終電 ごおっと大きな音を立てて最終電車が目の前を走り抜けていく。アドニスを乗せた電車を苦虫を噛み潰したような表情で見送って、大きな溜息。
「もう今日は帰らないで」どうしてその一言が言えないんだろう。デートの朝に今日こそは……!と決意を固めるが、いざ別れ際になると終電に間に合うように送ってしまう。まるで学生の清く正しい交際だ。改札へと吸い込まれるアドニスの腕を掴んで少しだけ強引に引き留めてしまいたい、けれどアドニスに拒否されたら、そう考えると手を出すのを躊躇してしまう。
今夜もひとりで反省会だな、と自嘲気味な笑みを浮かべて踵を返す。その時、誰もいないはずの改札の前にぽつんと浮かぶ人影が視界に入る。こんな時間に珍しいなと思わずじっと見つめると、その人物はついさっき後ろ髪を引かれながらも手を振って見送ったアドニスで目を瞠らせる。
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