悲喜交々ポッキーゲーム ー 玲音×亜嵐編 ー
ヴァガストロム寮のガレージで、車の整備をしていた御堂亜嵐に
「寮長サマ~どこ~?」
と自分を探す黒鷺玲音の声が聞こえた。車の下から「なんだ?」と顔を出す。
「うわっ!! ビックリした!! 何その面白い登場の仕方♪今度ショートでソレしたらバズるかも??」
と自分の世界に入り出す玲音に
「用がないなら呼ぶな」
と再び車の下に戻ろうとする亜嵐に
「ああぁ~~寮長サマ待って! 待って!! 一旦立ち上がって!!」
慌てる玲音に舌打ちをしつつも素直に車の下から出てくると、玲音の目の前に立つ。
「で、なんだ??」
険のある目で睨む御堂に一切ひるむ事無く玲音は
「十一月十一日はポッキーの日でポッキーゲームする決まりだから、寮長サマ協力してね♡」
と有無を言わせず御堂の口にポッキーを突っ込む。
「先に口を離した方が負けだからね!! よーいスタート♡」
と御堂の銜えるポッキーの反対側を玲音が銜えた。御堂とのポッキーキスを夢見て玲音はポッキーを食べようとした時、あっけなく御堂がポッキーを噛んで口を離す。
唖然とする玲音を他所に
「テメーらは毎度毎度、くだらんことばっかしやがって」
腹立たしいとばかりに、口の中のポッキーを咀嚼する御堂に、
残りの長いポッキーを口に流し込んだ玲音が
「ちょ!! テメーらって何!? なんで複数?? …ってもしや!!」
ようやっとそこで玲音は御堂にポッキーゲームをしそうな人物に思い至った。
「たまたま朝、一緒の授業でな。塔真にやられて最悪なスタートだ」
苦虫を噛みつぶした様な御堂の顔を他所に
「あのエセセレブ!! オレより先とか腹立つぅ~~~~!!」
地団駄を踏む玲音に
(ガン無視される俺の意思はどうでもいいと??)
としばらくご機嫌斜めになる御堂亜嵐だった。
ー 磴×亜嵐編 ー
ダークウィックアカデミーのとある三年の教室。朝の爽やかな喧騒とは無縁の様に、御堂は今日のトレーニングと車の整備のタイムスケジュールをどうするかで一人悩んでいた。
すると突然真横から「おはようございます」と声をかけられる。
「っっ!! …おうっ!! あぁ~おはよ」
急に声をかけられたせいだろう。傍から見ても驚かせてしまった事が見て取れる御堂の驚きップリに声をかけた磴塔真は軽く謝罪を入れる。
「いや、放課後のタイムスケジュールを考えていただけなんだか、まさかそこまで集中して考えていた事に自分でも驚いただけだ」
と苦笑いする御堂に
「所で今日が何の日か御堂くんご存じですか?」
「…?? テストの予定とかはなかったハズだが?? ――!! もしや抜き打ちテストか?? どの教科だ!?」
慌てる御堂に
「全然違いますよ。落ち着いて下さい。ついでに寮長会議とかでもないですから」
と念のため先手を打っておく磴に
「あぁ~?? だったらなんだ??」
と全く記憶になさそうに考えこむ御堂に
「貴方ポッキーの日をご存じないんですか?? ポッキーの日にポッキーゲームをする事はもはや園児でも知っている常識だと言うのに!?」
とオーバーに驚く磴に
「なんだそれは?? 聞いた事もないが?」
「クリスマス並みの恒例行事を知らないとか、御堂くん本当に日本にずっと住んでます??」
もはや磴の目は訝しむ様に御堂を見る。
「日本から出た事はないが?? 本当にそれはそんなに有名なのか??」
どこか不安げな様子で磴を見る御堂に
「もちろんですよ。ポッキーの端を二人で咥えて食べて行き、ポッキーを先に離した方が負けますからね。いきますよ~スタート」
どこから取り出したのか、話ながら磴はポッキーを御堂に咥えさせ、その反対を磴が咥えた。そして強制的にゲームがスタートされる。
ついつい御堂は負けん気が勝ってしまい、迫る磴に思いっきりガンを飛ばして対抗意識を燃やす。
そんな二人に気付いたクラスもまた静かに騒ぎ始める。
ほぼキスする距離なのに御堂はもとより、磴も負ける気配はなく「あれ? コレやばくないか??」と御堂が思った時には時すでに遅く、ガッチリ磴とキスを交わしていた。
しかもご丁寧に御堂の頭はしっかり磴にホールド済みで叩こうが殴ろうが唇が離れていかない。そして周りから上がる黄色い悲鳴。
抗議の「ヴゥうぅヴォー!!」と言う声も無視され半泣きになりそうな御堂に先生という救世主登場でやっと磴から解放されたのだった。
授業終わり。速攻で荷物をまとめ、次の教室に移動する御堂に磴がにこやかに声をかけてくる。
殺気を放つ御堂を一切気にも留めず
「御堂くんのおかげで朝のニュースで大賑わい、ありがとうございます。少し広がって欲しくないニュースがありまして。見事に火消し出来て助かりましたよ御堂くん」
そう言って磴は御堂の肩をポンポン叩くと軽快に御堂とは別の教室に足を向けたのだった。
ー 翔平×玲音編 ー
「翔ちゃーん! 今日何の日か知ってる??」
灰園翔平がキッチンカーで明日の仕込みをしてる傍らで、玲音は簡易椅子に座りスマホをいじりつつ訊ねてきた。
「あぁ~?? 知るか。ってかそこの玉ねぎの袋くれ」
「えぇ~この赤いネットの大量のやつ??」
嫌そうな顔で訊ねる返す玲音に「そう」と返すと重そうに翔平に渡してくる。
それを軽々持ち上げると
「こんなたかだか八キロ前後をなんでそんな重そうに持てんだ?」
「いや、普通に重いから!! 翔ちゃんみたいに筋肉ゴリラじゃないからオレ」
「筋肉ゴリラって…まぁ~いいけど。で、なんの話だっけ?」
玉ねぎの皮をペりぺり剥がしながら翔平が聞くと
「今日何の日か? って話。翔ちゃんわかるぅ~?」
企み顔で翔平を見る玲音に、なんとなく嫌な予感しかしない。
「あぁ~~~~~~なんかすっげー聞きたくなくなってきた」
「なにソレ!! 翔ちゃん酷くない?? 正解はポッキーの日だよ♪って事で翔ちゃんポッキーゲームしよ♡はいあーん♡♡」
玲音がポッキーを差し出してくる。その手首をガシッと掴むと、そのまま玲音を引き寄せガッツリ玲音の足腰が立たなくなるまでディープキスする。
ようやっと翔平とのキスが解けた時には玲音の身体はふにゃふにゃと床に崩れ落ちる。
「ポッキーなんて使わなくても、キス位いつでも出来んだろうが」
そう言うと玲音のかろうじて持っていたポッキーを翔平は奪って食べる。
「…翔ちゃん――しよ♡♡」
可愛く誘う玲音に翔平は自分の制服のネクタイを乱暴に緩めた。
終わり