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    FuzzyTheory1625

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    POIPOI 19

    FuzzyTheory1625

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    前に書いてたヤツを

    看取りネタ室内はひどく静かだった。

    その静寂を破るのは、壁際に並ぶ機器の作動音と、かすかな呼吸音だけ。
    だが、その呼吸音も、今まさに消えようとしていた。

    薄暗い照明のもと、無機質なベッドに横たわる男——アドラーの胸が、かすかに上下する。
    それは今にも消えそうな灯火のようで、頼りなく、儚い。

    傍らに立つウルリッヒは、じっとその様子を見つめていた。
    彼の細い指がわずかに動きかけるが、結局、何もせずに拳を握る。
    視線の先で、アドラーの肺がゆっくりと最後の空気を吐き出し——それきり、動きを止めた。

    モニターが低く警告音を鳴らし、生体反応の消失を告げる。
    規則的に点滅していた緑の光が、次第に赤に変わり——やがて、すべてが暗転した。

    死。

    ——それは、あまりにも静かで、穏やかで、そして容赦のないものだった。

    ウルリッヒは、ゆっくりとまばたきをする。
    呼吸が止まったことを確認する。

    もう、アドラーはどこにもいない。

    かつてそこに「彼」がいたはずの肉体は、ただの物質へと変わり果てた。
    血液は動きを止め、神経は断たれ、思考も意識もどこにもない。

    それだけのことだ。

    ——そう、理解はしている。

    だが、理解と納得は、まるで別のものだった。

    「……やっと、楽になったわね。」

    静かな声が、沈黙を破る。

    ウルリッヒの隣に座るルーシーが、目を細めてアドラーの顔を見つめていた。
    その瞳には、涙の一滴も浮かんでいない。

    当然だ。

    彼女は「人間」ではないし、そもそも泣くための機能すら持ち合わせていない。
    それでも——ウルリッヒは、ちらりと彼女の横顔を盗み見た。

    微かに弧を描く唇。
    静かに、穏やかに、彼女はアドラーの亡骸を見つめ続けていた。

    ——まるで、そこに「彼」がまだ存在しているかのように。

    「……ミス。」

    ウルリッヒは、ぽつりと声をかける。

    ルーシーが微笑み、彼を見つめた。

    「ん?」

    「ボクたちは……生き残ってしまったんですね。」

    その言葉に、ルーシーの微笑みがわずかに揺らいだ。

    「そうね。」

    短く答えると、彼女は再び視線をアドラーへ戻した。

    「……シモーネも、アドラーも、いなくなった。」

    ウルリッヒは目を伏せた。

    静かに、ただ静かに、その事実が降り積もる。

    彼らは「人」だった。

    老い、疲れ、死んでいった。

    彼らと過ごした時間は確かに存在していた。
    だが今、その存在はもうどこにもない。

    ——ボクたちは、彼らとは違う。

    けれど、同じ時間を生きた。

    それでも——。

    「これで……本当に、ボクたちだけですね。」

    ウルリッヒの呟きに、ルーシーは小さく息をつく。

    「そうね。」

    彼女はそれだけを言う。

    ——死を知る者たち。

    それは、ただの概念ではなかった。

    世界中の意識覚醒者の中でも、ルーシーとウルリッヒほど「死」という現象を理解している存在はいないだろう。

    50年前——
    彼らは免疫術式の副作用実験に何度も晒され、そのたびに死にかけた。

    細胞の崩壊。
    神経系の異常。
    身体の拒絶反応——

    ありとあらゆる形で「死」が彼らの目の前に現れた。

    だが、彼らは死ななかった。

    無数の苦痛と喪失を乗り越え、それでも——生き残ってしまった。

    ——それが、どれほど残酷なことか。

    「……ミス。」

    ウルリッヒは、アドラーの亡骸を見つめながら、ゆっくりとルーシーへ顔を向けた。

    「ボクたちも……いつか、死ぬのでしょうか。」

    ルーシーはその問いに、すぐには答えなかった。

    彼女はただ、静かにアドラーの顔を見つめていた。

    そして、ゆっくりと口を開く。

    「……コアが消耗すればね。」

    遠い声だった。

    「でも、きっと——。」

    ルーシーは椅子から立ち上がり、アドラーの亡骸へと歩み寄った。

    その動作はひどく静かで、まるで「死」そのものに触れることを恐れているかのようだった。

    「私たちは……“死ぬ”ということが、どういうものなのか……本当の意味では、分からないのかもしれないわね。」

    ウルリッヒは、それを聞いて目を伏せた。

    「……そうですね。」

    彼は再びアドラーの顔を見つめる。

    目を閉じた彼は、まるでただ眠っているかのようだった。

    けれど、それは「眠り」ではない。

    ——彼は、もう二度と目を覚まさない。

    ウルリッヒは、口を開きかけたが——何も言わずに、ただ目を伏せた。

    そして、ただ一言だけ、静かに呟く。

    「……お疲れ様でした。」

    それは、誰に向けた言葉だったのか。

    アドラーへ?

    それとも——生き残ってしまった、自分たちへ?

    ウルリッヒ自身にも、それは分からなかった。

    ただ、重い沈黙だけが部屋に残る。

    ——そして、二人は再び「生き続ける」。

    この先、何十年、何百年——
    何の答えも見つからぬまま、ただ。



    §



    「……ウルリッヒ?」
    「あ、あぁいやミスすみません。……ただ、どうやらボクにも彼の軟弱な思考が写ってしまったようです。」

    ε(˙³˙ з )з.。o○
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