あだ花ひとつ、またひとつと花が咲く。
ぽとり、ぽとりと花が落ちる。
花弁のような紫色の花心を持つ白い花。
緩やかな曲線を描いて広がる紫の花。
光を奪ったように黒く、だが仄かに混じる紅色が艶やかな花。
風がそよぎ、花弁が散ってゆく。
ああ、なんて――
芝居小屋で賑わう大通りから少し離れた奥まった場所に、その茶屋はあった。
立派な門構えのその建物は、料亭のような風格ある佇まいをしていた。事実、腕のある料理人を抱え、料理の提供も行っていたが、その店を訪れる客の大半の目当ては美食に舌鼓を打つことではない。格子門戸を潜り、土間を上がった先にある一階には、大小様々な座敷が設けられていた。客を通す部屋は、それぞれの会話や音が漏れないよう、厚い壁やいくつもの襖で隔てられている。客同士が顔を合わせることのないよう行き来にも配慮がなされ、そこでのひとときを内密に過ごせるようにと徹底されていた。二階の窓は千本格子となっており、窓際から誰かが外を覗き見ても、外から中の様子を窺うことは出来ない作りになっている。
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