研磨に彼女が出来る話。 ○
本来なら、冷たいそよ風が火照った頬を撫で心地よいと言われるような、そんな昼下がり。黒尾はひたすら息を殺して、隠れていた。
「好き、なんです。研磨くんのこと」
壮大な青空を見上げて、心が空っぽになった気がした。
その場に居合わせてしまったのは、すべて偶然だった。水筒を家に忘れてしまったこと、飲み物を買いに行こうとして研磨のクラスメイトに声をかけられたこと、忘れ物を届けてやろうと研磨を探したこと。全部、本当に、たまたまだった。
「そう、なんだ」
困惑げに答えている聞きなれたその声に、どうしてか、息が詰まる。無意識に込めた力は、持っていた書類を握り、くしゃりと小さく音を立てた。
「だから、ね。あの、その……付き合って、くれませんか」
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