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    conatan111

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    conatan111

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    ルノーの馬に乗せられるギャメルの話

    初めての乗馬「少しでも不穏な動きを見せたら、すぐさま突き落として踏み潰してくれる。そのつもりでいるのだな」
    「俺だって、別に乗りたい訳じゃねえよ。なんなら置いてってくれて構わねえんだぜ」

     視線だけで人を殺せそうなルノーに手を取られて、馬の上に引き上げられる。ギャメルは恐々と馬にまたがった。主人の気持ちが伝播するのか、馬が不機嫌そうに胴震いをする。想像以上に馬上は高く、また馬体は幅があり、足がぷらぷらと中途半端に宙に浮く。当然、元々が複座の鞍でも無い。狭く不安定な鞍の座面に、掴まるところは鞍の前面にある僅かな出っ張りだけだ。手綱を操るルノーの両腕の間に閉じ込められるよう座らざるを得ず、ルノーから立ち昇る不信感や警戒心、苛立ちのような感情が細かな棘のように肌に刺さる。ギャメルはお互いの体が触れないよう、馬の背でやや前のめり気味に体を縮こめた。
    「行くぞ」
     ルノーが馬の腹を軽く蹴ると馬は駈足で走り出した。舗装されていない道を走る馬の上は、不規則に大きく揺れる。今にも振り落とされそうだ。ギャメルはひゅっと息を飲んで、鞍の僅かな取っ掛かりに爪を立てるようにしてしがみついた。皮手袋の中で、指先が真っ白に色を変えている。
    (落ちたら死ぬな)

    「ギャメル、私に寄りかかれ」
    「だが」
    「貴様が前傾でいると、馬に負担がかかるのだ。操縦もし辛い。早くしろ」
    厳しい声で命令され、ギャメルはやむを得ず、ぎこちない動きで重心を後ろにずらした。自ら頼んだ訳では無いとは言え、彼の愛馬に乗せてもらっている身分だ。今更降ろしてくれとも言えない。マント越しの背中に、固くひんやりとした甲冑が触れる。あのマンドランとでさえ、こんな距離感になることはまず無い。ルノーに体重を預けるようにすると、格段に体勢が安定した。巨木のように揺るぎない体幹であるのに、馬の動きに合わせた重心の移動が信じられないくらい滑らかだ。確かにこれでは、自分のような異物が変なところに重心をかけていると、馬も騎手もやりづらいのであろう。
    体勢が安定すると、先ほどまで見えなかった周囲が視界に入ってきた。そうして初めて、自分の視野が狭まっていたことに気付く。自分たちから三馬身ほど離れて、同じようにジョセフの馬に乗せられ、こわばった顔をしているマンドランと目が合った。多分自分も同じような顔をしているだろう。


    「ひでえ目にあったぜ。まだ地面がぐらぐらしてやがる」
     馬から降りたギャメルがたたらを踏んで悪態をつく。
     ルノーは、盗賊時代のこの男のことを直接は知らない。むろん黒爪盗賊団の所業は聞き及んでいる。彼がその団長であったことも。支配の術にかけられていてさえ悪夢のようだった己の所業を、必要と思えば自ら選んで行ってしまうことができる悪辣な男であり、とても信を置くことはできない。
    ただ――馬上で、不安に強張った背中を、ぎこちない動作で預けて来た彼を思う。痛々しい程にかたくなで、人を頼ることを知らない背中であったな、と、そう思った。
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