誕生日「そろそろま~くんの誕生日なんだけど、どうしようかなぁ」
「プレゼント?」
「そう。ご飯とかはもう普段通りだし…りつがプレゼント~とか駄目?」
ま~くんの事を話せる人も限られてる…というか、そもそも話せる人が限られてるからナッちゃんに相談するしかない。
「あまり匂わせみたいなのは良くないと思うけど、普段使うものなら目に見えて、自分も嬉しくなるんじゃないかしら?
アタシも椚センセェにネクタイとか普段使ってくれそうなものプレゼントしたことあるわ」
「普段使いかぁ~…」
仕事終わりに一緒にお店を少し見て回ってくれたけど、何だかピンとくる物がない。
「時間だけ消耗させちゃったね」
「そう?アタシはウィンドウショッピングも楽しいから好きよ」
本心もあるんだろうけど相変わらず気遣いがうまいよなぁ。
自分には出来ないので、感心してしまうが…
「あ」
楽器店があり、立ち止まる。
そう言えば家のピアノ用のクリーナーがそろそろなくなるかも。
「自分用のだけどちょっと買ってきていい?」
「勿論よ」
店内で目当てのものを探していると、不意に目に入ったピックのコーナー。
ま~くん、ピックなら使うよね…でも一個数百円のものをプレゼントってのもどうなんだろう。
「凛月ちゃん?」
「あ、ごめん。ちょっと気になって」
「……凛月ちゃん器用だし作れないかしらね?」
「ピック?」
「ええ」
なるほど。世界に一つだけのお手製ピック…有りかも…
見本に何種類か買ってみよう。
お店を後にして、自分用のクリーナーとピックの入った袋を見ると満足感がすごい。
バレずに作らないとなぁ。
「付き合ってくれてありがと~」
「いいえ、またゆっくりカフェに行ったりもしましょうね」
家に帰ってからは自作の仕方を調べて、プラスチックの土台になる板とヤスリ、転写シート、ラッピング用品を通販で購入した。
届くのが楽しみだ。
「何かいい事あった?」
「え?」
ま~くんが帰ってきて一緒に晩御飯を食べていたら、急に言われた。
今日の献立は、ま~くんが前に地方でしか買えないのを貰えた、と喜んでた袋麺のラーメンを作っただけだけだし、勿論具は足してるけど…直前までいつも通りその日の話とかしてたのに…
鈍感だけど、たまに的を得たことを言うんだよなぁ。
「今日、ナッちゃんと買い物行ったからかも」
「ふ~ん?何買ったんだ?」
「得に…ウィンドウショッピングを楽しんだ感じ」
「お前が?」
「どういうこと?」
その通りではあるけど、ま~くんから言われるとちょっとムカつくな。
「あとこの煮卵とチャーシューの加減がめちゃくちゃ良いし」
「それ関係ある?いつもりつのご飯は美味しいでしょ?あ、チャーシューまだあるよ」
「追加しよ」
圧力鍋買って正解だったなぁ。
料理の幅も広がるし…ま~くんはガッツリ系が好きだからお肉とか煮込む系の物に重宝している。
ラーメンになると少し熱くなるよね…話が逸れたし、良しとしよう。
美味しく食べてくれるのも嬉しいし。
「片付けは俺やるよ」
「わぁい」
「よし、作ろう」
数日後、届いた材料を元に意気込む。
プラスチックの板を買ったピックにあわせて切って、ヤスリで整える。
簡単な事だけど、料理もだし手作りってやっぱり楽しい。
消耗品だから何個か作ろう。
しかし何を印刷しようかなぁ。
勝手にま~くんのパソコンを起動させて悩む。
ま~くんとりつの名前を入れたいけど、家でしか使えなくなるよね…
ま~くんの名前と誕生日が妥当かな?
でも何か、何かりつっぽいもの……
「あ」
「誕生日おめでとう~」
四月十六日、〇時ちょうどにベッドの上でぎゅっとして伝える。
相変わらず慣れずに照れるのがかわいいよねぇ。
照れつつも腕を回してくれるので、そのまま触れるだけのキスをする。
「さんきゅ、張り切って起きてるから何事かと…」
「だって今日はりつのこと放ってメンバーとお祝いするんでしょ?折角ケーキもあるのに」
「放ってって…人聞き悪い…帰ってからケーキ食わせてくれって言ってんだろ」
「まぁ良いけど。一番にお祝い出来たし」
一度、ま~くんから離れて隠していたプレゼントを取りに行って、再度ベッドに戻って差し出す。
「はい、プレゼント」
「え?ありがとな。開けていいか?」
「うん」
「ピック…?でもこれ…」
「ね、これりつの手作り。どう?すごい?」
「は?手作り!?作れんの!?」
びっくりしてくれたから成功かな。
関心したように「へ~」と言いながらまじまじと見ている。
かなりきれいに整えたから、市販品と遜色ないと自負してるけど。
「俺の名前と誕生日は分かるけど間のこれは?」
「太陽と月、ま~くんとりつみたいじゃない?」
「……」
考えた末、三段に分けてま~くんの名前、太陽と月のマーク、誕生日を入れた。
誰も匂わせとは思わないだろう。
じっと見つめてる緑の瞳は何を思ってるのか、りつには分からない。
「嬉しくない?」
「…いや、逆。勿体なくて使えねぇよ」
「でも何個か作って入れてるじゃん」
「でも一個ずつ作ってくれたって思うとなぁ…。でも使わないのも失礼か…一つは穴あけて良ければキーホルダーにして良いか?」
「え!してして!色んな人に見せびらかして!」
「見せびらかしはしないけども…普段使う物につけときたいなとは思ってる」
まだ材料あるから作れると伝えたら、大事に使うと笑って言ってくれた。
誰かにこうしてプレゼント渡すなんて、今までの自分ならあり得ないし、喜んでくれる事が嬉しくて仕方がない。
もうりつの人生はま~くん中心に回ってるんだから、責任取って貰わないと。
「えっと…これからもよろしくな…?」
「末永くね」
ま~くんから唇を重ねてきて、押し倒される。
スマホのバイブ音がするから、お祝いのメッセージが来てるんじゃないかと思うけど、聞こえないフリをしてパジャマのボタンに手をかけられた。