今は昔、竹取翁という者ありけり。野山に混じりて竹を取りつつ、よろずの事につかいけり。
「おにいちゃん、ご本読んで」
「ああ、いいだろう。姫は何の絵本をお望みだ?」
「んーとね、今日はね、これ!かぐやひめ!」
「わかった。この兄が姫に読み聞かせてしんぜようぞ」
「?」
「ふふ、すまない。少々難しい言葉を使ったな」
輝矢の姓を持つ者として、かぐやひめという話とは並々ならぬ縁を感じていた。竹取の翁が光る竹から見つけた、三寸…9cmほどしかない赤子。その赤子が絶世の美女へと成長しあらゆる貴族の男達を軽くあしらい、ついには帝の心すら弄ぶ。自由の限りを尽くす彼女を、誰も嫌いになれない。
姫ことかわいい妹に、伝わるよう本を読んでいく。このあらゆる科学が発展したJPNでアナログな読み聞かせというのは、慣れていない人間には骨折り物だろう。今どき機械に話しかけてできない事はほとんどない。それでも幼少のみぎり、本を読み聞かせてもらった記憶というものはある。それだけ読書体験というのは人間の成長に好影響を及ぼすのだろう。僕は責任を感じつつ、丁寧に、感情を込めて読み聞かせる。
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