部屋着に膝下まであるダウンコートを羽織り、キャップを深く被る。
長めのマフラーを口元が隠れるくらいにぐるぐると巻いた。
カイロを忍ばせたポケットに手を突っ込み玄関のドアを開けると、キーンと冷えた外の空気にさっきまでの眠気も吹き飛んだ。
歩いて10分程度の神社へ2人で初詣でに行くのも、もう何度目になるだろう。
すっかり車の通りが少なくなった歩道を歩きながらこれから初詣へ向かうであろう人々がポツリポツリと増えていく。
普段は住宅街のどこにでもある小さな神社だ。
それでも大晦日にはまるでテーマパークの人気アトラクションの様な大行列が神社の横の小道の方までゾロゾロと続く。
「5.4.3.…」
どこからともなくカウントダウンが始まり、新年を祝う言葉が飛び交かった。
自分より背の高い隣の恋人にそっと目をやり、
「あけましておめでとうございます。」
もこもこに巻かれたマフラーを少し下げペコッと頭を下げた。
まだ眠いのだろう、細めた目がじっとこちらを見つめ黒いマフラーにすっぽり包まれた口元がコクコク揺れる。
日付が変わると共に並んだ列がゆっくり動き出す。
敷地内に大きく作られた焚き火の煙が澄み切った夜空にもくもくと昇っていくのを見つめながら冷えた体に暖をとる。
一人一人と前に並んでいた人々が参拝を終え捌けていき、拝殿にかけられた提灯で視界がパッと明るくなった。
ガラガラと鈴を鳴らし姿勢を正す。
昨年も1年健康で一緒に過ごせたことに感謝をしながらそっと両手を合わせ、目をつぶった。
参拝後に配られる生姜湯を受け取り、減らない人混みをはぐれないように並んでゆっくり歩く。
八木のコートの袖を掴んでいた手をどさくさに紛れてそのままポケットに突っ込んだ。
温かくて大きな手が自分の手をギュッと握り返してくる。
絡めた指にさらにぎゅっと力を入れると今度はハッキリと開いた目で八木がこちらを見つめた。
耳まで真っ赤な恋人の横顔を見て頬ががふにゃっと緩む。
(来年もまた一緒に来れますように…)
心の中で小さく祈った。