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    FuzzyTheory1625

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    FuzzyTheory1625

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    無理やり温泉に入れられるアドラー。n回目

    風呂キャンアドラーオフィスに漂う、なんとも言えない異臭——。

    ウルリッヒはデスクに座ったまま、ふっと眉を寄せた。磁性流体の本体が頭上でざわりと波打つ。

    (……くさい)

    義体の嗅覚装置を作動させたのが運の尽きだった。

    鼻をつく強烈な匂いがオフィス全体に広がっている。酸味の混じった汗臭さに加え、寝起きのまま放置された衣服の湿気、さらには微かに油のような香りまで混じっている。

    (……これはひどいな)

    ウルリッヒは磁性流体をふわりと波立たせながら、ゆっくりと振り返った。

    「……アドラー」
    「んぁ?」

    アドラー・ホフマンはデスクに肘をつきながら、だるそうに返事をした。

    黒いロングコートの下に着ている白いタートルネックは、以前とは違い、妙にくたびれた感じになっている。髪はいつにも増してボサボサで、まるでカーバンクルでも頭に乗せてるかのようだ。寝ぐせというレベルを超えて、もはや「まともに洗っていない髪特有のベタつき」が見える。

    ウルリッヒは顎に手を当て、慎重に言葉を選んだ。

    「……キミ、最近お風呂に入ったかい?」
    「は?」

    アドラーは不機嫌そうに片眉を上げた。

    「なんでそんなこと聞くんだよ。」
    「いや……ボクの義体の嗅覚装置が、キミの匂いを”異常値”として記録してしまってね……」
    「……お前、また余計なことを。」

    アドラーは目を細めたが、それよりもウルリッヒの磁性流体が、まるで嫌そうにうねるのを見て、少しムッとした。

    「別にいいだろ。俺は臭いとか気にしねぇんだよ。」
    「キミは気にしなくても、ボクの嗅覚装置が悲鳴を上げているんだよ。」

    ウルリッヒはため息をつくと、磁性流体を滑らかに動かしながら、手元の端末を操作した。そして、僅かに電気信号を送って、嗅覚装置をオフにする。

    「……ふぅ、これで多少はマシだ。」
    「おい、そんなにか?」
    「そんなにだよ。」

    ウルリッヒは淡々と言いながら、アドラーを上から下まで眺めた。

    「キミ、この状態で平衡傘部門のトップとして働いているのかい?」
    「うるせぇな」

    アドラーは腕を組み、つまらなそうに目を細めた。

    「風呂に入るのが面倒なんだよ。」
    「面倒で済ませていいレベルではないな。」
    「別に誰も困ってねぇだろ。」
    「ボクが困ってるよ。」

    ウルリッヒは即答した。

    「それに、他の職員たちも困っていると思うけどね。昨日、ミルトン部長が『最近、部屋がなんか臭せぇんだが、空調が壊れたか?』と言っていたよ。」
    「……」
    「原因はキミだね。」

    アドラーは顔をしかめた。

    「……ちっ、そんなことまで聞こえてたのか。」
    「ボクの耳はいいからね。」

    ウルリッヒは満足そうに微笑んだ。しかし、それと同時に、ふっと表情を引き締める。

    「ともかく、今日のキミは絶対に風呂に入ってもらうよ。」
    「……はぁ?」
    「決定事項だ。」

    ウルリッヒは端末を操作し、ラプラスの設備管理システムにアクセスした。数秒後、ピコン、と軽い電子音が響く。

    「よし、温泉のあるラボは開いているようだね。」
    「……は?」
    「キミが自発的に入る気がないのなら、強制的に温泉に行くことにするよ。」
    「いやいや、待て待て待て!」

    アドラーは慌てて立ち上がった。

    「なんで温泉!? シャワーでいいだろ!」
    「そんな生ぬるい方法で、キミの頑固な汚れと臭いが落ちるとは思えないね。」

    ウルリッヒはにっこりと笑った。

    「ラプラスの温泉は優秀だよ。硫黄成分が含まれていて、殺菌効果も抜群。つまり——」
    「つまり?」
    「キミみたいな風呂キャンの怠け者には、最高の解決策ということさ。」

    磁性流体がまるで得意げにうねる。

    アドラーは頭を抱えた。

    「……お前、マジでめんどくせぇ。」
    「そう言うなよ。キミの健康と、部門全体の環境のためだ。」

    ウルリッヒはすでに温泉へ向かう準備を整え、端末をポケットに収めた。

    「さあ、行こうか」

    ウルリッヒは朗らかに微笑みながら、アドラーの腕を掴んだ。

    「……おい、ちょっと待て。俺はまだ行くとは——」

    アドラーが抵抗する間もなく、ウルリッヒの義体が滑らかに動いた。その細身の指が意外なほど力強く、ガッチリとアドラーの手首を捉える。

    「離せって!」
    「ダメだね。」

    ウルリッヒの磁性流体が、まるで楽しそうに波打つ。

    「いい加減観念しなよ、アドラー。ボクの義体の出力は、キミが思っているより高いんだ。」

    その言葉を証明するかのように、義体の力でグイッと引っ張られ、アドラーは思わず体勢を崩した。

    「うわっ……! お前、マジでやめ——」
    「抵抗するだけ無駄だよ。」

    ウルリッヒは軽々とアドラーを引きずるように歩き始める。そのまま研究棟の廊下へと足を踏み出した。

    ズルズルと引きずられるアドラーは、苛立ったように足を踏ん張ろうとするが、ウルリッヒの義体の力には敵わない。

    「クソ……俺はまだやることが――」
    「”キミの臭いを何とかする”という緊急案件が最優先だよ。」

    ウルリッヒは淡々と言い放ち、そのまま温泉施設のある区画へと進んでいく。

    途中、何人かの同僚がすれ違った。

    平衡傘部門の研究員たちが何事かと振り返るが、状況を察したのか、誰一人として助け舟を出さない。

    「……お、お疲れ様です。」

    事務員の青年がぎこちない笑顔を浮かべ、微妙に距離を取る。

    「お疲れ。……なあ、助けろ。」

    アドラーは最後の望みをかけて助けを求めるが、事務員は目を逸らし、そそくさと去っていった。

    「……おい、聞こえなかったのか?」
    「聞こえなかったんじゃないかね。」
    「ウソつけ! 完全にシカトされたぞ!」
    「ボクに逆らって助けるより、無視したほうが賢明だと思ったんだろうね。」

    ウルリッヒは悪びれもせず言い放つ。

    さらに数歩進むと、今度は別の研究員が通りがかった。

    「……」

    目が合った瞬間、研究員は無言で踵を返し、廊下の角へと消えていく。

    「オイ!」

    アドラーが叫ぶが、誰も彼を助けようとはしない。

    「……なんで俺の立場なのに誰も助けねぇんだよ……」
    「キミが風呂に入ることは、研究センターの利益に繋がるからだろうね。」
    「クソが……」

    アドラーは悔しそうに歯ぎしりする。

    結局、最後まで誰一人として彼を助ける者はおらず、ウルリッヒに引きずられながら、温泉施設へと連行されていくのであった——。



    §



    温泉ラボの自動ドアが静かに開いた。

    ウルリッヒは軽やかに中へと足を踏み入れ、振り返る。

    「さあ、アドラー。ここまで来たらもう覚悟を決めたまえ。」
    「クソが……!」

    アドラーは忌々しげに吐き捨てたが、未だ腕を掴まれたままだ。

    目の前には広々とした脱衣所。木製のロッカーが整然と並び、室内には心地よい檜の香りが漂っている。

    しかし、そんな癒しの空間も、アドラーにとっては処刑場に等しかった。

    「おい、もうここまで来たんだ。手ぇ離せよ。俺一人で脱ぐ。」
    「それを信じるほど、ボクは甘くないよ。」

    ウルリッヒはニヤリと笑い、磁性流体をフワリと波立たせる。

    アドラーが眉をひそめた次の瞬間——

    「ほら、さっさと脱ぎたまえ!」
    「うおっ!? ちょ、やめっ……!」

    ウルリッヒの手が素早く動き、アドラーのロングコートを一気に引き剥がした。

    「お前、マジでやめろ!」
    「キミのような引きこもり学者は、強制力がないといつまでも動かないからねぇ。ボクが手伝ってあげるよ。」
    「ふざけんな! 俺の意思はどこにある!」
    「そんなものは、キミの体臭と一緒に流れていく運命さ。」

    アドラーが抵抗する間もなく、ウルリッヒはさらに容赦なくタートルネックの裾を引っ張った。

    生地が伸び、アドラーの腹部が露出する。

    「っ……クソッ、伸びる! お前、ちょっと加減しろ!」
    「今さら何を言うんだい? もうキミの服は十分にボロボロなんだから。」

    ウルリッヒはくすくすと笑いながら、タートルネックをさらに引っ張る。

    「ぐおおおおおお!!!」

    アドラーの叫びが響き渡る。

    白い生地が無惨にも引き伸ばされ、首元がだらしなく広がる。

    かつてフィットしていたタートルネックは、今やダルダルに垂れ下がり、鎖骨から肩、そして胸板までもが丸見えになっていた。

    「おお、これはなかなか。」
    「何が”おお”だ!? 俺の服返せ!」
    「返せるものならね!」

    ウルリッヒはタートルネックを勢いよく引き抜き、そのままロッカーの上にポイッと投げ捨てた。

    「お前、本当にぶっ飛ばすぞ……」
    「暴力はいけないよ、アドラー。さあ、次はパンツだ。」
    「待て待て待て待て! 下はマジでダメだ!」

    アドラーは慌てて腰を押さえ、後ずさる。

    「何を恥ずかしがるんだい? もう長い付き合いだろう?」
    「そういう問題じゃねぇんだよ!」
    「キミが自分で脱がないなら、ボクが脱がせるしかないねぇ。」

    ウルリッヒの磁性流体がふわりと蠢く。

    「お、おい、マジでやめ——」

    次の瞬間、脱衣所にはアドラーの断末魔の叫びが響き渡った。

    温泉へ続く扉の向こうで、スタッフが苦笑いを浮かべながら、そっと「ごゆっくり」と掲示された看板を裏返すのだった。

    脱衣所の床に転がったアドラーは、肩で息をしながら荒れ果てた様相を呈していた。

    白いタートルネックは見る影もなく、もはや伸びきった布の残骸。黒いロングコートはすでに遠くへ放り投げられ、最終防衛ラインであるズボンとパンツも危うくなりかけていた。

    「はぁ……はぁ……おま……お前……ッ」

    アドラーは息も絶え絶えにウルリッヒを睨みつける。

    「どうしたんだい? キミの体から漂っていた”人を寄せつけないオーラ”が、ようやく消えた気がするよ。」

    ウルリッヒは磁性流体を楽しげに揺らしながら、涼しい顔で微笑んでいる。

    「くそっ……貴様……!」
    「さあ、観念したまえ。あとは温泉に入るだけだ。」

    ウルリッヒは軽やかに立ち上がり、全裸のまま憤怒に震えるアドラーをひょいと見下ろした。

    「お前のせいで……俺の服が……」
    「服よりもまず、清潔な体を手に入れることが優先だよ、アドラー。」
    「誰のせいでこうなったと思ってんだよ!?」
    「キミが風呂に入らないから、ボクが手を貸してあげているんだろう?」

    ウルリッヒは当たり前のように言い放つと、手を伸ばしてアドラーの腕を掴んだ。

    「もう諦めて、さっぱりするんだ。」
    「ふざけんな! 俺はまだ——」

    ズルッ!

    次の瞬間、ウルリッヒの義体の力によって、アドラーはずるずると引きずられながら浴場へと連行されることとなった。




    §



    浴場の扉が開くと、立ち込める湯気が二人を包み込んだ。ほのかに香る檜の香りが漂い、静かな湯の音が響いている。

    アドラーは裸のままふらつきながら足を踏み入れ、肩を怒らせて不機嫌そうに息を吐いた。

    「……ったく、ここまでされる筋合いはねぇんだがな……」
    「ボクからしたら、キミがここまで風呂を拒否する方が驚きだけどね。」

    ウルリッヒは腕を組み、磁性流体の顔をにこやかに歪めた。

    彼の体はすでに義体むき出しの状態になっている。白いツナギと銀色の短い上着はきれいに畳んで脱衣籠に収められ、コルセット手袋もすでに外されていた。その姿は、まるで無機質な精密機械そのものだった。

    金属の光沢を放つ義体の肌は、浴場の蒸気を浴びて鈍く光っている。

    「さあ、まずは体を洗おうかり」

    ウルリッヒは迷いなくアドラーの肩を掴み、洗い場へと誘導した。

    「……俺、自分で洗えるんだけど。」
    「いいや、ボクが洗う。」
    「は?」

    アドラーが怪訝そうに振り向いた瞬間、バシャッ!と容赦なく頭から湯をかけられた。

    「ッぶあ!? てめぇ!?」
    「ははっ、キミが自分でやるなんて信用できないからね。」

    ウルリッヒは磁性流体の形をふわりと揺らしながら、楽しげにシャンプーボトルを手に取った。

    アドラーの黒髪は長年の放置による頑固な絡まりがあり、湯を浴びただけではほぐれない。

    「うわぁ……ひどい状態だね、これは……」
    「ほっとけ!」
    「いや、ほっとけるわけないだろう?」

    ウルリッヒはため息をつき、手のひらにたっぷりとシャンプーを取り出した。

    そして——ッゴシゴシ!

    「いでででででッ!?」
    「まったく、なんでキミの髪はこんなに絡まってるんだい? 本当に学者なのか?」
    「頭脳と髪の状態は関係ねぇだろッ!!」
    「いいや、大いに関係があるね。キミの乱雑な思考がそのまま髪に表れているようだよ。」

    ウルリッヒはクスクスと笑いながら、泡立ったシャンプーを髪の隅々まで行き渡らせた。磁性流体が軽く揺れ、その楽しげな雰囲気がアドラーの苛立ちをさらに煽る。

    「チッ……」

    アドラーは悔しそうに歯ぎしりしながらも、されるがままになっている。

    「ん? 観念したのかい?」
    「……クソッ、もう好きにしろ。」

    アドラーは諦めたようにため息をついた。

    ウルリッヒは満足げに笑うと、さらに丁寧にシャンプーを泡立て、マッサージするように洗っていく。

    「ほら、気持ちいいだろう?」
    「……まぁ、悪くはねぇな。」
    「ふふ、やっぱり。キミも素直になればいいのに。」
    「うるせぇ」

    そのまましばらくの間、ウルリッヒは楽しげにアドラーの髪を洗い続けた。

    「うん、これで髪はさっぱりしたね。さて……次は体だ。」
    「いや、もういいだろ。」

    アドラーはうんざりとした顔でウルリッヒを睨みつけたが、ウルリッヒは磁性流体の表情をさらに楽しげに歪める。

    「何を言ってるんだい? キミの身体は髪以上に汚れているよ。」
    「別に死にはしねぇよ。」
    「キミが不潔で死ぬかどうかは問題じゃない。ボクが許せないんだ。」

    ウルリッヒの声色はひどく愉快そうだが、言葉には一切の妥協がない。

    そして——

    「さぁ、観念しなよ。」

    ウルリッヒは迷いなく、泡立てたスポンジをアドラーの背中に押しつけた。

    「んぐッ……ッつめてぇ!」
    「もちろん、泡がたっぷりだからね。」

    ウルリッヒは義体の指を器用に動かし、アドラーの背中をぐいぐいと擦り始めた。

    アドラーは身をよじるが、ウルリッヒの義体は鋼のように強固で、逃れることはできない。

    「おい、力加減ってもんを考えろ……ッ」
    「考えてるよ、これでも優しくしてるつもりだけど?」
    「優しくしてこれか!?」

    アドラーが文句を言っても、ウルリッヒの手は止まらない。スポンジがアドラーの肩甲骨から腰にかけて円を描くように滑り、次第に泡が全身を覆っていく。

    「ほら、腕もちゃんと洗って。」
    「……チッ」

    渋々、アドラーは自分で腕をこすり始めたが、それを見たウルリッヒは満足そうに頷いた。

    「いいね、その調子だよ。」
    「ガキの世話してるんじゃねぇんだぞ……」
    「ボクから見たら、キミはまるで世話が必要な子どもみたいだけどね。」

    アドラーは顔をしかめるが、ウルリッヒの磁性流体の顔は楽しげに揺れ続けている。

    やがて背中を洗い終えると、ウルリッヒはスポンジを持ち替えた。

    「さて、前もちゃんと洗おうか。」
    「待て、それはさすがに俺が自分で――」
    「嫌だね。」
    「″嫌だ″じゃねぇよ!? ふざけんなウルリッヒ!」

    必死で抵抗するアドラーだったが、鋼の義体に掴まれたら最後、力で敵うはずもない。

    バシャッ!

    またしても湯がアドラーにかけられ、彼の抗議の声は湯気に消えた。

    ウルリッヒの義体が容赦なくアドラーの胸元にスポンジを押しつけ、泡を立てながら滑らせていく。

    「ほら、こんなに汚れが落ちるよ。キミ、どれだけ風呂をサボってたんだい?」
    「うるせぇ! やめろウルリッヒ!」
    「嫌だって言われてもねぇ……」

    ウルリッヒは磁性流体を楽しげに揺らしながら、アドラーの体をしっかりと洗い続けた。

    結局、アドラーは最後まで逃れることができず、全身ピカピカになるまで洗われたのだった。




    §



    アドラーは浴場の隅にある湯船へと向かいながら、肩をぐるりと回した。全身を隅々まで洗われ、強制的に清潔にされた彼は、身体の軽さにわずかに驚いていた。

    「……ちくしょう、すっきりしちまった……」

    ブツブツと文句を言いながらも、彼は湯船に足を入れる。

    ざぶん——

    ほどよい熱さの湯が、ふくらはぎからじわりと肌を包み、心地よい感覚が広がる。アドラーは深くため息をつきながら、そのまま腰を沈めた。

    「ほら、良い湯だろう?」

    隣にはすでにウルリッヒが浸かっている。彼の義体は水を弾くように作られているため、湯に濡れた金属の肌はわずかに光を帯び、鏡のように反射していた。

    「……認めたくねぇけど、まぁ悪くねぇ。」

    アドラーは湯に肩まで浸かり、ぐったりと天井を見上げた。温泉の湯気がゆらゆらと立ち上り、周囲の景色をわずかに歪ませている。

    「ははっ、やっと素直になったね。」

    ウルリッヒの磁性流体が楽しげに揺れる。

    「ま、どうせここまで来たんだ。もう少しのんびりしていこうじゃないか。」
    「お前に引きずられてここまで来たんだけどな。」

    アドラーは皮肉げに返したが、それすらも湯の温かさでどうでもよくなってきた。

    しばらく二人は黙ったまま湯に浸かっていた。温泉の静寂は、心地よい水音と時折響く滴る湯の音だけを伴い、穏やかに時間が流れていく。

    ——と、その時。

    「おや? 誰かいると思ったら、我らが平衡傘のツートップじゃないか。」

    静寂を破ったのは、愉快そうな男の声だった。

    アドラーが目を開けると、湯気の向こうから長身の男がこちらへと近づいてきていた。

    「……ちっ、Xか、」
    「もー、予算案でちょっと揉めただけでしょ?嫌いにならないで?」

    Xは人懐っこく笑いながら湯船に入り、ゆったりとした動きで肩まで浸かる。

    「まさかあのミスター・アドラーが温泉に入るとは思わなかったよ。ずっと風呂キャンしてるって噂だったし、メディスンポケットも色々うるさかったんだよね。」
    「……ちっ、余計なことを…」

    アドラーは舌打ちするが、Xは気にした様子もなく湯に身を沈めた。

    「まぁ、いいじゃないか。たまにはこうしてゆっくりするのも悪くないだろう?」
    「まったくだね。」

    ウルリッヒがそう言うとXは愉快そうに相槌を打つ。

    その後も数人の同僚が次々と温泉にやってきた。湯船の中では、研究の進捗や最近の出来事について他愛もない会話が交わされ、時折笑い声が響く。

    アドラーは湯の中で腕を組みながら、それをぼんやりと聞いていた。

    (……まぁ、たまにはこういうのも悪くねぇか)

    そんなことを考えながら、彼は静かに目を閉じたのだった。
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    Replies from the creator

    FuzzyTheory1625

    DOODLEpixivにある原語版のニュアンスや表現を一切拾わずに和訳した。
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24412915
    公平な情報格差を味わってください。
    シュガーレスコーヒーアドラー・ホフマンは薄暗いラボの隅で、黒いロングコートの襟を無造作に掴みながら、カップから立ち上る湯気をぼんやりと眺めていた。

    「……また、苦ぇのを淹れやがって……」

    そうぼやきつつも、手元のマグを離さないあたり、文句を言いつつも味自体は気に入っているのが見え見えだった。カップの縁に唇を寄せ、ひと口だけ含むと、独特の深みと酸味が舌に広がる。

    「はぁ……相変わらず、濃すぎるんだよ……」

    アドラーは眉をひそめたが、口元にはかすかに満足げな表情が浮かんでいた。

    「そんなにボクの淹れたコーヒーが気に入ったのかい? アドラー。」

    不意に、柔らかく響く声が背後から降ってきた。

    「チッ……いつの間に……」

    アドラーは視線だけで振り向き、そこには銀色の短いジャケットを羽織ったウルリッヒが立っていた。義体の細身のラインは無駄がなく、白いツナギが彼の身体にぴったりと張り付いている。だが、目を引くのはその頭上――形を絶えず変える磁性流体が、揺らめきながら感情を映し出していた。
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