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    ふう。

    @huu_ILO

    アカウントを作ってしまいました
    小説とか上げられたらな〜と思います。
    類司大好き!司最推し!よろしくお願いします!

    類司/成人済

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    ふう。

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    類司で風邪をひいた司くんのもとに類くんがお見舞いに来る話。
    お互いがお互いにとって居心地のいい関係であれたらいいなという思いを込めて書きました。

    ※司が風邪で肉体的にも精神的にも弱ってる
    ※司の幼少期捏造

    おそらく、というか絶対にネタ被りしてると思うが、妄想が膨らんだので……
    初めてまともに小説書くのでおかしな所があったらすみません🙇‍♀️

    初投稿を類司に捧げるッ!!

    いつもそばに枕元でアラームが鳴る音が聞こえる。目は閉じたまま、体を横にひねり、緩慢な動きで僕はアラームを止めた。朝は苦手だ。夜型ということもあって、なかなかスッキリとした目覚めとはいかない。


    寝転がったまま、寝ぼけ眼でスマホを見ると時刻は朝の7時を少し過ぎた頃だった。もう少し寝ていても良いけれど……そんなことを考えていると、ふとメッセージ通知があることに気が付いた。


    体をベッドから起こし、一度大きく伸びをする。伸びをすると同時にあくびも出てしまった。再度スマホに目を向け、通知を押すと開かれるワンダーランズ×ショウタイムのグループメッセージ画面。そこには司くんから「すまない。風邪をひいてしまった。今日の練習は三人で進めてくれ。」というメッセージが送られていた。自分以外の二人の心配のメッセージと「OK!」というスタンプも送られている。


    司くんが風邪をひくなんて珍しい、と思いつつも僕も了承の旨をメッセージで送る。司くんからはすぐに「本当にすまない!一日で治すから待っていてくれ!」と返信が帰ってきた。


    「ふふ、『 そんなに焦らなくても大丈夫だよ』っと……」


    自分と同じショーバカの司くんのことだ。風邪をひいて練習が出来ないことに悔しさを感じているに違いない。けれどお客さんを笑顔にするショーをするには自分たちの体調も万全でなければならない。そのために司くんには今日一日ゆっくりと休んでもらおう。


    「フフ、司くんに物理的に星になってもらう装置の改良版を作ったけれど、病み上がりの司くんには酷だろうし、これを使うのはもう少し先かなあ」


    改良版の存在を知った司くんがどんな顔をするのかを想像して僕はほくそ笑む。


    「会えない時間が愛を育てるとはこのことだねえ」とロマンチックの欠片もないような表情で僕は独りごちた。


    脳内の司くんはなんだかんだ言いながら僕の実験に付き合ってくれて、絶叫しながら空を舞っている。今日一日司くんに会えないのはつまらないけれど、僕の演出に応えてくれる司くんを想像すれば、自然と上機嫌に頬は緩み、気付けば朝の支度も終わっていた。





    放課後、僕たちはセカイに集まっていた。


    「咲希ちゃんが司くんのことが心配だからお見舞いに行ってあげてほしいって言ってたよ!」


    僕と寧々よりも先にセカイに来ていたえむくんが口を開く。曰く咲希くんは今日は遅くまでバイトがあること、ご両親も遅くまで家にいなくて、司くん以外誰もいないこと、ショーバカな司くんが家でじっとしているとは思えないから様子を見に行って欲しい、とのことだった。


    「フフ、確かに司くんなら家でも出来る練習をしてそうだねえ」
    「あのバカ……風邪の時くらい大人しくしてられないの?」


    司くんがショーを大切に思う気持ちも分かるけれど、風邪をひいてしまったのならば静かに休んでいてほしい。それは寧々も同じ気持ちのようで、言葉はトゲトゲしているけれど本心では心配しているのだ。


    「はいはーい!あたし提案があります!みんなで司くんのお見舞いに行くのはどうかな?咲希ちゃんからお家の鍵は貰ったし、みんなでお見舞いに行ったら司くん、どわわーってビックリして、しゅぴぴーんって元気になっちゃうかも!」
    「さすがに病人の司にどわわーは良くないんじゃない?」


    うん、実にえむくんらしい提案だね。えむくんならそう言うと思っていたよ。みんなでお見舞いに行くというのも悪くないけれど……。


    しかし僕にはどうしても僕一人でお見舞いに行きたい理由があった。





    僕は司くんに絶賛片思い中である。初めは僕のどんな演出にもあれやこれやと言いながらも応えてくれる面白い人だと思っていたけれど、ハロウィンショーで僕の演出を受け入れてもらってから司くんは他の人とは違うと明確に意識し始めた。それ以来、この想いは無視できないほど大きなものになってしまった。



    風邪をひいた司くんには悪いけれど、正直弱っている司くんはものすごく気になる。それに司くんを看病すれば僕のことを少しでも意識してもらえるかもしれないし、あわよくば弱った司くんから僕のことをどう思っているのか聞き出せたりしないだろうか。


    純粋な気持ちで心配しているえむくんと寧々には申し訳ないけれど、僕はもう風邪をひいた司くんという非日常的なシチュエーションに好奇心が抑えられなくなっていた。


    「えむくん、みんなでお見舞いに行くというのは良い案だけれど、病人に大人数で押しかけるのもあまり良くないんじゃないかな。ここは僕たちの中の代表者の一人がみんなの代わりにお見舞いに行くというのはどうだろう」


    多少強引だったかな。寧々が「何を考えてるの」とでも言いそうな目でこちらを見ている。まだ誰にもこの気持ちは打ち明けてはいないけれど、寧々にはバレてしまっているだろうか。信用がないなぁ、僕も司くんを心配している気持ちは同じだよ?と意を込めて寧々にアイコンタクトを送る。


    「そっかぁ……確かにみんなで司くんの所に行ったらそのままみんなで練習しちゃうかもしれないもんね!あれ?じゃあ、誰が代表者になるの?」
    「えむくん、それに関しては僕に考えがあるんだけどね。司くんは仲間とはいえ男子だし、男の子の部屋に女の子が入るのはいくら司くんといえども遠慮してしまうんじゃないかな。ということで僕が代表者になるのが良いと思うんだけどどうだい?」


    少し早口になってしまった。相変わらず寧々は僕をジト目で見つめているが、しばらくしてふぅと一つ息を吐いてえむくんに向き直った。


    「えむ、類もこう言ってることだし今日は類に行ってもらわない?司のことだから風邪なんて一日で治すし、またすぐに会えるよ」


    寧々は僕の味方をしてくれるようだ。えむくんは一瞬シュンとしたように見えたがすぐに笑顔になって、再び口を開く。


    「そっか……そうだよね!司くんならすぐに元気になって次の日、ハーハッハッーって言ってるよね!じゃあ類くん、お願いね!」
    「フフ、ありがとう、えむくん。司くんのお見舞いは僕に任せてくれたまえ」


    二人の優しさに甘えて、司くんのお見舞いには僕が行くということになった。お見舞いに行きたがっていたえむくんはもちろん、寧々も淡々としてはいるが心の中では司くんを心配しているのだろう。二人が僕に任せてくれたのだから、責任重大だ。司くんにはえむくんも寧々もお見舞いに行きたがっていたと伝えなくてはね。






    結局、今日はえむくんも寧々も練習はせずに帰るらしい。司くんがいないのに練習しようとしても身が入らないそうだ。こういうところでつくづく司くんは愛されているなと感じる。





    セカイから戻り自分の家に帰ろうとしている寧々の後ろ姿に僕は声をかけた。


    「寧々、さっきはありがとう。」
    「別に。いい加減見ててもだもだするから早くなんとかしてよね」
    「?ああ、分かったよ」


    さっきはジト目で見つめられたけれど、どうやら寧々は僕の恋を応援してくれているらしい。見ててもだもだするとは僕のことだろうか?分かりやすく態度に出していたつもりはないけれど、幼なじみだし分かってしまうものなのかもしれないね。





    司くんの家に近づいていくにつれてだんだん緊張してきているのを感じる。なにせ好きな子のお見舞いに行くという経験がないのだ。とりあえず近くのコンビニでスポーツ飲料やら冷えピタやらを買ったけれど、お見舞いに持っていくものとして正しいのだろうか。今まで生きてきた中でお見舞いに何を持っていくかなんて考えたことがなかったな。だけどこの緊張感もなんだか楽しいことのように思える。



    自分は浮かれている、と思う。好きな人が出来たこと自体が初めてだ。そもそも司くんと出会ってから初めてのことの連続だ。だけどそれが楽しかった。いつもとは違うソワソワしている自分も司くんのことを考えているからだと思うと肯定的に捉えられた。お見舞いに来た僕を見たら司くんはどんな反応をするかな?驚くだろうか、それとも喜んでくれたりするだろうか。司くんのことを考えるだけで信じられないくらい気分が高揚する自分に僕はおかしくなって思わず笑ってしまった。



    (ああ、本当に。僕ってどうしようもないくらい司くんのことが好きなんだな)



    そんなことを考えていたらいつの間にか司くんの家の前に着いていた。ドアの前で深呼吸をしてインターホンを鳴らす。
    --返事は無い。もしかして寝ているのだろうか?咲希くんから預かり受けた鍵を使ってドアを開き、誰に聞かれるでもないが「お邪魔します」と一言確認してから家の中に入った。



    天馬家は静まり返っている。司くんは大人しく寝ていないのではと考えていたが、どうやら杞憂だったようだ。靴を脱ぎ、司くんの部屋へ続く階段を登る。司くんの部屋のドアの前まで来て、もう一度深呼吸をした。どうやら僕は自分で思っている以上に緊張しているらしい。数秒経ってから覚悟を決めた僕は部屋のドアを控えめにノックした。


    「司くん、入ってもいいかい?」


    しばらく待ったが返事がない。やはり寝てしまっているだろうか?ならば色々と持ってきたけれどあまり意味は無かったかもしれないな。司くんが寝ているなら話すことは出来ないだろう。邪な気持ちで会いに来たことに少しの罪悪感を感じながら、それでもここまで来たのだから寝顔を見るくらいは許されるだろうかと、一言断りを入れてドアを開ける。



    司くんの顔はここからでは見えない。部屋の電気は消されていて、窓から差し込む光からの光源でベットがこんもりと膨らみ、規則正しく上下しているのは見て取れた。司くんがそこにいる。当たり前のことなのに、どこか非日常的な光景に少しの緊張と高揚感を感じながら枕元に近づいた。





    部屋の中は静まり返っている。そろそろ学校が終わった頃だろうか。外から子供たちがはしゃいでいる声が聞こえてくる。しばらくすると子供たちの声も聞こえなくなり、時折車が通る音が聞こえるだけだ。


    浅く息を吐く。今ごろはみんなと練習しているはずだったのに。風邪でダウンするなんて一生の不覚だ。ベットから起き上がれず、何も出来ない自分が不甲斐なくてしょうがない。



    部屋で一人でいるとマイナスな感情ばかりが顔を出す。ああ、そんなことを考えているひまはないのに。熱で意識が朦朧とした頭ではろくなことが考えられない。こういう時はセカイに行けばいくらか気晴らしになるかもしれないが、この状態ではセカイに行くことすらままならない。



    そんなことを考えていると突然インターホンが鳴り、しばらくして玄関のドアが開く音が聞こえてきた。咲希は今日はバイトのはずだし、父さんも母さんも遅くまで帰ってこないはずだ。しばらく下でガサガサと音がして、やがて階段を登ってくる音が聞こえてくる。

    その人物は階段を登りきり、部屋の前で立ち止まった。時間にして数秒だろうか。しばらくして部屋のドアが控えめにノックされ、「司くん、入ってもいいかい?」と声をかけられる。


    --類が来てくれた!


    見舞いに来てくれたのだろうか?そこまで考えて、ふと思い出す。オレは今朝風邪をひいたから三人で練習をしてくれとメッセージを送ったはずだ。ならば類は今ごろは練習しているはず。ならここにいる類は……そうか。これは夢なのか。風邪を引いて意識が朦朧としているオレが見ている夢に違いない。





    オレは類に片思いをしている。きっかけはよく覚えていない。ただ気づけば類のことを目で追っていたし、ショー仲間としての類だけではなく、もっと色々な類を知りたいと思った。普段のオレならば夢の中でも類が出てくるなんてどれだけ類のことが好きなんだと恥ずかしがるに違いないが、熱でのぼせて単純な思考しか出来ないオレは好きな人が見舞いに来てくれただけでさっきまでのマイナスな感情が吹き飛ぶくらい舞い上がっていた。



    「入っていいぞ」と声をかけようとしたところでオレは自分の喉がカラカラに乾いていることに気がついた。しばらく無言の時間が続いてしまい、類が帰ってしまうのではないかと不安になったが、類は返事をしないオレを寝ていると勘違いしたようで「入るよ?」と一言声をかけてから部屋のドアを開けた。類が枕元に近づいてくる気配がする。


    「司くん、体調は大丈夫かい?」


    寝込んでいるオレを気遣ったのか、いつもより低めの優しい声で話しかけられた。普段の類は実験やら、爆発やらで勘違いされがちだが、本当は気遣い屋で優しい奴なんだよな。そういう所が好きだな。ふわふわとした頭では類への好きがとめどなく溢れ出てしまう。



    「大丈夫だ」と返事をしたかったが、相変わらずオレの体は思い通りに動いてはくれない。頭上にいる類はしばらくじっとしていたが、ふいにオレの髪をさらりと撫でた。そんなに優しく撫でられては類がオレのことを好きなのかと勘違いしてしまいそうだ。普段のオレならば「勘違いするな!」と脳内セルフツッコミを入れていただろうが、今日のオレは理性的な思考は出来そうになかった。そのうえこれは夢である。ならばもういいのではないか。夢の中でくらい、夢を見たっていいのではないか。



    そうしてオレはほんの僅かに残っていた理性を手放し、夢の世界へ身を預けた。





    司くんは思っていたよりも風邪で弱っているようだった。汗で前髪やパジャマは張り付き、寝苦しいのだろうか、いつもなら制服のボタンをしっかり閉めている司くんが、パジャマのボタンを2つ開けている。


    司くんは風邪で寝込んでいるだけだというのに、僕は思わず固まってしまった。目の前で司くんが顔を赤くさせ、無防備に寝ている。僕だって健全な男子高校生だ、司くんの''そういう姿''を想像したことがなかった、といえば嘘になる。しかし当たり前だけど、僕は司くんが現実でそういう姿になっていることを想定していたわけではない。


    いつも元気でかっちりとしている司くんが弱っている姿に僕は二重の意味で動揺してしまった。



    しかしこのまま固まっていては何のためにお見舞いに来たのか分からない。


    (司くんは風邪を引いているだけだ……)


    僕は理性を必死に働かせて、何とか声を出した。声が震えていないか心配だったが、ごく自然な風にそれは音になった。


    「司くん、体調は大丈夫かい?」


    できるだけ理性的に、と意識しすぎたせいかいつもより声が低くなってしまった。


    (返事は、ない……)


    困ったな……ここで何かしらでも返事を返してくれた方がまだマシだっただろう。こうなってしまっては何をどうすればいいのか僕は全く分からなくなってしまった。



    相変わらず司くんは目を閉じたまま浅く呼吸している。わずかに眉が動いたような気がしたから僕の気配は感じているのだろうか?そもそも看病ってどうやってやるんだっけ?思い返してみれば僕は誰かの看病をした経験が全くなかった。


    (しまった……こういう時のために看病の仕方を覚えておくべきだったな……)


    看病に特に高度な技術も必要ないけれど、僕は先程から理性を働かせることに思考のリソースを割いていて、普段の僕なら考えないことにまで思い至ってしまっていた。



    司くんから目を逸らせない。このままずっと見つめていれば何か変な気を起こしそうで早々に撤退すべきだと思うのに、同時に苦しんでいる司くんを放っておいて帰るのは嫌だった。



    しばらく険しい顔をしながら仁王立ちしていたが、最終的にこのまま司くんを放っておくことは出来ないという結論に至った。寧々とえむくんの優しさに甘えて僕が代表者としてここに来たのに、このまま逃げ帰っては二人に合わせる顔がない。それに司くんは今も風邪で苦しんでいるのだ。司くんのショー仲間として、友人として彼を助けてあげたかった。



    純粋に司くんを助けたい、そう思えばさっきよりも冷静に司くんを見ることが出来た。司くんの表情が苦しそうなのが気になって、少しでも楽になって欲しくて、僕は司くんの髪をさらりと撫でた。司くんの体温はいつもより高い。肌で触れた温度が思ったよりも高くて、一度熱を測った方がいいかなと思案したところで、司くんから「ん……」と声が漏れた。僕は吃驚して手を引いてしまう。心臓がバクバクと音を立てている。


    (いきなり間違えちゃったかな……よく考えれば髪を撫でるのは友人の距離感としては適切ではなかったかもしれない……)


    そんなことを考えながら、脳内で司くんが目を覚ました時にどんな言い訳をしようか何パターンも思案する。司くんの家に向かっていた時とは比にならないくらい緊張して、喉がカラカラになる。もはやこの緊張感を楽しむ余裕すら残っていなかった。



    しばらくこの状態で固まっていると司くんが身動ぎをしてふいにパチリと目を開いた。熱っぽく息を吐いて、ゆっくりと僕の方に体を向ける。パチパチと何度か瞬きをしてから僕の顔を見上げる。大丈夫。シュミレーションは完璧だ。司くんから何を言われても対応出来るはずだ。


    「るい……?」



    --結果から言えば、僕のシュミレーションはまるで意味をなさなかった。


    明らかに緊急事態であった。目の前の司くんはいつもの司くんとは違う。熱っぽい瞳で僕をじっと見つめている。


    好きな人からいつもよりも高めの声で、舌足らずに自分の名前を呼ばれて動揺しない男が果たしてこの世に存在するのだろうか?しかし僕の暴走し始めた脳内などお構い無しに司くんは僕を見つめ続ける。ここで何も返事を返さないわけにはいかない。精一杯いつも通りの僕を装って喉の奥から言葉をしぼりだす。


    「おや、起こしてしまったかい?」


    結局どのパターンにも当てはまらないありきたりすぎる返事になってしまった。そんな僕を見て司くんは何を思ったのか、急に眉毛をキリッとさせていつもの司くんの表情を作る。


    「類!見舞いに来てくれたのか?嬉しいぞ!」


    「気にするな。お前が来る前から起きていたぞ」と添えながら、司くんはいつもの快活な声で言葉を続けようとしたが、すぐに咳き込んでしまった。僕は慌てて司くんに近寄る。


    「司くん!無理はしないほうが……」
    「ちがう……無理はしていないぞ……オレは元気だ……」


    どう見ても元気ではない司くんに僕は急に心配の気持ちが勝ってきた。司くんはまだ何か喋ろうとしているが、咳が止まらず、涙まで流している。僕は苦しそうにしている司くんを見ていられなくて、思わず司くんの頭を撫でた。


    司くんは最初は驚いた顔をしたけれど、しばらく撫で続けていると咳も止まり、落ち着いてきたようだった。ひとまず大丈夫そうで良かったとほっと一息つく。何となく離れがたくて、頭を撫でたまま袋からスポーツ飲料を取り出す。司くんは目を閉じ、僕にされるがままになっている。いつもの司くんならば嫌がりそうなものだが、大人しく僕に撫でられている今の司くんはまるで猫か犬のようで、可愛らしくて思わず笑みを零してしまう。


    ずっとこうしていたいけれど、このままという訳にもいかない。司くんも落ち着いてきたみたいだし、スポーツ飲料を入れるコップがあったほうがいいかなと考え、僕が立ち上がった時だった。


    「るい……もうおわりなのか……?」


    いつもの司くんならば絶対に言わない言葉に僕は一瞬呆気にとられてしまった。ギギギ、と錆び付いたロボットのような動きで僕は司くんの方へ顔を向けた。司くんは頭を撫でられて照れたのだろうか、布団を口元まで覆い、先程よりも明らかに顔を赤らめている。


    「コップを取ってこようと思ったんだけど……司くんがそうして欲しいならこのまま撫でているかい?」


    しまった。どう考えてもこれは友人同士の距離ではない気がする。今日の司くんはいつもとは違うとはいえ、これでは引かれてしまうだろうか。


    「ああ、じゃあそうしていてくれないか」


    司くんの返しに僕は再び呆気にとられてしまった。いつもの司くんなら絶対にこんな風には返さないだろう。もしかして風邪をひいた司くんはいつもよりも素直になるのだろうか。だとしたら当初の目的通り、司くんが僕のことをどう思っているのか聞き出せたりしないだろうか。


    再び邪な気持ちが顔を出し始めたが、そんなことはおくびにも出さず、僕は再び椅子に座って司くんの頭を撫で始めた。


    「まえに、セカイにいるぬいぐるみたちから
    、るいはあたまをなでるのがじょうずだときいたんだ。それからいちど、るいにあたまをなでられてみたいとおもっていたが、まさかこんなかたちでかなうとはな」
    「それは………光栄だね。司くんがお気に召してくれたのなら良かったよ」
    「ああ、そうかんがえると、かぜをひいたのもわるくないかもしれないな」
    「それは嬉しいけれど……出来れば風邪はひかないで欲しいかな。みんな司くんを心配しているよ」
    「…………そうだな。すまん」
    「謝ることじゃないよ。今日一日ゆっくり休んで、また元気な姿を見せてくれればそれでいいさ」


    どうやら司くんは頭を撫でられるという行為に特に疑問を抱いていないらしい。それどころか、撫でられて嬉しい、というようにも聞こえる。司くんの表情や言葉は僕を好意的に思っていなければ出ないものではないだろうか。司くんは僕が思うよりも、僕のことを好意的に思っているのかもしれない。そう思うと俄然、司くんの口から僕への感情を聞きたくなってしまった。




    一瞬、司くんの言葉に間があったような気がしたが、司くんが僕に撫でられることを思っていたよりも肯定的に捉えてくれていたことが嬉しくて、僕の中でその違和感は流れていってしまった。






    「司くんは僕のことどう思っているんだい?」


    お互いにしばらく無言の時間が続く中で、僕はついにずっと聞きたかったことを聞いてしまった。さすがにストレート過ぎただろうか。司くんはパチパチと何度か瞬きをした後、考え込んでしまった。


    「るいのことをどうおもっているか、か………いつでもえがおでいてほしいとおもっているぞ。ただ………なかなかうまくいかないものだな」
    「?それはどういう……」


    「それはどういう意味なんだい」と続けようとしたところで、司くんの声が遮った。


    「ふふ、るいの''て''、おおきくてひんやりしていて、きもちいい……」


    司くんの頭を撫でる手が止まってしまう。先程まで考えていたことは頭の片隅に追いやられてしまった。司くんは気持ち良さそうに目を細め、僕の手に額を擦り寄せている。この状況に、先程まで忘れてかけていた僕の中の欲望を思い出してしまった。司くんに触れている手からじわじわと体温が上がっていくような心地がする。


    まずい。このままでは僕は確実に司くんとの距離感を誤ってしまうだろう。距離感を誤った結果、司くんから引かれることだけは避けたい。この危機的状況に僕の頭はこの状態からどうすれば角が立つことなく帰ることが出来るかに急いで方向チェンジしてフル回転し始めた。


    「司くん、急なんだけど僕はもう行かないと。ちょっと様子を見るだけのつもりだったから。スポーツ飲料と冷えピタを買ってきたから、良ければ使ってね。ちゃんと大人しく寝ているようだし、明日には熱も下がってそうだね。また明日、学校で元気な司くんの姿が見れることを願っているよ。それじゃあ」


    頭をフル回転させた結果、出た結論は嘘をつくことだった。司くんはきょとんとした顔をしている。多少強引な事の進め方をしてしまったかもしれない。司くんを心配する気持ちは変わらないけれど、このまま司くんと一緒にいて変な気を起こすリスクを考えれば、仕方の無い嘘だと言えるだろう。僕は司くんの頭から手を離し、司くんに背を向けて歩き出す。その瞬間、背後の司くんが息を飲む気配がした。


    「まって……いかないでくれ、るい……!」



    --司くんが僕の服の裾を掴んでいる



    しまった。今日の司くんはいつもとは違うんだった。司くんの方を振り向くことが出来ない。司くんに呼び止められた場合のパターンなんて考えていなかった。対応次第では今後の司くんとの関係に関わるだろう。この状況でどう対応するのが正解か、僕の頭は再びいくつかのパターンを思案し始めた。



    そうして黙ったまま返事をしない僕を見て司くんは何を思っただろうか。掴んでいた僕の服の裾をパッと離し、無理やり明るい声を出した。


    「すまん……。困らせてしまったな……。来てくれてありがとう。嬉しかったぞ」


    司くんの声と言葉に僕は頭をガツンと殴られたような心地がした。



    --僕は何をしているんだ。何が「今後の対応次第では司くんとの関係に関わる」だ。司くんが僕に縋ったのに、それに応えられないで何がショー仲間だ、何が友人だ。僕は自分のことでいっぱいいっぱいで目の前にいる司くんの気持ちを考えられていなかった。今ここで司くんと向き合わずして僕はこれから司くんの隣にいる資格がない。



    僕は小さく息を吐いて、司くんに向き直った。司くんは笑っている。けれどその笑顔はどこかぎこちなく感じた。そういえば今日の司くんは風邪をひいただけではなく、いつもよりぎこちない場面が多かったような気がする。見逃しかけたその違和感を絶対に放っておいてはいけないと僕は努めて優しい声で司くんに声をかけた。


    「司くん、君がそばにいて欲しいならここにいるよ。君の素直な気持ちを聞かせて欲しいんだ」
    「オレは……」


    僕に話して欲しい。今度こそ君を受け止めてみせるから。だって司くんは僕にとって一番笑顔にしたい人なんだ。



    そんな想いで司くんを見つめていれば、不安げに視線を彷徨わせていた司くんとふいに目が合った。


    「いいのか……?」
    「聞かせて欲しいな」


    想いを込めて司くんをじっと見つめる。司くんは顔を赤らめながら、僕から視線を逸らし、代わりに再び僕の服の裾を掴んだ。


    「…………じゃあ、もうすこしだけそばにいてほしい…………」


    想像していたよりも可愛らしいお願いに僕は思わず微笑みをこぼしてしまう。


    「フフ、分かった。そばにいるよ」





    お互い無言のまま口を開かない。司くんは相変わらず僕の方に目線は合わせていないけれど、僕の服の袖を掴んだまま離さなかった。けれどそれは決して嫌なことではなかった。司くんが僕を頼りにしてくれているようで。僕も司くんが安心出来るようにと何も動かず、何も喋らなかった。




    しばらくお互いに無言の時間が続いたが、ふいに司くんが口を開いた。


    「るい、おこってるか?」
    「え?怒っていないよ。急にどうしたんだい?」


    司くんの質問の意図が読めず、質問を質問で返してしまった。


    「きょうのるい、なんだかいつもとようすがちがったから」
    「そうかな……司くんが風邪をひいているからいつもより控えめなだけだよ」


    しまった……やはり司くんには見抜かれてしまっていたようだ。けれどもういいんだ。僕は今目の前にいる司くんと向き合うと決めたのだから。


    「またえんりょさせてしまったか……?」
    「え……?」


    何を聞かれても包み隠さず答えようと考えていたところに予想外の質問がきて思わず気の抜けた返事をしてしまう。''また''とはハロウィンショーの時のことだろうか?僕は今日司くんに遠慮したつもりはないけれど……。


    「オレは、いつだってるいのえんしゅつにぜんりょくでこたえたいとおもっているのに、オレのせいで、またるいにえんりょをさせてしまった……」
    「司くん……」
    「きょうだって……るいをえがおにしたいのに、こんなオレじゃ、るいをえがおにすることもできない……」


    そうか……司くんはずっと目の前にいる僕を見てくれていたんだね。


    「だから、こんなオレじゃだめなのに……だれかがみまいにきてくれたのなんてはじめてで、どうすればるいをえがおにできるか、わからないんだ……」


    君はいつだって僕を笑顔にしようとしてくれた。


    「るいがきてくれたことがうれしくて……まいあがって……いつものオレじゃないんだ……るいのきたいにこたえられなくて、ごめん……」


    僕は大馬鹿者だ。司くんはこんなにも僕を想ってくれていたのに、僕は初めての恋に夢見心地で、一番大切なことを見落としていた。



    --僕は司くんがそばにいてくれれば、いつだって幸せなんだ



    司くんの悲痛な声に、司くんがずっと言えずに抱えていたものの重さを感じて僕も苦しくなった。もしかして司くんは自分が風邪をひいてしまったことで今日の練習が出来なくなったことを僕たちが気にしていると思っているのだろうか。そしていつもとは違う自分では僕を笑顔に出来ないと自分を責めているのではないか。今日感じた違和感は僕を笑顔にするために、無理やり元気なふりをしていたからなのかもしれない。だとしたら、それは違うと伝えなくては。


    司くんは僕にたくさんの笑顔をくれた。だから今度は僕が司くんを笑顔にしてあげたい。こんなオレじゃだめだなんて言わないで。僕にとっては司くんしかいないんだから。




    司くんは僕の服の裾を掴んだまま、もう片方の手で目元を覆ってしまった。時折、鼻をすする音がする。感情のダムが決壊してしまったのだろうか。僕は司くんの頭を再び優しく撫でる。友人の距離感などと気にすることはとうに辞めた。今はただ目の前の司くんを笑顔にしてあげたい。僕の想いを、伝えたい。


    「司くん。司くんはいつだって僕の演出に全力で答えてくれるよね。それだけじゃない。君はいつだって、君の周りの人を笑顔にしようとしている。そういう司くんを尊敬しているし、好ましく思っているけれど、たまには自分のことに目を向けてもいいんだよ。僕を笑顔に出来ないからって謝らなくてもいいんだ。君が僕に笑顔をくれた分、今度は僕が君を笑顔にしたいから。えむくんも、寧々も同じ気持ちだよ。二人とも司くんを心配していた。風邪を引いて練習が出来ないことを心配したんじゃなくて、''司くんが''風邪を引いたから心配したんだ」


    わざわざ僕を笑顔にしようとしなくたって、君が隣にいてくれたらそれだけで僕は笑顔になれるんだ。


    「それに、誰かを笑顔にしようとして、自分の想いを押し殺したりしていないかい?司くんの想いは司くんのものだよ。誰かのために捨てていい想いなんてきっと一つもないんだ。もし司くんが捨てようとしている想いがあるなら、僕に教えて欲しい。君のどんな想いでも受け止めてみせるから」


    誰かを笑顔にするために自分を犠牲にする必要はないと、あの時君が教えてくれたから。


    「優しい司くんのことだから、僕を引き止めたことに罪悪感を感じてしまっているかもしれないけれど、気にしないで欲しい。むしろ、僕は嬉しかったんだ。普段あまり人に頼らない君が僕を頼ってくれたみたいで。もっと甘えていいんだよ」


    僕は司くんにたくさん甘えてしまっているけれど、司くんも僕に甘えて欲しい。その甘えは信頼の証だから。




    僕の言葉に、司くんはとうとう声をあげて泣き出してしまった。司くんが泣いている姿はまるで幼い子供のようで、僕はただただ頭を優しく撫で続けた。僕の服の裾は司くんが強く掴んだことでしわくちゃになっているけれど、そんなことは全く気にならなかった。これで僕の想いは伝わっただろうか。司くんは笑顔になってくれるだろうか。



    司くんはまるで今まで抑え込んできたものが溢れ出してしまったかのように泣き続けた。












    「あめが、ふっていたんだ」
    「え?」
    「こどものころ、おおきなかぜをひいてしまったことがあって、その''ひ''はおおあめだった」


    司くんは突然、ぽつぽつと昔話を話し始めた。僕は司くんの話に耳を傾ける。穏やかな時間が流れていて、まるで僕と司くんの周りだけ時間がゆっくり進んでいるようだと思った。





    ---雨が、降っていたんだ

    子供の頃、大きな風邪をひいてしまったことがあって、その日は大雨だった。

    オレの部屋には誰も入らなくて、ノックの音すら聞こえない。

    静まり返った部屋では雨の音しか聞こえなくて、オレは突然不安になってしまった。

    まだ幼くて弱いオレはその不安をどうすることもできずに、部屋で一人泣いてしまったんだ。

    だけど泣いているオレでは大切な人を笑顔にすることは出来ないだろう?

    だからその不安はなかったことにした。
    その時はそれで大丈夫だと思ったんだ。
    だけど本当は苦しかったんだろうな。

    雨が止んで、風邪が治っても、きっとオレの心はまだ泣いていたんだと思う。

    オレはそれを見ないふりをして、捨てようとしたが、今日、類が来てくれて、こんなオレを受け止めてくれた。

    嬉しかった。きっとあの日のオレも救われただろう 。


    だから---




    「るい……ありがとう」


    司くんの目から涙が一粒きらりと零れ落ちた。それが本当に綺麗で僕は思わず見惚れてしまう。


    「お礼を言われるようなことは本当に何もしていないよ。」


    本心からの言葉だ。僕がそうしたいからそうしただけ。きっとこれだけじゃ司くんから貰ったものを返しきれていないけれど。


    「いいや……オレはるいにもらってばかりだ。るいは、いつだってオレにはじめてをくれる。」


    司くんは僕に初めてをもらっていると言うけれど、その気持ちは僕だって同じだ。司くんと出会ってから初めての連続で全く退屈しそうにない。司くんも僕と同じ気持なのだろうか?そうだとしたら嬉しいけれど。そんなことを考えていたから、次に続いた司くんの言葉に思わず反応が遅れてしまった。



    「そういうところがだいすきだ」
    「え?」



    穏やかな空気に浸っていたところに、司くんがふにゃりと笑いながら発した言葉に僕は突然現実世界へと引き戻された。僕の聞き間違いでなければ「大好き」と言われたような気がしたが……?いやいやまさか、僕が都合よく捉えただけに違いない。しかし、もし聞き間違いじゃなければ僕も少しは期待して良いのだろうか。そう考えていたところに司くんが追い討ちをかける。



    「ふふ、るい。あまえてもいいんだよな?」
    「え?あ、ああ確かにそう言ったけれど……」



    確かに甘えていいと言ったけれど……!司くんはいつもはキリッと上げている眉毛をふにゃりとさせ、口元には微笑を浮かべている。ああ、司くん。その表情はまずい。脳内にはすっかり消え去ったと思われた脅威に、今日一番の大きさで警鐘が鳴り響いていた。僕はこれから起こるどんな衝撃にも耐えられるようにと身構える。



    「じゃあ…………いっしょにねてくれないか?」



    司くんはベッドの端に寄りながら、布団を上げて、隣をぽんぽんと叩いている。結果的に、もはや衝撃に身構えたことはなんの意味もなさなかった。グラグラと足元から揺れる感覚に襲われ、僕は声を発することすら出来ない。いくら司くんのどんな想いでも受け止めると決めたとはいえ、この状態の司くんと密着して変な気を起こさない自信が僕にはなかった。間違いなく言えることは、今司くんのベッドに入ることだけは絶対に阻止しなければならないということだ!



    「はいらないのか…………?」



    --前言撤回しよう。
    どうしようもなく好きで好きでたまらない子から涙目・上目遣いで誘われて断れる男が果たしてこの世に存在するだろうか?無自覚天然キラーな司くんは「るい……?」などと言いながら僕に追い討ちをかけてくる。いつもよりもふわふわとした司くんを前にして、僕の理性は脆くも崩れ去った。この瞬間、僕は己の欲望と戦いながら、司くんが目覚めるまでの数時間かを生き残らなければならないことが確定した。


    「それじゃあ、お邪魔させてもらおうかな」


    司くんは嬉しそうに微笑みながら僕を引き寄せる。


    「るいもさいきん、ねぶそくだろう?きょうはオレがぜったいにねかしつけてやるからな」
    「ああ、うん……。それじゃあお願いするよ……」


    僕はベッドに入りながら、必死に理性を働かせようとしていた。しかし司くんはそんなのお構い無しに無自覚に煽ってくる。



    「ふふ、るい、なんだかドキドキするな?」



    そんなことを言いながら僕の額に司くん自身の額を合わせてくる。ああ、この無自覚な天使で悪魔は僕を一体どうするつもりだというのか。僕はこのまま過ごしたら一体どうなってしまうのだろう。



    とにもかくにも目の前に司くんの顔が数センチの距離にあるというのは非常にまずい。寝れる気は全くしないが、せめて少しでも司くんを目に入れないようにしようと思い、僕は目を閉じた。






    結局---
    僕は司くんを物理的に星にする装置の改良版を作っていたため、数日徹夜続きで寝不足であったことと、司くんのベッドのふかふか具合に無事にぐっすり入眠してしまったのだった。まどろむ意識の中で僕は司くんが「るい……ほんとうにありがとう……」と言っているのが聞こえたような気がした。





    小学生の頃、大きな風邪をひいたことがあった。母さんに「咲希にうつるといけないから……」とできるだけ部屋から出ないようにと申し訳なさそうに言われた。オレはそれを快く了承した。だっていつも元気なオレが風邪をひいたって平気だけど、咲希に風邪がうつってしまったら大変だから。そのためなら一人で我慢することだってなんてことないと思えた。


    「咲希を守るのがお兄ちゃんの役目だからな!」


    そう言えば母さんは微笑んでくれて、「ありがとう、お兄ちゃん。風邪が治ったらどこかに遊びに行こうか」と頭を優しく撫でてくれた。それが嬉しくて、離れていく母さんの手に寂しさを感じたのは見ないふりをした。



    数日経っても風邪は治らなかった。朝や夜にドアの前に食事を置いた母さんから声をかけられる時以外、誰とも会話をしなかった。小学校では授業が終わるとすぐに家に帰っていたため、これといった友達もいなかった。そのため、見舞いに来るような人もいなくて、オレは部屋で一人、次に咲希に見せるショーのことを考えていた。



    しかし熱で朦朧とする頭でろくに動くことも出来ず、すぐにベットに逆戻り。そんなふうに一日を過ごしていると、ふと、とてつもない不安に襲われた。咲希のことはみんな心配するのに、オレのことは誰も心配していないのだろうか。オレはいてもいなくても関係ないんじゃないか。なんだか寂しいな……
    そう思ったところでオレはハッとした。


    (これではオレが心配される咲希を羨ましがっているみたいじゃないか!咲希は風邪をひいているオレなんかよりも、もっとずっと苦しんでいるのに、それなのにそんな咲希を羨ましがるだなんてわがまますぎるだろう!たかだか風邪ごときでそんな弱気なことを言ってどうする!オレがしっかりしなくちゃいけないのに……!)


    病気で苦しんでいる咲希を一瞬でも羨ましいと思ってしまった申し訳なさと怒りでオレは感情の制御が出来ず、ついに涙が出てきてしまった。もちろんオレが泣いたところで誰に気づかれるわけでもない。むしろ気づいて欲しくなかった。


    (落ち着け、司。オレはしっかり者のお兄ちゃんだろ?咲希を笑顔にするんだろ?オレが泣いていたら咲希を笑顔にすることなんて出来ない)


    涙をふいて無理やり笑顔を作ってみせる。


    「オレは咲希を笑顔にする未来のスター、天馬司だ!」



    --そのためにはこの感情は要らない。不安な気持ちも寂しい気持ちも両親を不安にするだけだ。咲希はこんなオレを見て笑顔にならない。


    (笑え、天馬司!お前は未来のスターなんだろう?滅入るひまがあるなら、咲希を笑顔にする方法を考えろ!そのためならこんな感情は吹きとばせ!)


    もう涙は止まっていた。もう大丈夫。寂しくなんてない。



    ---オレの心がまだ泣いていたことには見ないふりをした。





    夢を見ていた。



    風邪で寝込んでしまったオレは思うように体が動かず、ベッドで泣いていた。オレの部屋には誰も入らない。ノックの音すら聞こえない。階下には誰かがいる気配がするが、誰もオレについて話題に出すことはなかった。もしかしてオレは忘れられているのだろうか。オレが居なくたってオレの心配をする人は誰もいない。


    寂しい……寂しい……寂しい……


    よくよく考えればそんなわけないのに、弱った体ではまともに思考は働かない。一度負の方向に考え出せば、その思考はすぐにオレの幼い体を支配した。



    そうして声も出せずに泣き始めていったいどれくらいの時間が経っただろうか。ふと部屋の外で誰かが扉を控えめにノックする音が聞こえた。


    --誰かが来てくれた!


    嬉しくてオレは走って扉を開けに行こうとした。なんとか体を起こしたが、やはりオレの体は思ったように動かない。ならばと声を出そうとしたが、不思議なことにオレの喉からはなんの音も出なかった。

    ああ、このままでは扉の向こうの誰かは去っていってしまうだろう。そうしたらオレはまた部屋に一人ぼっちだ。そう思うとまた寂しいという感情に支配される。



    扉の中も外も無音だ。外の様子は分からない。扉の外の人物はもう帰ってしまっただろうか?一人ぼっちの空間に耐えきれず、オレはまた人知れず泣き始めた。


    すると突然、部屋の扉が開いた。


    そこに立っていたのは---類だった。オレの姿はいつの間にか小学生の姿から高校生の姿に変わっていた。


    --類が来てくれた!


    嬉しいと思うと同時にオレのこんな姿を類に見せてはならないと冷静な頭は考える。めそめそと泣いているオレを見たって類は笑顔にはならない。寂しくて、不安で、どうすることも出来ないオレは類の知っている''天馬司''ではない。



    --ならば演じなければ



    今はまだ本調子のオレではないが、元気になったらまたいつものオレに戻るから。それまで類に心配をかけるわけにはいかない。



    オレはいつものように類に笑顔で声をかけようとした。演じられるはずだった。しかしオレの喉からは相変わらず声が出ない。


    何故だ?何故声が出ない!?


    オレは焦った。こんな情けないオレを類に見て欲しくない。



    オレが類の無理難題に応えて見せた時の類の笑顔が好きだ。子供のようにはしゃいで「次はどんな演出にしようかな」と考えている類の楽しそうな顔を見ているとオレも嬉しくなった。もっと類の期待に応えたい。類と一緒なら、もっともっとと無限に高みに行けるような気がするのだ。


    それなのに--
    こんなオレでは類の期待に応えられない。思い出すのはあのハロウィンショーのことだった。オレが怪我をしかけたせいで類に遠慮をさせてしまった。もう二度とあんな思いはさせないと誓ったはずなのに……



    ここからでは類の顔は見えない。期待外れのオレにがっかりしてしまっただろうか。類の演出に応えてやれないオレを怒っているのだろうか。


    もう少しだけ待っていてくれないか?体調が良くなったらいつものオレに戻るから!そうすればまた類のどんな演出にも12000%の力で応えてみせると約束するから!




    --だから、オレを一人にするな、るい……




    ふと類がオレの方へ近づく気配がした。相変わらずオレの声は出ない。類がオレに近づいてくれることが嬉しいような、これ以上踏み込んで欲しくないような複雑な気持ちだった。



    そうしてオレの元へ近づいた類の顔は---優しかった。類はこんなに優しい笑顔も出来たのかとオレは一瞬呆気にとられてしまった。


    「司くん」


    唇の動きでオレの名前を呼んだことは分かったが、何故か類の声は聞こえなかった。オレは声を発することも出来ず、ただ類を見ていることしか出来ない。類はオレを相変わらず優しい目で見つめているが、その視線がオレから逸らされることが怖くて、上手く息が吸えなくなる。



    すると突然類がオレの頭上に傘をさした。その傘の中は不思議と陽だまりのように暖かなく、キラキラと光っていた。室内なのだから当然だが雨は降っていない。類の突然の行動に困惑したのも束の間、オレの耳に音が流れ込んできた。


    「お兄ちゃん、大丈夫かなぁ……アタシの病気はもう治ったから、風邪をうつされたって平気なのに自分から部屋に閉じこもっちゃって……」
    「司は一度こうと決めたら曲げない頑固なところがあるから。きっと咲希のことを想ってくれたのよ。その代わり、司が元気になったら''待ってたよ''って言ってあげましょう」
    「うん!よ〜し!お兄ちゃんが早く元気になりますようにってお祈りしよう!」


    オレは涙が溢れて止まらなくなっていた。類はそんなオレを見て、また優しく微笑みかける。


    「みんな、司くんのことを心配しているんだよ」


    今度こそ類の声は鮮明に聞こえた。その声は普段聞いている声よりもずっと優しくて、それになんだかひどく安心して、余計涙が出てきてしまった。



    涙を止めなければとパジャマで目元を擦ろうとしたが、その手を類が止める。


    「司くん、泣いていいんだよ」


    その言葉を聞いた瞬間、オレは思わず声をあげて泣きだしてしまった。そこで初めてオレは自分の声が出ていることに気が付いた。

    「類、オレ……!」
    「うん、司くんの声、ちゃんと聞こえているよ」


    良かった……オレの声、ちゃんと届いてた……
    安心してほっと一息ついてしまう。気付けば息苦しさもなくなっていた。





    「類はどうしてここに来たんだ?」
    「司くんが心配で、お見舞いに来たんだよ」


    パチパチと瞬きをする。


    「不思議かい?でも僕がそうしたかったんだ」



    その言葉は不思議とストンと胸の内に落ちた。きっと幼少期のオレが欲しかった言葉。けれど誰にも「欲しい」だなんて言えなくて、オレ自身ですら忘れていた感情。



    瞬きをする度、こぼれ落ちる涙。
    いいのだろうか?こんなに情けないオレでも。オレは類に何もしてあげられていないのに、こんなに暖かいものを貰ってもいいのだろうか?



    「僕にとって司くんの存在は陽だまりのように暖かくて、司くんの隣は何気ない日常もキラキラしているんだ。だからこれからも司くんの隣にいさせて?」



    陽だまりのように暖かく、キラキラと光っている傘の中で類はオレを見つめて微笑んでいる。


    --類の世界はこんなにも暖かくて、キラキラしていたんだな。ああ、そうか……オレもちゃんと類にあげられていたのか。良かった……類が笑顔でいてくれて良かった……


    こぼれ落ちる涙は止まることをしらない。けれどそれはもう悲しみの涙ではなかった。


    「類、本当にありがとう……」


    いつの間にか傘は消えていた。けれど類のそばは暖かくて、キラキラしていることに変わりなくて。


    「ああ……オレも隣には類が居て欲しい」


    類のことが好きだ。ずっと隠さなければと思っていた想い。けれどこれだけそばに類がいれば隠すことも出来なさそうで。


    もう一度類を見つめる。類は相変わらず優しい微笑みでオレを見つめていた。



    誰にも言えず捨てようとした想いはいとも簡単に類によって掬い上げられてしまった。それどころか今もなお隠そうとしていた想いすら類の前では隠すことも出来ない。



    だけど、それで良いんだ。



    オレは類に振り回されるのも嫌じゃなかった。オレが何を言ったところで結局類の前では無意味なのだ。問答無用で振り回されて、そうした先で見える景色はいつだってオレに驚きと感動をくれる。
    「ほら、僕の言った通りだろう?」とでも言いたそうな子供のようなキラキラとした瞳を見れることが嬉しかった。



    隠すことすら出来ず、類の前にさらけ出された「好き」の気持ちを類は受け取ってくれるだろうか。





    類はしばらくオレを見つめ続けていたが、おもむろにオレをギュッと抱きしめた。類に抱きしめられるとオレの体はすっぽりと覆われてしまい、まるで類に包み込まれているような心地になる。オレが隠そうとした気持ちすら一緒に包み込まれてしまったようだ。


    胸の奥がじんわりと暖かくなる感覚にまたほろほろと涙を流していると、そのまま類はオレと一緒にベッドに倒れ込んだ。


    「うわっ!類……?」
    「司くん、暖かいね?」


    先程まで強ばっていた身体が急にほぐれたからだろうか、類がオレを抱きしめ、数センチの距離に顔があるという状況を自覚してしまい、オレは自分の顔から火が出ているような心地がした。


    「る、類!これはちょっと距離が近くないか!?」
    「隣に居て欲しいと言ったのは君だよ?」


    確かにそう言ったが……!これではドキドキしすぎて変なことを言ってしまいそうだ。そんなオレの心境を察しているのか、いないのか、類は言葉を続ける。


    「司くんの素直な気持ちを聞かせて?」
    「う……」


    熱のこもった瞳で見つめられてはもう降参だった。やはりオレがどれだけ取り繕ったところで、類の前ではいつものオレではいられない。けれど類が受け止めてくれたから。不思議ともう怖くはなかった。



    「…………類のことが好きだ…………」
    「フフ、嬉しいよ。司くん」



    類がオレを抱きしめる力を強める。オレはもうドキドキしすぎてどうにかなってしまいそうだった。


    「待て待て待て!?お前、オレにだけ言わせるつもりか!?卑怯だぞ!」
    「その言葉の続きはここでは言えないかな」


    「へ……?」と気の抜けた返事を返したのも束の間、急速に意識が沈んでいくのを感じる。


    ダメだ……!まだ類の返事を聞けていないのに……!


    なんとか沈みゆく意識に抗おうとするが、類に優しく頭を撫でられてはその抵抗も数秒ともたなかった。






    類に抱きしめられている心地がする。オレと類の体温が混ざりあって暖かい。ふわふわとした意識の中で、「司くん、『 ありがとう』は僕のセリフだよ」と言われたような気がした。





    「ん…………今何時だ……?」


    大きく伸びをしながらベッドから体を起こす。ずいぶんと暖かい夢を見ていたような気がする。外は暗くなっていて、この分だと随分長いこと寝ていたんじゃないかと考えたところで、オレは隣の違和感に気がついた。


    「どわ〜〜〜〜〜〜っ!?!?!?!?」


    オレの隣に類が寝ている!?あまりの衝撃にオレは思わず風邪をひいていたことも忘れて、大きな声を出してしまった。


    「る、類!?お前……なんでオレのベッドで寝ているんだ!?!?」
    「違うよ、司くん!誤解だ!!」


    類はすぐさまオレのベッドから立ち退き、弁解しようと手をわたわたとさせている。


    「誤解?誤解ってなんだ……?類、オレのベッドで何をして……?」
    「違う!何もしてないよ!ただお見舞いに来ただけさ!」
    「お見舞いに来ただけで、ベッドに入り込む奴が居るか!!!」
    「だからそれは司くんから誘って……!」
    「オレから誘った……!?そんな訳ないだろう!!」


    両者一歩も引かず。オレと類の他者から見ればくだらない、けれどオレにとっては大問題な諍いはデッドヒートにもつれ込むと思われたが…………


    「お兄ちゃーん!近所迷惑になっちゃうよー!」
    「咲希?」


    鶴の一声ならぬ咲希の一声に突然類はピタリと動きを止めた。咲希が階段を登ってくる音が聞こえる。類は目に見えて慌てだし、そそくさと帰る準備をしようとした。


    「類?」
    「ごめん、司くん。君に何もしてないのは本当だからね?ただこの状況を咲希くんに見られるのはちょっといたたまれないかな……」
    「え?おい!類!」


    類はオレの方など見向きもせずに部屋の外に出ていってしまった。扉の外で咲希が類に挨拶している声が聞こえる。





    部屋を出る前に見えた類の顔が赤く染まっているように見えたのはオレの見間違いだろうか?見間違いでないのなら、オレも少しは期待していいのだろうか?


    「お兄ちゃん、体調は大丈夫?って……お兄ちゃん、顔が真っ赤っかだよ!?」
    「大丈夫だ、咲希……多分熱はもう下がってる……」
    「?よく分からないけど、るいさんが来てくれたおかげでお兄ちゃん、すっかり元気になったみたいだね!良かった〜!」


    手のひらを額に当てれば、思った通り熱は下がっているようだった。しかし別の意味で熱を持った顔は火が出るように熱く、オレは咲希に力なく返事をしながら、再び赤面するのと同時に困惑することになったのであった。









    後日、信じて送り出した幼なじみと風邪から復帰した友人が全く目を合わせられずにぎこちない会話をする様子を見て、彼らの恋を密かに応援していた草薙寧々が呆れを通り越して怒った結果、二人の恋が進展するのはまた別の話。
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    ふう。

    DONE🎈🌟ワンライより
    演目『不安』

    不安で色々考えすぎる🎈とそんな🎈を無自覚に包み込む🌟の話。
    ※未来軸&同棲
    ※付き合ってる
    吐き出したため息が白くなるほどの寒空の下、時刻は夜の23時を少し過ぎた頃。きらびやかなネオンとは対称的に、僕はどんよりと暗い顔をしながら夜道を歩いていた。こんな時間だから僕以外に歩いている人もいなくて、僕の暗い思考は誰に気づかれることもなく加速していく。いつもならすぐに僕の変化に気づいてくれるはずの仲間であり恋人は、今日ばかりは僕がこうして悩むきっかけだった。


    悪いのは僕だ。行為の最中、盛り上がりすぎてしまった僕は司くんが静止の声を上げていたにも関わらず、ついやりすぎてしまったのだ。僕の悪い癖。司くんへの好きが溢れすぎると止まれなくなってしまうのだ。今までも何回もこういうことはあった。そしてその度に優しい司くんに許してもらっていた。僕は優しい司くんに甘えてばかりじゃダメだったのに。さすがの司くんも今日は我慢ならなかったらしく、息も絶え絶えに僕を睨みながら「コンビニの1番高いアイスを買ってこないと許さないからな!」と怒られてしまった。ほっぺをぷくっと膨らませながら涙目で僕を睨む司くんがかわいくて、思わずキスをしようとしてしまったのも司くんの怒りに火を注いでしまったんだと思う。明確にキスを拒絶された。別になんてことはない恋人同士のよくある一場面だ。だけどそれが思いのほか僕の心につっかえてしまったらしく。後悔と罪悪感でいっぱいになりながらコートを羽織り、財布とスマホだけを持って外へ出た。司くんの顔は見れなかった。
    4013

    ふう。

    DONEもともと類司ワンライ用に書いてたけど長くなってしまったので……!
    I fall in love with you again and again.「つ、司くん……」
    「るい……」

    司くんが僕をどこかとろんとした目つきで見つめている。司くんのシャツはいつの間にかはだけていて、僕の部屋のソファに隣合って座っていたはずの僕と司くんの距離は先ほどよりも近くなっていた。僕の手は僕と司くんの間を中途半端にさまよっている。一体どうしてこんなことになったんだっけ……?


    数時間前。
    今日のワンダーランズ×ショウタイムでの練習が終わり解散になった後、僕と司くんはお互いまだまだ話し足りなかったため、練習後に僕の家に行くことになった。司くんが僕の家に来てからは今日の練習の振り返りをしたり、僕が考えたショーの演出を司くんに聞いてもらったり、お互いの好きなショーの話をしたりといつもと変わらない過ごし方をしていたはずだ。司くんと話していると時間が過ぎるのはあっという間で、ふと時計を見ればそろそろ司くんが帰らなければいけないはずの時間になっていた。名残惜しいけれど司くんの帰りが遅くなってしまっては司くんのご家族の方も心配するだろう。先程まで話題の中心だった過去の名作のショーを頭の中で思い起こしているのか、どこか満ち足りた顔をしている司くんに僕はそっと声をかけた。
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