風呂キャンアドラーオフィスに漂う、なんとも言えない異臭——。
ウルリッヒはデスクに座ったまま、ふっと眉を寄せた。磁性流体の本体が頭上でざわりと波打つ。
(……くさい)
義体の嗅覚装置を作動させたのが運の尽きだった。
鼻をつく強烈な匂いがオフィス全体に広がっている。酸味の混じった汗臭さに加え、寝起きのまま放置された衣服の湿気、さらには微かに油のような香りまで混じっている。
(……これはひどいな)
ウルリッヒは磁性流体をふわりと波立たせながら、ゆっくりと振り返った。
「……アドラー」
「んぁ?」
アドラー・ホフマンはデスクに肘をつきながら、だるそうに返事をした。
黒いロングコートの下に着ている白いタートルネックは、以前とは違い、妙にくたびれた感じになっている。髪はいつにも増してボサボサで、まるでカーバンクルでも頭に乗せてるかのようだ。寝ぐせというレベルを超えて、もはや「まともに洗っていない髪特有のベタつき」が見える。
ウルリッヒは顎に手を当て、慎重に言葉を選んだ。
「……キミ、最近お風呂に入ったかい?」
「は?」
アドラーは不機嫌そうに片眉を上げた。
「なんでそんなこと聞くんだよ。」
「いや……ボクの義体の嗅覚装置が、キミの匂いを”異常値”として記録してしまってね……」
「……お前、また余計なことを。」
アドラーは目を細めたが、それよりもウルリッヒの磁性流体が、まるで嫌そうにうねるのを見て、少しムッとした。
「別にいいだろ。俺は臭いとか気にしねぇんだよ。」
「キミは気にしなくても、ボクの嗅覚装置が悲鳴を上げているんだよ。」
ウルリッヒはため息をつくと、磁性流体を滑らかに動かしながら、手元の端末を操作した。そして、僅かに電気信号を送って、嗅覚装置をオフにする。
「……ふぅ、これで多少はマシだ。」
「おい、そんなにか?」
「そんなにだよ。」
ウルリッヒは淡々と言いながら、アドラーを上から下まで眺めた。
「キミ、この状態で平衡傘部門のトップとして働いているのかい?」
「うるせぇな」
アドラーは腕を組み、つまらなそうに目を細めた。
「風呂に入るのが面倒なんだよ。」
「面倒で済ませていいレベルではないな。」
「別に誰も困ってねぇだろ。」
「ボクが困ってるよ。」
ウルリッヒは即答した。
「それに、他の職員たちも困っていると思うけどね。昨日、ミルトン部長が『最近、部屋がなんか臭せぇんだが、空調が壊れたか?』と言っていたよ。」
「……」
「原因はキミだね。」
アドラーは顔をしかめた。
「……ちっ、そんなことまで聞こえてたのか。」
「ボクの耳はいいからね。」
ウルリッヒは満足そうに微笑んだ。しかし、それと同時に、ふっと表情を引き締める。
「ともかく、今日のキミは絶対に風呂に入ってもらうよ。」
「……はぁ?」
「決定事項だ。」
ウルリッヒは端末を操作し、ラプラスの設備管理システムにアクセスした。数秒後、ピコン、と軽い電子音が響く。
「よし、温泉のあるラボは開いているようだね。」
「……は?」
「キミが自発的に入る気がないのなら、強制的に温泉に行くことにするよ。」
「いやいや、待て待て待て!」
アドラーは慌てて立ち上がった。
「なんで温泉!? シャワーでいいだろ!」
「そんな生ぬるい方法で、キミの頑固な汚れと臭いが落ちるとは思えないね。」
ウルリッヒはにっこりと笑った。
「ラプラスの温泉は優秀だよ。硫黄成分が含まれていて、殺菌効果も抜群。つまり——」
「つまり?」
「キミみたいな風呂キャンの怠け者には、最高の解決策ということさ。」
磁性流体がまるで得意げにうねる。
アドラーは頭を抱えた。
「……お前、マジでめんどくせぇ。」
「そう言うなよ。キミの健康と、部門全体の環境のためだ。」
ウルリッヒはすでに温泉へ向かう準備を整え、端末をポケットに収めた。
「さあ、行こうか」
ウルリッヒは朗らかに微笑みながら、アドラーの腕を掴んだ。
「……おい、ちょっと待て。俺はまだ行くとは——」
アドラーが抵抗する間もなく、ウルリッヒの義体が滑らかに動いた。その細身の指が意外なほど力強く、ガッチリとアドラーの手首を捉える。
「離せって!」
「ダメだね。」
ウルリッヒの磁性流体が、まるで楽しそうに波打つ。
「いい加減観念しなよ、アドラー。ボクの義体の出力は、キミが思っているより高いんだ。」
その言葉を証明するかのように、義体の力でグイッと引っ張られ、アドラーは思わず体勢を崩した。
「うわっ……! お前、マジでやめ——」
「抵抗するだけ無駄だよ。」
ウルリッヒは軽々とアドラーを引きずるように歩き始める。そのまま研究棟の廊下へと足を踏み出した。
ズルズルと引きずられるアドラーは、苛立ったように足を踏ん張ろうとするが、ウルリッヒの義体の力には敵わない。
「クソ……俺はまだやることが――」
「”キミの臭いを何とかする”という緊急案件が最優先だよ。」
ウルリッヒは淡々と言い放ち、そのまま温泉施設のある区画へと進んでいく。
途中、何人かの同僚がすれ違った。
平衡傘部門の研究員たちが何事かと振り返るが、状況を察したのか、誰一人として助け舟を出さない。
「……お、お疲れ様です。」
事務員の青年がぎこちない笑顔を浮かべ、微妙に距離を取る。
「お疲れ。……なあ、助けろ。」
アドラーは最後の望みをかけて助けを求めるが、事務員は目を逸らし、そそくさと去っていった。
「……おい、聞こえなかったのか?」
「聞こえなかったんじゃないかね。」
「ウソつけ! 完全にシカトされたぞ!」
「ボクに逆らって助けるより、無視したほうが賢明だと思ったんだろうね。」
ウルリッヒは悪びれもせず言い放つ。
さらに数歩進むと、今度は別の研究員が通りがかった。
「……」
目が合った瞬間、研究員は無言で踵を返し、廊下の角へと消えていく。
「オイ!」
アドラーが叫ぶが、誰も彼を助けようとはしない。
「……なんで俺の立場なのに誰も助けねぇんだよ……」
「キミが風呂に入ることは、研究センターの利益に繋がるからだろうね。」
「クソが……」
アドラーは悔しそうに歯ぎしりする。
結局、最後まで誰一人として彼を助ける者はおらず、ウルリッヒに引きずられながら、温泉施設へと連行されていくのであった——。
§
温泉ラボの自動ドアが静かに開いた。
ウルリッヒは軽やかに中へと足を踏み入れ、振り返る。
「さあ、アドラー。ここまで来たらもう覚悟を決めたまえ。」
「クソが……!」
アドラーは忌々しげに吐き捨てたが、未だ腕を掴まれたままだ。
目の前には広々とした脱衣所。木製のロッカーが整然と並び、室内には心地よい檜の香りが漂っている。
しかし、そんな癒しの空間も、アドラーにとっては処刑場に等しかった。
「おい、もうここまで来たんだ。手ぇ離せよ。俺一人で脱ぐ。」
「それを信じるほど、ボクは甘くないよ。」
ウルリッヒはニヤリと笑い、磁性流体をフワリと波立たせる。
アドラーが眉をひそめた次の瞬間——
「ほら、さっさと脱ぎたまえ!」
「うおっ!? ちょ、やめっ……!」
ウルリッヒの手が素早く動き、アドラーのロングコートを一気に引き剥がした。
「お前、マジでやめろ!」
「キミのような引きこもり学者は、強制力がないといつまでも動かないからねぇ。ボクが手伝ってあげるよ。」
「ふざけんな! 俺の意思はどこにある!」
「そんなものは、キミの体臭と一緒に流れていく運命さ。」
アドラーが抵抗する間もなく、ウルリッヒはさらに容赦なくタートルネックの裾を引っ張った。
生地が伸び、アドラーの腹部が露出する。
「っ……クソッ、伸びる! お前、ちょっと加減しろ!」
「今さら何を言うんだい? もうキミの服は十分にボロボロなんだから。」
ウルリッヒはくすくすと笑いながら、タートルネックをさらに引っ張る。
「ぐおおおおおお!!!」
アドラーの叫びが響き渡る。
白い生地が無惨にも引き伸ばされ、首元がだらしなく広がる。
かつてフィットしていたタートルネックは、今やダルダルに垂れ下がり、鎖骨から肩、そして胸板までもが丸見えになっていた。
「おお、これはなかなか。」
「何が”おお”だ!? 俺の服返せ!」
「返せるものならね!」
ウルリッヒはタートルネックを勢いよく引き抜き、そのままロッカーの上にポイッと投げ捨てた。
「お前、本当にぶっ飛ばすぞ……」
「暴力はいけないよ、アドラー。さあ、次はパンツだ。」
「待て待て待て待て! 下はマジでダメだ!」
アドラーは慌てて腰を押さえ、後ずさる。
「何を恥ずかしがるんだい? もう長い付き合いだろう?」
「そういう問題じゃねぇんだよ!」
「キミが自分で脱がないなら、ボクが脱がせるしかないねぇ。」
ウルリッヒの磁性流体がふわりと蠢く。
「お、おい、マジでやめ——」
次の瞬間、脱衣所にはアドラーの断末魔の叫びが響き渡った。
温泉へ続く扉の向こうで、スタッフが苦笑いを浮かべながら、そっと「ごゆっくり」と掲示された看板を裏返すのだった。
脱衣所の床に転がったアドラーは、肩で息をしながら荒れ果てた様相を呈していた。
白いタートルネックは見る影もなく、もはや伸びきった布の残骸。黒いロングコートはすでに遠くへ放り投げられ、最終防衛ラインであるズボンとパンツも危うくなりかけていた。
「はぁ……はぁ……おま……お前……ッ」
アドラーは息も絶え絶えにウルリッヒを睨みつける。
「どうしたんだい? キミの体から漂っていた”人を寄せつけないオーラ”が、ようやく消えた気がするよ。」
ウルリッヒは磁性流体を楽しげに揺らしながら、涼しい顔で微笑んでいる。
「くそっ……貴様……!」
「さあ、観念したまえ。あとは温泉に入るだけだ。」
ウルリッヒは軽やかに立ち上がり、全裸のまま憤怒に震えるアドラーをひょいと見下ろした。
「お前のせいで……俺の服が……」
「服よりもまず、清潔な体を手に入れることが優先だよ、アドラー。」
「誰のせいでこうなったと思ってんだよ!?」
「キミが風呂に入らないから、ボクが手を貸してあげているんだろう?」
ウルリッヒは当たり前のように言い放つと、手を伸ばしてアドラーの腕を掴んだ。
「もう諦めて、さっぱりするんだ。」
「ふざけんな! 俺はまだ——」
ズルッ!
次の瞬間、ウルリッヒの義体の力によって、アドラーはずるずると引きずられながら浴場へと連行されることとなった。
§
浴場の扉が開くと、立ち込める湯気が二人を包み込んだ。ほのかに香る檜の香りが漂い、静かな湯の音が響いている。
アドラーは裸のままふらつきながら足を踏み入れ、肩を怒らせて不機嫌そうに息を吐いた。
「……ったく、ここまでされる筋合いはねぇんだがな……」
「ボクからしたら、キミがここまで風呂を拒否する方が驚きだけどね。」
ウルリッヒは腕を組み、磁性流体の顔をにこやかに歪めた。
彼の体はすでに義体むき出しの状態になっている。白いツナギと銀色の短い上着はきれいに畳んで脱衣籠に収められ、コルセット手袋もすでに外されていた。その姿は、まるで無機質な精密機械そのものだった。
金属の光沢を放つ義体の肌は、浴場の蒸気を浴びて鈍く光っている。
「さあ、まずは体を洗おうかり」
ウルリッヒは迷いなくアドラーの肩を掴み、洗い場へと誘導した。
「……俺、自分で洗えるんだけど。」
「いいや、ボクが洗う。」
「は?」
アドラーが怪訝そうに振り向いた瞬間、バシャッ!と容赦なく頭から湯をかけられた。
「ッぶあ!? てめぇ!?」
「ははっ、キミが自分でやるなんて信用できないからね。」
ウルリッヒは磁性流体の形をふわりと揺らしながら、楽しげにシャンプーボトルを手に取った。
アドラーの黒髪は長年の放置による頑固な絡まりがあり、湯を浴びただけではほぐれない。
「うわぁ……ひどい状態だね、これは……」
「ほっとけ!」
「いや、ほっとけるわけないだろう?」
ウルリッヒはため息をつき、手のひらにたっぷりとシャンプーを取り出した。
そして——ッゴシゴシ!
「いでででででッ!?」
「まったく、なんでキミの髪はこんなに絡まってるんだい? 本当に学者なのか?」
「頭脳と髪の状態は関係ねぇだろッ!!」
「いいや、大いに関係があるね。キミの乱雑な思考がそのまま髪に表れているようだよ。」
ウルリッヒはクスクスと笑いながら、泡立ったシャンプーを髪の隅々まで行き渡らせた。磁性流体が軽く揺れ、その楽しげな雰囲気がアドラーの苛立ちをさらに煽る。
「チッ……」
アドラーは悔しそうに歯ぎしりしながらも、されるがままになっている。
「ん? 観念したのかい?」
「……クソッ、もう好きにしろ。」
アドラーは諦めたようにため息をついた。
ウルリッヒは満足げに笑うと、さらに丁寧にシャンプーを泡立て、マッサージするように洗っていく。
「ほら、気持ちいいだろう?」
「……まぁ、悪くはねぇな。」
「ふふ、やっぱり。キミも素直になればいいのに。」
「うるせぇ」
そのまましばらくの間、ウルリッヒは楽しげにアドラーの髪を洗い続けた。
「うん、これで髪はさっぱりしたね。さて……次は体だ。」
「いや、もういいだろ。」
アドラーはうんざりとした顔でウルリッヒを睨みつけたが、ウルリッヒは磁性流体の表情をさらに楽しげに歪める。
「何を言ってるんだい? キミの身体は髪以上に汚れているよ。」
「別に死にはしねぇよ。」
「キミが不潔で死ぬかどうかは問題じゃない。ボクが許せないんだ。」
ウルリッヒの声色はひどく愉快そうだが、言葉には一切の妥協がない。
そして——
「さぁ、観念しなよ。」
ウルリッヒは迷いなく、泡立てたスポンジをアドラーの背中に押しつけた。
「んぐッ……ッつめてぇ!」
「もちろん、泡がたっぷりだからね。」
ウルリッヒは義体の指を器用に動かし、アドラーの背中をぐいぐいと擦り始めた。
アドラーは身をよじるが、ウルリッヒの義体は鋼のように強固で、逃れることはできない。
「おい、力加減ってもんを考えろ……ッ」
「考えてるよ、これでも優しくしてるつもりだけど?」
「優しくしてこれか!?」
アドラーが文句を言っても、ウルリッヒの手は止まらない。スポンジがアドラーの肩甲骨から腰にかけて円を描くように滑り、次第に泡が全身を覆っていく。
「ほら、腕もちゃんと洗って。」
「……チッ」
渋々、アドラーは自分で腕をこすり始めたが、それを見たウルリッヒは満足そうに頷いた。
「いいね、その調子だよ。」
「ガキの世話してるんじゃねぇんだぞ……」
「ボクから見たら、キミはまるで世話が必要な子どもみたいだけどね。」
アドラーは顔をしかめるが、ウルリッヒの磁性流体の顔は楽しげに揺れ続けている。
やがて背中を洗い終えると、ウルリッヒはスポンジを持ち替えた。
「さて、前もちゃんと洗おうか。」
「待て、それはさすがに俺が自分で――」
「嫌だね。」
「″嫌だ″じゃねぇよ!? ふざけんなウルリッヒ!」
必死で抵抗するアドラーだったが、鋼の義体に掴まれたら最後、力で敵うはずもない。
バシャッ!
またしても湯がアドラーにかけられ、彼の抗議の声は湯気に消えた。
ウルリッヒの義体が容赦なくアドラーの胸元にスポンジを押しつけ、泡を立てながら滑らせていく。
「ほら、こんなに汚れが落ちるよ。キミ、どれだけ風呂をサボってたんだい?」
「うるせぇ! やめろウルリッヒ!」
「嫌だって言われてもねぇ……」
ウルリッヒは磁性流体を楽しげに揺らしながら、アドラーの体をしっかりと洗い続けた。
結局、アドラーは最後まで逃れることができず、全身ピカピカになるまで洗われたのだった。
§
アドラーは浴場の隅にある湯船へと向かいながら、肩をぐるりと回した。全身を隅々まで洗われ、強制的に清潔にされた彼は、身体の軽さにわずかに驚いていた。
「……ちくしょう、すっきりしちまった……」
ブツブツと文句を言いながらも、彼は湯船に足を入れる。
ざぶん——
ほどよい熱さの湯が、ふくらはぎからじわりと肌を包み、心地よい感覚が広がる。アドラーは深くため息をつきながら、そのまま腰を沈めた。
「ほら、良い湯だろう?」
隣にはすでにウルリッヒが浸かっている。彼の義体は水を弾くように作られているため、湯に濡れた金属の肌はわずかに光を帯び、鏡のように反射していた。
「……認めたくねぇけど、まぁ悪くねぇ。」
アドラーは湯に肩まで浸かり、ぐったりと天井を見上げた。温泉の湯気がゆらゆらと立ち上り、周囲の景色をわずかに歪ませている。
「ははっ、やっと素直になったね。」
ウルリッヒの磁性流体が楽しげに揺れる。
「ま、どうせここまで来たんだ。もう少しのんびりしていこうじゃないか。」
「お前に引きずられてここまで来たんだけどな。」
アドラーは皮肉げに返したが、それすらも湯の温かさでどうでもよくなってきた。
しばらく二人は黙ったまま湯に浸かっていた。温泉の静寂は、心地よい水音と時折響く滴る湯の音だけを伴い、穏やかに時間が流れていく。
——と、その時。
「おや? 誰かいると思ったら、我らが平衡傘のツートップじゃないか。」
静寂を破ったのは、愉快そうな男の声だった。
アドラーが目を開けると、湯気の向こうから長身の男がこちらへと近づいてきていた。
「……ちっ、Xか、」
「もー、予算案でちょっと揉めただけでしょ?嫌いにならないで?」
Xは人懐っこく笑いながら湯船に入り、ゆったりとした動きで肩まで浸かる。
「まさかあのミスター・アドラーが温泉に入るとは思わなかったよ。ずっと風呂キャンしてるって噂だったし、メディスンポケットも色々うるさかったんだよね。」
「……ちっ、余計なことを…」
アドラーは舌打ちするが、Xは気にした様子もなく湯に身を沈めた。
「まぁ、いいじゃないか。たまにはこうしてゆっくりするのも悪くないだろう?」
「まったくだね。」
ウルリッヒがそう言うとXは愉快そうに相槌を打つ。
その後も数人の同僚が次々と温泉にやってきた。湯船の中では、研究の進捗や最近の出来事について他愛もない会話が交わされ、時折笑い声が響く。
アドラーは湯の中で腕を組みながら、それをぼんやりと聞いていた。
(……まぁ、たまにはこういうのも悪くねぇか)
そんなことを考えながら、彼は静かに目を閉じたのだった。