Side.M
「見てたぜ。そいつが犯人じゃないだろ」
少年特有の甲高い声がそう言った。自身を殴りつける男の拳が勢いを弱めたので、マンドランは腫れた瞼を恐々と持ち上げて、うろうろと視線をさまよわせた。声の主を探す。
それは小柄な黒髪の少年だった。道の脇に積み重ねられた木箱の上に腰掛けて、リンゴを片手でもてあそんでいる。この辺りの子供たちがおしなべてそうであるように、彼も粗末な身なりではあったが、マンドランとは違い、最低限の手入れがなされた小綺麗な格好をしていた。
「お前も仲間か」
いきり立つ男がマンドランの胸倉から急に手を離したので、マンドランはひどく尻もちをついて地面に落ちた。屈強な男が少年の前に立ち塞がる。少年は人を小馬鹿にしたような薄笑いのまま、ひらひらと手を振った。
9330