君と僕の好きなものエリオスタワーからの帰り道、すっかり冷え切った秋の空気を纏いながら買い物袋を抱えたセイジは自宅へ向かっていた。
今日は早めに帰れそうだと、今朝ニコが話してくれていたことを思い出す。
もしかしたらニコが先に帰っているかもしれない。自然と早足で歩みを進めていたセイジは、あっという間に恋人と隣同士で暮らすアパートメントへ到着した。
駆け上がるように階段を上ると、自宅のドアの前で合鍵を手にしたニコの姿が視界に入る。ニコの手元でキラリと光る合鍵の存在に思わず頬を綻ばせながら、セイジは恋人の背中へ声をかけた。
「ニコ、もう帰ってたんだね!」
「……!セイジ、おかえり。おれも今着いたところ」
「同じタイミングで帰宅できるなんて思わなかったから嬉しいなぁ……!」
「うん、そうだな」
セイジの言葉に少々はにかむような表情で頷いたニコが、セイジの自宅ドアの鍵穴に合鍵を差し込んで回す。
ただいま、と口にしながらニコが玄関へ足を踏み入れる。おかえり〜と返しながら玄関に入り鍵を締めたセイジは、ふとニコが紙袋を手にしていることに気がついた。
「ニコ、何か買い物してきたの?」
「アップルパイ買ってきた、セイジが気に入ったって前に話してた店の」
「ええ!あのお店のアップルパイ好きなの覚えていてくれたんだ、ありがとう。嬉しいよ!」
「うん、そういうセイジも何か買ってきたのか?」
ニコの言葉で自分が抱えていた買い物袋の存在を思い出したセイジは、慌ててダイニングルームへ足を運びテーブルの上へ買い物袋を置いた。
「オムレツだよ!前にニコが美味しいって言ってたカフェで、オムレツのテイクアウトを始めたみたいなんだ」
「テイクアウト……知らなかった。ありがとう、セイジ」
「どういたしまして!でも、お互いのお気に入りの店で買い物してくるなんて思ってもいなかったから、すごく嬉しいな」
アップルパイの入った紙袋をダイニングテーブルに置き、こちらを見上げて頷くニコの姿にじんわりと愛しさが込み上げてくる。
いいかな?と断りを入れるより先にニコの身体を抱きしめたセイジに応えるように、ニコの両腕がセイジの背中へと回された。
「……ニコ、その、キ……キスしてもいい?」
「うん。確認しなくてもセイジの好きな時にしてくれて別にいい」
「っ、!それは嬉しいけど、ニコがしたくない時にしたくないから……!」
「別にそんな時ないから。……しよう?セイジ」
イタズラっぽく首を傾げたニコの顔がゆっくりと近づいてくる。
ニコには敵わないなぁ……そんな言葉を隠すように、セイジは自分の唇をニコのものに重ねた。