隣から聞こえてくるすうすうという穏やかな寝息はいつだって僕の心を落ち着かせてくれる。季節は秋から冬の変わり目で気温は急激に下がった。「寒いから」なんて理由をこじつけて、今日は司くんに僕の家に泊まってもらっている。僕のお誘いに「しょうがないな」なんて少し顔を赤らめながら返す司くんに、僕は思わず司くんを抱きしめてしまった。
隣で眠る司くんを見れば、司くんは僕に背を向ける形で眠っているため司くんの顔が見えない。それがなんだか少し寂しくて僕は司くんを起こさないように布団から起き上がった。司くんの寝顔が暗闇に目が慣れてきて徐々にはっきりとしてくる。普段ワンダーランズ×ショウタイムの座長としてみんなをまとめている姿は年相応か、それ以上に大人びて見えるというのに、無防備な寝顔はまるで子供のようだ。司くんへの愛おしさが溢れて止まなくて、僕は自然と司くんの頬を手の甲で撫でていた。その手つきはまるで宝物に 触れるかのように繊細だ。
司くんと出会って、司くんを好きになって、司くんと恋人同士になれて、僕の世界はあっという間に司くんによって変えられてしまった。司くんと一緒にいると何気ない景色も宝物のようにキラキラとしていて、司くんの言葉は僕にとっての光だった。司くんの言葉や行動の一つ一つが僕を惹き付けてやまないし、司くんがいない時も司くんのことを考えてしまう始末だ。きっと司くんは僕の運命なんだ、なんて考えてしまうくらいだからこれが恋というものなんだろう。
僕は司くんのあどけない寝顔を愛おしさを隠さないままに見つめる。やっぱり司くんのことが好きだなぁ……。これから先もずっと一緒にいたい……。そんなことを考えながら頬を撫でていればふいに司くんが身じろいで小さく声を出した。僕は司くんの頬を撫でるのを一度中断して司くんの様子を見る。
「んん……るい……」
司くんは目をつむったまま寝返りをうって僕がさっきまで寝ていた場所を手で探っている。普段の彼からは考えられないほど小さな声は眠そうで、きっと半分寝ている状態なんだろう。僕の膝辺りを手探りで探り当てた司くんは僕のパジャマを軽く引っ張ってくる。眠そうな声で僕の名前を呼ぶ司くんに内心ニヤけが止まらないけれど、平静を装って僕は声のトーンを落として司くんに話しかけた。
「ごめんね、起こしてしまったかい?」
「ん〜……るい……」
司くんは相変わらず僕のパジャマをくいくいと引っ張っているけれど、やっぱり目は開いていないから、これはもしかしなくてもほぼ寝ているみたいだ。せっかくぐっすりと眠っていたのに起こしてしまって申し訳ないな、なんて思いながら僕の手は無意識に司くんの頭を撫でていた。僕に頭を撫でられると司くんが僕のパジャマを引く手は止まり、再びすうすうと穏やかな寝息が聞こえてくる。再びの子供のような寝顔に僕の頬も自然と緩む。もう一度夢の中へと旅立ったのかと思われたが、ふいに眉をひそめて小さな声を上げた司くんが僕の方へ手を伸ばし僕のパジャマの袖を掴んだ。僕は驚いて思わず固まってしまう。
「司くん?」
「るい……からだ、ひえるから……もっとくっつけ……」
僕が返事を返す間もなく、目をつむったままの司くんが僕のパジャマの袖を引っ張る。とはいえほぼ寝ている司くんの力では僕の体は全く動かない。布団の隙間から司くんの指先だけがちょこんと出て僕の袖を引っ張っている。その光景がかわいいやら愛おしいやらで、僕は思わず笑みを浮かべた。
「フフッ……仰せのままに」
司くんが望むなら応えてあげなくちゃね。そう思いながら布団に潜り込んで僕は司くんを抱きしめた。司くんの体はぽかぽかと温かくて、僕の冷えた体にじんわりと熱が広がっていく。僕は無意識にほっと息をついていた。
司くんは陽だまりのように温かくて、日陰で寒がっていた僕にも光をくれた。その光で僕のいた日陰は日向になって、気づけば僕の周りには花がたくさん咲いていた。僕と僕の周りに咲いている花を見つめながら司くんは優しい顔で笑うけれど、僕は司くんがくれたこの温かい世界の中心で君を抱きしめたい。そして願わくば今度は僕が司くんを温めてあげられる、そんな存在になりたいんだ。
想いを込めて司くんを抱き締めれば、司くんも僕を抱き締め返してくれた。嬉しくて、胸がいっぱいで、僕は司くんの肩口に顔を埋める。司くんのお日様のような匂いが胸いっぱいに広がって、僕はこの気持ちをどうやって表現したらいいんだろう。司くんが隣にいてくれる喜びと幸せを噛み締めていれば頭上で司くんの小さな声が僕の名前を読んだので、僕は慌てて司くんの声に意識を集中させた。
「るい」
「うん?どうしたんだい?司くん」
「るい、つめたい……」
「うん、ごめんね?でも今は司くんが温めてくれたから温かいよ?」
「うん……」
自分でも驚くくらい甘い声を出している自覚はあるけれど、司くんは相変わらずほぼ寝ているようなものだから気にすることはないだろう。どさくさに紛れて司くんの頭を撫でていれば、司くんも特に嫌がる素振りはしないから普段は言わないようなことも言ってしまう。
「僕は体が大きいからこうして司くんを包み込むように抱きしめられるよ」
「うん……」
「もう毛布は要らないんじゃないかな?僕が毛布代わりに司くんを抱きしめるよ」
「もうふは……いるだろ……」
「………だよねぇ。冗談だよ」
司くんと一緒にいると楽しいけれど、喋りすぎてしまうのがいけない。さすがに浮かれすぎたかな……なんて苦笑いしていれば腕の中に閉じ込めた司くんがわずかに僕を抱きしめる力を強めたような気がした。
「もうふは……ふゆにしか……つかわないだろ……それはいやだ……」
「司くん……」
司くんの言葉に思わず埋めていた顔を離して司くんを見たが、司くんは相変わらず目を閉じたままだ。寝ぼけながらでもそんなことを言ってくれるなんて、嬉しくて胸がいっぱいだ。司くんの言葉は僕の心をじんわりと温めてくれる。
「………寒くなくても司くんのこと抱きしめていい?」
「うん……」
言うやいなや再びすやすやと規則正しい寝息を立て始めた司くんが僕の言葉をしっかりと認識して返事したのかは分からない。けれど寝落ちする寸前に僕の背中に回された司くんの手が僕のパジャマをギュッと掴んでくれたのが答えのような気がした。