「さて。参加者の皆、準備はよろしいかな?」
しかつめ顔でいかにも重要な作戦を始めるかのような雰囲気のコノエに対して、トラインは不安げな声を上げた。
「ほんとうにこんなことして大丈夫なんでしょうか?」
「おや、アーサーは私が信用出来ない?」
「いえいえいえ! とんでもないですっ。ほんとうに私たちから受け取ってもらえるのでしょうか……」
コノエが信用出来ないのではなく、どちらかと言うとターゲットに懸念がある。そんなトラインの心配を払拭するかのように、コノエは朗らかに告げる。
「なに、心配はいらないよ。本日に限り贈り主の手書きでの名前入の駄菓子を渡されたら拒否せず必ず受け取ること。と言い渡してあるからね。万が一に備えて受け取らざるを得ないよう保険もかけてあるから安心して行ってきなさい」
「はぁ」
「では、ミッション開始だ」
「ぶわはははははっ!」
「チャンドラ中尉、出会い頭にそれはあまりに失礼では?」
渡した当事者ゆえに分かっていたことなのに、それを直に見たチャンドラは我慢出来なかった。
「いや、だって、ヒィ、ぶはッ」
「おい、笑うなよ、くっ……んん、よくお似合いですよ。ハインライン大尉」
「ありがとうございます。私に似合わないものなどありませんので当然です」
ノイマンに注意されるも、ノイマンだって笑いを堪えているだけで堪えきれていないし、お似合いですよの言葉に返された内容もチャンドラの腹筋から呼吸まで攻撃してくる。
「ヒィーーッゲホッ、待ってそれ冗談? 本気なんです?」
「さあ、どちらでしょうね」
「結構入ってますね」
チャンドラとハインラインがやり取りしている横で、ノイマンがハインラインが身につけている袋を覗き込む。チラと見えた袋の中に、シンやルナマリア、アグネスの名前が見えた。トラインの名前のものもあったから、コノエの言いつけを守ってきちんと受け取っているようだ。
「フン、みな暇を持て余しているようで」
「そんなこと言っちゃって〜。まんざらでもないんじゃないですか。俺も仲間に入れてもらいますね」
「また重くなる」
「こんなん大した重さにならんでしょうが。ちゃんと俺のお気に入りを入れておきますからね。また後で感想聞かせてください。おめでとうございます」
「あなたは面白いものをよく知っているからな。その挑戦受けて立とう。ありがとうございます」
「俺からはこれです。チャンドラみたいに面白いものではないけど、小さいころによく食べていたので。おめでとうございます」
「あなたの思い出の菓子をいただけるとは光栄ですね。ありがとうございます」
ノイマンからのものは、コノエから拒否しないよう言い渡されているからではなく受け取ってもらえるとは思っていたが、実際に嬉しそうに受け取って貰えるとこちらも嬉しくなる。
「あっ、ノイマン、あれも渡さないと!」
「そうだった。ハインライン大尉、こちらをどうぞ」
ノイマンがミッションの達成の安堵で気が抜けて、もう一つの目的を忘れていたのをチャンドラが思い出させてくれる。
これもまだ継続されるミッションのために必須のため渡さないといけないものである。
「……これは?」
「追加の袋です」
ノイマンとチャンドラが作って事前に渡していた、ハインラインが今現在身につけている袋とまったく同じもの。
黄色い、ハロの形をした肩掛けの袋。
「袋なのは見たらわかる。そうではなく、なぜこれを渡すのかを聞いている。見ての通り私は既にあなたたちが作った袋をこのように身につけていて、まだ中は満杯ではない。なぜそれが必要になると?」
ハインラインの疑問はもっともだが、これは話すと長くなる。とはいえ、話さなければハインラインは納得しないだろうし、納得してもらって袋を持ってもらわないと困るのだ。
「それがですね~。コノエ大佐から回ってきたこのミッション、こちら側からは俺たちだけ参加する予定だったんです」
「その予定だったんですけど、チャンドラと駄菓子の話をしていたときにフラガ大佐が入ってきて、面白そうだから自分も参加すると言い始めて」
ミッションと言ってはいるが、ようはハインラインをお祝いするための口実なので、機密事項でもないし守秘義務もない。
「それでそのままラミアス大佐に話が流れて、そこから更にたまたま居合わせた代表に話が流れて」
「それでカガリちゃんも面白そうだからタイミングが合えば自分も参加するからキラもどうだとキラに話が行って」
「そんでキラがラクスさんに話してそれはぜひ参加したいからよろしくお願いいたしますわと参加表明されていまここ」
「はぁ……は?」
「贈り主の名前入の駄菓子は拒否されないって事前に知らされてるから、普段はとりつく島もないハインライン大尉に話かけるチャンスだってみんな息巻いてたな」
「なんか想定以上に話が広がっちゃったんだよな。だから俺たちは前哨戦みたいなもんなんで。ということで、このハロ袋を追加でお持ちくださ〜い!」
まさに伝言ゲームのように話が広まり、ただし伝言ゲームのように最後に違う話になったりはせず、正しくそのまま広がっていった。
なんでもアスランはキラとカガリそれぞれから話を聞いたらしく、そのアスランから話を聞いたメイリンも知っているとかいないとか。
「暇なのか?」
「暇ってわけではないけど、暇を作るくらいには、あなたにおめでとうを言いたいってことですよ」
「物好きな」
「まあまあ、うちの後輩ちゃんたちもなんか参加するようなこと言ってたんで付き合ってあげてくださいよ」
「仕方ない。あなたたちからいただいたこの袋を使わないのも失礼ですからね。この袋に免じてそのミッションとやらに付き合いましょう」