蜂蜜檸檬炭酸割「セイジ、なに作ってるの?」
自室のキッチンで鼻歌混じりに手を動かしていたセイジの横から、興味津々とばかりにニコがひょいと顔を覗かせる。
セイジの手元をきょろきょろと眺めるニコの、小動物を思わせる動きが可愛くて…自然と口角が上がるのを感じた。
「ニコ!今からレモネードスカッシュを作るんだ〜」
キッチンテーブルの上には、スライスレモンをハチミツと砂糖で漬けたものを入れた保存瓶、そして炭酸水のボトルと氷入りのグラスが二つ置かれている。
「セイジが前に作ってくれたレモンのハチミツ漬けに似てるな」
「その時にレモネードの原液の作り方も見つけてね、せっかくだから作ってみたんだ!」
美味しくできてるといいな、セイジは淡い黄色で満たされた保存瓶を手に取り、蓋を開けた。
ふわりと、甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐる。
キラキラと瓶の中で輝く黄色に、おお…!と思わず声が漏れた。
「いい匂い。セイジ、早く作ろう」
「ふふっ、そうだね!でもその前に…ニコ、口開けて?」
そう言ってセイジはティースプーンで黄金色のシロップを掬うと、小さく開かれたニコの口へと運んだ。
「どうかな?酸っぱすぎない?」
「……!」
もぐもぐと口を動かしながら、ハチミツ入りの小瓶みたいにキラキラした目をこちらに向けたニコにの姿に、よかったと笑みがこぼれた。
「美味しい。甘酸っぱさがちょうどいい」
「よかったぁ!僕もひとくち味見してみようかな?」
「ん、セイジも味見する?」
新しいティースプーンを取ろうと、キッチン棚に伸ばしたセイジの手をニコの手が掴む。
ニコ?そう声をかけるよりも先に、セイジの口はニコによって塞がれた。
「んむ!?」
驚きのあまり開かれたセイジの唇の隙間から、ニコの柔らかな舌が滑り込んだ。
舌を絡め取られては吸われ、名残り惜しむように何度も深く唇を重ねられる。
ほんのりと甘いような酸っぱいような味がした……気がした。
突然のキスの気持ちよさで、だんだん頭がふわふわしてくる。
ちゅ、と音を立てて離れると、二人の間に銀糸が伝った。
「どう、味見できた?」
部屋着の袖口で口元を拭いながら、何食わぬ顔をしたニコが確認してくる。
さっきの味見だったの!?という動揺の言葉と、真っ赤になっているであろう自身の顔を隠すように、セイジはニコを抱きしめた。
「甘酸っぱかったような、美味しかった…です」
動揺を隠しきれず、思わず敬語になってしまった。
「セイジの味見も済んだし、レモネードスカッシュ作ろう」
「そうだね!せっかくだから、おやつに何か食べようか?」
キッチンテーブルの上で寄り添うように並んだ氷入りのグラスは、出番はまだか?と急かすように、ゆっくりと氷を溶かしながら汗をかいていた。