ひかりは近く、遠く しゃく、しゃくと小気味の良い音が、高く澄んだ秋の空へと吸い込まれるように消えていく。六年長屋の敷地の一角、縁側に降りてきたらしい百舌がピィと高く鳴き、遠くで下級生たちが笑い合う声と混ざり合う。
「もう冬毛だねえ」
のんびりした声が背後から聞こえて、善法寺伊作は一瞬自分の毛のことを言われているのかと首を動かしそうになった。「あぁ、動かないで」と柔らかい調子はそのまま、すこしだけ厳しさを含んだ言葉に、思わず背筋を伸ばす。
「ああ。百舌ですか」
伊作は尋ねた。長屋に背を向け、用意された台に腰をかけていたので、彼はそれが見えなかった。伊作の頭の位置を調整しながら「そう。ふっくらしてる」と、さきほどから小気味の良い音をたてている張本人である、斉藤タカ丸はのんびり笑った。彼はちょうど、伊作の髪を整えているところであった。
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