「男女の双子って、恋人たちの生まれ変わりなんだって」
「なに、急に」
二人きりの帰り道、ダフが斜め前の方を指差す。
螢光中の制服を着た男の子たちが、二人並んで歩いている。しばらくすると、少しだけ横顔が見えた。そっくりで見分けがつかない。
「双子?」
「あの子達は男同士だけど」
「でも、男女の双子って見なくない?」
「それは僕らが男子校だからだよ」
なるほど、と納得する。
「いいなあ……女の子と仲良くなって、恋人になれて、来世も一緒にいられるなんて」
ダフはロマンチストなところがあるけど、ダフほどではない僕にも羨ましい話だった。
「確かに、いいなあ」
「……ただの男女じゃなくて、心中した二人だっていう話も見た」
「え、それはやだな」
「そう? いつか死ぬんだったら、好きな人と一緒がよくない?」
「うーん……」
そうかもしれない、とは思った。ただ上手に想像できなかった。なにより、一つわからないことがあった。
「死んだら別々になっちゃわないの?」
「いや? 一緒でいられるから、双子に生まれ変わるんだよ」
「あれ、そうか」
確かにそうだ。だけどもやもやする。死ぬっていうのがまず嫌だ。
「でもさ、恋人だけってズルいと思うんだよね」
ダフが話を進める。
「恋人は特別だけどさ、家族だって特別じゃん」
「うん。俺もばあちゃん好きだし」
「それに、友達だって一緒じゃない?」
「友達も?」
「僕たち親友だろ」
もちろん、と頷いてみせる。
「生まれたときから一緒の親友が、恋人や家族より特別じゃないって、カネダは言える?」
「言えない……」
「でしょ? なのになんで恋人だけ双子になれるんだろうね」
「わかんない……」
僕は圧倒されていた。大きな波に飲まれたみたいに、僕の考えがひっくり返って流される。
ダフが見ているのはどんな世界なんだろう。僕とはまるで違うものを見ているみたいだ。
いつかダフはどこかに行ってしまうかもしれない。それは明日かもしれない。そんな思いがして、胸がキリキリ痛んだ。
気づけば家も近くなっていた。この時間、ここを通るのは僕らだけだった。次の曲がり角で僕らも別れる。
最後の直線の途中で、ダフが立ち止まった。
僕も立ち止まって、振り返る。どうしたの、と声をかけようとした。
「来世は双子になろうよ」
ダフが先に口を開いた。
何歩も距離はないのに、僕は陰の中にいて、ダフは日向に立っていた。
つられて一歩戻る。
僕を見てダフが笑う。
「僕ら特別だから、きっとなれるよ」
「……心中するの?」
「恋人じゃないし、男女でもないから……それはわかんないけど。どう?」
何をするのかわからないままなのに、僕は小さく頷いていた。
「ね、約束」
ダフが小指を差し出す。僕はそれに応えて小指を絡めた。
指切りを終えて、ほどけた手に手が重なる。指を絡めて握られる。おのずと距離が縮まって、ダフの瞳に吸い込まれるような気持ちになる。
「恋人みたいにしてみれば、神様にも見つけてもらえるかも」
「こ、恋人って、」
僕が動揺すると、ダフは少し身体を離して笑った。
「冗談だよ。カネダってばどんくさいから、こうやって繋いでおかないと」
はぐれちゃうでしょ、とダフが言った時、鼻がつんと痛くなった。
「……死んでも一緒でいられる?」
「一緒にいるって約束でしょ」
僕は頷いた。これ以上声を出したら泣き出しそうだった。
僕らはまた歩き出した。
そっくりな僕らってどうなるんだろう。似てない双子でもいいのかも。あと、次は綺麗な町がいいよね。
僕は返事もできないのに、ダフは楽しそうに話す。
手を離すのが名残惜しくて、次の角に着きたくなくて。できるだけ長くいられるように、ゆっくり歩いた。