Carousel Adventure side:Investigators 「ん?なにこれ」
パウダーブルーの癖っ毛頭にネイビーブルーのバンダナを巻いた少年は、石造りの祭壇に祀られていたものに手を伸ばした。
古ぼけた円形の金属の土台に、昏い赤色の丸い宝石のようなものが埋め込まれた部分は、少年の手のひらに収まるくらいの大きさだ。しかし、その側部には細長い足のような部品が3対ついており、それらを広げてやると大きな蜘蛛を想わせる姿となる。
更によく観察すると、足には関節のような造りもあり、存外に滑らかに動く。かなり精巧に造られているようだ。
少年──Baron Fitzは、探索中に偶然手に入れた見慣れぬ金属塊を、好奇心に輝く瞳で見つめていた。
「…おい。何してる」
そんなバロンの小さな背中に、ぶっきらぼうな低い声が投げかけられる。
その声に振り向いたバロンの視界に、左頬に獣の爪でつけられたような傷痕のある、オレンジ髪の青年の姿が映った。
「Pico!見て見てなんか変なの見つけた!」
Picoと呼ばれた青年──Phineas Courtneyは、平生から濃い眉間の皺を更に濃くし、険しい目つきでバロンが差し出してきたものと、彼の後ろに鎮座している祭壇とを交互に見つめる。
「まさか、そこの祭壇から取ったんじゃないだろうな…」
「え?そうだけど?」
「お前……」
──また怪しいものをよく調べもせず触りやがったな、と声にならなかった言葉は代わりにため息となって吐き出された。
そんなフィニアスの気持ちなど知る由もないバロンは、新しいおもちゃを手に入れた子供のようなニッコニコ笑顔で金属塊を自慢し始める。
「いいだろこれ〜、めっちゃカッコよくね!?
これも悪い奴が創ったアーティファクトかな?それともオーパーツってやつかな!?」
「知るかよンなもん。いいからとっとと元の場所に戻せ」
「えーー!!せっかく見つけたのに!!」
「うるさい。そもそも祭壇に祀られてるものを不用意に触るんじゃねぇよ…。封印されてるものだったらどうす…っ!?」
不意に、フィニアスが微かに目を見開き説教をやめた。
バロンは、そんな彼の挙動を不思議そうに見つめる。
「…?どしたの?」
「…早くそれ捨てろ」
フィニアスの返答は短いものだった。しかし、それはどこか切羽詰まった声色をしている。
「え…?何急に…。えい」
少し戸惑いを見せつつも、額面通りに彼の言葉を受け取ったバロンは、手に持っていた金属塊を適当にポイと投げ捨てた。
「ちがっ、お前、そうじゃない…!」
まさか本当に捨てるとは思ってなかったフィニアスが焦った声を上げる。
軽く宙に放り出された金属塊は、そのまま重力に従って落ちていく。そして地面に激突すると思われたその時。
──金属塊の3対の足が生き物のように動き出し、耳障りな金属音を立てて足から着地した。
「「!!?」」
突然の出来事に固まる2人をよそに、金属塊は器用に3対の足を動かしてどこかへと逃げ出す。
「…ハッ!コラー!待て!!」
我に返ったバロンは、唐突に自我を持って行動し始めた金属塊を追って走り出す。
「お、おい…!」
フィニアスも一拍遅れて1匹と1人の後を追いかけようと動いた。
金属塊の動きは存外に素早く、バロンが全力で走ってもなかなか追いつけない。
ただ、薄暗い回廊の中でも、逃げるソイツの鮮やかな赤色が目印となり見失うことはなかった。
「待て待て待て待て待てぇーぃ!!」
叫び散らしつつ執拗に追い続けるバロン。
そして、ある程度まで距離が詰まり捕まえられると確信した瞬間、身体を投げ出し金属塊の足の1本に全力で手を伸ばした。
──そのせいで、避けることができなかった。
稲妻のような閃光と共に突如として目の前に出現した、深淵のように真っ黒な大きな穴を。
「うわぁ!?!?」
金属塊はそのままするりと穴の中に消え、続けてバロンも勢いのままそこに飛び込んでしまい、闇に呑み込まれかけた。
「っ…!!」
上半身はほぼ呑まれたバロンの足首を、すんでのところでフィニアスが掴む。間に合った、と安堵したのも束の間、穴から引力のような強い力が生じた。
得体の知れない強い力に晒され、流石のフィニアスもバランスを崩し、抵抗する間もなくバロンもろとも穴の中へと引き摺り込まれてしまう。
黒い穴は2人を完全に呑み込むと、満足したかのように空間に溶けて消えていったのだった。