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    nojiko2020

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    nojiko2020

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    切島くんぜんぜん出てないターンになっちゃった

    ファ切になるはずの十二国記パロ 麒麟が王を選ぶ。それが世の理である。

     十二の国には十二の麒麟があり、それぞれが選んだ十二の王がある――これが理想の世界の有り様だが、実際の所は長い歴史の中で十二国が揃った時代の方が珍しかった。
     なぜなら、人は弱いからだ。麒麟に選ばれ不老不死となった王であるというのに、その重圧に耐えかねて、或いはその生に飽いて、道を外れることは珍しいことでは無い。道を外れれば麒麟――即ち天命は病み衰えて、失道の病に斃れる。王と麒麟は一蓮托生であり、麒麟が死ねば王も死ぬ。
     そしてどんなに理想的な治世を敷く名君であったとて、己か麒麟の首を反乱によって落とされれば死ぬのだ。
     王に仕える官吏たちもまた、仙籍に入り不老不死となる。それぞれが力を蓄える時間は十二分にある。人の欲望は尽きることがない。
     故に、王の仕事とはつまり彼らに対し如何に信を置き、如何に使うかという点に尽きるのだった。

     太志郎の王はそれに失敗した。

     奉西国ホウセイコクは商業の盛んな国であった。先々代の王の敷いた交易路は王が斃れてなお生きており、生まれて初めての王を選んで蓬山から降りた年若い豊麒は、その街並みの賑々しさに目を輝かせたものだった。
     太志郎、と名を賜って、この王とよい国を作るのだと希望を胸にしていた時期はされど儚く、治世三十年の山を越えることは出来なかった。
     太志郎の失道により己の暴挙を悟った王が自ら禅譲し、崩御してより更に十年。ようやく次の王を見出すことが出来たと思った、のに。

     ――なんでこないオオゴトになっとるんや。

     冷や汗が止まらぬまま、太志郎は隣国衛州国エイシュウコクの王宮たる蒼杜宮そうときゅうの内殿に立っていた。
     目の前にいるのは、困ったような笑顔を浮かべた少年だ。癖のある緑がかった髪、頬に雀斑の散ったその少年は朴訥とした様子ながら、身なりを見れば彼がこの国の王であることは伺い知れた。
     緑谷出久。登極八年の王である。十五で即位したと聞いているから、本来の歳は二十三だろう。傍らに立つ英台輔――即ち衛州国の麒麟である英麒とは以前にも面識があったが、音に聞く偽王の騒乱を受けてか随分と痩せ衰えた様子であった。けれど、瞳の輝きだけは変わっていない。
     そして彼ら二人を取り巻くように、見た目にも年若い官吏たちが十人ばかり居並んでいる。
     それは不思議な光景だった。身なりからそれと分かる上級職の者もあれば、さほど官位が高いと思われない者もいるようだ。けれどその全員がまるで同じ立場にあるかのように、限られた者しか入れないはずの、この内殿に集っている。
     彼らに共通するのは、こちらを測るような厳しい眼差しだ。確かに歓迎されるとは思っていなかったが、それにしても針の筵のような心地であった。
    「ええと、豊台輔ほうたいほ、ですよね。はじめまして。衛州国王の緑谷です。お体に障りはありませんか」
     もの慣れぬ様子で頭を下げる少年に、太志郎も軽く頭を下げる。
    「王自ら差配していただきまして、感謝しとります。体の方もこの通り清めてもらいまして……それで、あの、切島くんは」
    「はァ!? 馴れ馴れしく呼んでんじゃねぇよ!!」
    「ちょっ……かっちゃん!?」
     ずい、と前に出てきた砂色の髪の青年を、英王が慌てて掴んで止めた。怒りに燃える赤い眼が太志郎を睨み据え、ヂィっと鋭い舌打ちが響く。
    「礼儀がなってねぇんだよデカブツがぁ!」
    「……麒麟やさかい、これ以上頭は下げれんわ。君はなんや? これでも豊の宰輔なんやけど」
     服装からすれば高位の武官であろうが、当たり前に麒麟には及ばない。完全に立場を無視した態度に、唖然として思わず素が出た。麒麟が傅くことが出来るのは己の王のみである。尊ばれこそすれ、これほど敵意を向けられたことはない。
     ただでさえ血の穢れに当たって冷静を欠いた太志郎の脳に、青年が更に言葉をぶつける。
    「あいつは治療中だわ! 仙籍に入ってんだからテメェが行かんでも治るンだよ!」
    「それは何より。案内してもらえんか。俺は切島くんに会わんとアカンねん」
     こちらも鋭く睨みつけるようにして太志郎は言った。言葉にすればさらに強くそう思えて、脳裏には蘇芳の赤が翻る。
     あれが王だと天啓が告げる。王ならば、誓約を成さねばならぬ。
     麒麟が平伏し誓いを立て、選ばれた者がそれを許して初めて王と成る。しかし太志郎と新たな王の間の誓約は未だ不成立だ。
     何故なら太志郎が選んだ少年は、誓約に許しを与える間もなく昏倒したからである。
    「ハッ! アイツが王だってんなら、どうしてテメェの使令で守らなかった!」
     舌鋒鋭く青年が言う。王に止められていなかったら太志郎は掴み掛かられているだろう。
    「それに俺たちは知ってンだよ! テメェ、切島に会うのは初めてじゃねえんだろ!?」
    「それは……」
    「なのに今更アイツが王だとか虫がいいにも程があンだろうが!!」
     気圧されて、思わず太志郎は言葉を飲み込んだ。青年の袖を掴んだままの緑谷も、彼の追求を止めようとはしていない――つまり、この人の良さそうな少年めいた王も、同じことを思っている。そして恐らく居並ぶ官吏たちの鋭い眼差しもまた、それが理由なのだろう。
     ――どないせえ、っちゅうねん。
     途方に暮れて立ち尽くす太志郎の前に、すっと腕が差し出された。いつの間にかあいだに割って入っていたのは、今まで事態を静観していた英麒である。
    「……豊台輔はお疲れだ。私が話を聞こう。なに、麒麟同士積もる話もあるしね」
     優しく響く低い声に、青年の眼光がいくらか和らいだ。四百歳を超える麒麟は伝説的な存在で、英州国を長く支えてきた。賢君と名高かった前王を弒され、それでもなお偽王を打ち倒し新しい王を選んで再度立った彼は、今でも民の希望なのだ。目の前の不遜な青年も、英麒には逆らえないのか舌打ちと共に引き下がった。
    「爆豪少年を許してやってくれ。友達思いの子なんだ」
    「許すも許さんもありませんわ。他国の人間に罰を与える権限は俺にはあらへん」
    「ハァ〜? 慈悲深いことで」
    「かっちゃんやめなよ!」
     王にたしなめられてなお態度を変えないところをみると、気の置けない友人なのだろうか。まるで子供のようだ、と思えばいくらか苛立ちも紛れて、太志郎は大きく溜息をついた。
    「切島くんには会えへんのですね」
    「傷が塞がるまでは」
     血の穢れが障るだろう、と言われれば、太志郎は引き下がるしかない。麒麟にとって血は毒に等しい。この蒼杜宮まで負傷した切島を運んだだけでも、倒れ伏してもおかしくはない事だった。今こうして立っていられるのは、蒼杜宮に辿り着いてすぐに浴室に放り込まれ、穢れを清めてもらえたからだ。
    「豊台輔は仁重殿じんじゅうでんへ。君たちは切島少年が心配だろう。様子を見に行っておいで」
     はい、と年若い官吏たちが口々に返事をする様は、教師と生徒のようだった。なんとなく彼らの関係が窺い知れる。太志郎の王――切島を、心の底から案じている同年代の若者たち。
     いかにも強固に見える彼らの輪から、ひとつの鎖を抜こうとしているのだ。歓迎されないのは当然だった。
     ――せやけど、俺かて譲れんわ。
    「私の部屋でお茶でも飲みながら、少し話そうか」
     英麒の穏やかな言葉に頷き、踵を返した背を追いかける。英王や官吏たちの視線が肩に刺さるのを感じながらも、太志郎は振り返らなかった。
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