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    takana10gohan

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    ハロウィンクルデュ③

    お菓子の準備は十分かい?※卒業後同棲クルデュ

     焼き立てのクッキーはビックリするほど甘くて香ばしい良い香りがする。クッキーは熱が取れたら何個かまとめて個包装、まとめ買いしてきたキャンディやチョコレートも用意する。
     家の外装にはやり過ぎない程度の装飾を。庭の木にはコウモリの模型と分かりやすい骨格模型。玄関の横には二人で作ったジャック・オー・ランタン。くり抜いた中身の一部はクッキーの材料にもなっている。
     ここ半月はなんだか浮かれた様子の街も、いよいよ今夜が本番だ。バスケットを手に持った小さなモンスターたちが出歩く時間の前に、デュースとデイヴィスは朝からいそいそとお菓子の準備に勤しんでいた。
     元々デイヴィス自身はハロウィンは好きだか菓子を配る予定ではなかった。それをデュースが「えっ、やらないんですか?」と非常にガッカリした様子で言うものだから、つい、仕方ないなと返事をしてしまったのだ。
     子供の頃、ハロウィンの季節になるとカゴいっぱいにお菓子を貰って街を歩き回るのがデュースは大好きだった。だから大人になったら今度は自分が子供たちにお菓子を配りたかったのだ。
     性格が捻くれることもなく真っ直ぐ純粋なまま成人したデュースは、たまにそういう子供っぽい事を言ってはデイヴィスを苦笑させた。まぁそれに対してデイヴィスが最後には折れるまでが一連の流れではある。
    「やっと終わった……」
     最後のクッキーを綺麗にラッピングして、デュースはぐったりとテーブルに突っ伏した。デイヴィスもチョコレートやキャンディを大きな皿に盛り付けながら、やれやれとソファに腰をおろす。
     言い出しっぺのデュースが殆ど作業をしていたのだが、間に合いそうにないと分かるとデイヴィスも魔法で生地の発酵を促してくれたり、クッキーの型抜きをしたりと手伝ってくれた。
    「ちょっと休憩したら、もうぼちぼちですね」
     窓の外を見ると青空の端が少しずつ夕焼け色へと染まってきているのが見える。何時から始まると厳密に決まっているイベントではないが、やはり暗くなってから家々を訪ね歩くハロウィンモンスターたちが格段に多い。
    「俺は子供の相手はしない、それだけは譲らん」
    「分かってますって。生ハムもチーズもワインもあるんでデイヴィスさんはゆっくりしてて下さい」
    「レーズンバター」
    「ありますから」
    「クラッカー」
    「なんなら今から焼きますよ」
    「クッキー」
    「割れたのでよければ」
     トレイの上に残った欠けや割れのある崩れたクッキーの中から1つを指先でつまむと、デュースはデイヴィスの口へと放り込んだ。
     NRC時代に先輩であるトレイ・クローバーの手伝いを率先して引き受け、彼の卒業に当たって菓子作りのノウハウを引き継ぎ、デュースは簡単なお菓子やデザートくらいなら一人でも作れるようになった。たまに振る舞われる手作りのスイーツはデイヴィスの密かな楽しみの1つでもある。
    「………悪くない」
     モグモグとクッキーを咀嚼し呑み下し、デイヴィスは何も言わずにまた口を開けた。グルメな彼の評価としては上々だ。もう1つクッキーを口へと押し込み、デュースはよいしょと立ち上がる。やらなくてはいけない事はまだまだある。
     その時ピロリとデュースのポケットからスマホの着信音が鳴った。どうやらメッセージアプリのようだ。
     画面のポップにはAceの文字。画像が添付されているようで、アプリを開いてみるとどうやら他のグループで集まってハロウィンパーティーをしているようだった。送られていた画像には仮装した友人達とケーキやらピザやらアルコールが写り込んでおります、大学生らしいという印象である。
    『なぁ今から来ねぇ?』
     という一文が追加で送られてきたが、デュースは『すまないがお菓子を配らなきゃいけないんだ』という返信と、先程まとめたお菓子の写真を一緒に送り返した。なにやらすぐ折り返しでメッセージが届いたがもう時間もいい頃だ。
     皆ではしゃぐパーティーも楽しいだろうが、今年のハロウィンは今までと違った楽しみ方をしたい。窓の外はオレンジから薄紫、そして藍色へ。外の通りからはキャーキャーという歓声が聞こえ始める。
     防犯用の魔法をこっそり家に掛けるのを忘れずに。まぁ何かあれば絶賛魔法執行官を目指して勉強中の青年が物理でなんとかするだろう。
     ちょっと面倒だなと思っていたデイヴィスも、ウキウキと玄関先のジャック・オー・ランタンに明かりを灯すデュースを見ていると、こんなハロウィンがあってもいいかと思ってしまう。まぁ菓子さえ配り終えれば後は大人のハロウィンの時間だ。
     家中のお菓子を配りきってしまったなら、デイヴィスが言うつもりのハロウィンの合言葉にデュースが差し出せるものはなにもない。慌てるデュースの姿が目に浮かぶ。
     口の端を緩く吊り上げると、デイヴィスはデュースに気づかれないように菓子の山からチョコレートを1つ、口へと放り込んだ。


                          End.
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    takana10gohan

    DONE再録クルデュ、オメガバ③巣作りについて。
    既刊の書き下ろし再録分です。書き下ろし以外はプライベッターです。
    幕間 ヒートの前になると、デュースはオメガの例に漏れず巣作りをする。本人は全然そのつもりはないらしいのだが、ヒートが近づくとデイヴィスの衣類に執着を見せるようになる。ヒートの直前ともなれば授業を受けることもできないので早めにデイヴィスと一緒に休暇に入るのだが、部屋中のクローゼットやキャビネットの衣類を引っ張り出してベッドに敷き詰めた。
     あまり器用ではないデュースの巣作りは、気に入った衣類を中心に鳥の巣のように丸く積み上げるタイプだ。デイヴィスは手持ちの服が多いので、デュースは満足いくまで服を積み上げることができる。ヒート直前の不安定なオメガの精神を満たすには十分な量だ。
     そんなデュースにデイヴィスはちょっと困っていた。デュースは本当に手当たり次第、服の値段なんてお構いなしに巣作りに使おうとする。基本的に値の張る衣類はデュースの巣作り行為を考慮して家以外の場所に外部保管しているのだが、数着ほど6桁マドルの服を巣材にされてしまった。一点ものでないのが救いだった。ちなみに匂いが強いもののほうがオメガの巣作りでは素材ランクが上なので、6桁マドルの服より肌着や下着のほうが巣作り中のデュースはお気に入りだったりする。ちょっとツラい。
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