「お前に…言わなくちゃいけねェことがあンだ」
「…?な、なんだ…?」
昼過ぎの陽光の射す部屋の中、男が2人きりで向かい合っていた。
話を切り出した方──ボンドは、最初は意を決したように相手──レトロを見据えていたが、すぐに恥ずかしそうに目を逸らし、視線を床に泳がせる。
レトロは、ボンドが何を言い出そうとしているのか今一分からず、どこか不安そうな表情を浮かべていた。
沈黙の時間がどれだけ続いただろうか。
やがて、ボンドが目を逸らしたまま堰を切ったように語り出した。
自身の過去のこと。──常に周囲から兄と比べられ、親から蔑まれていたこと。そのせいでずっと劣等感を抱いて生きてきたこと。
でも本当は、他人から与えられる愛情に飢えていたこと。
レトロは、何故そんな話をするのかと不思議そうな顔をしていたが、それも最初のうちだけで、話が進むうちにボンドの気持ちを受け止めるように、真剣な表情で頷きながら聞いていた。
「………でもな、ここに来て、変われたような気がするンだ」
過去を一通り語り終えたのか、こころなしかさっきより明るい表情になったボンドがそう話を区切る。
「いつもオレの隣で笑ってくれる奴がいるンだ。
ソイツはすぐもの壊すし、危なっかしいし、オレが暴走したときだって後先考えず真っ先に止めに行くようなヤツで。
でも、その途方もないアホさと、オレを想ってくれる心に、オレは救われた」
「……え?」
それって、と言おうとした言葉は声にならなかった。
心の底から湧き上がる、色んな感情で胸が一杯で、それを抑えるのに必死だったから。
そんなレトロに構わず、ボンドは続ける。
「お前と出会えて、心が満たされたんだよ」
そして、レトロの瞳を真っ直ぐに見つめ。
「──好きだ、レトロ」
その一言を零したボンドは、今までに見たこともないくらい優しく、穏やかな微笑みを湛えていた。