木枯らしが鳴いている 蜻蛉が薄青の空に線を描くように飛んでくる。
それは母親と手を繋ぐ子の鼻先を通り、商人の背負うカゴに止まり、そしてやがて王子の眼前で背を丸めている光雲のもとへとやってきた。
団子屋の前で後輩への土産を真剣に吟味している彼にとっては些細なことだったようで、振り払うこともせず、依然として意識は並べられた団子に向いていた。
二、三度羽を瞬かせた蜻蛉は、やがて光雲の肩先へと落ち着く。奇しくも蜻蛉柄の着物を着ていたせいで、妙な馴染み方をして、黄色の布地には赤が映えた。そっと手を伸ばす。
とってやろうとしたと同時に「決めたっ!」と明るい声がして、光雲の背筋が伸びる。王子が離してやる間もなく蜻蛉は飛び立って、戸惑うようにあたりをうろうろとしてから、やがて人混みへと消えていった。
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