初恋 午後の陽だまりの中、冠氷尋は幸せな気分で目を覚ます。
(なんかいい夢を見た気がするが…)
魔法を掛けられたかの様に、内容が思い出せない。
ふいにガチャリと扉が開く。寮服を着た磴塔真が「失礼致します」と慇懃に入室してくる。その姿で尋はさっき見た夢を思い出した。
(あぁ~…アレは夢じゃね過去にあった話だ)
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ダークウィックアカデミー創立記念パーティーに合わせて、例年新寮長発表も行われる。そんな大事なパーティーの開催時間を目前に、塔真はしっかり鏡の前で寮服の乱れがないかの最終チェックを行っていた。
ふいにノックもナシに突然開く扉。次いで
「おい、塔真! ちゃんと渡したマナー本読んだか??」
傍若無人な尋の態度に
「ここは寮長室と違い、完全防音ではないのですが? キチンとノックくらいして入って下さりませんと」
と一応釘は刺しておく。
「塔真が礼儀を尽くす様な相手になったらな。……って、なんだコレ?? なんでお前が??」
ふいに尋の目に入ったのは、サイドチェストに置かれた、精巧なガラスのお城だった。
「私に不似合いな代物だとでも?? まぁ~あながち否定は出来ませんが。何せソレ、初恋相手の妖精から貰った代物ですから」
塔真の口から出てくる単語には不似合いな〝妖精〟と言う言葉に驚いているのか、尋の顔は先ほどから驚きっぱなしだ。
「なんです?? そんなに私の口から妖精なんて単語が出てくるのがおかしいですか? まぁ~実際くれた方には羽はありましたが、飛んではいなかったので人間やグールなどの類なのでしょうが。何か興味がおありなら聞かせましょうか? 妖精と出会った時のあの思い出話しをー」
尋は興味を惹かれ、思わずコクリと頷いてしまった。
塔真が話した内容はこんな話だった。
まだ未就学の四~五才位の年頃。親とはぐれベンチや植樹しかない広場とも公園とも呼べそうな場所で途方にくれて泣いていた。すると突然
「なにをないてるの?? ケガでもした?? おかーさんとかおとーさんは??」
と塔真と同じ年齢位だろうか。淡いブルーのフワフワドレスに、背中には同じ色合いのブルーの羽を背負った綺麗な子供がそこにいた。
「ひっく…けがはない、よ…ヴッヴゥッツ、ママとはぐれたぁ~!!」
悲しみの感情が再び襲ってきたのか、塔真の目から大粒の涙が溢れ出す。
「だいじょーぶ。ぜったいみつかるからね? なかないで、ヨシヨシ」
塔真をギュッと抱きしめ、優しく頭をヨシヨシするその子に、塔真も次第に落ち着きを取り戻す。優しく塔真を慰めるその子の顔に、塔真は一瞬で引き込まれた。
天使の様な可愛さに、塔真の心臓はドキドキが止まらなくなる。そんな塔真を知ってか知らずか、
「ちょっとまっててね」
そう言うとその子はどこかへと消え、またすぐ塔真の元に何かを持って駆けてきた。
「コレあげる! ママにぜったいあえるおまじないのお城♪」
そう言って渡されたのが件のガラスのお城だった。
実際その後すぐに母親と再会し、その子はどこかへと去っていた。
母親との再会の余韻も過ぎ、予定通りのスケジュールに戻ろうとしたその時、
「ちよっ! 塔真。その手に待ってるの何??」
驚く母に無邪気に
「あっ! コレ?? よーせーさんにもらったの~ママにあえるおまじないなんだって☆とーまのあたらしぃータカラモノだよ!」
邪気のないニッコリ笑顔で答える塔真に
「そう言う事は早くいいなさい!! お礼言い損ねたじゃない!! もぉ~」
と母と一悶着あったのは流石に伏せる事にした塔真だった。
「と、私の思い出は以上ですけど、何か??」
塔真の話を聞きながら、終始不思議な顔をする尋に、塔真も不思議な気分になる。
(大抵、笑われるかロマンティストにされるかなんですが?? なんでこんな微妙な反応??)
フト横目に見た時計にはそろそろ出なければいけない時刻となっている。
「尋!! そろそろ出かけないと!! フロストハイム新寮長・副寮長が揃って遅刻する。という不名誉なスタートを切りますよ!!」
慌ててバタバタと部屋を後にする二人だった。
幸い遅刻する事なくパーティーは無事終わり、自室に戻った尋は服を脱ぎ捨てるとシャワーを浴びる。
今日起こったあれやこれやを、何とはなしに思い出していたらあのガラスの城を思いだす。
(城にひっそりある家紋までは確認出来ていないが、アレは確かに冠氷家一族伝統のリングピロー。しかしなんで塔真が持っている??)
謎を解くため、とりあえず実家に連絡をいれ、結婚式の写真データを転送させる。
シャワーを終え濡れた身体にバスローブを羽織、髪をタオルで拭いていると、早速データがスマホに届く。
送られた写真を見ていると、塔真の城と同形のリングピローが見つかる。それを小さな籠に入れ、満面の笑みを浮かべる人物写真が出てくる。
ブルーのレースをふんだんにあしらった、ドレスと見まがう様なスーツを着たリングボーイをしている幼い自分の姿。当然背中には同色の羽付きで。
(塔真の見た妖精は俺か…!!)
愕然としつつも、「足りなければ、追加の写真を送りますが?」と言う連絡に必要ない。と連絡を入れておく。
(まぁ~幸い塔真は気づいてはいない。気づかれることはないだろう)
と見なかった事にする尋だった。
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戻って現在。
「見た夢はもっと短かかったハズだが、なんか色々思い出したな…」
ゴチりながら尋は煙草に火をつけていると
「何かおしゃいましたか?」
と塔真が反応する。
「なんもねぇ~よ」
寝起きの煙草を堪能する尋の耳に
「そうですか。…そういえばこの前寮長にお願いしていた資料の中にこんな写真を見つけたのですが?」
プリンターでわざわざ打ち出されたその写真は、まさに今さっき記憶から思い出していた例の写真がプリントされていた。
尋はどうこの場を切り抜けるか、働かない頭をフル回転させるのであった。
▲▽終わり▽▲