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    杜蘭―とらん―

    @0229durham

    小話や作業進捗。

    今はチャカペル𓃡𓄿(ワンピ)、ひぜなん(とうらぶ)

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    杜蘭―とらん―

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    お酒入りのチョコレートで少し酔った先生と、そんな先生にたじたじの肥前くんのひぜなん。

    肥前くん×南海先生
    遅刻も遅刻のホワイトデーです
    付き合っていてほのぼのな2人です。

    #ひぜなん
    princess
    #肥南
    fatSouth

    愛を一粒、指先へ.






    畑当番を終えて先生の部屋へ戻ると、部屋を出る前に見た時と同じ体勢で先生が机に向かっている。朝別れた時には本を読んでいたから、どうせまだ読み耽っているのだろう。
    ただいま、と声をかけて返事がないのも、別に珍しいことでは無い。
    気付いたらもう一回言えばいいしと気にも留めず室内へ入ると、畳を踏む音と気配にハッと顔を上げて先生が振り返った。

    「おや、肥前くんおかえり。今日は畑当番だったね。お疲れ様」

    柔らかい髪の毛を揺らし、メガネの奥の灰青色の瞳を細めて笑う。おかえりの声が、心なしかいつもより明るい。随分と機嫌が良さそうに見えた。

    「……ん」

    読書に夢中だったのかと思い手元を覗き込むと、そこにあったのは本ではなく、先月貰ったチョコレートの礼にと今朝渡したばかりの缶ケース。本の形を模したデザインが先生に合うと思って遠征先で買って渡したものだ。中には一口サイズのチョコレートが10個ほど入っている。

    「もう食ったのか。それ」

    畳に腰を下ろし、机の横に畳んだままの布団にもたれ掛かる。低い声で吐き捨てるように言っておきながらも、先生の上機嫌の要因がそこにあればと淡い期待も抱く。

    「あぁ、これかい。読書と調べ物に没頭していたらつい甘味が欲しくなってつい。君が帰るまで待とうと思ったのだが……済まないね」
    「なんで謝んだよ。先生にあげたやつなんだから、食えばいいだろ」
    「……うん、そうだね」

    珍しく先生が口篭る。首を傾げて先生を見つめていると、数秒の間の後バツが悪そうに先生が顔を上げた。

    「……いや、肥前くんが僕のために選んで買ってきてくれたものだと言うのがね、なんだろう、その、全部が愛おしくて。食べるのが勿体ないしどうせ食べるなら君と一緒に食べたくて初めの内はずっと眺めていたんだけれど。しばらく眺めていたら甘くていい香りがするものだから、つい手が伸びてしまったんだ」

    先生は、俺がひっそりと抱いて見せないようにする期待を知ってか知らずか、まるで道端の小石のように軽々それらを飛び越える。
    珍しく気恥ずかしそう逸らす視線も、取り繕おうとしているのかたどたどしくなる言葉選びも、覆った口許も、どれもおれに向かうものなのだと思うとなんだかくすぐったい。
    一つ分、ぽかりと空いたチョコレートの並びに込められた想いの大きさを目の前に、唇を噛む。取り繕えていないのは、おれも同じだった。

    「いーんだよ先生が食って。……美味かったか?」

    何とか平静を装って尋ねると、また目を細めて先生が缶をこちらへ差し出した。

    「うん、美味しかったよ。一緒に食べよう」

    居直して適当に一つ選び、口に放る。コーヒーの味がして、中には細かく砕いたアーモンドも入っていた。先生が好きそうな味だ。違うのにすればよかったかな。
    続いて先生も、指を踊らせてチョコレートを選びながらやがてそのうちの一つを口に入れた。

    「ああ、これも美味しいね。変わった味がする。前に肥前くんに渡したものとは味や形が全く違うのがまた面白い。見ているだけでも十分楽しいし、箱の意匠もとても美しくてずっと眺めていられるね」
    「そーかよ」

    缶の蓋にあたる表紙の模様を指差して、先生の興味は止め処ない。

    「このデザインは洋書がモチーフなのかな?僕はまだ読めないけれどこんな豪奢な装丁の本も存在するのだね。万屋で仕入れて貰えるかな?ここに書いてあるのは英語のようだけど、なんと書いてあるのだろうね」

    万屋で買えたとしても英語読めなくねーか、と答えようとしたがその頃には別のことを尋ねてきている。次はどれを食べるかね。猫の形のチョコレートがあるよ。せっかくだしお茶を淹れてこようか。チョコレートにはコーヒーが合うと聞いたけど厨にあるかな。肥前くんはコーヒーは飲めるかい。
    そうして俺の答えをひとつも待たずに一人はしゃぐ表情や声色も、全てが可愛くてジッと見つめているうち、ハッとする。
    宴の席で酔っ払った時の先生に、様子が似ている。もしや。

    「さぁ。チョコレートとか何とか書いてあるんじゃねーの」

    とっくに通り過ぎた質問にとりあえず一つ返したが、先生は既にその答えを求めてはいない。
    コーヒーを淹れてこようと厨へと飛び出しそうな先生を一度座らせ、広げた足の間に押し込める。行儀良くおれの足の間で正座する先生を後目に床に置かれた缶を手に取り説明書を見ると、先生が食べたチョコレートの写真の下には、ラムレーズンやら、ブランデーやらと書いてある。
    恐らくは、これだ。

    「ウィスキーボンボンはやめとけって言われたから避けたけどこういうのもあんのな…」

    バレンタインデーに貰ったチョコレートのお返しがしたいと陸奥守に相談した時にアドバイスされたのは、酒がそのまま入ったチョコレートもあるからそれだけはやめた方がいいということだけだ。
    中身をいちいち見る訳にも行かないしと、明らかに酒が入っているとわかるものは避けつつ缶の意匠に惹かれて選んだのだが。

    「しくじったな……」

    しかし酒が入ってるとはいえチョコレート2個程度でも酔うとは抜かった。おれが言い訳も交えながら反省しているその間も、酔った先生は喋り続けている。

    「ほら肥前くん、こっちは花びらが乗っていて綺麗だよ。食べてもいい花もあるのだね。本丸で育てている花にも、食べられる種類があったりするのかな」

    紅潮した頬の原因は酔いだけではなく興奮しているせいもあるのだろう。言及する話題が変わるとその都度表情も変わる。終始嬉しそうに説明書を覗き込み、こだわりがあるんだねぇとニコニコと笑む。首を傾げてチョコレートと俺の間を忙しそうに視線が往復する。

    「先日読んだ本にチョコレートに関する記述があった気がするな。探してみよう」

    こちらを振り返ったと思えば書棚の方へ向き直ったり、またチョコレートをまじまじと見つめたり。その度に至近距離で揺れる髪から、口から甘さを含んだ香りがする。

    「はは、忙しいなぁ、先生は」

    つい、笑ってしまう。酔わせてしまった罪悪感が、あっという間に嬉しさでかき消されていく。コロコロと表情を変えながら、湧き出てくる興味や喜びを余すことなく俺へ伝えてくれようとしているのだと、勝手な優越感で全身がむず痒くなる。

    「うん?あぁ、済まないね。つい嬉しくて。今まで興味を持たなかった事にもこうして心が惹かれるのは、きっと肥前くんのお陰なのだろうね」

    少し面を食らった。臆面もなくそういうことを言えてしまうのは元からだったろうか、それとも酔いのせいだろうか。

    「いちいち大袈裟なんだよ先生は。あれもこれ持って調べたくなるのは、元から先生が研究者の気質で、そういう刀としてあんたが顕現したからだろ」
    「そうかね?君は僕をよく見てくれているし、僕以上に僕の性質を理解して言葉にしてくれると思っているよ」

    おれが悪態をついたところで先生は全くと言っていいほど意に介さない。普段からそうだし、酔っている時は特にそうだ。

    「肥前くんを好きにならなかったらきっと僕は自分が嘘が下手だってことも、一緒に食べると一人で食べるより美味しくて嬉しいって事も知らないままだったろうし」
    「もういいって」

    俺の態度や言葉が照れ隠しだということはとうにバレている気もするが、酔っていようが素面だろうが、先生はそこを突いて意地悪を言うような性格でもない。
    その代わり酔っている時は、おれがどんなに怒っても制止しても、言葉にブレーキをかけることがない。いっそ照れているのかいとからかってくれた方がまだ気が楽だ。まるで気付いていないような素振りで無邪気に笑いながら褒めそやされる方が、いたたまれない。

    「僕が学者の気質を備えて顕現しているとしても、君がいて初めて興味を持った事は沢山あるんだよ」

    おれが食ったチョコレートにはアルコールなんて入っていないはずなのに、顔が熱くなっていくのが自分でもはっきりわかる。視線の行き場を失い、目が泳ぐ。

    「先生、ストップ。なぁ先生」

    おれがここにいる意味を肯定する言葉が押し寄せる。その勢いに、目元、鼻の奥や首の傷の辺りがざわめく。もう照れ隠しの悪態すら思いつかず、言葉にならない声を口の中で丸めて耐えた。

    「…うん、そう言う意味では、肥前くんも今ここにいる僕を僕として構成する要素の一つなのだろうね」

    ほら、すっかり自問自答に夢中でおれの制止なんか聞いちゃいない。何とかして止めないとそろそろ呼吸の仕方を忘れてしまいそうで、文字通り顔から火が出そうで。

    「せんせ」

    苦し紛れに頬を勢いよく両手で挟み、先生の唇を唇で塞いだ。口に残ったチョコレートの甘さと、焼けるようなブランデーの味が口の中に絡む。

    「ひぜん、くん」

    やっと大人しくなった先生と額を突き合わせたまま、数秒。

    「甘くていい香りが、するから。つい」
    「そう、かね」

    僅かにだが、先生の声が震えている。

    「なぁ、もういいか?嬉しいんだけどさ、そろそろ顔から火ぃ出そう」
    「それは済まないね、つい」
    「いや。……てか、酔ってるだろ先生。酒の味する」
    「ふむ。言われてみれば先程のチョコレートは少しアルコールの香りがしたね。カカオに含まれる成分が血管を拡張させて体温を上げる効果があると言うのを本で読んだことがあるけれど、気分が高揚したのはお酒のせいだったのだね」
    「……ん。ごめんな」

    酒入ってるの知らなくてと言いかけたところで、先生の額が数センチ離れる。なんだと思ったその矢先だ。先生が俺の頬を指でトン、とつついた。

    「おや。 肥前くんも顔が赤いね?肥前くんが食べたチョコレートにも、お酒が入っていたのかな」

    至近距離。頬を撫でる髪。眼鏡の奥。長いまつ毛と灰青色のビー玉みたいな目。チョコレートと酒が混ざった熱を帯びた香り。
    また、押し寄せる。

    「……先生ってさぁ」
    「うん」
    「……刀剣誑しだよな、ほんと」

    小首を傾げたのち、刀剣博士だよ。そう言って先生が得意満面に笑う。すっかり飽きたやり取りにおれも根負けして笑う。

    「はは…そーかよ」

    おれよりずっと大人びた姿で顕現した割には無邪気なところが可愛くて、駆け引きの仕方を知ってか知らずかおれみたいな奴を誑し込むのが上手い癖に嘘は少し下手。
    そのどれもがおれにとって厄介極まりないこの学者先生は、次は二人で買いに行こうねと、残りのチョコレートを俺に差し出してまだ薄らと赤く火照る頬を綻ばせた。










    ────────

    酔ったら肥前くんへのありがとうと大好きが止まらなくなる先生、決して駆け引きが上手な訳ではないような気がしています
    思わせぶりな言い方や相手が照れる事を臆面なく言えてしまう赤裸々さも打算などではなくて、先生は肥前くんより自分が優位だとか上手(うわて)だとかは思ってない
    それが逆に肥前くんにとっては手強いんだろうなぁ

    肥前くんが勝手に勝てねぇ~って思ってるけど先生は対等だと思っているから肥前くんが必死なように先生も必死で、勢いに任せて思いを伝えてしまう、
    そんな2人もかわいいですきっと。

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    杜蘭―とらん―

    MAIKING現パロのひぜなんです

    大学図書館職員の南海先生と、猫の肥前くんの出会いのお話です 続くかは分からない…

    ▶南海 朝尊(なんかい ともたか)
    28歳 私大の図書館司書。 本の虫で人付き合いが悪い。
    ▶ひぜん
    ?歳 猫。食欲旺盛でじゃれて遊ぶのは好きではない


    ※フィクションです。ペット禁止の集合住宅でペットを飼ってはいけませんしまたそれを推奨する目的はありません。
    猫も雨天に夢を見る.






    ここ最近、家に居着き始めた黒猫。

    僕が仕事から帰る時間を見計らったかのようにアパートの扉の前で待っているその黒猫は、夕方頃に僕が階段を上がってくるのを見つけると足元へやってきて一つも鳴くことなく目だけで訴える。

    中に、入れろと。

    扉を開ければ家主である僕を先導するように悠然と室内へ入り、すっかりお気に入りになったらしいソファの隅を我が物顔で陣取る。寝ようとしたところで毛布をめくるとベッドの真ん中へやってきて僕のことをお構い無しに伸びて寝ることもあった。すっかり自分の家のように振る舞ってはいるし夜寝ていると枕元へ来ることもあるのだが、何故か彼は、朝には忽然と姿を消している。
    初日こそご飯を食べて満足したのだろう、飼い主の元へ帰ったのだろうと思ったが、その日もまた前日の時のように、僕が帰宅すると玄関の前に行儀よく座って彼は僕を待っていた。
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