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    没になった方

    没稿ちびりちびりと、舐めるようにグラスを傾ける。
    流石にそろそろ、自身の体とアルコールとの付き合い方も分かるようになってきた。
    それでも、まだ皆のいるバーで飲む事は無い。
    自室で一人、寝酒に少量嗜むか、そうでなければ今日の様に、シルバーアッシュが訪れた際に余裕があれば酌み交わす、という程度だ。
    こうして、行儀悪く寝台に腰掛けながら呑むのは片手の指で足りる程の筈だが、既にお互い遠慮なく、思い思いに寛ぐようになっている。
    今も、襟元を寛げ、タイを緩めた姿でグラスを傾けているのだが、そんな姿を見て、所謂大人の色気とはこういうものなのだろうかと、同じくグラスを傾けながらドクターは考えた。
    その見目も、纏う空気も、エンシオディス・シルバーアッシュという人物は目を引く。
    それは、彼の洗練された立ち振る舞いと、自信と余裕を感じさせる表情によるところが大きいのだろう。
    如何に見目が良くとも、背を丸め小さくなる者に、人は長く目を向けないものだ。
    「私に穴を空けたいのか、盟友?」
    「君に貫通創を作るのは骨が折れそうだな」
    どうやら、思っていたより長い間注視してしまっていたようだと、ドクターは意識的に目をそらす。
    だがそうすると、今度は回された尾が気になってしまう。
    腰から回され、腿の上で時折柔らかく揺れる長い尾は、やはり手触りがよく、持ち主と比べると余程素直だ。
    先端近く、毛の色が切り替わる辺りを指で梳くようにして、柔らかな毛並みを楽しむ。
    すると、触られるのは嫌だったのか、するりと離れて脛の方へと巻きついた。
    器用なものだな、と思いながら見あげた横顔は、普段と変わりないように見える。
    その耳と尾の特徴が示すように、肉食獣の様な精悍さと、歴史に練磨された高貴さがとても高い水準で噛み合った相貌は、恐らく、美貌と形容して差し支えないのだろう。
    事実、人事部では無い、彼と関わりが浅いながらもその容貌を知っているオペレーターの一部からは、その外見への高い評価が聞こえてくる。
    「君は、顔がいいのだな」
    しみじみとした調子で言われた言葉に、ぴくりと頭頂の耳が動く。
    そして、極短い間に、ドクターがもう酔った可能性を含む、様々な想像が駆け巡った。
    「女性オペレーター達がそんな話をしているのを聞いたし、私としても、野性味と端麗さという相反する要素が違和感なく両立されている……とても、そう。美しい、と評して差し支えない容貌だと思う」
    普段と変わりない、作戦記録の内容を論じる時と同じ調子の声で、ドクターがまだ酔っていない事が判る。
    「ほう……。お前が、この顔をそこまで評価していたとは知らなかった」
    「……君も、私は見目など皮一枚の話だ、という考えだと思っていたのか?」
    「そこまでお前を軽んじてはいないが、お前が他人の外見に、そこまで興味を持っていないように見えるのも事実だ」
    言われた言葉に、ドクターは開きかけていた口を閉ざす。
    思い当たる部分はあるのだろう。
    確かにドクターは、造作の美醜には頓着しない。しかしそれ以外の部分、目つきや表情、立ち振る舞いには、境遇や考え、腹積もりが伺えるものだ。
    悪心を抱く者は悪相が出るものだし、虚勢を張る者と積み重ねた自信を持つ者とでは、同じ言動をしたとしても如実に差が現れる。
    勿論、それを上手く取り繕う事が出来る者も居るという事は否定できないが。
    「……私だって、美しいと感じたものを素直に受け入れるくらいの事はするさ」
    むすりと、拗ねた素振りでグラスを傾ける。
    背けられた横顔。白い髪の奥から分かるほど赤く染まった肌は、アルコールの影響か、それ以外の理由があるのか。
    「───っ」
    耳にかかる髪を指でよける際、掠める程度に触れた肌は熱く、そうと感じるのとほぼ同時に、ドクターは耳を押さえるように己の手で庇う。
    困惑と、羞恥と、微かな恐れが入り交じった表情に見上げられ、つい迂闊な行動をとりそうになった。
    「……髪はいいが、耳には余り触れないでくれ。先日ホルハイヤに随分と揶揄われて、もうこりごりなんだ」
    耳にかけられた髪を戻し、バツが悪そうに何度も手ぐしで髪を整える素振りを見せるドクターは、その揶揄いを思い出しでもしているのか、今や項まで赤くなっている。
    それまで大人しく絡んでいた尾に、突然ぺしりと脛を何度も叩かれ、ドクターは困惑した。
    何故いきなり機嫌を損ねたのか。耳に触るなと言ったからか?しかし、その程度で損ねる機嫌であれば、既にこの関係は破綻しているだろう。
    第三者の名前を出した事だって、今まで何度もある。
    一体どうしたのかと見上げれば、何か、柔らかなものが口に触れた。
    いや、何か、などと言葉を濁さずとも分かっている。
    まつ毛が長いな、だとか。瞳の色がイェラグの凍った湖面のようだとか、重ねられた手の熱だとか。
    ───思っていたより、唇が柔らかいな、だとか。
    そう認識した途端、顔が熱くなった。
    それまで造形として美しいとは思っていたシルバーアッシュの顔がまともに見られなくなり、思わず顔を背けてしまう。
    しかし、添えるように頬に触れた手が、それ以上逸らすことを許さない。
    「私から目を逸らすな」
    言葉とは裏腹に声は穏やかで、頬の手も、決して無理矢理に顔を向けさせようとする程の力は込められていない。
    それでも、おずおずと、ではあるものの、その顔を見上げれば、意外な程心許なさそうな表情が浮かんでいて、つい瞬いた。
    「君でも、そんな顔をするんだな」
    「そうさせるのは、お前くらいのものだ」
    額に続いて鼻先が触れ合い、互いの目がよく見える。
    安堵と、歓びと、去りきらない微かな不安とを読み取り、ドクターはこの夜初めて、自分から腕を回して抱きしめた。
    人の体温も、すぐ側で鳴る喉の音も心地いい。
    その心地良さで、互いに一時の安らぎを得るくらいはいいだろう。
    シルバーアッシュは名家の当主で、いずれ適切な相手と縁づき、子を成して、血を繋ぐ。
    それまでの相手として、自分は確かに後腐れの無い相手であると、ドクターはそんな風に考えていた。
    自分は子を成す事は無いが、時折忍び寄る孤独感を埋めるにはいいだろう、とも。
    二度、三度と唇を重ね、白衣のファスナーに指がかけられる。
    普段は立襟と保定具に覆われて見えない素肌は白く、薄らと透けた血管が青白く浮き上がる様は、色香より脆さを感じさせた。
    だが、隠されていたものを暴く時というのは、胸が高鳴るものだ。
    ファスナーが下がるにつれ顕になる体はやはり細く、しかしどこか少女のようなまろやかさがあり、だと言うのに全体の骨格は男のように直線的だった。
    細く無機質なチョーカーの巻かれた首に喉仏は伺えず、むしろ胸には薄らとした膨らみの兆しすらある。
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