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    杜蘭―とらん―

    @0229durham

    小話や作業進捗。

    今はチャカペル𓃡𓄿(ワンピ)、ひぜなん(とうらぶ)

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    杜蘭―とらん―

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    ⚠微ホラー?なひぜなん

    自分の目がビー玉で出来ていると言い出す先生


    なんでも許せる方向けです

    #肥南
    fatSouth
    #ひぜなん
    princess

    ガラスの双眸の誘惑.





    「肥前くん、僕の目はね。ビー玉で出来ているんだよ」

    正座して本を読んでいた先生が突然本をぱたりと閉じ、そんなことを言い出した。夜もすっかり更け他の部屋の連中も寝静まった頃の事だ。
    先生の言葉に呼応するかのように蝋燭がゆらと揺れ、おれの視界も一瞬炎の揺れに釣られてボケた。

    「なんだそれ?」

    顔を上げ、いつも通りに機嫌良さげな先生を見遣る。言われてみれば確かに、蝋燭の火を映した先生の瞳は彩度が低い灰青色で、ガラスを夜に透かしたような色をしている。吸い込まれそうで、底が知れなくて霊妙で、先生の好きなところのひとつだ。
    そうは言っても、おれがそう思うのだって例えの話だ。この本丸に顕現したおれ達の体は人間と同じ様に、血や肉や骨で構成されている。

    「本当だよ。ほら」

    怪訝そうなおれの様子に先生は、眼鏡を外してグイと顔をこちらへ寄せた。言われてみればビー玉に見えないことも無い。しかし人間の目がビー玉で出来ているなんて有り得ない。
    そういう本でも読んだのか、映画でも見たか。どちらにしても、先生らしいユーモアのある冗談だと思っておれは鼻で笑った。
    「そんなんおれが信じるって?……でもまぁ、先生が言うなら本当にそんな気がしてくるな」
    そう言って受け流してから、逸らしていた視線をもう一度先生の方へ向けた。相槌を打つでもなく、先生はにこりとしている。

    「先生?」

    どうも釈然としない。思えば、微笑みを湛えたままおれの目を見ている筈の先生と、さっきから目が合っていない気がする。おれの目の奥を見ているような、小さな違和感。

    「…………」
    「先生、どうした?」

    今日は妙に口数が少ないことも気掛かりだった。仮に、もし仮に、本当に先生の目がビー玉で出来ていたとしたらだ。真に受けるつもりは毛頭ないが仮に本当にそうだとしたら、先生はその特異な体の事や、他の刀剣とは異なる形で顕現した構造に興味を持つだろうし、研究したなら考察を意気揚々と語る筈なのだ。
    それなのに、今の先生にそうする様子は全くと言っていい程ない。静かに正座してVの字に口を結んで笑みながら、大して喋りもせず、笑っていないどんぐり眼は相変わらずおれを通してそのずっと向こうを見ている。まともに取り合わなかった事で機嫌を損ねてしまっただろうか。そんな幼稚な質では無いはずだが。

    「本当にビー玉なのか?」

    沈黙に耐え兼ねて冗談のつもりでそう言ってから、今度はまじまじと先生の方を見る。膝に置いた手、結った髪。そうして視線を徐々に上へやりもう一度目を合わせる。しかし目が合っている気がしない。
    急速に鼓動が早まる。目だけじゃない。先生から感じる気配のどれもが、おれが知り得る先生と微妙にずれている。漠然とだが、肌も髪もおれと同じ物では出来ていない気がしてくる。

    「触れてみるかね」

    やっと口を開いた先生の声がやたら無機質に聞こえたのもそうだ。ひとつ違和感を感じてしまったらあとは芋づる式だった。目の色、髪の色、手の大きさ、背の高さ。全部が違うものに見えてくる。
    薄気味悪さに支配された異様な静寂の中で、本能がおれに呼びかける。

    「これは先生ではない」と。

    違和感に溺れる前にこの部屋を飛び出したい衝動に駆られているのに、生気のない瞳は相変わらず美しくて目が離せない。そんなこと思っている場合では無いのに。
    末期だな。喉の奥に押し込めた言葉で自虐しながらも、先生の言葉に呼応するように自然と腕は伸びる。その間も、先生は微動だにせずじっとおれを見ている。震える指が先生に近付くにつれて空気が冷えていく気がした。

    「えっ」

    まばたき一つせずに俺に触れられるのを待つ瞳に指先が辿り着いた時、 思わず声が漏れた。
    長いまつ毛の奥の瞳は、本当にビー玉の硬さと冷たさだった。カッと目を見開いたまま、満足そうに先生が口角を上げる。

    「ほら。本物だろう?」

    表情の割に随分と低い声で先生が言葉を発した瞬間、乾いた葉を踏んだ時のような音がした。
    ───先生。
    おれが声を発するのも待たず、指先と瞳の境目でもう一度パキと音が鳴り、ガラスでできた先生の瞳にヒビが入った。







    「───くん、……ぜんくん」

    おれを呼ぶ柔らかい声と、声とは真逆の強い振動に、意識が覚醒する。

    「肥前くん」
    「……ん、あぁ?……先生?」

    橙色の眩しさに怯んで数秒後、それが西日だということ、続いて今が夕刻ということに気が付けた。随分とタチの悪い夢を見ていたようだ。
    目を開けると、すぐにおれの顔を覗き込む先生と目が合う。見開いたまん丸い目玉は夢を想起させて一瞬身体が強張ったが、直ぐに違うと理解した。先生としっかりと目が合っていると感じられたからだ。

    「本を取りに来たら魘されているようだったから。驚いたよ。大丈夫かい?」
    「わりい。平気だ」

    体を起こしてそうは言ったが、まだ心臓は落ち着きがない。風の音や縁側を駆ける誰かの足音まで飛び越えて心音が先生に聞こえている気がして、とっさに内番着を掴んだ。窓辺で長いこと陽に当たっていたパーカーはすっかり温まっていて、思いがけず心が弛む。
    その一方で背中の当たりはまだ薄らと寒く、指先にはさっき触れた目玉の冷たさの余韻が残っていた。

    「悪夢でも見ていたのかな」
    「あぁ、なんかそんな感じ。心配かけて悪かった」

    首を横に振りながら先生が差し出すタオルを受け取り乱暴に顔を拭う。
    深呼吸をしてごらん。背中を優しくさする先生の言葉に大きく息を吸い、吐く。数回終える頃には、心音もだいぶ遅く小さくなっていた。

    「日に当たって眠気に誘われたかな。この時間は逢魔が時という呼び名があってね。魔物に遭遇しやすい時間と言われていて、うたた寝をするのもあまり良くないのだと以前本で読んだよ」
    「…そーかよ」

    創作の一面もあるから具体的な根拠や理由はないのだけど、と続ける先生はおれが適当に相槌を打っている間にすぐにまた口を開く。

    「それはそうと」

    眉を下げ、不安そうにおれの背を撫でておれを慮っていたさっきまでの先生は早くもそこにはいない。目も口元もおれの腕を掴む指先も、全て好奇心に釣られて生き生きとし始めている。夢の中では一度も見ることのなかったおれがよく知るいつもの先生だ。

    「悪夢が魔物の仕業かどうかはともかく、現実的に考えれば悪夢は主にストレスや寝不足に原因がある側面もあるというからね。肥前くんにはそういった心当たりはあるかね?これまで悪夢を見た事は?もし良かったら心情の起伏が睡眠に及ぼす影響や、ストレスと夢にどういう因果関係があるのかを是非研究させて欲しいのだが……」

    不思議なものだ。いつもなら煩わしいとすら感じる先生のマシンガントークが、今は安堵感を与えてくれている。逸る好奇心を追いかけるように早口で喋り、おれの答えなんか待たずに置いてきぼりにし、その間ずっと高揚を抑えきれずに声が弾んでいる。
    呆れと安堵感と少しの懐かしさ。馴染みの光景に、つい笑いが零れた。

    「はは!ほんっとに、先生は先生だな」

    大方、いつも通りにおれに面倒臭がられるだろう事は予想していたのだろう。怒るでもなく突然笑いだしたおれに面食らって、先生の瞳がまた丸くなる。
    珍しくコロコロと泳がせておれを見るその目は確かにビー玉に見えなくもないが、そこに夢の中のような無機質さはない。体温を感じる生きた綺麗な灰色だ。

    「肥前く──おっと」
    「うわ!」

    上の空の先生の腕を引くのは意外と簡単だったが、不意打ちにバランスを崩した先生が畳に手を付き損ねた為に、先生が俺を押し倒す形で先程まで枕にしていた布団に二人、倒れ込んだ。
    シャンプーと線香と、恐らく本の香りが混ざった先生だけの香りが鼻をくすぐり、心地がいい。これも当然、夢の中にはなかったものだ。

    「好きにすりゃいいよ、研究でも何でも」
    「……あぁ、うん、ありがとう」

    先程までの勢いはどこへ行ったのか。質問をしてくるわけでも、先程までの考察の続きを語り出すでもなく、先生はしおらしくおれに抱きしめられている。
    そのまま何拍かの沈黙の後、どちらともなく目が合った。ほとんど同時にお互いにはにかむ。

    「キレーな目」

    灰と青の境目を拾ってきたような色の瞳はやはり美しくて、吸い込まれるような魔性だけは夢の中と同じだった。
    下まつ毛を親指で撫でる。擽ったいよ。そう言って身動ぎしている隙に、メガネをずらして先生の瞼にキスをした。驚いてハッと開いた目を僅かに揺らしながら先生がおれを見る。

    「ビー玉みてえ」

    思わず口をついて出た言葉に、先生がくすりと笑った。

    「ビー玉?肥前くんにしては随分と浪漫的なことを言うね」
    「……おれもそう思う」
    「ふふ、ありがとう」

    綺麗な夜色の双眸に少しだけ夕焼けの色を映して、先生はしばらくの間照れくさそうに笑っていた。



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    杜蘭―とらん―

    MAIKING現パロのひぜなんです

    大学図書館職員の南海先生と、猫の肥前くんの出会いのお話です 続くかは分からない…

    ▶南海 朝尊(なんかい ともたか)
    28歳 私大の図書館司書。 本の虫で人付き合いが悪い。
    ▶ひぜん
    ?歳 猫。食欲旺盛でじゃれて遊ぶのは好きではない


    ※フィクションです。ペット禁止の集合住宅でペットを飼ってはいけませんしまたそれを推奨する目的はありません。
    猫も雨天に夢を見る.






    ここ最近、家に居着き始めた黒猫。

    僕が仕事から帰る時間を見計らったかのようにアパートの扉の前で待っているその黒猫は、夕方頃に僕が階段を上がってくるのを見つけると足元へやってきて一つも鳴くことなく目だけで訴える。

    中に、入れろと。

    扉を開ければ家主である僕を先導するように悠然と室内へ入り、すっかりお気に入りになったらしいソファの隅を我が物顔で陣取る。寝ようとしたところで毛布をめくるとベッドの真ん中へやってきて僕のことをお構い無しに伸びて寝ることもあった。すっかり自分の家のように振る舞ってはいるし夜寝ていると枕元へ来ることもあるのだが、何故か彼は、朝には忽然と姿を消している。
    初日こそご飯を食べて満足したのだろう、飼い主の元へ帰ったのだろうと思ったが、その日もまた前日の時のように、僕が帰宅すると玄関の前に行儀よく座って彼は僕を待っていた。
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