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    FuzzyTheory1625

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    FuzzyTheory1625

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    パワー系ウルリッヒ

    レコードケース「人間のキミは下がっていたまえ。」

    ウルリッヒの声は、冷静だった。

    耳に馴染んだ、あの理知的な響き――けれど、今はそれが “絶対の命令” に感じられた。

    「……チッ。」

    アドラーは、反射的に舌打ちしそうになったのを堪え、静かに後退した。

    ——だが、その手は離さない。

    指の中で、神秘学ディスクが冷たく、しかし確かな重みで存在を主張していた。

    (……下がってるだけなんて、できるかよ。)

    アドラーの眼差しは鋭く、眼前の異形を睨み続けていた。

    ——神秘生物。

    人間の理解を超えた、存在の在り方そのものが “理” から逸脱した怪物。

    姿形は刻一刻と変化し、まるで液体と個体の狭間を漂っているような、不定形の肉塊——

    数秒前まで“人の顔”をしていたものが、今では“目も口もない異形”になり、無数の触手をうねらせていた。

    (……あれは、まずい。)

    アドラーの脳裏を、一瞬で過去の知識が駆け巡った。

    「……ウルリッヒ、あれはただの神秘学生物じゃない。あいつ、物質同化して……」

    だが、言葉が最後まで続く前に——

    「問題ない。」

    ウルリッヒは、静かにそう言った。

    淡々と、あくまでも“当然のこと”であるかのように。

    アドラーの眉が、不安そうにわずかに寄る。

    ——てっきり、ウルリッヒは “神秘術” か “電流操作” で敵を無力化すると思っていた。

    いつものように、冷静かつ精密な戦法で異形を制御する。

    そう思っていた——

    (……なんで、あれを持ってる?)

    だが、ウルリッヒが構えたのは——

    “スーツケース型のレコードケース”だった。

    ……は?

    アドラーの思考が、一瞬″停止”した。

    「ウルリッヒ……?」

    ——そのケース内のレコードは、ウルリッヒがレグルスに承諾を得て借りてきたレコードの模造品が入ってるものだ。

    確かに“特殊加工”された金属製で、並の素材ではないが——

    (……まさか、それで攻撃する気か?)

    ——次の瞬間、アドラーは信じがたい光景を目の当たりにした。

    「——落ち着きたまえ。」

    ウルリッヒは低く囁いたかと思うと——

    「ロックンロールも悪くないと思わないか?」

    “バチンッ” と、スーツケースのロックが弾ける音がした。

    そして——

    「——ッ!!」

    ドゴッ!!

    次の瞬間、ウルリッヒの“レコードケース”が神秘学生物の頭部に直撃した。

    「……は?」

    アドラーの口が、ぽかんと開く。

    ウルリッヒは、何の躊躇もなくスーツケースを“フルスイング”した。

    ゴンッ! ガッ! ドスッ!

    神秘学生物の身体に無慈悲な音が次々と響き、レコードケースが鈍器として振り下ろされていた。

    「……おい、マジかよ。」

    アドラーの手から、今にも神秘学ディスクが落ちそうになるほどだった。

    「そんなのアリか?」

    ウルリッヒは一切表情を変えず、ただ理論的に殴り続けていた。

    「物理攻撃は、効かないはずじゃ——」

    アドラーの言葉を遮るように——

    ゴガァッ!!

    スーツケースが異形の頭部にめり込んだ瞬間、神秘学生物の身体が大きく揺らいだ。

    ——そして、ウルリッヒは “冷静に” 言った。

    「物理攻撃が効かないのは、ただの思い込みだ。」

    スーツケースの縁には、微細な電流が這わせてある。

    ウルリッヒは “それ” を通じて、ケースに内部から 電流を与えていたのだ。

    「……周波数を合わせれば、絶縁体でもない限り簡単に感電する。」

    再び、ゴッ!! と鈍い音が響く。

    神秘学生物身体は内部から感電し、明らかに動きが鈍っていた。

    「理屈は単純だよ。」

    ウルリッヒは、冷静に“もう一撃”を加えながら淡々と説明していた。

    「神秘生物といえど、構造は物質だ。共鳴周波数を計算し、″振動″で分解すれば——」

    ゴシャァッ!!

    ——神秘学生物の肉塊が崩壊した。

    アドラーの目の前で、無残にも散った。

    ……そして、ウルリッヒは涼しい顔でスーツケースを閉じた。

    「ふむ、ちょっとケースが歪んだな。」

    軽くケースを振って、内部の音を確認する仕草まで“いつものウルリッヒ”だった。

    「……まあ、修理すれば済むことだ。」

    ——静寂が訪れる。

    アドラーは、ただ呆然と立ち尽くしていた。

    (……なんだ、今の戦い方は。)

    あまりにも“想定外”すぎる光景に、アドラーの脳はまだ処理しきれていなかった。

    「……だから言っただろう?」

    ふと、ウルリッヒが振り返った。

    「キミは、下がっていればいい。」

    その言葉に、アドラーは“ようやく”口を開いた。

    「……いや、待てよ。」

    アドラーは眉をひそめ、驚きと戸惑いを滲ませながら、ぽつりと言った。

    「なんで……レコードケースなんだよ。」

    ——ウルリッヒは、あくまで“当然のこと”であるかのように答えた。

    「理由は単純だよ。」

    淡々とした声音だった。

    「手元にあったからだ。」

    アドラーは、しばらく無言でウルリッヒを見つめ——

    そして、心の中で叫んだ。

    (……やっぱり意識覚醒者は狂ってるわ!!)
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