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    ohmi_ri

    本拠地はpixivです
    https://www.pixiv.net/users/6398269

    ここは、しぶにまとめるまでの仮置き場につくりました

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    ohmi_ri

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    斉藤◯義の「ベリーベリーストロング」で書いてる、院生のくわな×ブラック企業勤めのまついの、くわまつ初夜までの進捗です。
    R18になる手前まで。
    完結したらpixivのほうにまとめて上げます。

    #くわまつ
    mulberryPlantation

    ベリーベリーストロング「……なんで僕がこんな目に…」
     駅前商店街のアーケードの入り口あたりに立った僕は最早今日何度目かもわからない溜息をついて、左手の腕時計をちらりと見た。時刻は17時を過ぎたところだった。普通ならば、いわゆる定時というやつだ。今の僕には当てはまらないけれど。
     僕の右手のバインダーにはアンケート用紙の束が挟まれている。街頭アンケート・ノルマ達成するまで帰れません、だなんて、TV番組の企画じゃないんだから。
     修士卒の新卒で就職したこの会社がどうやらまあまあなブラック企業らしい、ということには薄々気付いていた。新任研修という名のもとに、先週はテレアポ100件、今日はこの街頭アンケートだ。いくら顧客ニーズをより深く知っておくべきだとは言え、営業でもない、プログラマーとして入社した新入社員にやらせることか? いや、自社製品については、それなりに良いものを作っているとは、思っているのだけれど。

     そもそも今日は朝からついてないような気がしていたのだ。7時の占いは最下位だったし、通勤電車は遅延していたし、やっとで出社したら、さほど難しそうでもない案件で、指導係の先輩が見るからにピリピリしていた。昼休みに社食で「お前には関係ないのにイラついていて悪かった」とちくわ天うどんを奢ってくれながら(悪い人ではないのだ)その先輩が語ったところによると、彼の社畜ぶりに嫌気が差した配偶者に出て行かれたらしい。彼の同居人は、「貴方が好き好んで泥舟にしがみついているのは勝手ですけど、僕がそれに付き合う義理はありませんから」としゃらっと言い放って、先週から二人で暮らすマンションに帰らないのだそうだ。
    「先月からのプロジェクトの納期がタイトで、ひと月ほどろくに顔も合わせていなかったからな」
    と、苦虫を噛み潰すような顔でカレーを食べている先輩に、自分の行く先を思ってゾッとしながら「手厳しい奥様ですね」と漏らすと、「奥様じゃなくてパートナーだけどな」と律儀に訂正してから、
    「まあ、あいつはおおかた俺のことも泥舟だと思っているんだろう」
    と苦笑された。
     僕は明日は我が身と天を仰ぎたい気持ちになった。現状、同棲相手どころか、恋人がいる訳ですらないけれど。
     
     まるで進まないアンケート調査を手に、ヤケクソのように手当たり次第通行人に声を掛ける。もちろん、犯罪者を見るような目で睨まれて無視される。もしくは、地面に落ちている汚物を見つけたかのように大袈裟に迂回される。このご時世に、そんな簡単に道端で個人情報が手に入る訳がないんだよなあ。時代錯誤もいいところだ。
     そのまま一時間ほど、ロボットか自動音声案内装置にでもなった気持ちで街頭アンケートを続けた。なるほど、心を殺すとはこういうことかな、とつくづく身に染みて理解できたあたりで、正面から歩いてくるビッグシルエットの白いパーカーを着た長身の青年が目に入った。
     もさもさした前髪が目に被さっていて表情がよく見えないけれど、僕を見ても露骨に嫌な顔をしたりしなかったことはわかった。彼に視線が吸い寄せられたのは、彼の足取りが、せかせかしたビジネスマンの早足でもなく、仕事帰りの勤め人の重く引きずるようなものでもなく、かと言って目的もなくフラフラしているふうでもない、飄々として機嫌の良さそうなリズムだったからだ。珍しいな、と思った。機嫌の良さそうな人間を見るのが珍しいとは、我ながら終わってるな、とも思うけれど。
    「あの」
     思わず反射的に声を掛けていた。
    「はい?」
     のんびりとした穏やかな声が返ってくる。自分でも意外なほどにほっとした。数時間ぶりの、人に疎まれずに会話が成立しそうな有り難みを噛み締める。
    「アンケートにご協力をお願いできませんか」
     今日何百回と口にした台詞が、考える前にするりと口から出たけれど、彼なら協力してくれるだろうという打算よりもむしろ、何とかして彼を引き留めて、このまま少しでも話をしていたかった。
     彼は口元をにっと引き上げて、「いいですよぉ」と答えた。
     バインダーに挟んだ用紙の上に、躊躇いなくすらすらとボールペンを走らせながら、「立ちっぱなしのお仕事は大変だよねぇ」と僕に笑いかける。
     僕は、急に人間らしい輪郭を取り戻したような気分になった。
     同時に、まるでナンパみたいに声をかけた自分が妙に恥ずかしくなって、彼の手元に視線を落とす。ボールペンを持つ骨張った指の、親指の付け根あたりに、マジックで「シャンプー」と書いてあるのが目に入った。
    「シャンプー?」
     思わず呟く。そして、はっとしてすぐに口を閉じた。せっかく協力してくれているのに、失礼な奴だと思われたかもしれない。しまったな、と後悔していると僕の斜め上から、「あはっ」と笑い声が聞こえた。
     見上げると、彼が照れ笑いのような表情を浮かべて、「シャンプー切れてるの、三日くらい忘れてちゃってて。今日ドラッグストアで安売りのやつ買うの、忘れないように」と言った。
     そのもさもさふわふわした髪が、どの銘柄のシャンプーによるものなのか、無性に知りたかった。
     でもさすがに「シャンプーは何を使っているんですか」なんて訊く訳にはいかない。そんなアンケート項目は無い。今日の勇気と図々しさは、もう使い果たしてすっからかんだ。
    「はい」と返されたバインダーを礼を言って受け取る。ここで別れたら、彼とはもう何の接点もなくなるのはわかっていたけれど、これ以上引き留めるすべを僕は持っていなかった。せめてもう一度、「本当にありがとうございました」と丁寧に頭を下げると、彼は少し不思議そうに、
    「? どぉいたしましてぇ」
    とまたにっと笑って、「シャンプー」のメモ書きのある手をひらひらと振って、飄々と歩き出した。僕はその背中が見えなくなるまで、その場で立ち尽くしたまま彼を目で追っていた。
     
     この多少浮上した気分を再度ぺしゃんこにしたくなくて、今日のところは切り上げることに決めた。このアンケートを始めたときは、こんなつまらない作業に一体何時までかかることやら、と暗澹たる思いだったけれど、今は奇妙に強気になっていた。投げ出す訳じゃない、ひとまず切り上げるだけだ。怒られたら謝ればいい、謝っても駄目ならそのときはそのときだ。この程度の開き直りにすら思い至らなかったなんて、僕も知らないうちに社畜精神を叩き込まれてしまったかな、と、ブルーのレジメンタルタイの結び目に指をかけて、少しだけ緩める。
     ほんの短い時間だったのに、白いパーカーの彼との会話は、まるでマッサージを受けたみたいに僕の肩を軽くしてくれていた。

     帰社して自席に戻ると、斜め後ろから「お疲れ」と声が聞こえて、微糖と書かれた缶コーヒーが差し出された。本当はコーヒーはブラック派だったが、礼を言って有り難く受け取る。
    「思ったより早かったな」
    「ノルマ、まだ終わっていないんです」
     僕が叱責覚悟で正面からそう答えると、先輩はおや、という顔をした。
    「明日も朝からやります。明日は他のタスクがあるなら、早く出社して始業前にやります。同じ時間外なら、今日の日付け中じゃなくても構わないですよね?」
     挑戦的に聞こえないように、きちんと目を見てゆっくりと話した。先輩は僕のバインダーを手にして隣のデスクのキャスター付きの椅子を引くと、そこに腰を下ろしてアンケート用紙の束をパラパラと捲りながら、
    「早く帰りたい理由でもあるのか」
     と言って、しかし僕が口を開く前にすぐに言い直した。
    「いや、プライベートなことを訊くつもりじゃなかった、すまない。松井の言う通りだ。と言うか、確かに伝えたノルマには届いていないが、もうこれで充分だ」
     彼の言葉の意図を測り兼ねて僕が少し首を傾げると、
    「こんな根性試しみたいなノルマはナンセンスだと、俺も思っている。新人教育の一環とは言え、内心忸怩たるものがあった。定時内に終わらせることが到底無理なノルマなら、そっちを見直すべきだろう。俺からそう提言しておくから、この件はここまでにしよう」
     僕は驚きながら、ただ「……はい」と頷いた。同時に、なぜこの人がこんなブラックな環境に甘んじて身を置いているのだろう、という疑問も湧いてくる。
     先輩はそれを見透かしたかのように、バインダーをデスクの上に置いて、自分の分の缶コーヒーのプルタブを開けて、
    「まあ俺は、ここを完全な泥舟だと思っている訳じゃないんだ、まだな」
     とフォローするように呟く。
    「だが、程々にしないと俺のようになるからな」
     と自嘲気味に笑った。
    「先輩は、パートナーさんとどうやって出逢ったんですか」
     場違いとも思える言葉が思わず口をついて出た。先輩は口をへの字に曲げながら微妙に気まずそうに言う。
    「…お前、聞いたら絶対笑うよ」
    「笑いませんよ」
     僕は殊更に真面目な顔を作って即答した。何故だかその「出逢い」というやつが妙に気になった。僕が引き下がらないので、先輩はやれやれ、と言うように一つ溜息を吐いて、それでも話し始めた。
    「あいつが、コンビニのコピー機の下に財布を忘れていたんだ。俺は、次にそのコピー機を使ったときにそれに気付いて、すぐにコンビニの店員に預けようと思ったんだが」
     そこで彼は妙に照れ臭そうな表情になった。
    「俺でも知ってるハイブランドの、まだ新しそうな財布だったもんでな。もし店員が悪い奴だったらネコババするかもしれん。柄にもなく変に正義感じみたものが湧いてしまって、交番に届けるか、と思いながら財布を開けたら、小銭入れの中に、そのコンビニの向かいの歯医者の診察券が無造作に突っ込んであった」
     柄にもなく、とは僕は思わなかった。先輩はいかにもそういう正義感を行使しそうな人だった。
    「俺はその足で向かいの歯医者に行って、受付で、この診察券の患者に連絡して返してやってくれ、と言って財布を預けた。俺の身元がわからないのも相手が不安に思うだろうと名刺も置いてきた。その日のうちに電話がかかってきて、お礼に飯でもと言うから、もちろん断ったんだが」
     先輩は思い出したようにフッと笑う。
    「礼を言う側のくせに妙に偉そうでな。『誰に拾われたのかもわからないままじゃ、こっちの後生が悪くておちおち眠れません』なんて言うもんで、仕方がないから待ち合わせて、恐ろしく洒落た店に連れて行かれて馬鹿高い飯を奢られて、礼にしても釣り合わないから俺も払うと言ったら」
     先輩は自分で気付いているのかどうか、恋人の口調を真似ているらしい、やや鼻にかかった声でツンと顎を上げて言った。
    「『貴方、あの財布にどれだけ入ってたか知らないから、そんなことが言えるんですよ』とか言うから、何十万も入っていたのかと聞いたら、しれっと『今どき現金なんて使うと思います?』だとさ」
     まあメインバンクのキャッシュカードも、複数のクレジットカードも入っていたらしいから悪用されたら本当に困ったことにはなっただろうが、と言いながら、彼は苦笑した。
    「陳腐だろう?」
     眉間の皺は照れ隠しだろうと、僕にでも見当がついた。
    「いや、かなり劇的だと思いますよ」
    「劇的、か。俺の人生にドラマチックは必要無いと思っていたんだがな。まあ、そんな感じで今に至る」
     先輩はまだ照れているのか、それとも現状を憂いているのか、苦虫を数匹噛み潰している顔になって缶コーヒーを一気に飲み干すと、「俺は仕事に戻る」とさっさと席を立った。
     
     帰路のコンビニで買った焼き肉弁当を缶ビールで流し込みながら、今日会った彼のことを考えた。おそらくもう二度と会えないであろう、あの前髪の長い、不機嫌な街で一人だけ軽々とした足取りで歩いていた青年のことを。
     二度と会えない、と改めて思った途端に、自分でも不思議なくらいに落胆した。つまり、どうやら、どうにかしてまた会いたいと思っているのだ。僕は。
     自分の人生にドラマチックは必要無いと、先輩は言った。今日の出逢いは、とくに劇的という訳ではなかったと思うけれど、もしも。もしも彼と再会するようなことがあって、彼も僕のことを覚えていてくれて、そこから何かが始まったりしたら、それはドラマチックと言えるかも知れないな。そんな劇的な瞬間が、僕にも訪れればいいのに。
     親指あたりに書かれた、ちょっと丸っこい「シャンプー」の文字を思い出す。くすりと笑みが漏れた。胸に一瞬灯った小さな光を消さないように、大事に抱えるようにしてその日は眠りについた。

     翌日は朝からデータ入力の作業だった。あのアンケートの続きは本当にもういいらしい。昨日の成果の紙束を手に、エクセルシートに向かってどんどん入力していく。
     本当は、真っ先に見たい一枚があった。でも僕は自分を焦らすように、敢えて最初から一枚ずつ入力していった。おかげで、作業はやたらと捗った。
     ついに、最後の一枚。彼の一枚だ。
     僕は一つ深呼吸してから、用紙をそっと手に取る。やっていることはさっきまでと同じなのに、個人情報を盗み見ているような後ろめたさを覚えながら、はい/いいえの二択の質問群のあとに記入された項目を目に焼き付ける。
     東京都在住。年齢:20代 職業:学生
     …学生だったのか。それじゃ、きっと年下だろうな。人柄が表れているような角の丸い文字をそっと指でなぞった。あの鷹揚さは、学生ならではのものだったのかも知れないな、と、少し彼を遠く感じて一瞬淋しくなる。そもそも最初から全然遠い存在なのだけれど。

     それから、僕のプチストーカー生活が始まった。
     いや、ストーカーだなんて、そんな人聞きの悪い。ただ、終業後、毎日、ドラッグストアに寄って帰るというだけのことだ。
     あのとき彼は、ドラッグストアで安売りのシャンプーを買うと言っていた。彼の向かった方向的に、おそらく駅の北口の、毎週木曜日に特売になる大手チェーンのドラッグストアのことだろう。彼は手ぶらで徒歩だったから、生活圏もきっとこのあたり。通い詰めればまた会えるかもしれない。
     もちろん、そんな偶然の再会の可能性が低いことは承知している。時間帯だって、この前彼に会った時間には僕は基本的に残業中なので、同じ時間にその店に寄ることはほぼ無理だ。
     それでも、一縷の望みを胸に、その店で缶ビールを一本、もしくはエナジードリンクや、翌日の朝食用にチルドカップコーヒーや菓子パンを買って帰る。これが僕の今の生活の張りのようなものになった。我ながら、ちょっと気持ち悪いと思うけれど。

    「…………いた!!」
     ドラッグストアのパトロールが日課になって二週間が過ぎた頃。歯ブラシの陳列されている棚の前に、何度も記憶を反芻した通りの、ちょっと猫背気味な白いパーカーの立ち姿を見つけて、僕は反射的に別の通路に身を隠してしまった。
     不審者さながらに、棚の脇から顔だけ出して、もう一度確認する。長い前髪から覗く、形の良い鼻梁。相変わらず機嫌の良さそうに見える鼻唄でも歌い出しそうな柔らかい口元。間違いない、彼だ。
     あれほど逢いたいと思っていたのに、いざ実現してしまうと、この場から今すぐに逃げ出したいような気持ちになる。でも、この機会を逃したらきっと死ぬほど後悔する。何て声を掛ければ良いのだろう。先日はありがとうございました? そのあとは、どうしたら。
     ぐるぐるの思考のままで、とにかく勇気を振り絞って彼の斜め後ろに忍び寄った。
     陳列棚に向かって伸ばされた彼の大きな手が目に入る。今度は手の甲に「はみがきこ」とひらがなで書いてあった。
    「……はみがきこ」
     可愛い。あまりの可愛さに思わず声に出てしまった。どうしよう、少なくともこんな感じの第一声の予定ではなかったのに。もっとこう……いや、もっとどうだったら正解だったのか、そもそも解らないのだけれど、それにしても、嗚呼。
     彼は振り返って僕を見た。そして破顔一笑した。
    「今度は歯磨き粉、切らしちゃって」
     
     あれこれ考えていたシュミレーションはすべて霧散して、僕は何の戦略もなくただ直球で、「良かったら、今からごはん食べに行きませんか」とだけ言った。
     勝算があった訳ではないし、かと言ってやぶれかぶれになった訳でもない。ただなんとなく、彼を相手にあれこれと駆け引きをするのが、そぐわないような気がしただけだ。
     彼は前髪の下の目をおそらく丸くしたような表情になって、それでもアンケートのときとそっくり同じに、「いいですよぉ」と答えてくれた。
     お礼に食事でも、なんて、まるで先輩と彼のパートナーさんの出逢いをなぞっているようだな、と面映ゆくなりながら、連れ立ってドラッグストアを出た。もちろん、「恐ろしく洒落た店で馬鹿高い飯を奢る」ことなんてできないから、駅前の焼き鳥屋が精一杯だ。
     
     そこそこに繁盛している店内で二人掛けの席に案内されて、僕は生ビールにすると言うと、彼も、「じゃあ僕も」と合わせる。「成人しているよね?」と尋ねると、「もう24だよぉ」と返ってきた。驚いて、思わず「それなら同い年だ。まだ学生だよね?」と訊き返すと、「うん、D1」と答えたあと、「そっか、こないだのアンケートに書いたもんね」と納得したように言う。さっと血の気が引く思いで、「ご、ごめん、個人情報を勝手に覚えていて、気持ち悪いよね」と慌てて言うと、彼は「知られたくないことならそもそも書かないよぉ」とのんびりと笑った。屈託のない態度にほっとすると同時に、その笑顔に胸がぎゅんと高鳴った。
     やばいな、これはもう「気になる」を越えて、紛れもなく「惚れている」だ。そんなに惚れっぽい奴だったのか、僕は。
     内心の動揺を誤魔化すように、運ばれてきた生ビールを乾杯とともに一気に煽った。彼は突き出しの枝豆の小皿を僕のほうに滑らせて、「何か食べてから飲まないと身体に悪いよぉ」と言って、自分も枝豆を口に運ぶと、「うん、美味しい」と頷いた。
     僕は、改まって机の上に名刺を出した。
    「僕は、松井と言います。あの、今日誘ったのは、怪しい勧誘とかではないから。この間のアンケートも、ちゃんとこの会社のもので、悪用したりしないから、安心してほしい」
     彼は「別に心配してなかったけど」と言いながら、ごそごそとワークパンツのポケットを探ると、同じように財布から名刺を取り出した。
    「桑名です。こないだD進して作り直したばっかりの名刺、初めて人に渡すよぉ」
     そう言って、にこにこと両手でそれを渡してくれる。自分のことはさておき、彼のこの警戒心のなさが心配になってしまった。僕が悪い奴だったらどうするんだろう。でももちろん、有り難くそれを受け取って眺める。この駅が最寄りの有名大学の名前と、所属研究室名が書かれていた。
    「うわぁ、優秀なんだね…」
    「そんなことないよぉ」
     この浮世離れした雰囲気は、やっぱり研究者特有のものなのかもしれないな、と思ったけれど、あっけらかんと答えてひょいぱくと枝豆を口に入れる彼を見ていると、肩の力が抜けていった。
     焼き鳥の盛り合わせと、軟骨の唐揚げと、フライドポテトが運ばれてきて机の上が賑やかになる。彼が大きな口でぱくぱくとものを食べるところを見るのは気分が良かった。特徴的なふわふわした長い前髪で顔がほとんど隠れているのに、彼の纏う楽しげな雰囲気が伝わってくる。
     同い年と判って、お互いに自然と敬語は抜けていた。「松井さん」と呼ばれて、呼び捨てで構わないと言うと、彼も「じゃあ僕も桑名で」と言う。
    「松井は、どうして僕のこと誘ってくれたの?」
     アンケートのお礼って、そんなお礼されるほどのことじゃないよね? と彼は小首を傾げた。
     僕は意を決して答える。
    「……君が、機嫌が、良さそうに見えたから」
    「え?」
    「街頭アンケートをしてる間ずっと、敵意丸出しの、虫ケラを見るみたいな目で見られていたけれど、それでなくても、街じゅう皆、不機嫌だったり疲れていたりする人ばかりだなと思って。そんな中で、桑名だけが、機嫌が良さそうに見えて、なんかいいなぁって…。それで……もう一度、会いたいと思った」
     一気にそう言って、照れ隠しにまたビールを煽った。
     桑名はありがとう、と答えたあと、ぽりぽりと頭を掻いて、
    「僕だってそんなにいつも上機嫌でいるわけじゃないんだけどなぁ」
     と言うから、僕は手を横に振って慌てて言い直す。
    「あ、お気楽だとか、思った訳じゃないよ。気に障ったら申し訳ない」
    「そういう意味じゃないよぉ」と彼は言ったあと、少し真面目な雰囲気になって、不意に箸を置いて手を机の縁に揃えた。
    「アンケートのことだけど、誰にでもほいほい答える訳じゃないよ」
     僕もつられてなんとなく居住まいを正す。
    「あの日松井を見たとき、好きでやってる訳じゃ無さそうなのに、背筋がすっと伸びてて、所作がすごく綺麗だったから。綺麗な人がいるなぁって、思わず見惚れた。僕に声かけてくれたらいいのに、って、思った」
     桑名はそこで照れたように、ふふ、と笑った。
    「だから、松井のこと覚えてたよ。また会えたらいいなぁって思ってた。今も、お箸の使い方とか、綺麗だなあって思いながら見てたよ。僕、松井ともっと仲良くなりたいなぁ」
    「それって、どういう…」
    「うーんと、友達になろうって意味、かなぁ」
    「友達…」
    「嘘、ごめん。やっぱりもっと正直に言うね。えっと、できれば、友達以上のほうが嬉しいかも」
     妄想が実体化したかのようなの展開に、目を白黒させながら「ちょ、ちょっと待ってくれ」と言って、二杯目の生ビールを飲み干した。あまりにも都合が良すぎる。これは社畜働きが過ぎて会社でぶっ倒れた僕が見ている夢なのでは? 目が覚めたらビルの医務室かな。出来ることならこのまま醒めたくない。
     空のジョッキを睨み付けてしばし黙っていると、ペース早くない? と桑名が心配そうに覗き込んできて、そして言った。
    「ごめん、やっぱり、いきなりすぎたかなぁ。松井のほうから誘ってくれたから、もしかして脈があるかもって思っちゃった。あの、松井が嫌じゃなかったら、友達からでも」
    「脈! ある!! 全然!! お願いします!!」
     僕は桑名の言葉を遮ってその場で前のめりになって叫んだ。勢いよく机に手をついたせいでジョッキや皿が揺れる。桑名はびっくりしたように両手を胸の前で広げて一瞬固まって、それから吹き出した。
    「松井は、いま付き合ってる人はいないの?」
     いないよ、と即答して、桑名は? と訊き返すと、
    「いたらこんなこと言わないよぉ」
     と尤もな答えが返ってきた。ということは、これは、僕たちは、これから。
     桑名は手を伸ばして、机の上の僕の手に触れた。手の甲の「はみがきこ」の文字が目に入った。…やっぱり可愛いな、と思う。緊張が解けて思わず頬が緩んだ。
    「やっと笑った」
     桑名が僕の手を、マジックの文字のある手で握手するように柔らかく握った。
    「僕もいつも機嫌いい訳じゃないけど、松井が側に居てくれたら、ずっと機嫌良くいられるかも」
     初めて目を逸らさずに、至近距離で正面から顔を見た。にっと笑った口と同じ角度で、被さった前髪の奥の目が優しい形に弧を描いているのが見えた。
    「……鼻血が出そうだ……」
    「え、えぇ? のぼせちゃったのかなぁ」
    「うん……、君にね…」
     片手で鼻を押さえながらそう答えると、握った手は離さないままで、今度は桑名のほうが天を仰ぐような素振りをした。
    「松井って…綺麗なだけじゃなく、ものすごく可愛いんだね…」

     それから、改めてお互いに自己紹介をした。と言っても、僕のほうはさほど語れるような来歴はない。四月に入社したばかりの会社では経理ソフトの開発の部署にいて、この間は一見営業みたいな真似をしていたけれど本業はプログラマーであることと、残業の多い仕事で、そのせいで直属の先輩が今まさにパートナーに逃げられそうであるということくらいだ。
     桑名のほうは農学部の研究室にいて、植物の研究をしているらしい。どんな研究? と尋ねると、彼は少し困った顔をして、
    「砂漠の緑化とか、難病の新しい薬効成分の発見とか、世の中的にわかりやすいことが言えるといいんだけどねぇ。今のところ、どういう役に立つって言えないような基礎研究かなぁ」
     と言って、
    「ブラックなのは研究室も似たようなものかもね。生き物が相手だから、休みもないし。没頭しちゃうと研究室の床で寝るから、何日も家に帰らなかったりとか。まあ、好きでやってるんだけど」
     と苦笑した。
    「それで彼女に逃げられたりとか?」
     と僕が鎌をかけると、桑名はちょっと情けない顔になって、
    「……まあ、そんなこともあったりなかったりかなぁ」
     と歯切れ悪く答えた。自分で尋ねておきながら、若干むっとして僕は口を尖らせた。
    「君、思ったよりも手が早そうだね」
     桑名は僕の尖った唇をむに、と摘んだ。
    「……名前も知らない相手をいきなり飲みに誘ったのは自分のほうだって覚えてる?」
    「僕はこんなことしたの初めてだよ!」
     憤慨して抗議すると、
    「僕だってそうだよ」
     と返して、彼は伝票を持って立ち上がった。
    「…怒った?」
    「まさかぁ。でも手が早い訳でも軽い気持ちでもないって証明したいから、このあとどうするかは、松井が決めていいよ」
     ……ずるい。僕は彼の手から伝票を引ったくって、社会人の必殺技、カード払いで支払いを済ませると、くるりと彼に向き直って、ツンと顎を上げて答えた。
    「僕の部屋で飲み直そうか」

     誰かを「お持ち帰り」したのなんて、誓って人生で初めてだ。というか、今日は僕の人生で初めてのことばかりしている。相当な大胆さで部屋に連れ込んだ割には、次の展開をどうしていいのか計りかねたまま、僕は、
    「ビールでいい? というか、うちにはお酒はビールしかないのだけれど」
     と冷蔵庫を開けて、大人しく連れ込まれた桑名に声を掛けた。桑名は僕の後ろから冷蔵庫を覗き込んで、
    「うわ、不健康そうな冷蔵庫だねぇ」
     と感嘆めいた声を上げる。確かに、ここのところのドラッグストア通いのせいで、缶ビールとエナジードリンクとゼリー飲料だけがやけに充実したラインナップになってしまっている。賞味期限のあるものは、辛うじて牛乳と使い残しの卵が一個入っているくらいのものだ。桑名はきょろきょろとキッチンを見回すと、電子レンジの置いてある棚の上のプラスチックかごの中にストックしたインスタントの袋麺を指差して、
    「ラーメン作っていい?」
     と言った。そして、さらに同じ棚にコーヒーミルを見つけると、
    「ビールもいいけど、僕、松井にコーヒー淹れて欲しいなぁ」
     とにっこり笑う。
    「お酒じゃなくて良いのかい?」
     僕は拍子抜けして、それでもコーヒーミルと、豆を手に取った。
    「酔った勢いだって、言われたくないもん」
     それを言う想定なのは、桑名なのか、それとも僕なのか。「手が早い」って言ったことをそんなに気にしていたのかと思うと、少し可笑しくなった。それにしても、そんな大きな身体をしておいて、「もん」って、ああもう、ちょっと可愛すぎやしないか。
     桑名が片手鍋で二人分のラーメンを作る間、僕はその横でゴリゴリと豆を挽いた。調味料もろくにない家に似合わないけれど、コーヒーだけは美味しいものが飲みたくて、ささやかな贅沢をしているのだ。
     桑名の作った、チャーシューも葱ももやしもない、一個だけの卵を半分こしたインスタントラーメンは、夢のように美味しかった。一気に食べて、ほう、と満足のため息をついて、その味を反芻していると、桑名は牛乳を入れてカフェオレにしたコーヒーを飲んで、マグカップをじっと見つめて呟いた。
    「このコーヒー、夢みたいにおいしい…」
     始まったばかりの恋が、世界をちょっとばかり浮かれさせているのを、二人ともが感じていた。

     シングルベッドに凭れて座りながら、きれいな部屋だねぇ、と桑名が言う。地元から就職のために上京してきたワンルームは、最低限の家具家電だけをバタバタと見繕って、あとはおいおい気に入ったものを揃えていこうと思っていたのだけれど、とてもそんな時間の余裕も気持ちの余裕も無くて、ほとんど寝に帰るだけだ。片付いていると言うよりは、散らかるほどの物さえ無い殺風景な部屋だった。
     フローリングの床に直に胡座で座っている桑名に、一つしかないクッションを勧めると、少し考えてそれを尻の下に敷いたあと、
    「じゃあ、松井はここに座って」
     と、立てた膝の間をぽんぽんと叩いて示された。心臓をばくばくさせながら、僕は答える。
    「ど、どっち向きに…?」
     その答え方が意外だったのか、桑名は「あはっ」と笑った。
    「うーんと、ちゅうしていいなら前、まだだめなら、背中向き、かなぁ」
     駆け引きでなく、僕のペースを率直に聞いてくれてるんだろうと受け止めて、でもだからこそ余計に悩む。悩んだ挙句、僕は桑名の足の間に、膝を抱えて横向きに座った。
    「なんそれぇ…」
     桑名がふわふわの髪をくしゃくしゃと掻く。
    「顔が見たいから後ろ向きじゃないほうがいい。覚悟を決めたらそっちを向くから、ちょっと待ってくれ」
     キスをする覚悟だけでなく、このままなだれ込む覚悟が必要なことくらい、さすがに僕でも解る。
     そう言えばこの部屋には当然ながら客布団なんてものも無い。ここは一応「うちには客布団無いけど良いかな?」と聞くべきところだろうか。それとも、いきなり布団の話を始めるなんて露骨に過ぎるのだろうか。というか、僕は今日これから彼と寝るのか? 本当に? 
    「松井」
    「ひゃい!?」
     不意に名前を呼ばれて、床から飛び上がらんばかりに大袈裟な反応をしてしまった。
    「松井はほんとうに僕でいいの?」
     桑名が横から顔を覗き込むように尋ねてくる。僕は目顔で先を促した。
    「さっきも言ったけど、僕、基本朝から晩まで研究室に籠ってるし、長期休みとか無いし、それどころか土日も大学行っちゃうし、…そもそもまだ学生だし、お金も無いし。松井のこと、あんまり楽しませてあげられやんかも」
     そう言われて、数年前に別れた女の子のことを思い出した。僕が修士に進学して、彼女は学部を卒業して社会人になって、最初のうちは月に何度かは会っていたけれど、次第に彼女は電話口で愚痴ばかりこぼすようになり、上手く彼女の欲しい言葉を返せない僕にだんだんと冷めていくのがわかった。最後は会いもせず、メールだけで関係が終わった。
     彼女が新しい環境に飛び込んで様々なストレスを抱えているときに、僕が支えてあげられなかったのが原因だったと思う。修士だって二年で修論を出さなければならないのだから、それなりに忙しいのだけれど、社会人になった彼女には頼りなく気楽な身分に見えたのだろう。よくある話だ。
     もしかして、桑名も同じようにして別れたのかもしれないと思うと、知りもしない女の子に俄然対抗心が湧いてきた。
    「なんだ、そんなことか」
     僕はまるでなんでもなさそうに笑ってみせる。
    「生活に関しては、多分僕も似たようなものだよ。この部屋、つまらない部屋だろう? ほとんど寝るために帰るだけだから」
     所在無さそうに浮いている桑名の手を取って、僕の腰に回させた。
    「お金は、社会人一年目だから僕だってそんなにないし。土日も休日出勤することも多いし。でも、もともともう会えないかもしれないって思っていたんだ。こうして今桑名が僕のうちにいるというだけでも、奇跡みたいに思ってる。しょっちゅう会えなくても、たまに、夜遅くにでも、……」
     僕はくるりと向きを変えて、身体ごと桑名のほうを向いた。
    「……ときどき僕のところに、寝に帰ってきてくれたら、嬉しい」
    「……松井、案外、大胆だね?」
     桑名は僕の腰に回した手にぎゅっと力を入れて、驚いたように「…細っ」と呟いた。
    「寝に帰るって、そういう意味ではないよ」
    「わかってるよぉ。でも、キスは、してもいい?」
     僕は黙って、顔を斜め上に傾けると、目を閉じた。
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    ohmi_ri

    DONEくわまつ年下攻めアンソロに載せていただいた、地蔵盆で幼い頃に出逢っていたくわまつのお話です。
    くわまつドロライお題「夏の思い出」で書いたものの続きを加筆してアンソロに寄稿したのですが、ドロライで書いたところまでを置いておきます。
    完全版は、春コミから一年経ったら続きも含めてどこかにまとめたいと思います。
    夏の幻 毎年、夏休みの終わりになると思い出す記憶がある。夢の中で行った夏祭りのことだ。僕はそこで、ひとりの少年に出逢って、恋をした。
     
     小学校に上がったばかりのある夏、僕は京都の親戚の家にしばらく滞在していた。母が入院することになって、母の妹である叔母に預けられたのだ。
     夏休みももう終わるところで、明日には父が迎えに来て東京の家に帰るという日、叔母が「お祭りに連れて行ってあげる」と言った。
    「適当に帰ってきてね」と言う叔母に手を引かれて行った小さな公園は、子供達でいっぱいだった。屋台、というには今思えば拙い、ヨーヨー釣りのビニールプールや、賞品つきの輪投げや紐のついたくじ、ソースを塗ったおせんべいなんかが、テントの下にずらりと並んでいて、子供達はみんな、きらきら光るガラスのおはじきをテントの下の大人に渡しては、思い思いの戦利品を手にいれていた。
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    ohmi_ri

    DONEくわまつ個人誌『青春』に入ってる「チョコレイト・ディスコ」の翌日の理学部くわまつです。
    あわよくば理学部くわまつまとめ2冊目が出るときにはまたR18加筆書き下ろしにして収録したいな〜という気持ち。
    タイトルはチョコレイト・ディスコと同じくp◯rfumeです。
    スパイス バレンタインデーの翌日、松井が目を覚ましたのは昼近くになってからで、同じ布団に寝ていたはずの桑名の姿は、既に隣になかった。今日は平日だけれど、大学は後期試験が終わって春休みに入ったところなので、もう授業はない。松井が寝坊している間に桑名が起きて活動しているのはいつものことなので──とくに散々泣かされた翌日は──とりあえず起き上がって服を着替える。歯磨きをするために洗面所に立ったけれど、桑名の姿は台所にも見当たらなかった。今更そんなことで不安に駆られるほどの関係でもないので、買い物にでも出たのかな、と、鏡の前で身支度を整えながら、ぼんやりと昨日のことを思い出す。
     そうだ、昨日僕が買ってきたチョコ、まだ残りを机の上に置いたままだった。中身がガナッシュクリームのやつだから、冷蔵庫に入れたほうが良いのかな? 二月なら、室温でも大丈夫だろうか。まあ、僕はエアコンを付けていなくても、いつもすぐに暑くなってしまうのだけれど…。そこまでつらつらと考えて、一人で赤面したところで、がちゃりと玄関のドアが開いて、コートを羽織った桑名が現れた。
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    ohmi_ri

    DONEくわまつドロライお題「ハネムーン」で書いた理学部くわまつです。タイトルはチャッ◯モンチーです。
    コンビニエンスハネムーン 梅雨もまだ明けないのに、一週間続いた雨が止んでやっと晴れたと思った途端に猛暑になった。
     また夏が来るなぁ、と、松井は桑名の古い和室アパートの畳に頬をつけてぺたりと寝転がったまま思う。
     網戸にした窓の外、アパートの裏の川から来る夜風と、目の前のレトロな扇風機からの送風で、エアコンのないこの部屋でも、今はそこまで過ごし難い程ではない。地獄の釜の底、と呼ばれるこの街で、日中はさすがに蒸し風呂のようになってしまうのだけれど。
    「松井、僕コンビニにコピーしに行くけど、何か欲しいものある?」
     卓袱台の上でせっせとノートの清書をしていた桑名が、エコバッグ代わりのショップバッグにキャンパスノートを突っ込みながらこちらに向かって尋ねる。ちなみにその黒いナイロンのショッパーは、コンビニやらスーパーに行くときに、いつ貰ったのかもわからないくしゃくしゃのレジ袋を提げている桑名を見かねて松井が提供したものだ。松井がよく着ている、かつ、桑名本人は絶対に身につけそうもない綺麗めブランドのショッパーが、ちょっとしたマーキングのつもりだということに、桑名は気付いているのかどうか。
    2008

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