大晶。後天性にょた。リハーサル室で4人それぞれが個々の練習をしている。練習してはスマホを見てまだここにいない晶からの連絡が未だ入ってこない黒曜はイラつき始めている。
スターレスは比較的設備が良くない。なので誰かが走ってくる音はこのリハーサル室にも例外なく響く。やっと来たか、と全員がドアの方を見る。黒曜が怒鳴ろうとするがその声は途中で消えた。
「おまたせー。ん?何その顔。」
扉から入ってきたのは筋肉質な、俺らが待っていた男ではない。俺よりやや背が低く、声だって高い。本来男にはないはずなのに胸が大きな膨らみをしていた。
水色の髪の女はキョトンとした顔でメンバーたちの顔を一人一人覗く。
「えっと、きみは.......」
突然の女に驚きつつも鷹見がやっと声を出す。
「はぁぁ。ここは客立ち入り禁止だ。ったくどっから入ってきた?」
黒曜もすっかり客への態度に変わる。まぁ兄の話通りだと前の店でも裏に客が入り込むことが時々あったらしいので慣れているのだろう。
「ちょちょちょ!まって!オレ!晶だって!!女の子になっちゃったけど!!」
性別が一夜にして逆転するなど非現実的な話である。それだったら髪型、服装等を晶に寄せている晶の客、という判断が妥当である。
晶と名乗る女は妙に余った袖を揺らす。よく見るとそのロングワンピのようにきこなしていたパーカーはこの前晶が「この服よくね?」と自慢してきたパーカーそっくりである。靴もよく見るとサイズがあきらかに違うことが分かる。そしてやはりその靴も見覚えのあるものである。
信じられない、嘘かもしれない。けれどこの女が晶の可能性が微かにあるのも事実なのだ。
「.......証明できるもんってありませんか?」
「は?おい大牙、まさかこいつの言ってること信じてんのか、」
黒曜が眉間に皺を寄せ怒鳴る。黒曜に怒鳴られるのは昔からものすごく怖い。スターレスで怒鳴られる回数が増えて慣れつつあってもそれは変わらない。
黒曜の圧から逃げるように目線を横にずらす。ちらりと見えた女はその勿忘草のような瞳を輝かせた。
「歌。ボイトレルームに来て。それで証明する、」