たぬいち小話。 待てばかいろの
日和あり
はー…、
ぶしゅっ
「…さむ…」
自分のくしゃみで意識が浮上して
掛布団がだいぶずれている様子だ。
んー…、と目を開けるのもめんどくさいので
ずりずりと芋虫のように足元に向かって下がりつつ
最小限腕を伸ばして掛け布団を探す。
目を開けて探せば楽なのに
目を開ければ一日が始まってしまうので
出来るだけその事実を確定させないように
もぞもぞぱたぱたと
布団の中に納まろうとする。
やっと手が掛布団を見つけたので
ぐいっと頭まで引っ張り上げれば
引っ張り過ぎたのか
足元まで潜り過ぎたのか
足が出てひや…とする。
こりゃダメだ
草薙は仕方なくもぞりと起き上がった。
どんな寝相だったのか
襟元が派手に崩れている
きゅっと襟を引き上げて
わふ…と身震いをしながら大きく欠伸をする。
頭をぼりぼりと搔いて
今日は何かあったか、と思い出そうとしていると
かしかし、と窓から引っ掻き音がするので
ずりずりと這って開けると
ひんやりした空気と一緒に
ぬるん、とした影が入ってきた。
「なんだい、お前さんか」
たし、と閉めると同時に
大きく撓んだ草薙の襟元に
さむいさむいと
ぴょいこら潜り込まれて
一瞬、息が止まった。
「っっ~~、!」
全身に鳥肌を
こめかみにうっすらと青筋を
浮かせながら
懐のやんちゃ怪異を
摘まみだそうとするが
ふー、やれやれ、と
尻尾をもふんを納めて丸くなる様を見て
唇をぐしゃぐしゃに引き結んで
はあー…、と大きくため息を吐いた。
寒気にさらされたオーバーコートが
冷たくて正直放り出したいぐらいだったが
だんだん草薙の体温と自身の体温で
ふくふくと温かくなってくる。
狸の性質を受け継いでか、
夜行性のたぬいちは
草薙の気など露とも知らず
すっかり懐を寝床にして
ぴー…すー…と
呑気な寝息を立てていて
決して
許した訳では無いので
片眉を跳ね上げて渋い顔で眺めるが
何だかんだで流されやすいので
ため息を吐き
どっ…こら、と布団の上に胡坐を掻く。
時間の許す限り
懐の怪異を
ぽんぽことゆるく叩きながら
ゆらゆらあやすのだった。
つづく。