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    ankshitei

    @ankshitei

    自カプのすけべとちょっとしたSSを投げる場所。

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    退屈な夜を過ごすアイネイ

    野営の夜にぱちり、ぱちり、火が爆ぜる。ゆらゆらと揺蕩う橙色の炎をぼぅ、と眺めては、時たま枝をぼきりと折って火にくべる。
    今回は少しばかり遠い所へ赴く依頼だった。馬車で4日。そこから徒歩で約2日ほどの場所が私たちの依頼場所。なんてことはない、どこからともなく現れたらしい魔物の調査と、必要とあらばその魔物たちの退治が依頼内容で、今はその依頼を終えた帰宅道中で野営をしていた。
    見張り当番は嫌いじゃない。普段からありとあらゆる喧騒の中に身を置く者として、時々、そう、こうして、静寂が恋しくなる。いつだったか、この話をローレンにすれば無表情ながらにやや小馬鹿にした顔で「顔に似合わない」と言われた。ほっといてほしい。

    「……」

    野営の見張り当番は、いついかなる時も夜の闇に潜む危険から仲間を守るべく警戒を怠ってはいない。…だけど、それはそうとして些か退屈であるのも事実。なので、私はいつも適当な枝を見繕って地面に絵を描いては消してを繰り返す暇つぶしをしている。
    猫。犬。鳥。チューリップ等々。自慢ではないが、雑把な性格が災いしてか私はあまり絵が上手くない。いいのだ。誰に見せるわけでもないのだから。

    「……んだよそれ、キメラか?」

    さて、次は親父さんのハゲ頭でも描いてやろうかと脳裏に後光を受けて輝く親父さんの頭皮を思い浮かべていたら、焚き火が爆ぜる音に紛れて声が飛んできた。「うわッ」当然ながら、誰もが寝静まっていると思っていたので心底驚くわけで。
    声の張本人は飛び上がる私を気にもせず、地面に寝そべったまま頬杖をついてつい今しがた私が描いた絵を怪訝そうに眺めていた。

    「あ、アイゼン…いつから起きてたんですか?」
    「ついさっき」
    「交代までまだ時間があるので、もう少し寝てても大丈夫ですよ」
    「いや、いい。…目が覚めちまったんだよ」

    よっこらせ、の声と共に上半身を起こしたアイゼンは、なるほど、しっかり起きているらしい。服についた砂を叩きながら私の足元を覗き込んできた。

    「で、なんだこれは」
    「何って…どう見てもくまさんでしょう」
    「………………」

    アイゼンの眉間のシワが深くなったような気がした。

    「くまさんって、お前…これどう見てもバケモン…」
    「ん?」
    「…いや」

    私から目を逸らしたアイゼンは、深く、深く息を吐き出した。そして徐に私が落書きしていた枝をするりと奪い去り、そのまま私が描いたくまさんの隣にざりざりと枝先をすべらせる。そうして、それほど時間が経たないうちにおおよそこの男が描いたとは思えないほどえらくかわいらしく、子供受けしそうなくまさんを描きあげた。

    「…なんですか、これは」
    「何って、くまだろ」
    「それはわかってます。私が言いたいのは、なんでこんなかわいいくまさんをあなたが描いているのかということです。謎すぎます」
    「ンなもん知らんわ。お前が壊滅的に下手くそなだけだろうよ。この画伯め。誰にでも描けるわこんくらい」
    「画伯って言わないでください。それに、私のくまさんは下手くそじゃないです。これ以上にないくらいの力作なんです」
    「は?ただのキメラだろーが」
    「キメラ!?なんてこと言うんですか!」

    小声でぎゃいのぎゃいのと言い合いをする。なんだかひどく負けた気分だ。そもそも勝負なんてしてはいないけど、なんかそういう気持ちなのだ。
    絵は上手くない自覚はあるけれど、それはそうとして人が一生懸命に描いたものをキメラ呼ばわりされるのは心外すぎる。「もういいですよ」ぷん、とそっぽを向きながら靴でくまさんを消した。

    「拗ねんなよ…」
    「別に、拗ねてないです」
    「拗ねてんじゃねぇか」

    悪かったって。そう言いながら、アイゼンは子供のように頬をふくらませる私の隣に座り直した。
    実に子供っぽいと自分でも思う。たかだか暇つぶしに描いた落書き如きで臍を曲げるだなんて、20になる人間とは思えない言動。正直、当の自分でさえそう思う。
    …だけど、なぜだろう、彼の前ではそんな風であっても許されるような、そうであっても許してくれるような、そんな気がしてつい年甲斐もなくムキになってしまうのだ。
    付き合いが長いからか、はたまた気が許せる存在だからか。だけど、お兄ちゃんに向けるものとはまた違う感覚にぐるりと頭を巡らせる。…あぁ、なるほど、そう、きっとこれは。

    「………」

    ぽすり、隣に座るアイゼンの肩に頭を乗せる。突然の私の行動にアイゼンはぴくり、と小さく体を揺らした。

    「…んだよ、急に」
    「……甘えてるんですよ」
    「はぁ?」

    恥ずかしげもなく言い放つ。甘えている、その言葉が妙に腑に落ちた。多分そう、もっと、違う意味で私はアイゼンに甘えている。
    訳が分からない、という風に眉間にシワを寄せているであろうアイゼンを無視して、もたれかかったままさっきよりほんの少し弱まった焚き火を眺めた。

    「拗ねたり、かと思えば急に甘えてるとか言い出したり、お前は昔からほんとによくわからねぇ。情緒どうなってやがる」
    「どうもこうも、その時の感情をそのまま吐き出してるだけですよ。隠すのも、覆うのも、私は得意じゃありませんから」

    知ってるでしょう?そう言い放てば、むっつりと黙りこくったアイゼンにふふん、と笑う。
    私は知っている。今まさに不機嫌です、と言わんばかりに眉間にシワを刻むアイゼンだけど、その実耳の先っぽが真っ赤に染まっていることを。
    そして、訳が分からないなどと言いながらも私の言動をこの男はちゃんと理解しているのだ。わかっているくせに、わからないふりをする。

    「けっ」

    ほんと、ひねくれ者め。

    いい加減慣れてほしい気持ちと、柄にもなく彼の耳がこうして赤く染まるのを見ていたい気持ちとがぶつかる。…まぁでも、結局のところ、私はアイゼンがどんな顔をしていようと、私が抱えるこの気持ちが変わることはないのだ。

    ぱきり、先程まで地面に絵を描いていた枝をアイゼンは焚き火にくべた。あーあ、暇つぶしがなくなってしまった。
    …でも、どうやら私の暇つぶしにアイゼンが付き合ってくれるらしい。はぁ、と聞こえたため息の後に、ぎこちなく私の頭にぽん、と大きな手が乗った。

    ほら、そういうところが大好きなんですって。
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