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    ohmi_ri

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    ここは、しぶにまとめるまでの仮置き場につくりました

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    ohmi_ri

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    お題「僕の番だね」(本丸)

    #くわまつ
    mulberryPlantation

    ゼロ 沼の底から引き上げられるように意識が急浮上して目を覚ますと、脇腹のあたりに寄り添うように、戦闘装束のままの松井が身を縮めて眠っていた。
     何時間意識を失っていたのだろう。肩口からざっくりと袈裟懸けに斬られた傷口は、もうほとんど塞がって血も止まっていた。
     松井の居る側と逆の手をそっと動かして、手のひらをぐっ、ぱっ、と握ったり開いたりしてみる。冷たく感覚を失っていた指も思い通りに動く。手入れは終わりかけているようだ。
     先の出陣では、松井も軽傷だったはず。松井の傷を確認しようと思い至ったとき、丸まっていた緑のコートがもぞもぞと動いて、松井が上体を起こした。
     こちらをそっと伺う気配。次に、僕の呼吸を確かめるように、顔の前に手がかざされる。その手を取って、手のひらに口付けた。驚いてびくりと身体を弾ませたあと、松井はほう、と息を吐いて、「…起きていたのか」と小さな声で言った。
    「すまない、僕が起こしてしまった?」
     いつもは艶やかで真っ直ぐな松井の黒髪がごわごわと乱れているのを、指で梳きながら答える。
    「…自分の手入れしないなら、せめて部屋に戻ってなよ。って言っても、聞かないんだろうねぇ」
     僕が中傷以上の傷を負うと、松井は決まってこうやって手入れ部屋に忍び込んで、触れるか触れないかの位置でそっと丸くなっている。
     顕現したばかりの頃は、手入れさえすれば時間はかかっても全て元通りになるのだということに半信半疑で、どんなに大丈夫だと言っても聞き入れずに強引についてきたのだけれど、今は、手入れという機能が信じられないという訳ではないらしい。
    「どんなに酷く損なわれても、ちゃんと戻るって、もう解ってるんでしょ?」
    「…それはそう、だけれど」
     小さく絞られた薄暗い灯りの下で、松井の晴れた海の青のような瞳は夜の色をしていた。
    「でも、いつかは折れることだって、定めだろう? 僕達は、刀で、モノなのだから」
     そんなことはないよ、と返しかけて、では僕達は永遠に在り続けるのだろうか、と考える。確かに、それは人にもモノにも出来ないことだ。付喪神たる僕達は、今はヒトでもモノでもないのだろうけれど、神にだって最期は訪れるかもしれない。
    「もし万一のことがあったとして、僕がここに居たって何もできないってことは解っているんだ。でも、僕達にも終わりがあるのならば、そのときは一緒にいたい」
     松井は笑うでも泣くでもない、ただただ切実な表情のまま、僕の手を壊れ物のようにそうっと握った。
    「だってもう、桑名がいないと上手く息ができないんだ」
     僕は身体を起こして、松井の、黒に見える目を真っ直ぐに見て言った。
    「折れないよ。約束する」
     松井は静かに首を横に振った。
    「約束、しないで」
    「どうして?」
    「信じきってしまうから…」
     松井は哀しげに眉を下げて微笑んで、繋がれた手と反対の手で、僕の目にかかる前髪をよけた。
    「約束しなくていい、名前を呼んでくれ」
     泥濘に足を取られるように、何かに縛られたまま、それでも真摯に不器用に生きる松井を、僕は美しいと思った。
    「松井」
    「うん」
    「松井…」
    「…うん……」
     抱きしめる腕があって、抱き合える温かい身体があって、良かったと思う。でも、熱して溶けて一つになってしまえる身体でないことが不自由だとも思う。
     松井が僕の胸に走る傷に白い指を滑らせる。ぱっくりと肉を見せていたそこは、もう新しい皮膚に覆われて、一筋の線になっていた。松井は何度もそこを指でなぞった。その度に、飛行機雲が風に散らされて消えるように傷が薄くなってゆく。そして、最後には、すうっと見えなくなった。
     そのとき、部屋に満ちていた張り詰めた霊力の気配がふつりと緩んで、天井に、薄闇に慣れた目には眩しく感じるほどの明かりが点灯した。手入れが終わったのだ。
     うーん、と思いっきり伸びをする。
    「うん、全快」
     僕は松井に向かってにっこりと笑った。
    「じゃあ、僕の番だね」
     松井が首を傾げる。
    「松井の手入れの間。松井が居てくれたみたいに、僕もここに居るよ」
    「いいよ、僕は。軽傷なんだし」
    「そうだねぇ、だから、二振りきりでいられるのは、ほんの数時間のことだよ。ねぇ、どうして欲しい?」
    「…じゃあ、隣に居て、手を繋いでいて」
    「わかった」
     僕は、一度部屋を出ると、使用済みの札を、新しい手入れ札と掛け替えた。
     部屋の明かりが再び絞られて、小さな灯火になる。
     僕は横たわる松井の隣に座って、その手を握った。松井がうっすらと微笑んで、目蓋を閉じる。深い呼吸の微かな音。僕はその薄い目蓋に唇を落として、次に松井が目を開けたときに見られるはずの、晴れた空を映す南の海の色のことを想った。
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    ohmi_ri

    DONEくわまつ年下攻めアンソロに載せていただいた、地蔵盆で幼い頃に出逢っていたくわまつのお話です。
    くわまつドロライお題「夏の思い出」で書いたものの続きを加筆してアンソロに寄稿したのですが、ドロライで書いたところまでを置いておきます。
    完全版は、春コミから一年経ったら続きも含めてどこかにまとめたいと思います。
    夏の幻 毎年、夏休みの終わりになると思い出す記憶がある。夢の中で行った夏祭りのことだ。僕はそこで、ひとりの少年に出逢って、恋をした。
     
     小学校に上がったばかりのある夏、僕は京都の親戚の家にしばらく滞在していた。母が入院することになって、母の妹である叔母に預けられたのだ。
     夏休みももう終わるところで、明日には父が迎えに来て東京の家に帰るという日、叔母が「お祭りに連れて行ってあげる」と言った。
    「適当に帰ってきてね」と言う叔母に手を引かれて行った小さな公園は、子供達でいっぱいだった。屋台、というには今思えば拙い、ヨーヨー釣りのビニールプールや、賞品つきの輪投げや紐のついたくじ、ソースを塗ったおせんべいなんかが、テントの下にずらりと並んでいて、子供達はみんな、きらきら光るガラスのおはじきをテントの下の大人に渡しては、思い思いの戦利品を手にいれていた。
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    ohmi_ri

    DONEくわまつ個人誌『青春』に入ってる「チョコレイト・ディスコ」の翌日の理学部くわまつです。
    あわよくば理学部くわまつまとめ2冊目が出るときにはまたR18加筆書き下ろしにして収録したいな〜という気持ち。
    タイトルはチョコレイト・ディスコと同じくp◯rfumeです。
    スパイス バレンタインデーの翌日、松井が目を覚ましたのは昼近くになってからで、同じ布団に寝ていたはずの桑名の姿は、既に隣になかった。今日は平日だけれど、大学は後期試験が終わって春休みに入ったところなので、もう授業はない。松井が寝坊している間に桑名が起きて活動しているのはいつものことなので──とくに散々泣かされた翌日は──とりあえず起き上がって服を着替える。歯磨きをするために洗面所に立ったけれど、桑名の姿は台所にも見当たらなかった。今更そんなことで不安に駆られるほどの関係でもないので、買い物にでも出たのかな、と、鏡の前で身支度を整えながら、ぼんやりと昨日のことを思い出す。
     そうだ、昨日僕が買ってきたチョコ、まだ残りを机の上に置いたままだった。中身がガナッシュクリームのやつだから、冷蔵庫に入れたほうが良いのかな? 二月なら、室温でも大丈夫だろうか。まあ、僕はエアコンを付けていなくても、いつもすぐに暑くなってしまうのだけれど…。そこまでつらつらと考えて、一人で赤面したところで、がちゃりと玄関のドアが開いて、コートを羽織った桑名が現れた。
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    related works

    ohmi_ri

    DONEくわまつドロライお題「ハネムーン」で書いた理学部くわまつです。タイトルはチャッ◯モンチーです。
    コンビニエンスハネムーン 梅雨もまだ明けないのに、一週間続いた雨が止んでやっと晴れたと思った途端に猛暑になった。
     また夏が来るなぁ、と、松井は桑名の古い和室アパートの畳に頬をつけてぺたりと寝転がったまま思う。
     網戸にした窓の外、アパートの裏の川から来る夜風と、目の前のレトロな扇風機からの送風で、エアコンのないこの部屋でも、今はそこまで過ごし難い程ではない。地獄の釜の底、と呼ばれるこの街で、日中はさすがに蒸し風呂のようになってしまうのだけれど。
    「松井、僕コンビニにコピーしに行くけど、何か欲しいものある?」
     卓袱台の上でせっせとノートの清書をしていた桑名が、エコバッグ代わりのショップバッグにキャンパスノートを突っ込みながらこちらに向かって尋ねる。ちなみにその黒いナイロンのショッパーは、コンビニやらスーパーに行くときに、いつ貰ったのかもわからないくしゃくしゃのレジ袋を提げている桑名を見かねて松井が提供したものだ。松井がよく着ている、かつ、桑名本人は絶対に身につけそうもない綺麗めブランドのショッパーが、ちょっとしたマーキングのつもりだということに、桑名は気付いているのかどうか。
    2008

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    nekoruru_haya

    DONE現パロ、ナチュラルに同棲。細かい事は気にしない方へ。
    ちょっとだけ血が出ます。
    「僕に洗わせてくれないかな!」

     真っ新な碧空みたいにキラキラした目でそう言われたら、断る事なんて出来ないよねえ。



     事の発端は僕が右手に包帯をして帰ってきたところから。まあ、手のひらをざっくり切ってしまっただけなんだけれど。それを見た松井が何故か喜々として「お風呂はどうするんだい?」って訊くから、どうしようねえ、なんて悠長に返事をしてしまった訳だ。身体はともかく、頭を洗うのは片手では不便かもと一瞬でも浮かんでしまった自分を呪う。
     その結果が冒頭の一言。
     そして今、僕は非道い目に遭っていた。

     先ずは冷水を頭から被せられた。初夏の気候とは言え冷たいには違いない。松井が温度の調節をする間中、冷水と熱湯を交互に掛けられてある意味健康になれそう。そう言う意味では健康だから必要ないんだけれども。
     漸く頭を濡らし終わっていざシャンプーな訳だけど、ここでも一悶着。
    「待って、松井。それ松井のシャンプーでしょ」
    「そうだけど」
    「僕ので洗ってよ」
    「もう手に出してしまったし、これ髪がサラサラになって」
     松井の髪ならサラサラになっても構わないし、むしろその方が良いんだけれど、僕の髪が 1626