前世を想う前世で桜と離れる夢に見て不安になる十亀の話と、ずっと夢にみていた桜を発見し自分のモノにしたがる棪堂の話を詰めました。
視点がコロコロ変わります。
「自分は家の決めた許嫁のところに嫁がないといけないんだ……」
オレとオレに少し似ている癖のついた黒髪に青い瞳の青年の目の前には桜色の着物を着た女性が佇んでいた。
白と黒で分かれたロングヘアの女性、そう微笑んだ彼女の左右違う瞳は、十亀の憧れの相手である“桜遥”を想起させた。
「だから、お前らの気持ちには応えられない……ごめん、な……条、哉真斗」
そう言った彼女の双眸は微かに潤んでいた。
「「遥!!!?」」
そう言って踵を返し、オレと哉真斗と言われた青年の呼ぶ声に目をくれずに走り去っていく女性は、桜と同じ名前をしていたーーー。
「はぁ、オレにそっくりな女の夢を見た……?」
オレは放課後、十亀に呼ばれ獅子頭連のアジトであるオリの屋上で十亀の話を聞いていた。
「うん、髪は長かったけど白と黒で分かれていて、瞳の色も琥珀色と炭灰色だし、着物を着てたけど桜と名前も一緒で……本当に桜を女の子になったみたいな子だったんだ……」
「……そう、なのか」
……その夢の正体を知っているか、と言えばオレは知っている。
いや、鮮明に“覚えている”。
「そして、オレとオレに似てるもう1人の男に悲しそうに言ったんだ『自分にはもう決まった相手が居るから、お前らの気持ちには答えられない』って……」
「……」
その夢は多分オレと十亀の前世の記憶の一部だ。
オレが無力だったあの頃のーーー女だからと他人の言うことに抗う力すら無く、ただ家の人間の言うことを聞くしかできなかった頃のオレのーーー。
「ごめんね、なんだかそれだけのことなのに呼び出しちゃって……何故か、この事を桜に伝えなきゃいけない気がして……」
お前の言うその夢の前のことも、その後のことも全部、オレは覚えている。
コイツには、前世なんて昔のことに引き摺られずに生きて欲しい。
前世なんてものに縛られるなんて、オレだけで……十分なんだ。
「ったく、気にしすぎだろ……。 それに、オレは今お前の目の前に居るじゃねぇか、それじゃあ不服か?」
「ふふ……そう、だね……桜」
オレのその言葉に、ずっと不安げだった十亀は今日初めて笑った。
やっぱり、お前には笑顔がよく似合うよ、十亀ーーーいや、条。
条の相談に乗ったその日から、不意に考えることがある。
……哉真斗がこれから先、オレの前へ現れる可能性だ。
条も“アイツ”もオレの側に現れたということは、哉真斗も同じくオレの前に現れるかもしれないという事だ。
さらに言えば、今世のオレは男。
男同士で愛し合い夫婦になるなんて、できるわけが無い。
こんな記憶なんて、アイツらには必要ないんだ。
オレが居ることで条とまだ出会っていないが哉真斗、それに……前世では夫であったが記憶のない“アイツ”。
あの3人をまた傷付けてしまうかもしれない……その考えが頭の中で渦巻く。
オレは……本当にこの場所に居ても、いいのだろうか?
小さい頃からオレは妙な夢を見ていた。
白と黒で分かれたロングヘアを持つ着物姿の女ーーー遥の夢。
遥の瞳は琥珀色と炭灰色に左右分かれていて、とても美しく思えた。
夢の中のオレとそいつは身分は違ったが幼馴染であった。
双子の兄であった条という男とともにオレたちが遥に心を奪われたのは必然とも言えるかもしれない。
しかし、遥は身分の高い家の生まれであり……親の決めた許嫁と婚姻をすることになる。
それを聞いたオレたちは、自分たちの想いを遥に告げた。
だが遥の答えはこうだ。
『お前らの気持ちには応えられない』。
あぁ、可哀想な遥……瞳の奥ではオレたちと別れたくないと言いながら、お家の為にと嫁がされる哀れな女。
だがーーーオレは気付かないうちに、夢の中の遥の虜になっていった。
そんなオレに転機が訪れたのはーー
KEELが風鈴の1年坊主の友達を使って風鈴の1年の奴らと大規模なケンカが起こった時だ。
その最中、オレは見つけたのだ、遥を。
間違いない、黒白に分かれた髪……琥珀と炭灰の瞳。
性別や年齢は違えども……あれはオレがずっと夢で見続けてきた遥だと、何故か確信できた。
ずっと夢だけの存在だけだと思っていた遥ーーーそいつが姿は違えどもオレの目の前に現れたのだ。
こんなに嬉しいことはない。
しかし、こうなると……条と呼ばれていた双子の兄だった男と名前すら思い出せないが遥の許嫁のことも気がかりだ。
もし、そいつらもこの世に存在していてたとしたら……?
もし、今の遥がそいつらの事を好いているとしたら……?
「遥はオレのモノだ……」
オレは、咄嗟に遥の生まれ変わりであろうと直感した風鈴の奴らに“桜”と呼ばれていたあの男がーーー欲しくて、欲しくて、堪らなくなった。
終
ちなみに“アイツ”は梅宮さん想定で書いてます。
続きは……今のところ思いついてなくて。