【黒夜久】遠距離恋愛はじめた手の二人の話 手を伸ばしかけて、やめた。
一人がけの小さなテーブルの上。ここしばらく触れられることのなかった携帯端末は、心なしか寂しげに見える。
でも、仕方がない。こちらの生活に慣れるまで、よっぽどのことがない限り連絡はしない。そう決めたのは他でもない。自分自身だ。
雑踏にまみれた空港の一角。送り出してくれた両親と、旧友。それから恋人の姿を思い出す。
そうだ。みんな、了承だってしてくれたじゃないか。
確かに。それが一番かもね。まったく、夜久らしいな。じゃあじゃあ、連絡してもよくなったらいっぱい向こうでの話を聞かせてくださいね。なんて、三者三様の返答。両親ですら、呆れたような顔をしながらも、いつものことかと半ば諦めた顔で肩を竦めて。されど、たったひとり。ただひとりだけは、胡散臭い上っ面の笑みを顔面にご丁寧に張り付けているものだから、傍らに居る幼馴染が盛大にため息を吐き出していた。
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