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    noa/ノア

    @eleanor_dmei

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    noa/ノア

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    [FengQing] 中秋の満月の光のもと、初めて口づけを交わす風信と慕情。

    #天官賜福
    Heaven Official’s Blessing
    #fengqing
    ##FengQing

    月の雫 これほど月の光が似合う顔を、風信は他に知らない。
     窓から差し込む満月の光が、目の前の白い肌を照らす。そのすらりとした鼻梁、細いが意志の強い眉、そして、長く密度のある睫毛が縁どる双眸。
     陽の光より冷たく淡い光が、それらに遠慮がちな陰影をつくる。どんな神像でも叶わないその美しさに溜息をつきたくなる。
     だが、二人の間の空気は弓の弦のように張り詰めていた。
     微かな息が掠めるほど顔を近づけ合って、二人がすることと言えば、いつものように舌戦を繰り広げるか、それとも――。
     おそらく前者ではないとわかっていながらも、風信は身を固くすることしかできない。
     何故なら――
     他人と唇をくっつけるなんて気色の悪い――そう言い捨てた目の前の人物に思い切り跳ね除けられ、壁にヒビが入るほど背をぶつけて痛い思いをしたのは記憶に新しいからだ。
     ごくりと唾を飲み込む音がやけに大きく響いた気がして目を伏せたそのとき――
     引き結んでいた風信の上唇に、軽く、まるで花びらが落ちたかのようにそっと柔らかいものが触れた感触。
     思わず瞼を上げる。
     視線の先の眼差しは、真剣そのものといった様子で風信の口を見つめている。
     すっとあっけなく離れていった唇は、またすぐに、風信の唇に落ちる。また離れて、もう一度。
     少しずつ場所を変えながら、ゆっくりとついばむ。
     その様子はまるで赤子が初めて出会ったものを口で試すようで、艶めかしさはないと言ってもいい。
     だが風信は身じろぎせずに待つ。庭の木に止まった美しい小鳥を見つめるように。少しでも驚かせたら、去ってしまう小鳥を。
     風信の上唇をすべて試し尽くした紅唇は、さあどうしようというように離れていく。
     二人の目が見つめ合う。風信は、慕情の目の奥に高揚と期待が見え隠れしているのを見逃さなかった。
     風信はゆっくりと、その唇に自らの唇を寄せながら瞼を落とした。
     だが、目を閉じたか否かというところで、その顎を細い指に掴まれ、そして今度はその上唇をすべて覆いつくそうとするかのように、しっとりと濡れた確かな肉の感触に包まれる。
     小手調べは終わったというように、慕情の柔らかな唇は、さっきよりも大胆に風信の唇を挟んでは離しを繰り返す。
     風信も堪らず慕情の頭の後ろをそっと手で包み込み、慕情の動きに合わせてその唇を求め返す。
     時折、その隙間から漏れる息の音が鼓膜を撫で、そのたびに動きが速くなっていく。
     いま、初めて、お互いの肉体の柔らかく敏感な場所で触れ合っている──
     そのことを考えずには居られない。そしてそのことを考えるだけで、唇の先から、体の隅々へ、多幸感がじんわりと広がっていく。
     これほど甘美な口づけをしたことがあっただろうか――そんな愚問は風信の脳内で即座に一刀両断される。
     息を吸おうと小さく口を開けた時、風信の舌先が一瞬慕情の唇に触れた。
     途端、慕情の動きが止まる。だが、それはほんの僅かで、風信が薄目を開けようとする隙も与えず、再び唇が押し付けられる。
     迎え入れるように風信も僅かに口を開く。あたたかな息と共に、二人の舌がその身を掠める。
     二人の息と湿り気が混じり合う。
    「……ン、っ……」
     風信の耳に僅かに届いた慕情のその小さな声。途端、ぴくりと慕情の動きが止まった。風信は、ゆっくりと瞼を持ち上げる。
     慕情がゆっくり、ゆっくりと唇を離していく。すっかり濡れそぼった二人の口唇の間で月の光に鈍く光った細い銀糸は、あっけなく切れてしまう。
     風信は、その顔を見て固まった。
    「慕情……?」
     さっきまで己の唇を貪るように動いていた赤い唇は細かく震えていた。そしてその上の二つの瞳は、月を映した湖の水面のように水を湛えていた。
     次の瞬間、耐えきれなくなったようにその目の端から一滴が流れ落ちた。
     風信は思わずその顔を包んだ手の親指で、その涙の筋を、巻き戻すかのように上へなぞった。
    「慕情」
     他人の気持ちを推し量るのが苦手な風信だが、慕情が何を考えているのか、不思議とわかった。
     さっきの口づけで味わった甘みは二人とも同じでも、その甘みが心にもたらすものはおそらく、違う。風信は、その目をしっかりと見つめ口を開いた。
    「いいか、慕情、これは戒律を破るのとは違う」
     慕情の目が無言で問う。何が違うのかと。
    「色欲を禁じるのは、それに溺れてしまうからだ。だが……」
     ゆっくりと言葉を選ぶ。
    「大切に思う相手と情を交わすのは、溺れるのとは、違う、はずだ」
     いささか説得力に欠ける言葉しか紡げないのがもどかしい。
     心が揺れているかのように、慕情の眉間が僅かに寄る。瞬きと共に、もう一滴がその白い頬を伝う。
     その温かい湿り気を指先で受け止めながら、風信は思わずにいられなかった。
     美しい。
     もしも月が涙したら、こんな風じゃないだろうか、と。
     詩的な情なんて微塵も持ち合わせていない。殿下に仕える時に受けた座学では、昔の名詩でも四文字と覚えられなかったのに。
     それなのに――いまこの瞬間なら、そんな自分が詩を吟じてしまえそうな気持ちになるから不思議だ。
     だが、慕情はその視線から逃げるように顔を背け、乱暴にその顔を拭う。
     駄目だ、やめないでくれ、逃げないでくれ。
     初めて、互いの体でその想いを確かめ合う。それは、一線を越えるということになるのだろう。二人にとってあまりにも太く高い線を。
     だが今夜なら超えられる気がした。
     満月には不思議な力が宿る──いつもならそんなまやかしめいた言葉は鼻で笑ってしまうが、今は違う。
     窓から覗く黄金色の中秋の満月。その力を借りれば、慕情とちゃんと情を交わすことが出来るはずだ──。
     風信は手で慕情の顔を戻させる。慕情の目には、まだ己と風信を責めるような色が浮かんでいた。風信は言った。
    「慕情、よく聞け」
     慕情を納得させるだけの言葉を持ち合わせていない自分には、もうこの手しかない。
    「いいか、これは俺がお前に法力を渡すためだ」
     慕情も推し量るように見つめ返した。
    「お前、最近、法力が減っているだろう?」
     慕情の管轄の地で猛威をふるった流行り病のせいで、大信徒を含め多くの玄真殿の信徒が相次いでこの世を去った。その上、その病を蔓延させた厄介な鬼の討伐は、慕情を大きく消耗させた。
     だが、そのおかげで隣の風信の地まで病の魔の手は伸びなかった。それを知った風信は、自身の大信徒の夢枕で訴えた。今年は灯の数を競うような馬鹿げたことはしなくて良いから、代わりに玄真殿にも線香をあげよと。だが普段のいがみ合いが祟って、動きは鈍かった。
    「俺は、お前の力になりたい。お前が――大切だから。だから……」
     慕情の細い首を片手で抱き、ゆっくり上体を倒しながら、その顔を抱き寄せる。風信がいくらも力を入れないうちに、慕情の鼻先が風信の頬を掠めた。
     だが、その時、トンと窓に何かがぶつかる音がして、慕情の顔がさっとそちらへ動いた。ジジっという羽音とともに、羽虫が飛んでいく。しかし、窓のほうに向けた慕情の顔は、その明るさに怯んだように固まっている。
    「慕情、大丈夫だ。ここには誰も来ない」
     将軍の自室の庭に忍び込もうなどという者はいないだろう。風信の声に慕情が顔を戻したが、その表情はまだ固い。その髪に月の光が緩く輪を描いている。
     風信はそっと腕を上げ、慕情の頭上の髪留めに手を伸ばした。だが、不器用な指先がそれをいじるのを止めるように、慕情の手が重なる。次の瞬間、その指の先で金具が割れるのを感じた。驚いて見つめる風信を見やりながら、慕情は割れた髪留めを外して脇に放った。
    「こんなものはいくらでも替えがある。だけど――」
     今このときは――ほとんど口の動きだけで慕情が続けたその言葉とともに、はらりと、その長く艶のある黒髪が二人の顔の両側に流れ落ちる。
     二人の目に映るのは、見つめ合う相手の顔だけだった。煌々と照らす満月の光すら、その隙間から遠慮がちに覗くことしかできない。
     慕情がゆっくり身を屈める。風信も、手の中のうなじを愛おしむように撫でながら抱き寄せる。
     再び二人の唇が触れ合う。そしてどちらからともなく、互いの唇を求めあう。
     風信はそっと顔をずらし慕情の口を覆うように唇を押し当て、少しずつ法力を注ぎ込む。それを吸い寄せるように慕情もゆっくりと唇を動かす。口づけが次第に深くなっていく。
     慕情の手が風信の首の後ろに添えられる。
     風信は、伺いを立てるように慕情の歯列を舌先で撫でた。慕情が小さく息を吸いながら口を開く。法力とともにそっと忍び込ませた舌先が、慕情のそれに触れる。持ち主のように俊敏に身をかわされたが、さらに奥を目指して動かすと、愉しむように身をくねらせながら慕情が迎え入れる。
     時折角度をかえながら、組み合うように互いの舌を絡め合う。
     なるほどこんな舌戦の方法があったのか。
     思えば、自分たちは、やり合っている時が一番お互いを感じられるのだ。
     気づかないうちに、二人の胸は忙しく上下し、鼻から荒い息が漏れていた。
     指の先で慕情の頬が動くのを感じながら、風信は己の口を全て使って、法力を注ぎ込む。
     好きだ。
     お前のことが好きだ。
     法力に込めて送り込んだら、この想いも届くだろうか。慕情の胸の奥深くへ。
     狂おしいほどに求めあう時間だけが、月が空を昇っていくように、ゆったりと流れる。
     どれほどそうしていただろう。
    「……っん……ふぉん、しん…も、う」
     慕情の唇から声が漏れる。風信は目を開け、名残惜しくゆっくり唇を離す。
     ちゅ、と二人の間で鳴った音は、まるで小鈴のように愛らしく空気を揺らす。
     慕情の目が二つ瞬きし、下に落ちる。
    「……ありがとう」
     さっきまで風信の口を求めて縋り付いていた唇が小さく動く。
     高く昇った月の光が照らす慕情の頬は、先程までの青白さが消え、ほんのり色づいて生気が宿っていた。
     その途端、風信は自分の顔の真ん中に熱が宿り、視界が揺れるのを感じた。
     そして、ぽつりと一粒が、下に置かれた慕情の手の甲に落ちた。
    「風信……?」
     慕情の目が怪訝そうに風信の顔を見る。だがその口元が弧を描いているのを見て、慕情も呆れたように眉尻を下げる。
    「お前は辛い時は絶対泣かないくせに」
     慕情は手の甲の一粒をそっと撫でた。
    「月の雫みたいだな」
     その言葉に風信は小さく拗ねたように笑う。やはり詩情で慕情に勝てはしないのだ。
     慕情が風信の顎にそっと手を伸ばし、その顔を上げさせる。慕情の柔らかな唇が風信の濡れた頬に落ちる。
     夜空の高くにぽつりと浮かぶ月の光は、睦み合う二人を温かに包み込んだ。
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