「いま、なんて?」
耳に馴染みのない言葉を聞いた気がする。タルタリヤはそれが自分に向けて放たれたものだと理解できず、主君の蛍へと聞き返した。
「だから、エスコート役。未婚の王女が一人でホールに入るわけにはいかないでしょ」
第一王女に与えられた離宮、その居室にて。
窓から覗く青い空は雲ひとつなく、庭先の花々はだんだんとその蕾を綻ばせている。いまかいまかとその花を咲かせようとする姿は、まさに春を届けようとしていた。
そう、春が訪れる。この国の双子の御子が生まれた日、星が降った記念すべき日がやって来るのだ。
先日王宮の聖堂で佩剣の儀を行い正しく主従となった蛍とタルタリヤは、そのお披露目を生誕パーティーで行う手筈になっていた。国内の貴族たちは既に知っているが、国外の諸侯はそのことを知らない。或いは人伝に聞いているかもしれないが……蛍が選んだタルタリヤという騎士がどのような人間なのかは知らないに等しいのだ。
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