していたのかもしれない。
     墓地の近くを通る人も皆、この青年を無視していく。遠いのか、知らないのか、視界に入っていないのか。あるいは、私以外に見えていないのではないか。
     そんな自分の心を読んだかのように、青年が視線をこちらに向けた。自分の非現実的な疑いを、排他的な感情を見透かされるようで、恐ろしかった。
     ぎこちなく会釈をすれば、彼は同じように首を動かした。
     そのまま沈黙が続くかに思われた。
    「あの」
     青年が口を開いた。
    「……なんでしょうか」
    「他人でもお墓参りって、していいと思いますか」
     私は墓参りの詳しい作法なんて知らない。隣の墓にすらしっかりと手を合わせたことはないし、他人の墓に挨拶して回る人なんて今まで出会ったことがない。無礼なことをした覚えはないが、何が無礼に当たるのかはわからない。そもそもどうして知らない墓地に来たんだろうか? この人は何を考えているのだろうか?
    「すみません、突然」
     私が考え、黙り込んでいるうちに、青年はうつむいてしまった。
    「いや……」
     何と取り繕おうかと思って必死で考える。目線が泳ぐ。そのうちに見えた彼の横顔が寂しそうに見えてきた。暖かくなってきたというのに、白っぽいシャツが冷たそうに、寒そうに見えた。
     何か言わなければ。焦りが先んじて、考えがまとまる前に口を開いてしまった。
    「バチは当たらないんじゃないですか、線香あげるくらいだし……、私もお供え物はお粗末なものですし」
     また青年がこちらを見た。
    「悪い霊とか……いないと思うし。供養されてるわけですから、その……」
     私がしどろもどろになって喋るのを、彼は黙って見ていた。
     やや黙ってから、彼は「ありがとうございます」と言った。表情は変わらなかったが、寒さが和らいだ気はした。
     そんな会話をしたものの、やはり彼は何も持っていない。ポケットにも、線香の入るような余地はなさそうだった。
    「これ、使いますか」
     線香の箱を取り出して見せると、彼は「いや」と言って立ち上がった。
    「いらない……です」
    「そうですか」
     箱をしまいなおす私を置いて、青年はゆっくりと歩き出した。
     彼は墓石を見て回り、一つの墓の前で立ち止まった。そこで手を合わせ、少ししてそこを離れた。去り際、すれ違ったお婆さんの挨拶に応えているのが見えた。

     それから今まで、その青年を目にしたことはない。
     彼は今、どうしているだろうか。誰かを偲んでいるのだろうか。全部忘れて、仕事でもしているだろうか。
     5分も会話していないのに、あの出来事が思い出される時がある。また私の人生に、知らない人が焼き付いていた。
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