肉まん周回友達大作戦! 荀攸が遠征から帰ってくると、なにやら違和感をおぼえ、すぐに荀彧を探し始めた。
おかしい。
普段であれば荀彧が皆を代表し、出迎えてくれ、兵達を労ってくれるのだが、彼の姿はなく、風紀も少し緩んでいるような気がした。
悪い意味ではなく、いつもぴりついた雰囲気が感じられず、どこか穏やかだったのだ。
一体なぜと、荀攸は辺りを見渡すと、城の廊下にたたずむ荀彧らしき人物がおり、荀攸は叫ぶように年下の叔父の名前を呼んだ。
「文若殿…!?文若殿なのですか!?」
「はい!あっ、公達殿!おかえりなさいませ」
「えっ、あっ、少しお待ちください。俺は疲れているのです。文若殿はわずかですが、ふくよかになられているような…」
荀攸が声をかけた人物は、自身を荀彧と名乗ったのだが、荀攸は信じられず、顔を真っ青にした。
それもそのはず、ほんの僅かだが、荀彧の肉つきが良くなっていた。
そのせいか、きりっとした涼しげな表情から、優しそうな雰囲気を漂わせる荀彧に、荀攸は一体なぜと頭を抱える。
荀令君と呼ばれ、彼自身も身だしなみをひどく気にしており、同僚の満寵の服の乱れも、ほぼ毎日指摘していた。
それに、指摘している以上、皆さんの規範にならなければいけませんねとさらに気を引き締めていた。
そんな普段の荀彧とは反対に、締まりのない年下の叔父を前にした荀攸は、おそらく遠征から帰ってきた際に感じた風紀の緩みは、彼にあるのかもしれないと考えると、荀彧は申し訳なさそうにその理由を語った。
「公達殿…。その、申し訳ありません。これには理由があるのです…。実は最近私に肉まんを渡すと友達になれるという噂があり、民や兵が皆私に肉まんをくださったのです。せっかく皆さんが私にくださったものですから、危ないもの以外は半分くらい口にしましたら、少々太ってしまいました….」
「なるほど…、いや、どういう状況なんですか!?肉まんを差し上げれば友達になれるなんておかしすぎます!」
「なんだか、たくさんくださった方は、私の友達という名札がもらえるそうですよ。私も友達が増えてとても嬉しいです」
「名札!?それをどうするのですか?文若殿の友達ですと名乗ったところで、逆に怪しまれませんか!?それに知らない人と友達になってはいけません!!!くっ…、つっこみが追いつかない…」
荀彧の話を聞き、全く理解が追いつかない荀攸だったが、荀彧は真面目に話すため、本当なのだろうと思った。
俺が遠征に行っている最中、何かおかしなことがあったのだろうか。
そういえば自身も知らぬ貨幣と宝石を集めてきたような…。
だが、とにかく今はこれ以上肉まんを食べさせるわけにはいかないと、荀攸は話を続けた。
「とにかく、この噂は嘘だと皆に伝えなければ。そして、文若殿は痩せましょう。今なら間に合います。お体に良くないです」
「そうはさせないよ!荀攸殿」
「郭嘉殿!?」
荀彧にまず友達になれるという噂話は嘘であると噂を流し、痩せようと荀攸は提案すると、荀彧はそうですね…と首を縦に振ろうとした。
その瞬間、いつのまにか郭嘉が近くにおり、止めに入った。
荀攸よりも一回り年下だが、軍師としてはかなりの実力者である郭嘉が止めに入ったため、荀攸はもしかしたら何か策があるのだろうかと身構えると、郭嘉はこう言った。
「もう、イベント期間は終わったから肉まんは今は白銀の美少女に殺到しているよ。安心してね」
「イベント!?今度は知らぬ言語が…。ですが、もうその噂は嘘だと伝わっているのならば文若殿が痩せるのみ…」
「いや、このままが良いのではないかな?民からの贈り物を受け取った証なのだから。それにおかげで下心がある人物も炙り出せたし…、ねぇ、荀彧殿」
「はい。明らかに怪しげな肉まんは食べずに、その人物を捕らえ、満寵殿と郭嘉殿が拷問にかけてくださいました」
「肉まん周回友達作戦を利用させて頂きました!ゲームにおける、不正チート行為をこの私、満伯寧は許しません!」
「何を言っているのか説明してもらいたいような気もしますが、満寵殿の説明は長くなりそうなのでやめておきましょう。ですが俺はあまり締まりのない文若殿はやはり良くないかと…」
「公達殿…」
いつの間にか満寵も参戦し、荀攸はさらに混乱した。
イベント、ゲームと聞いたことのない言葉が並び、だんだん自信がなくなってきた荀攸だが、ここで折れたら荀彧殿はさらに肉まんを食べてしまう。
荀家の一族として、俺が止めなければ…。
だが、なぜだか郭嘉と満寵は仲良く荀彧はこのままで良いと主張するため、裏があるのではないだろうかと考えていると、荀攸が最も苦手とする男が助け舟を出した。
「はっはっは。おかえり、荀攸殿。いやはや、荀彧殿は少しふくよかになり、そして100人のお友達と仲良くしていたら、緊張の糸がほぐれたのか、なんだか隙ができてね。その隙をついて、郭嘉殿は美女を口説き放題、満寵殿は罠を作り放題と好き勝手。だから、二人はこのままで良いと言ってるってとこだろ。イベントは終わったが、まだまだ肉まんを提供し続けるやつもいてね。荀彧殿を責めないでやってくれ」
「なっ、そうなんですか?郭嘉殿…」
「そんなことは…。いつも通りだよ。少し殿と絶影のお酒を開発して、たくさんの美女と楽しんだくらいで…。ねぇ、満寵殿」
「はっ、はい!いつも通りです。断じて、荀彧殿の優しさにつけこんではいませんよ。はっ、そういえば、先日作った罠を徐晃殿に試して欲しいとお願いするのを忘れてました。徐晃殿が関羽殿と張遼殿に負けないよう、滝行に長く耐えるために、水を活用した罠を開発したのですが、あと李典殿と楽進殿も部屋で…」
「つけこんでいるのですね…」
荀攸を助けてくれたのは賈詡であった。
賈詡の話によると、たくさんの信頼できる友ができた荀彧の緊張の糸が解け、いつもより規律が緩くなったというのだ。
そんなことがあるのかと荀攸は思いつつも、毎日政務に忙しい荀彧に本当に信頼できる友ができ、少し舞い上がってしまってしまったのかもしれないと納得しようとしていると、大変なことになってしまったと申し訳なさそうに、荀彧は荀攸に謝罪した。
「公達殿。ご心配をおかけし、申し訳ありません。確かに私が食べた肉まんはいくつかわかりません…。とある民からこの勝負は肉まんを与え、フリーモードで回し、なくなれば共闘で回し、コンクエストモードのアイテム回収をしながら、走り抜けることが、上策とお聞きしました。100いや1000を超えるに肉まんを私のためにご用意していただいたのです。ですから、皆の優しさに応えたかったのです。そしてとてもお強い精鋭の皆様と友達になり、安寧の世への一歩を築きたかったのです」
「なんと、文若殿…!!何をお話ししているのか全くわから…、いやなんだかだんだんわかってきたような…、ですが、その志の高さ、やはり文若殿です」
荀彧の話を聞き、だんだん満寵や郭嘉が話していたことについてもわかってきた荀攸だったが、そんなことよりも荀彧の安寧の世のため友を増やしたと聞き、すでにたくさんの人脈を持っているというのにまだその手を広げようとしているのかと、胸を打たれた。
さすが、荀家の代表。
俺自身も頑張らなければ。
こう、決意した荀攸だったが、やはり少し太ってしまった荀彧はよろしくないと郭嘉と満寵の方を向き、指示を出す。
「とにかく、文若殿には痩せて頂き、郭嘉殿と満寵殿は優しさにつけこんでいた分の仕事をこなしてください」
「おや、荀攸殿がきちんと的確な指示しているね。素晴らしいね…、肉まん周回友達作戦は皆を成長させたみたいだ」
「はい!それに私も肉まん周回友達作戦に便乗し、今回も郭嘉殿と一緒に魏の優秀な兵士を募ることに成功しました。対人バトルは盛り上がりますね。青い宝石を配った甲斐がありました」
「いや、あんたら、どこまで知ってるんだ…。あははあ。全く覇道に集う俺達は癖が強いね」
叱られているというのにくすくす笑う郭嘉と満寵に、賈詡は呆れつつも、いつも通りの生活に戻れると安心した。
そんな仲間達を見つめ、いきなり始まったイベントのせいで皆に迷惑をかけてしまったと荀彧は肩を落としつつも、お陰でまたみんな結束が強まったようで、よかったと微笑んだ。
「皆さん、私のために…。おかげで兵糧もたくさん備蓄できましたし、当分は我が軍の回復アイテムには困りません!」
「さすがは文若殿。そこまで計算に入れているとはお見事です。…俺もまた頑張ります」
その後、荀彧はいつもの政務をこなしていると自然と痩せ、逆に働きすぎではないかと休まされることになったのはまた別のお話…。
そして、肉まん周回大作戦は後日この4人に襲いかかってくることはまだ誰も知らず、新たなお友達たちはそれを待っているのであった。