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    おこめ

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    おこめ

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    アキイト 📼🔦(未成立)でラッキーすけべネタです。
    一日中どたばたデートしてるだけ!
    リクエストありがとうございました🥰長らくお待たせしました!!

    始終📼は(脳内で)よくしゃべるしむっつりプレイボーイ(?)、🔦は鈍感&無知の乙女です。
    ⚠️少しだけ犬×🔦の描写があります。地域猫ならぬ地域犬のような感じを想像していただければ…

    #アキイト

    災い転じて福となせ! 開店前の静かなビデオ屋。カシャカシャとビデオのハードカバーが触れ合う音と小さな鼻歌が響く。「おはよー……」と眠たげな目を擦りながら階段を降りてきたリンは、カウンターの中で機嫌よく開店準備をするアキラと目が合うなり怪訝な顔をした。

    「うわあ」
    「おはようリン。お兄ちゃんに対していきなりうわあはないだろう。朝ごはんはそっちのテーブルに置いてあるよ」
    「あ、ありがと。じゃなくて! 随分とご機嫌だね?お兄ちゃんが朝からテンション高いとなんか違和感って言うかぁ……」
    「そうかい?」
    「そうだよ! 鼻歌なんか歌っちゃって。わ、もうコーヒーまで買ってあるし!」

     作業部屋に入るなり、彼女はもう一度うわあと声を上げた。今度は喜色が色濃く滲んでいる。そうだろう。妹の好物のひとつであるエビアボカドサンドは、六分街のコンビニにはごく限られた日にしか売られていない上に朝一に行かないとすぐ売り切れてしまう人気商品だ。

    「確実に何かあるよね」
    「いつも通りなんだけどなあ」
    「嘘つき! デートだ。絶対デート! ビンゴ!?」
    「はいはい。君こそ今日は出かける予定があるんだろう? のんびりしていていいのかい?」
    「あ、そうだった! いただきます!」

     慌てて好物を頬張ったのか、きゃんきゃんと騒ぎ立てる声はすぐに止んだ。代わりに「おいしー!」と幸せそうな声が聞こえてきて、アキラはホッと胸を撫で下ろした。
     ……良かった、バレたかと思った。たとえ妹であっても女性のカンというものは本当に恐ろしい。別にバレても困りはしないが、ただ何となく気まずいのだ。いかんせん、共通の知り合いなので。

     ――そう、今日はアキラの想い人であるライトと会う約束をしている日だった。
    デートか? と問われれば……アキラとしてはデートだと即答したい。しかし悲しいかな、おそらく向こうにそのつもりは微塵もない。とはいえ、決して嫌われているわけではないのだ。むしろ付き合いの短さを考えれば、多大な信頼を寄せられているといっても過言ではないだろう。何なら自身の恋愛経験に基づく勘は、なりふり構わず関係を迫れば彼は首を縦に振るだろうと告げてすらいる。

     しかし、アキラは慎重だった。
     自分の幸せなど考えもせず、遺された人々のためにその身を捧げてきた男。未だに自身の幸福に及び腰な彼の傷につけ込んで自分に繋ぎ止めることは、おそらくそう難しいことではない。けれど、それでは嫌だ。欲張りなアキラは彼の全てが欲しいのだ。
     だから、多少時間が掛かったとしても、彼の意思で自分に恋をしてもらおうと決めた。そのためにもまずは親友の距離感で少しずつ彼の罪悪感を溶かして、安らぎを教えて。ゆっくり、そして確実に。彼に恋愛対象として意識させよう、と。

     ――――そんな事を考えて早数ヶ月。あまりの進展の無さにアキラは焦っていた。
     ライトは想像以上に手強かったのだ。というのも彼は恋愛感情にとにかく疎い。時には魔性とさえ囃し立てられるアキラの口説き文句にも全く靡かず……否、照れはする。のに、口説かれてはくれないからこそタチが悪い。ぎこちなく頷いたり、ありがとうと微笑んだり、時には頬を薄らと赤らめて黙り込んだり。どう見ても脈アリの反応をするのに、なんと彼はただ褒められて照れているだけなのである。嘘だと思うだろう? これが本当なのだから、アキラも頭を抱える他なかった。数ヶ月間ずっとアプローチを仕掛けてきて、未だにアキラが口にする好意に自分が『友人として』好かれていることに喜ぶレベルなのだ。ふわふわと嬉しげな雰囲気を纏うところはかわいいが、そうじゃない。もはや手強いを通り越して難攻不落だ。こんなところまで彼は無敗のチャンピオンだった。

     と、まあ一筋縄ではいかないものの、アキラ自身はこの状況を楽しんでもいる。妹にも言われるように、アキラはのめり込むと周りが見えなくなる質だ。壁は高ければ高いほど、ガードは堅ければ堅いほど攻略しがいがあるというもの。殊に恋愛においてこんなにも夢中にさせられて、好意はあるのに一向に意識されないという状況は初めてだった。その辺の女子であれば一言でぐらつくような甘い言葉も通用しないのに、彼は容赦無くアキラをその一挙一動で翻弄してくる。しかも自覚なしで、だ。
     全くもって前途多難だが、それがかえってアキラを燃え上がらせた。こうなったら絶対に逃すものか、と。

     そんなこんなで今回もデートを取り付けた訳だが、今日は少しいつもと趣向が違う。
     初めはアキラの方から声をかけ、夕方から家でアキラ厳選のビデオを見る……と言う名目で部屋に招き入れる予定だったのだが、数日前にライトから『昼からルミナスクエアで用事があるから、終わり次第少し早く行っても良いか』という旨の連絡が来たのだ。もちろんアキラに断る理由は無かったため、バイクを停め直す手間を口実に同行を申し出たという訳だった。今日の逢瀬はライトと六分街で合流し次第ルミナスクエアへ行って彼の用事を済ませるついでにぶらつき、その後は家で映画、というニ段構成となった。
     メッセージボックスの1番上に固定されたトーク画面を見直し、アキラは組んだ両手に顔を埋める。画面には『実はそう言ってくれるんじゃないかと少し期待していた』という返事と笑顔の顔文字が映し出されていた。何度見ても高火力すぎるカウンターだ。これで無自覚なのだから本当にタチが悪い。

    「――お兄ちゃん! お兄ちゃんてば!!」

     ひらひらと目の前をちらつく光にハッとすれば、いつの間にか朝食どころか支度まで終えていたリンが腰に手を当てて呆れた顔をしていた。片手には彼女の携帯端末が握られている。

    「あ、ああ。なんだい、リン」
    「もう、何回も呼んだのに! ねえねえ、このキャンペーン今日からなんだって! 知ってた?」
    「……期間限定、特別仕様スクラッチ?」

     差し出された端末を覗き込むと、リンが見せてきたのはインターノットで話題になっているスレッドだった。何でも今日から数日間、突発的に各地のニューススタンドのスクラッチが特別仕様になるらしい。曰く、いつものスクラッチに小さくおみくじが書いてあるという。一応高名な寺社が監修しているとか何とか。

    「へぇ、気づかなかったな……」

     確かに先程ニューススタンドに行った時、早朝だと言うのに珍しく混んでいる気がしたがなるほど、このキャンペーンのためだったのだろう。完全に上の空だったアキラは気が付かなかった。

    「スクラッチのカード、まだ持ってるでしょ? 確認してみなよ! その日の運勢とか、結構当たるらしいよ!」

     ニコニコと端末の画面を見せながら、リンは早く! とアキラに急かす。アキラは言われるがまま、ポケットから紙片を取り出した。
     骨が3本描かれた、まずまずといった結果のスクラッチ。よく見ると、カードの端に小さくおみくじが書かれている。内容はと言うと――――『大凶 思わぬアクシデントに注意』……反射的に破り捨てなかった自分を褒めたい。

    「……見なければよかった」
    「ほ、ほら! 大凶って大吉より珍しいって聞くし! そもそもこんな短いおみくじに効果なんてないって!」

     妹の必死のフォローが心に痛い。アキラは再度カウンター上で組んだ手に顔を埋めた。浮かれていた気持ちが急速に地に落ちていく。普段はおみくじなんて非科学的なものを信じたりはしないが、よりにもよって今からライトと会うというタイミングでこの仕打ち。
     もうこれ以上情けない姿は見せたくないのだけれど。ただでさえ彼といると格好つかないことが多いから。

    「あー……えっと。わ、私そろそろ時間だから……!」
    「ああ、行ってらっしゃい」

     気まずい雰囲気に耐えきれなくなったのか、そそくさと出入り口に向かうリンの背中に手を上げる。彼女はドアノブを後ろ手にちらりとこちらを振り向くと、「あ、そうだ」と何かを思い出したような声を上げた。

    「帰りは遅くなると思うから、先に夕ご飯は食べちゃっててね」
    「そうか。気をつけるんだよ」
    「それと、その……もしもだよ? 上手くいかなくても落ち込まないでよね。お兄ちゃんならきっと大丈夫だよ!」

     それだけ言うと、リンは「いってきます!」と今度こそドアを開けて出ていってしまった。バタバタという足音が遠ざかるのを聞きながら、アキラは小さく笑う。
     どうやらすっかりバレていたらしい。しかも、変に落ち込んだ様子を見せてしまったせいで余計な心配をかけてしまった。大方告白でもすると思ったのだろう、バレンタインも近いことだし。ただ、残念ながらお兄ちゃんはそんなに純粋じゃない。
     可愛い妹のおかげでだいぶ持ち直したアキラは、ふうと息をついてカウンターに向き直った。浮かれている自覚はあったから、ある意味ちょうど良い薬になったかも知れない。

     そう、なんてことはないのだ。気まぐれに朝のニュース番組をつけた日に限って、星座占いが最下位だと声高に宣言されたようなもの。そんな偶然に一喜一憂したって仕方がない。第一、大抵のミスは事前の入念な対策で回避可能なのだ。うん。
     心の中で自分を鼓舞しつつ、アキラは開店業務を終わらせるべく、作業部屋へと向かった。

     ――――今思えば、この時すでにアキラは今日いっぱい続く不運の兆しを感じ取っていたのだろう。


    「……おかしいな」
    「ンナ?」
     開店時間を過ぎたというのに誰1人として客の訪れない店内で、アキラは首を傾げた。カウンターの中で今日の店番担当の18号も首をひねる。
     休日に比べて客足が鈍いのは当然だが、それにしても普段と比べてだいぶ閑散としている。何か人が流れるような催し事でもあっただろうかと六部街周辺のイベント情報を思い起こそうとして、ふと以前店で起きた小さなハプニングのことを思い出す。
     それは、至極単純だが店側としてはかなり困る類のもの――――『店先に出してある営業状況を示す札が風か何かでひっくり返って『CLOSE』になっていた』という初歩的かつ致命的な事故だった。

     まさか、まただろうか。アキラは思わず店の入り口を見やる。少なくとも先程店を開けた時には確かに開店を示していたはずだ。……とはいえ、一度ある事は二度あると言うし、油断はできない。一応確認しておこう。

     そう思って正面口のドアノブに手をかけた途端。その手がぐいと前方に強く引っ張られた。

    「ッう、わ!?」

     完全に気を抜いていたアキラは大きく体制を崩し、つんのめる。
     ――――まずい、お客さんに怪我でもさせたら。
     一瞬のうちに頭を駆け巡ったのは、そんな考えだった。しかし、完全に均衡を失った体は、アキラの意思に反してそのまま前へと倒れていく。来るであろう衝撃に備えて固く目を瞑り、せめてもの抵抗にと手を前に突き出して――――。

    「………ッ?」

     しかし、覚悟していた痛みが来ることは無かった。代わりに、むにむにと程よい弾力を持った何か指先が沈む。恐る恐る瞑っていた瞼を上げると、艶を帯びた黒と金属の鋭い輝きが目に入った。どこか見覚えのある色彩に脳が理解を拒否する。

    「――――っと、すまん。大丈夫か?」

     頭上から降り注ぐ、落ち着きの中にわずかな困惑を滲ませた声。耳に心地の良い低さのそれが誰のものなのかなんて、考えなくともわかる。反射的に顔を上げると、案の定そこには脳内と寸分違わぬ端正な顔があった。薄く開いた唇と下がった眉、ずれたサングラス越しには赤を透かした淡い色の瞳が瞬く。それらを正しく認識した瞬間、アキラは自身の心臓が跳ね上がるのを感じた。

    「怪我は……なさそうだな。よかった」

     ライトは小さく息を吐くと、何も発せないままのアキラの肩を掴んでゆっくりと立たせた。どうやら、彼がアキラを咄嗟に受け止めてくれたらしい。確かに、思い切り彼の胸元に突っ込みでもしたら鋭いスタッズがどこかに突き刺さっていた可能性もある。
     流石に危なかった。処理の追いついていない脳の片隅でそんなことを考えながら胸元に視線をやり――――アキラは今度こそ、文字通り固まった。

     トレードマークの赤いマフラーの下、体の線にぴったりと沿ったライダースジャケット。そこに押し込められ、なだらかなラインを描く双丘。
     ……に、食い込む骨ばった指。

    「ッ、――――!!」

     まずいと思うのに、レザーとダメージの入ったインナーから覗く肌色のコントラストから目を離せない。厚めの生地越しにもわかる、見た目よりもずっとしなやかな肉体。その下の硬い骨の感触、さらには体温まで完璧に感じ取ってしまって、アキラの脳内はショート寸前だった。
     まって、待ってくれ。何が起きているんだ。自分は今どんな体制をして、というより今自分が手をついているのは――――

    「……アキラ?」
    「はっ、す、すまない」

     不思議そうな声にアキラは我に返り、弾かれるように手を離した。その反動で数歩後ずさる。ようやく回り出した頭と共に、じわじわと頬が熱を帯びていくのをどこか遠く感じる。
     柔らかかっt……――――じゃない、落ち着け。いくら事故でも触ったのは事実。とにかくあまりにあまりな非礼を詫びなければ。そう思って顔を上げると、どこか真剣な雰囲気を纏ったライトの顔がすぐ目の前にあった。

    「ら、ライトさ、」
    「……様子が変だが、もしかして手首でも痛めたのか? 見せてみろ」

     いつの間に距離を詰められていたのか。
     そんなことを考える間も無く、グローブに包まれた指先にするりと右腕を掴まれて、アキラはぎくりと肩を強張らせた。顔面だけは平静を装おうとしているものの、果たしてできているかは定かではない。掴まれた腕から早鐘を打つ心臓の音が伝わってしまいそうだ。どうにか自然に距離を取れないものかと画策するが、目の前の端正な顔が真剣にこちらを気遣っているのが伝わってくるからこそ、拒否することはできなかった。

     嘘だろ、この人胸に触られたこと全く気にしてない。というか待って、近い近い近い。
     アキラの葛藤など知る由もなく、ライトは繊細な手つきで手首を曲げたり伸ばしたり、一回転させて異常がないことを確認すると、「うん」とひとつ頷いて微笑んだ。含みのない、純粋な微笑み。アキラの好きな笑い方だ。

    「特に問題は無さそうだな、よかった」
    「あ、ああ……。お陰様でね……」
    「後になって痛むようならちゃんと言うんだぞ。大切な商売道具を傷つけちゃ面目が立たん」

     安心したように目じりを下げるライトに今度は良心の呵責が始まる。彼は純粋にアキラを気遣ってくれているというのに、自分ときたら謝罪どころか邪な想像しか出来ていない。今だって「柔らかかった」「優しい、好きだ」とかで頭の8割は埋まっている。良くない。本当にそろそろ切り替えないとまずい。何たって、デートはこれからなのだ。
     開幕から醜態を晒してしまった以上、ここから挽回しなければならない。邪な思考をなんとか頭の隅に追いやり、アキラは小さく咳払いをして、見慣れた赤いマフラーに向き直った。

    「とにかく、助かったよ。僕の不注意で驚かせてすまなかったね」
    「いや、俺の方こそ急に開けて悪かったな。……何か急いでいたようだったが、どうかしたのか?」

     そうだった、店先のプレートを確認しようとしたのだった。アキラは一言断ってライトの横をすり抜け、もう一度ドアを押し開ける。半身を外に出して――――そっと戻した。札は『OPEN』のままだった。つまり取り越し苦労。

    「いや……うん。どうやら、僕の勘違いだったようだ」
    「そうか? ならいいが」

     無駄に焦った結果、事故ってただ彼の胸筋を揉んでしまっただけと言う訳である。最低だ。本当に。閉めたドアに寄りかかって額を押さえるアキラに、ライトは不思議そうに首を傾げつつもとりあえず頷いてくれる。その優しさが今は胸に沁みるが、気まずくて顔を直視できそうにない。

    「そ、そういえばまだ約束の時間には早いだろう? 何かあったのかい?」

     これ以上この話を掘り下げられる前に、慌てて話題の変更を試みる。ライトはああ、と頷くと太もものポーチから小さな紙袋を取り出した。ちらりとカウンターを見遣って、丸い目を瞬かせる18号に目配せをする。

    「主人を借りちまうからな。健気な従業員に根回しを、と思って」
    「ボンプ用のエーテル電池かい? そんな、気を遣わなくていいのに……けどみんな喜ぶよ。ありがとう」

     キラキラと目を輝かせる18号を手招くと、彼はぽよぽよとライトに駆け寄る。紙袋を受け取って嬉しそうに揺れる長い耳に、跪いたライトも満更でもなさそうに頬を緩め、その丸みを帯びた頭を手のひらで優しく撫でていた。

    「兄弟で仲良く分けるんだぞ」
    「じゃあ、そろそろ行こうか。店を頼むね、18ちゃん」
    「ン! ンナ!」

     あまりに平和すぎる光景を楽しむこと数分、ライトは18号の頭をひと撫ですると立ち上がった。時計を見れば、ちょうど約束の時間になっていた。機嫌良くぶんぶんと振られる小さな腕に手を振って、二人並んで店を出る。

    「今日は何の用事があるんだい? 日用品の買い出し?」
    「いや、今日は発注やら予約品の確認がメインだ。付き合わせるばかりじゃ悪いから、昼飯はあんたの好きな店に行こう」
    「気にしないでくれ、勝手に同行を申し出たのは僕だよ。でも、ちょうど気になってるバーガー屋があって、そこのスイーツがね……」

     忙しい時なんかは走って30秒の距離も煩わしいのに、ライトがいるだけでどれだけ長い道のりでも苦もなく歩けてしまいそうだから不思議だ。互いにプライベートで会うのは久しく、会話も弾む。他愛無い話が楽しくて、『プロキシ』『店長』ではなく『アキラ』と呼ぶ穏やかな表情に心をくすぐられて、出会い頭の醜態のことなどだんだんと思考の外に追いやられていった。

     *******

     しかし、そんな穏やかな時間は長くは続かなかった。
     駅に着き、電車に乗るまでは良かった。しかし、問題はそこからだったのだ。

    「ふ、………っ」

     ――――そう、満員電車。乗り込んだ時はまばらだった乗客はたった数駅の間にどんどんとその数を増やし、今や身動きも取れないほどの過密具合となっていた。通常であれば、ラッシュの時間以外はここまで混雑することなどそうないのだが、やはり何かイベントでもあるのだろうか。周辺の情報を後で調べ直そうと決意しつつ、アキラは務めて意識しないようにしていた腕の中の存在へそっと目を向ける。

    「っ、く、……」

     当初、雪崩れ込んできた人々によってアキラは扉側のポール脇の空間に追い詰められ、ライトはそれを庇うように壁に手をついて立ってくれていた。しかし、流石にこの人波の中で自分だけ空間を維持してもらうのは各方面に何だか申し訳ないと、彼の腰をそっと引き寄せた。――――それが、間違いだった。
     手探りで触れたのは彼の脇腹で、おそらく彼は結構なくすぐったがりだったのだ。小さく息を飲む音と共に突っ張られていた腕からかくんと力が抜けたと思えば、すぐに人々の圧は2人の間から空間を奪ってしまった。

     ……そして今に至る。
     腰――もとい脇腹に回した手すら押し合いへし合いの人混みでは離すに離せず、アキラは未だにライトの脇腹をくすぐっているような状態だ。触れた体は時折可哀想なほど強ばり、時折鼻にかかったような吐息が聞こえてくる。小さく身動ぐたびにふわりとほのかに香る甘いフローラルはおそらく洗剤か柔軟剤。あまり彼らしくはないが、仲間の好みだろうか。そう思うと逆に彼らしいが、今のアキラはそれどころではなかった。

     ――――隙間もないほど互いに密着し合った状態、なんなら彼は周囲への配慮で尖った金具付きの上着を脱いでいるため、今や朝の事故時以上にその体温と感触をダイレクトに感じる。鍛え抜かれた筋肉は柔らかいと小耳に挟んだことはあるが、ここまでとは。アキラは酸欠と混乱で回転の狂った思考回路で考える。

     自身の骨ばった体とは全く違う、しなやかで弾力のある筋肉に覆われた身体は全身どこをとっても絶妙な柔らかさを感じる。特に胸。そこは押されてふにゅ♡と形を変えるくらいにふくよかなのに、腹まわりは胸と比べると驚くほどキュッと細く引き締まっている。二重の意味で魅力的な肉体美ををまざまざと見せつけられて、なんというかこう……生殺しもいいところである。それなのに彼ときたら「大丈夫か」等と純粋にこちらの心配ばかりしてくるから目眩がしそうだ。

    「――――ふ、ぅ……っ」

     時折苦しそうに息を詰めるライトはじっと俯いている。もう肩に顎先が触れそうな距離だ。そっと覗き込めば、その表情こそ伺えないものの、髪の隙間からマフラーと同じ色に染まった耳朶が見えた。ああもう、全部が可愛くて色っぽいなんて反則だ。逆の立ち位置になれば良かったと今更ながらに後悔する。新エリー都のメトロはそこそこ騒がしいとはいえ、この危なっかしい人を満員電車の衆目に晒すべきではなかった。先程から盗み見るような視線を感じるのはおそらく気のせいではない。全く、何て日なのだろう。アキラはため息をつきたくなるのを堪えて、周囲への牽制ついでにライトを励まそうと赤く染まった耳元に唇を寄せた。

    「ライトさん」
    「っ、なん、だ……?」
    「大丈夫かい? もう少しこっちにおいで」
    「ッ~~〜〜く、ふ……っ! ッそこで、喋らないでくれないか……」

     喋らないで欲しいのはこっちの方なんだけどなあ! そんな声で!!
     アキラの気も知らず、彼は肩口に顔を埋める勢いで体を折り、耐え切れないとばかりに小さく笑い声を漏らしている。噛み殺された声は決してうるさいという訳ではない。ただ、その跳ねる吐息や鼻にかかった声が腰にクるというだけ。まかり間違ってあらぬ所が元気になっては困るのだ。自分が情欲を孕んだ目で見られているなど夢にも思っていないのだろう、無防備に笑ってくれるのは心から嬉しいが今だけは勘弁して欲しかった。

    「あ、きら……っ、あと、どのくらい、で……っ」
    「ルミナスクエアまで? 2駅だね」
    「〜〜〜〜っは、………ふ、……っ」
    「っ、ライトさん……!」
    「ん、ぅ、すまな、っくすぐったくて、……ッきに、しないでくれ……」

     申し訳ないが到底無理な相談である。
     ぷるぷると震えっぱなしの彼に肩を貸しながら、アキラはただひたすらに頭の中で市場に出回っているボンプの名称を並べ立て始めた。車内広告など目で追っていようにも視界はほぼ彼色で染まっていて、許された抵抗などもはやそのくらいしかなかったのだ。

     ******

     アキラにとっては生き地獄のような時間を経た後のルミナスクエア。電車内での一件以降、2人は何事もなく穏やかに過ごせていた。

     ……と言いたいところだが、実際はそう上手くはいかないのが現実である。1度あることは2度あるし、2度あることは3度ある。3度目の正直も過ぎれば……あとはもうお察しだろう。信じたくはないが、まさに『大凶』と言った様相だった。

     道を歩けばどこからともなく吹っ飛んできたボンプに背中に激突され、彼の用事を済ませるために商店に入れば商品を物色する客に肩をぶつけられて、もう何度彼に体当たりをかましたことか。体当たりというか、毎度のようにライトはよろけもせずに受け止めてくれるため、ほぼ抱きついていた。側から見れば完全に変態である。ライトの強靭な体幹が無ければ街中で何度押し倒していたかも分からないのに、彼はその都度笑って許してくれた。「大丈夫か?」とかけられる声は怒るわけでもなく、後半に至っては心配の色を濃くするばかりで、アキラはあまりの気まずさにとにかく謝罪を重ねた。いっそ怒ってくれた方がまだ気は楽だっただろう。

     遅くなった昼食もそこそこにルミナモールに入ればエレベーターは大混雑。電車内の再来のような人波に揉まれて再びライトの胸に顔を埋めることになってしまったし、やっとの思いでライトの用事――――相変わらずほぼ使いっ走りである――――を終えて人混みから逃げるようにルミナの中心から逃げるように川辺を歩いていたところ、突然の土砂降りに見舞われて2人して空き店舗の軒下へと逃げ込む羽目になってしまった。

     そして今に至る。

    「ハァ、酷い日だ……」
     滴るほどではないものの水を吸ってじっとりと重くなった上着の袖を振り、アキラはため息を溢す。
     色褪せた『テナント募集中』の張り紙の貼られた店舗は庇が張り出しており、車が2、3台は停められそうなスペースの奥にガラス扉が見える作りとなっていた。駅から離れたこともあり、アキラたち以外に避難してくる人影もない。

    「……アキラ、寒くないか?」
    「ちょっと肌寒いけど大丈夫だよ。ライトさんこそ平気かい?」
    「ああ、問題ない」
    「そっか、よかった……」

     言葉通り、ライトのライダースジャケットは水を弾いているようであまり濡れているようには見えない。アキラはほっと胸を撫で下ろす。しかし、よく見ればジャケットに覆われていない胸元やマフラーはその色を濃くしてしっとりと張り付き、サングラスも前髪も除けられて両目が顕になっている。顎のラインに従って伝い落ちる雫に、なんとなく見てはいけないものを見ているような気持ちになって、アキラはそっと視線を逸らした。
     ついさっきまでは夕日に照らされていた街並みは、今や雨でけぶるどころか数メートル先も見えないほどに暗くなり、雨音だけが2人の鼓膜を震わせている。

    「……すぐには止みそうにないな」
    「そうだね……。はぁ、なんだか今日はとことんツイてないみたいだ。巻き込んでごめんよ、ライトさん」
    「謝ることじゃない、むしろそういう日に側に居てやれて何よりだ。……何度転けても受け止めてやれるだろう?」

     もう付き合ってたっけ? と錯覚してしまいそうなほど甘いセリフに思わず振り向く。しかし続いた言葉は相変わらず期待を打ち砕いてくる鈍感なもので、口では「ありがとう」と言いつつも内心は複雑だった。それも得意げな表情のなんとも言えない可愛さを前にするとどうでもよくなってしまうのだけれど。

    「とはいえ、どうしたものかな。しばらく止みそうにないとはいえ、このままじゃ冷えてしまうし……そもそも駅にたどり着いたところでびしょ濡れじゃ電車にも乗れない。うわ、タクシーも大混雑だ」
    「そうだな、どこか雨宿りできそうなところは……ああ、そこの通りを入った先ににホテルがあるらし、――――うん?」
    「え」

     2人して濡れた体を拭いつつそれぞれの携帯端末を覗き込んでいれば、ライトは突然言葉を切って不思議そうな声を零す。それと同時にアキラも硬直した。
     ホテル。聞き間違えじゃなければ、今この人ホテルって言わなかったか??
     おおよそ鈍感かつ恋愛音痴のライトから聞くはずのない単語に、アキラは動揺を隠せないまま彼を見る。しかし彼はアキラの視線など気にも留めず、何やら下に視線を向けていた。

    「――はは、見てくれアキラ。小さな先客がいたぞ。っ、と!」
    「ライトさん!?」

     発された言葉を理解する前に、ライトはふらりとたたらを踏む。咄嗟に支えようとするも、彼は難なく体勢を立て直し――そしてしゃがみ込んだ。具合でも悪いのかとその背に手を伸ばそうとして、ようやくアキラは彼の意図を汲み取った。

     ――――小さな先客、それは4個の毛玉……否、4匹の子犬だった。雨が降るより前にこの場にいた、と言うよりここを住処としているのだろう。薄茶色のふわふわとした毛並みはさして濡れている様子もなければ、汚れてもいない。新エリー都には野犬も多いが、この子達はおそらく近隣住民に可愛がられているのだろう、よく見れば周囲には餌皿らしきものやふわふわとした毛布の敷かれた小屋が見受けられた。両腕にすっぽりと収まるサイズの彼らはライトの足元にころころとじゃれつき、身動きを封じるように我先にと彼の足に前脚を伸ばしている。

    「こら、危ないだろう。〜〜〜〜っわかったわかった、ちょっと待ってくれ」

     一瞬助けを求めるような目を向けられた気がしたが、流石に子犬相手では本気で抵抗もできないらしい。アキラが苦笑すると、ライトは小さくため息をついて両膝をついた。少し迷った後に上着を脱いで地べたに放り、肩から垂れるマフラーの端をいそいそと首元に仕舞う。そんなことをしている間に、子犬たちは我先にとライトの膝によじ登ったり、背中に前足をついて跳ねたりとやりたい放題だ。
     彼は困ったように眉を下げながらも、腹にまとわりつく一匹を腕に抱えて撫で始める。すると、抱えられた1匹はぶんぶんと尻尾を振り回して伸び上がり、ライトの頬をぺろぺろと舐め始めた。それをみた他の毛玉たちはずるいとばかりにより一層激しくライトに群がり始める。

    「っふ……っよせ、くすぐったい。ああもう順番だ、順番に……っ」

     彼はくふくふと抑えきれない笑い声をこぼしながら代わる代わる子犬を抱き上げては撫でていく。あまりに平和すぎる光景に、アキラは一旦掌で目を覆って長く息を吐いた。そうでもしないと正気を保てそうにないほど可愛い。いっそ暴力的なまでの愛くるしさに、否応なく尊いという感情を理解させられた。インターノット上で推しに狂う人々の気持ちはこんな感じなのだろう。ギュンギュンと音を立てる心臓のあたりを押さえつつ、アキラは携帯端末を掲げてカメラを起動した。もちろん動画モード、設定は最高画質だ。

    「っ、アキラ! 写真を撮るくらいならあんたも手伝っ……っ、ふ、はは、まて、こらっ」
    「ごめんね、僕猫派なんだ。ワンちゃんは見る専で」
    「嘘つけこの間一緒に遊、〜〜〜〜ッぁ! そんなとこ、噛むなぁ……っ!」

     子犬を撮っていると思ったのか、ライトは咎めるような声を上げるもきゅんきゅんと甘え鳴きをする子犬たちの猛攻の前にあえなく撃沈する。短い手足と顎であちこちを擽られては衣服を乱され、体の至る所を舐めまわされ、もう降参だとばかりに頭を振って笑い声を上げる想い人を動画に収めつつ、アキラは控えめな笑い声に混ざる熱い吐息にごくりと唾を飲み込んだ。
     子犬たちのじゃれつく姿に顔を綻ばせる彼は本当に可愛いのだが――――そろそろちょっとやりすぎではなかろうか。正直ちょっと悔しいというか羨ましいというか、代わってほしいというか。そんな大人気ない嫉妬心に自分自身でも呆れつつ、アキラは録画を止めて端末を下ろす。そろそろ助け船を出そうか、と一歩踏み出そうとしたところで、眼前に黒い影が横切った。

    「ッ、うお」

     ヴォンッ! と低く吠える声が聞こえると同時に、毛玉と戯れていたライトに向かって黒い塊が突っ込んできた。アキラが声を上げるよりも早く、ライトは子犬を庇うように抱き込んでその場に倒れる。

    「ッライトさ……――――え」

     ハッと我に返ったアキラは、握った携帯端末もそのままにライトに駆け寄ろうとする。しかし、すぐに足を止めることになった。ライトに覆い被さるようにのしかかった黒い影は、雨水をぼたぼたと垂らしながらもボフボフと低く吠えてその頭をライトに擦り付けている。

    「っ、犬……?」
    「っは、ああ……おそらくこいつらの母犬だろう。随分大きいな、どおりでこいつらも子犬にしてはでかいと」
    「いや、そうじゃなくて……! ライトさん、大丈夫かい?」
    「ん? ああ、問題ない」

     ライトは地面に押し倒されたまま、特に動揺するでもなく平然と答える。その周囲では子犬が嬉しそうにキャンと吠えながら跳ね回っていた。
     問題は、あると思うのだけれど。
     アキラはそう思いながらもそれを口にはしなかった。彼の肩口に頭を押し付けて尻尾を振る犬の、戯れ付く勢いは余りにも性急だったのだ。それはまるで、獲物を前にした獣のような――――……

    「よっぽど辺りの人間に可愛がられているんだろう。人懐っこいのはいいが、まったく……。あ、こらお前もか、っ」

     黒かと思いきや、よく見れば黒茶の大型犬はライトの頬をべろり、と舐め上げた。そのまま彼は顔中を舐め回される。

    「んぶ、やめ……っ、」
    「ちょ、」
    「だから少しは落ち着けと……! ほら、いい子だから」

     押し倒されたままの状態で顔を舐められているという絵面があまりにも衝撃的でアキラは思わず声をかけてしまったが、ライトはさして気にする様子もなく子犬たちと同じようにその頭を撫でている。すると黒犬は息を荒らげてライトの首筋を嗅ぎ始めた。

    「っ、こら、くすぐったいだろう。……っ、あ」
    「ライトさん!」
    「ん、ふ……っ! ぁ、こら、そこはだめだ。おい、聞いて……ッ」

     犬に首筋を舐められた途端、ライトの体がぴくりと跳ねる。アキラは思わず生唾を飲み込んだ。
     ライト本人はくすぐったがっているだけなのだろうが、どうしてもアキラはその声色に艶を感じ取ってしまう。ライトは首筋も弱い、と無駄に冷静な思考回路が余計な情報を弾き出しつつ、流石にライン超えだろうと警鐘を鳴らした。嫌がるライトを押し倒して舐め回すなんて、いくら犬が可愛かろうと許されることではない。アキラだってまだライトの素肌に触れたことはないのに。
     どうにか早めにこの犬を引き剥がさないと、でもどうやって。ヒントを求めるようにアキラは犬に目線をやり、ピシリと固まった。

     彼女(?)は、その瞳を爛々と輝かせていた。そして激しい鼻息と共に鼻っ面をライトの頬に擦り付けたかと思えば、あまりに見覚えのある動きをした。ちぎれんばかりに尻尾をふって、へこへこと腰を動かして
     ――――そう、マウンティングである。

    「ライトさん違う、その子母犬じゃない。父犬だ……!!」
    「は? ………っ、な」

     淡緑の瞳はきょとんとアキラを見上げたのち、視線を辿るようにゆっくりと下の方へ降りて行く。そして、ようやく自身が何をされているか理解したらしく、一瞬の硬直の後、そろそろと視線をアキラへ向けた。

    「あー……雌犬でもすることがあるらしいぞ」
    「今言うことじゃないだろう!? 現実逃避してないで早く離れて!!」
    「っ、あ……ああ。すまん、俺は雌じゃないんだ。悪いが他を……っぁ!?」
    「メ……ッ!? あ、ちょっと!!」

     ライトは事もなげに犬を押し上げると、体を反転させて腹の下から這い出ようとする。それが気に食わなかったのか、黒犬はグルグルと唸り声を上げてもう一度その体に飛びつき、逃さないとばかりに頸に鼻先を埋めて腰を振りたくる。もう完全に交尾の姿勢である。

    「待て待て、それは流石にダメだろう……!!!」
    「ッこら、いい加減に……っう、ぁッ!?」

     流石に危機感を持ったのか声を荒げたライトは、しかし突然その語尾を跳ねさせた。興奮し切った犬がその頸にがぷっと噛み付いたのである。幸いなことに甘噛みではあるようだが、急所を分厚い舌でべろりと舐め上げられては牙を埋められ、ライトの口からは悲鳴じみた声があがった。アキラがどうにか引き剥がそうにも、下手に手を出して犬が怒りでもしたら彼が危ない。

    「――――え、」

     伸ばしかけた手が止まった瞬間、きゃんきゃんと甲高い鳴き声と共に毛玉が黒犬とライトの間に割り入った。毛玉たちは小さな体を奮い立たせて唸り、まるでライトをいじめるなとでも言わんばかりに黒犬の顔から尻尾までまとわりつく。黒犬も流石に我が子を振り落とすほど理性を失っているわけでもないらしく、低く喉を鳴らしながらもよたよたとライトの上から後退った。それでも、かろうじて顕になっている片目はライトを睨みつけたままだ。

    「っライトさん、今がチャンスだよ! 逃げよう!」
    「ッあ、ああ……!!」

     我に返ったアキラはライトの手を強く引いて立ち上がらせると、冷たい雨の中へと駆け出した。ライトもすぐにその意図を察してアキラに続く。背後から低く吠え立てる声が聞こえるが、遠ざかっているあたり追って来てはいないようだ。背後でライトが振り返るような気配を感じて、アキラはもう一度その手を強く握り込んだ。

     ――――――

    「はぁ、すっかりびしょ濡れだ。しかし助かった、まさかあんな目に遭うとはな……」

     片手にはすっかり色を濃くしたマフラーと水滴だらけのサングラスを引っ掛け、ライトは濡れた髪を煩わしそうにかき上げながら小さくため息をつく。アキラはと言うとエレベーターの手すりに腰を預け、「そうだね」などと平静を装いつつも、使い捨ての薄っぺらいカードキーを片手に心中で激しい動悸と格闘していた。

     他に選択肢がなかったとは言え、付き合ってもいない人間をいきなりホテルに連れ込むのはまずくないか? しかも頭にラブのつく方。一夜限りの仲ならまだしも、相手は慎重に慎重を重ねて距離を詰めている最中の想い人なのだ。
     手を出したいのは山々だが、時期尚早にも程があるのではなかろうか。いやある。何てったって相手はあのライトなので、おそらく――――

    「にしても、都会のホテルってのは凄いな。一泊じゃなくて時間単位の料金があるのか。雨宿りにはもってこいの場所だ」
    「ハハハ」

     チーン! とコメディ映画の効果音のように音を立ててエレベーターの扉が開く。
     ほら見たことか!! とアキラは脳内で叫んだ。ホテルを地図で示した時点でもしやとは思っていたが、彼はおそらくラブホテルと一般的なホテルの違いが分かってない。と言うかラブホそのもの知らない可能性が高い。

     ――――とは言ってもまだ分からないじゃないか! と一縷の望みをかけて向かった部屋。彼はラブホにありがちな二重扉、その間の壁に埋まった精算機を不思議そうに見やり、部屋に入った彼が第一声「随分と煌びやかな部屋なんだな」と言い放ってくれた。完全に確定である。さっきまで少し落ち込んでいた声のトーンが少し上向いてくれたのは何よりだが、正直だいぶいたたまれない。アキラはせめてもの良心で上着を脱ぐふりをしつつそっと壁掛けのテレビ横に立ちふさがった。言い逃れできない類のものはこういうところに置いてありがちなのだ、大抵は。

    「……ライトさん、とりあえずシャワーを浴びておいで。随分濡れてしまったし、犬に舐めまわされてべたべただろう?」
    「それを言うなら震えてるあんたのほうが先に浴びるべきだろう。風邪でも引かせたら何人からどやされるかわかったもんじゃない。俺は平気だ、いいから先に……っくしゅ」
    「ほら、冷えてるのはあなただって同じじゃないか」
    「……なら一緒に入るか。幸い、ここの風呂は広そうだしな」

     ライトはタイミングの悪いくしゃみを誤魔化すように浴室へと視線をやる。見に行ってもいないのに広さがわかるのは、全面ガラス張りの浴室は思い切りライトの視界に収まっているからだ。

    「そ、それは流石にまずいよ。ちょうど頭を冷やしたいと思っていたところだったし僕は後で」
    「まずい? これ以上冷えてどうする。同性同士だろう? 何をそんなに躊躇っているんだ」

     うちの面子なんか4人揃ってシャワーを浴びちゃあ取っ組み合ってるぞ、とライトは呆れ混じりの声で続ける。アキラは「相変わらず仲良しだね」と目を逸らした。
     確かに同性同士なら一緒に風呂に入ったって問題ないだろう。しかし、アキラには大アリなのだ。想い人の裸を目の前にして、平静を保っていられる自信がない。そんなアキラの葛藤など露知らず、ライトはさっさと上着を脱ぎ捨てると「そら」とアキラを脱衣所に押し込み、扉の代わりに立ち塞がった。

    「どうしても嫌なら俺を押しのけてでも出て行くんだな。あんたが渋れば渋る程、揃って風邪をひく確率が上がるだけだぞ」

     数筋の前髪を残して水分を含んで重たくなった髪をかき上げ、冷えて赤くなった目元をいたずらっぽく細めて彼は言う。ぴたりと肌に張り付いたインナーは均整の取れた体つきを際立たせ、まだシャワーを浴びていないというのにうっすらと水気を含んだ肌はどこか艶っぽく、アキラを試すような笑みと相まって酷く蠱惑的に思えた。

    「〜〜〜〜っわかった、降参だ。その前にお湯を張るからちょっと待ってくれ」
    「はは、そう来なくちゃな」

     無敗のチャンピオンを相手に力勝負を挑むほど無謀ではない。早々に観念したアキラの言葉に、ライトは満足そうに笑う。その笑顔の無垢さとは裏腹に、アキラの胸中は穏やかではなかった。
     ――――これはもう、覚悟を決めるしかなさそうだ。
     アキラは半ば諦めの境地に達しつつ、寒さとは違った意味で強張る指で浴室のパネルを操作した。

      結論から言えば、アキラはベッドに沈む羽目となった。

     その要因は単純かつ明快。ざっとシャワーを使って先に広い風呂に入って以降、ライトが同じくシャワーを浴びて湯に浸かり、出ていくまでの間ずっとアキラは浴槽から上がることができなかったからである。なぜって? 想像してみて欲しい。普段着込みがちな想い人が一糸纏わぬ姿で自分の前で寛いでいる様子を。しかも肌を濡らして火照らせ、無防備にもバスタブの縁に頬杖をついて「気持ちいいな」なんて微笑んでは気持ち良さげに吐息を漏らす姿を。物珍しいのか、どこか楽しげに泡をつついては掬ったりして純粋にジャグジーを満喫するおぼこい男には申し訳ないが、アキラは今日ほど下半身を隠してくれる泡に感謝したことは無かった。

     そうして、ようやく身体が温まった2人は先程の犬の件について礼を言われたり、それまでのトラブルについて礼を言い返したりして表面上だけは穏やかな時間を過ごした。しかし、半身浴さえ許されずに湯に浸かり続けていたアキラは、気づけばすっかり逆上せかけていたという訳である。

    「いや……本当に申し訳ない……」

     アキラは中身が半分まで減ったペットボトルを手に、のろのろと上体を起こす。ライトの迅速な対応のおかげで、もうだいぶ体のだるさは抜けていた。どちらかと言えば、また新たに醜態を晒した精神的ダメージの方が大きい。

    「気にしないでくれ。どっちにしろ服が乾くまでは身動きが取れないんだ」

     ひょこりと浴室に続くドアから現れたライトは、どこか安堵したように笑ってベッドに腰掛けた。どうやらアキラの分まで服を浴室乾燥機にかけてきてくれたらしい。諸々への感謝を込めて礼を告げると、ライトは小さく首を振った。
     ベッドサイドに置かれていた携帯端末を手に取れば、表示された時刻はすでに20時を回っている。予定通りであればとっくにライトを店へと連れ帰って映画を見始めていた頃だろう。すっかり狂ってしまった計画に、アキラはもはや何度目かわからないため息をついた。

    「参ったな……。一応リンに連絡しておこう」

     彼女も雨に降られていないといいけれど。アキラは足止めを喰らっていることを手短にDMで伝え、返事を待たずに天気アプリを開く。窓のない部屋から外の様子は伺えないが、表示されたマークは雨。突如発達した雨雲によってもたらされた雨は、今夜遅くまで降り続くと書かれていた。もしやと思ってインターノットを開くと、電車の運休やタクシー待ちの大行列を嘆く投稿で溢れかえっていた。

    「……どうした?」
    「ああいや、もしかしたら今夜は帰れないかもと思って。雨で交通網が軒並みやられてるらしい」
    「なるほど……都会は大変だな。なら、ここに泊まればいいんじゃないか?」
    「そ、れはそうなんだけど」

     大胆な発言に声がひっくり返りそうになる。何となく予想はついていたが本当に言った。なぜなら彼はここがどんな場所で、今発言がどう取られるか、自分がどう見られているのかを何一つわかっていないのだ。アキラはめまいがぶり返しそうになるのをどうにか抑えて、一旦「どうしたものかな」と濁す。

    「……もしや、あんたも人のいる場で眠るのが苦手なタイプか?」
    「いや。枕が違うとかはともかく――――待って、あんた『も』? ライトさんは苦手?」
    「まあ、そうだな。でも、あんたとなら問題無さそうだ」
    「っそれってどういう……」
    「俺は人の気配があると眠れないんだ。でもアキラ、あんたとならよく眠れそうだと思って」
    「……ッ」

     そう言って、ライトは目を伏せて穏やかな笑みを浮かべる。その笑顔には全幅の信頼が浮かんでいて、アキラは思わず言葉に詰まった。彼に他意はない。それはわかっている。わかっているけれど、こうまで無垢に信用されてはかえって言葉に詰まってしまう。
     だって、アキラには下心があるのだ。正直、アキラにはいい歳をした正気の大人2人がホテルに縺れ込んだ以上、どうなったって文句は言えないとさえ思う暴力的な気持ちさえある。けれど――――どうしても、彼だけは傷つけたくない。むき出しの好意を向けられるたびに、その思いは強くなる一方だった。
     そうして黙り込んだアキラを見て何を思ったか、ライトはほんの少し眉を下げて頬を掻く。

    「あー……すまん、男と同衾させるつもりはない。俺はソファで眠るから、あんたがベッドを使ってくれ」
    「な、違う! いや違くないけど、……ッ!」

     明らかに誤魔化した、とわかる笑い方だった。体ごと顔を背けられてしまうのを、アキラは勢いのままに肩を掴んで止める。その拍子に湿気の残った髪がふわふわと柔らかく揺れ、普段は隠されて見えない右目が露わになった。ついでにバスローブがはだけて、右肩を大きく裂いた傷跡も。その無防備な様にごくりと喉が鳴る。ああもう、本当に。

    「お願いだから、もう少し自覚してくれ……!!」

     ぴくりと跳ねた肩、見開かれた丸い目。やってしまった、と気づくがもう遅い。自分でも驚くほど切羽詰まった掠れ声に、欠片残った冷静な自分が冷めた目線を送る。そりゃそうだろう。口説くべき相手に、こんな切羽詰まった声で「自覚しろ」なんてお門違いにもほどがある。でも、もう限界なのだ。

    「……ダメだよ、ライトさん。『あんたとならよく眠れる』なんて、好きな相手に言われたらどんな人だって期待してしまう」
    「あ、……」

     いつのまにか自身の手が彼の胸ぐらを掴んでいたことに気づいて、パッとを胸元を正すフリで誤魔化す。アキラの一連の挙動に、ライトはぽかんと小さく口を開けている。本当にそういうところ。半ば現実逃避しながら、どうにでもなれ、とアキラは続けた。

    「僕だってそうだ。好きな人が無防備にそんなことを言って、しかもラブホのベッドで2人きりなんて正直気が気じゃ………大丈夫かい?」
    「――――ッ!!」

     熱弁もそこまでだった。驚かせてしまっただろうか、と黙り込んだままのライトの顔をのぞき込んだアキラは、そこで言葉を失った。なぜなら、ライトは目を見開いたままじわじわと頬を染めていて、アキラの視線に動じることなく見つめてくる。今まで何回も口説いて来たが、一度も見たことのない反応だった。

    「す、………っあんた今、なんて」
    「え? 好きって、………今まで何回も言ってきたよね? 僕」
    「いや、初耳だが……」
    「うそだろう??」

     ライトはそこにないサングラスをあげようとして指先で宙を掻き、慌てたようにくしゃりと前髪を乱した。
     何故今まで言わなかった? と言外に問いかけてくる目に、アキラは己の過ちを悟る。ずっと伝えてきたつもりなのだが、肝心の本人には一欠片も伝わっていなかったらしい。確かに、言われてみれば「あなたと愛に殉じてみたいな」「そういうところが好き」だのは散々言って来たが、「好きです。付き合ってください」などと旧文明の漫画雑誌じみた定型的な告白をしたことは無かったかもしれない。彼が鈍感なのは重々承知の上だったが、まさか状況によって「好き」の一言で伝わってしまうとは思わなかった。

    「そんなことってある……?」
    「あんたは誰にでも優しいし、いつも小っ恥ずかしいことばかり言うから……てっきり誰にでもそうなのかと」
    「違うよ……」

     アキラはがくりと肩を落とした。もしそうなら今頃アキラは蜂の巣では済んでいない。何なら、強くて繊細なライトだからこそ殊更丁寧に、真摯に向き合おうとしてきたつもりだ。そうだ、だからこそ直球を避けてきたというのもある。
    だというのに、当の本人はは若干納得がいかないといった様子で唇を曲げている。やがて小さく息を吐くと、彼はいつになくおずおずと小さく口を開いた。

    「じゃあ、あんたは……本当に俺のことが好きなのか?」
    「……うん。好きだよ。もちろん恋愛としての意味でね」
    「っそうか……」

     ライトはそう呟くと、ふいと顔を逸らして黙り込んでしまった。跳ねた髪の隙間から耳まで赤く染まっているのが見える。
     さっきまで一緒に風呂まで入っていたくせに、告白一つでこんなに動揺するなんて。愛おしさ余って、つい悪戯心が芽生えてしまう。肉刺と傷跡に彩られた手の甲をするりと撫でて指を絡ませると、胸を鷲掴みにしても腰を抱いても変わらなかった顔色がよりいっそう赤く染まった。

    「……ねえ、そんな反応されると勘違いしちゃうよ」
    「な、」
    「さっきまであんなにかっこよく僕を守ってくれてたのに。今はこんなに可愛いなんて、ずるい」
    「っ……かわいいはないだろう」
    「はは、久しぶりに聞いたなあその言葉。最近は何言っても『またそれか』っで流されちゃうから」
    「あんた、いきなり意地が悪いぞ……」

     ライトはペースを乱されて打つ手に迷っているようで、お得意のカウンターも繰り出せずに防戦一方となる。それもそのはず、アキラの見立てではまともな恋愛経験に乏しいのは間違い無いのだ。力比べについては言うまでもないが、甘い舌戦なら圧倒的にアキラに軍配が上がる。現に、つい口調に熱が籠っていくのを止められない。

    「何言ってるの、僕ほど優しい人なんてそういないよ。今までどれだけあなたの鈍感さに振り回されてきたか」
    「言うほどか……?」
    「ホテルに誘って、ふたりでお風呂入って、バスローブ一枚で一緒に寝よう、って他意もなく言っちゃう人が鈍感じゃないなら一体何なのか教えてほしいな」
    「っそれは、……あんたならいいと。他のやつだったら絶対にごめんだが」
    「そっか。じゃあ、僕にだけ許してくれるのはどうして?」
    「――――…………っわ、からん」

     ライトはとうとう顔を俯かせて、前髪で視線を遮ってしまう。その隙間から、「そんなに見ないでくれ」と今まで聞いたこともないようなか細い声が聞こえてくる。その声に少しだけ怯えているような色が滲んでいるのを、アキラは聞き逃さない。やっぱりこうなったか、と内心苦笑して小さく息をつくと、ライトはびくりと肩を跳ねさせた。どこまでも強くて脆い人。彼相手だからゆっくり時間をかけていこうと思ったのに、今日は本当にどうしたんだろう。やることなすこと全て空回る挙句、自分の気持ちにすら抑えが効かない。
     けれど、ここで引くわけには行かないのだ。「ライトさん」と努めて優しい声で呼びかける。それでも、彼は顔を上げなかった。

    「人を好きになるのは怖い?」
    「……」

     無言は言葉より雄弁な肯定だ。ほんの微かに震える吐息は彼の怯えを物語っている。それが何なのか、アキラはもう知っている。決して消えない後悔と恐怖、それから罪の意識。ライトの目を塞ぐのは、いつだって他でもない彼自身だ。

    「ライトさん」

     アキラはもう一度名前を呼ぶ。そして、彼の頰を両の掌で包み込み、ゆっくりと上向かせた。戸惑うように揺れる瞳と一瞬だけ視線がかち合うも、すぐに逸らされる。それでも、アキラは構わずに続けた。

    「そんな顔をしないで。あなたが怖いなら、今すぐに答えてとは言わない」
    「っ……だが」
    「無理強いはしたくないんだ。あなたが知りたいと思ってくれるまで、僕は待つよ」
    「いつになるか分からんぞ。あんたは……辛くないのか?」

     ライトは恐る恐るという風に顔を上げる。その声音からは不安が色濃く滲んでいて、アキラは思わず苦笑してしまった。本当に優しいのはどっちなんだか。

    「辛いわけないよ。だって……あともう少し待つだけで、あなたは自分で僕を選んでくれる。なら、待たない理由は一つもない。僕は気が長いんだ、知ってるだろう?」
    「っ……は、意外と自信家なんだな」
    「お陰様で。でも、そこまで自惚れてる訳でもないと思うんだ」
    「?」

     ライトは不思議そうに小首を傾げる。そのあどけない表情に、アキラはまた一つ笑みをこぼした。こちらは初めから長期戦は覚悟の上なのだ。特に今日は色々なものを失ったような気がしないでもないが、大躍進だと言っても過言ではないだろう。
     だって、こちらの想いを受け止めた上で彼が嫌がっていない以上、もう遠慮する理由などないのだ。それどころかーーーー

    「だからね、今日はこれだけ許して」
    「っ、」
    「なあに、これくらいなら友達同士誰でもするだろう?」

     右手は頬に添えたまま、左手でそっと髪をよけながら頬に口付ける。ちゅ、と軽いリップ音を立てて離れると、ライトは長い前髪を掴んで頬を隠しながら睨んでくる。何か言おうとはするものの、言葉が見つからない。そんな表情だ。

    「僕はあなただけだけれど」

     ーーーーこの真っ赤に染まった顔だけで、もう答えは貰っているようなもの。赤い顔で睨まれても欲を煽るだと、いつか教えてあげないと。

    「ふふ、嬉しいな。次のデートは楽しみにしててよ、ちゃんと挽回してみせるから」
    「コホン! あー……足元には注意してほしいもんだな」
    「そうだね、今度はライトさんが犬に襲われないように狼の毛でも借りておこうかな。あと、ホテルに誘いこまないようによく見ておこう」
    「……あんたさっきからホテルホテルって何なんだ」
    「知りたいのかい? それはまた後でにして、とりあえず夕ご飯でも頼もうか」

     アキラはそう言って、ルームサービスを頼むべくテーブルに置かれたタブレットに手を伸ばした。
     
     ーーーー消灯後、全く寝付く様子もなく「やっぱり俺はソファで寝る」と言い出したライトに、再度ベッド上での攻防が繰り返されたのはまた別の話。真っ赤に染まっていた耳に、アキラは口元がにやけそうになるのを必死に抑えていた。
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    🍼❤❤❤❤❤❤😭🙏🙏🙏💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖🍼🍼🍼🍼🍼🍼🍼🍼🍼🍼❤❤❤💖🅱🆎🌱🔦🍼🍼🍼💖💖💖💖🍼🍼👏👏💖💖💖🍼🍼🍼💒☺💞
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    Replies from the creator

    おこめ

    DOODLEアキイト 📼🔦(未成立)でラッキーすけべネタです。
    一日中どたばたデートしてるだけ!
    リクエストありがとうございました🥰長らくお待たせしました!!

    始終📼は(脳内で)よくしゃべるしむっつりプレイボーイ(?)、🔦は鈍感&無知の乙女です。
    ⚠️少しだけ犬×🔦の描写があります。地域猫ならぬ地域犬のような感じを想像していただければ…
    災い転じて福となせ! 開店前の静かなビデオ屋。カシャカシャとビデオのハードカバーが触れ合う音と小さな鼻歌が響く。「おはよー……」と眠たげな目を擦りながら階段を降りてきたリンは、カウンターの中で機嫌よく開店準備をするアキラと目が合うなり怪訝な顔をした。

    「うわあ」
    「おはようリン。お兄ちゃんに対していきなりうわあはないだろう。朝ごはんはそっちのテーブルに置いてあるよ」
    「あ、ありがと。じゃなくて! 随分とご機嫌だね?お兄ちゃんが朝からテンション高いとなんか違和感って言うかぁ……」
    「そうかい?」
    「そうだよ! 鼻歌なんか歌っちゃって。わ、もうコーヒーまで買ってあるし!」

     作業部屋に入るなり、彼女はもう一度うわあと声を上げた。今度は喜色が色濃く滲んでいる。そうだろう。妹の好物のひとつであるエビアボカドサンドは、六分街のコンビニにはごく限られた日にしか売られていない上に朝一に行かないとすぐ売り切れてしまう人気商品だ。
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