これからも共に『シキは最近、パチパチキャンディにはまっているって聞いたよ。だから、これ、エリントンの美味しいキャンディ屋さんの詰め合わせ。アーロンと一緒に選んだんだ!アーロンは肉のがいいんじゃないかとか、こんな甘い匂いの店いつまでもいらんねーよって怒ってたけどちゃんとリボンも選んでくれたんだよ。ぜひ、食べてくれ。お誕生日おめでとう!シキ!』
『ハッカー殿は最近、キャンディに夢中とのこと。ですから、世界中から評判の良いキャンディをモクマさんに集めてきてもらいました。ぜひご賞味ください。ですが、口寂しい時はカジノ王に頼っても良いかと思われますよ。お誕生日おめでとうございます。また、ご協力のほど、よろしくお願いします』
『シキ、最近パチパチキャンディにハマっているって聞いたから、今年のケーキはアイスケーキにしてみたよ。アイスの中にキャンディが入っているんだ。だから、おばあちゃんとコテツとみんなでたべよう。約束。お誕生日おめでとう。シキ』
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「といった感じで、その、みんなからキャンディたくさんもらったんだ…」
「一生分のキャンディがあるな…、貴様の部屋には…」
6月4日。
シキが家族と出会え、繋がりを得たあの日から2回目の誕生日。
最近パチパチキャンディにハマっていると聞いたスイから、ルーク、そしてアーロン、チェズレイ、モクマへと情報が流れ、今年のシキの誕生日はキャンディの山が彼の部屋に贈られた。
そして、スイからもパチパチキャンディが入っているアイスケーキが贈られ、そのアイスケーキをコズエとコテツ、ゴンゾウ、そしてスイと囲みながら、シキは家族との二度目の誕生日を終えた。
ミカグラにはまだまだ知らない食べ物があると笑う祖母を見、シキは今年も誕生日を家族で迎えられる喜びを感じていた。
そして幸せな誕生日会を終え、部屋のあるマンションに帰るとイアンが待っており、シキは彼を自身の部屋に通すと、山盛りのキャンディがイアンを出迎えた。
そのキャンディを見、イアンは驚きつつも、このキャンディはシキが仲間達に愛されている証拠だと、鼻で笑った。
そんなイアンを前に、シキはこう話す。
「うん…。でっでも、みんながボクの好きな食べ物知ってくれて嬉しい…。初めてだ。イアンと家族以外の人に好きな食べ物を知ってもらうなんて…。それに、去年はみんながボクの誕生日を祝ってくれて、その、こんなに幸せでいいのかなって思ったんだけど…、あっ、もちろん今年も幸せで…。でも…、今年はこんなボクを幸せにしてくれるみんなのためにまた仕事頑張ろうって思えた。だからボクまた頑張るね。イアン、これからもそばにいてくれる?」
「フッ…、あぁ」
シキが懸命に幸せを噛み締めながら、今年はこれを糧にまた仕事を頑張りたいと話した。
それを聞き、イアンは去年のシキはこんなにも自身が幸せで良いのかと申し訳なさそうにしていたというのに成長したなと鼻で笑った。
21になり、さらに大人になったシキはまだあどけなさは残るが、ミカグラのためになろうと懸命に生きている。
ならば自分は、これからも彼の成長を見守らなければ。
シキのそばで彼を支えるのが、今のイアンの一番の役割なのだから。
シキの成長と幸せを喜びつつ、イアンはそっと胸元からシキへの贈り物を差し出した。
「これは俺からだ…、受け取れ」
「えっ、あっ、ありがとう。イアン。あげてもいい?」
「あぁ」
イアンから受け取った贈り物は何やら手提げ袋の中に大きめの箱が入っており、シキはそれを丁寧に開けると、中にコンパクトな一眼カメラが入っていた。
どうしてこんな高価なものをと、シキは焦り、イアンの顔を見ると、イアンは気にするなと鼻で笑う。
「お前がいつかハスマリーをこの目で見たいと俺に言っていただろう。目に焼き付けるだけではたらんと思ってな。シキガミロボでは怪しまれるから、代わりにそれを使え。タブレットで事足りるかと思ったが、貴様ならば、これでもっと良い写真を撮れるだろうと思ってな。いつ行けるかわからんが、練習がてら使うといい」
「あっ、ありがとうイアン…、嬉しい…。普段その、シキガミロボとタブレットで済ませていたから…。それに、機械触るの好きだから、あの、好きなものもらえて嬉しい…」
シキはお礼を言うと、優しくカメラを抱きしめ、少し触りながら、観察し始めた。
以前シキはイアンにハスマリーのことを教えてと頼んだことがある。
その時、イアンはあまり思い出したかないだろうにとシキに言ったが、シキは首を横に振り、むしろこの目で確かめたいんだと力説した。
自分が育った場所、ルークとアーロンと出会った場所、そしてシキだけでなく、イアンの運命を変えた場所に。
それを聞いたイアンはそのことを覚えており、いつかハスマリーの地を目に焼き付ける時が来たとに使って欲しいとカメラを贈った。
おそらくシキガミロボの方が性能は良いのだろうが、怪しまれないか不安であった。
ならばと、シキに簡易的な一眼レフを贈ってみたのだが、シキはおもちゃをもらった子供のようにそわそわしており、機械が好きの彼の好奇心も刺激できたならよかったとほっとしていると、シキははっとし、イアンの方を見、ゆっくりと口を開いた。
「その、イアンにとってハスマリーはその、嫌な思い出しかない場所だと思うのだけれども…、あの、もしよかったら、一緒に行ってくれる…?アナタと一緒に写真が撮りたい…」
「今の俺は貴様の成長を見届けることだ。貴様が望むのであれば、共に行こう。それに俺も俺自身と向き合わなければな。友と別れた地で…」
「イアン…」
まさか一緒に行きたいと強請られるとは思ってもいなかったイアンだったが、シキを見守るため、すぐに首を縦に振った。
それにイアンもまたハスマリーでやり残したことがあり、再び自身と向き合いたいと話した。
こう苦笑しながら話すイアンに、シキは彼の名前を呼び、そっと機械の手を握った。
その手からイアンはもう体温や震えなどシキの感情を感じ取ることはできない。
だが、彼の表情からそばにいて欲しいと強く願う気持ちが伝わる。
そんなシキの気持ちに応えようと、イアンはその手を優しく握り返した。
すると、その気持ちがシキに伝わったのか、シキの頬はほんのり色づいた。
「ありがとう、イアン。その、イアンとならきっともっと自分を受け入れられる…。こんなボクのそばにいてくれてありがとう…。ボク、これでイアンとの思い出たくさん残すね」
「そうか。俺も貴様がいなければもういないのだ。貴様が生かした命が好きにつかえ…」
「うん…。そっその、イアンも辛かったらボクを頼って…、ボクイアンの役に立ちたいから…」
「貴様がそんなこと言えるようになるとはな…」
まさか、シキのほうから自分を頼ってくれと言われると思っていなかったイアンは、驚きのあまり、碧眼を見開いたが、すぐに優しい表情に戻り、シキの黒髪を撫でた。
これから、きっとシキは毎年誕生日を祝われるごとに成長するのだろう。
それを見届けるのがこんな自分で良いのだろうかとイアンは思う時があるが、それでも彼から生きてくれと願われた身だ、これからもそばにいようと、イアンはそっと髪を撫で、シキの誕生を再び祝った。
「誕生日おめでとう。シキ…」
おわり
〜おまけ〜
その後、イアンの贈ったカメラは見事シキの手によって改造され、シキは写真を撮ることが好きになっていた。