「わあ、かわいいですね!」
そう言ってセレストが指差したのは、ギャメルの家のぼろぼろの障子である。
その障子は見事なまでに穴だらけであった。子供の頃にギャメルや妹が指で開けた穴もあれば、うっかり箒の柄で突き破ったものもある。よろけて手をついた拍子に景気よく破れてしまい、穴というより大きな裂け目になっているところもあった。張り替えるのを不精して、つどつど補修の紙を重ねているせいで、障子はまっさらな所がひとつもない。もともと貼ってあった一枚の障子の面積より、花形に切った補修紙の方が多いくらいだ。幼い自分や妹が切り抜いた花もそのまま残っていて、いびつな形のものも多かった。あの、花ともヒトデともつかない形のものは、マンドランが切ったものだっただろうか。もともとの真っ白だった姿が思い出せない、まるでテセウスの舟みたいだ。
「花吹雪みたいです。おうちにいながらお花見ができるなんて、贅沢ですね!」
「ヒヒヒ、そんなもんかねえ」
そう言ってセレストがうふふと笑う。朗らかにそう言われると、目に入るたびに「今度こそ張り替えねえとなあ」と気が重くなっていた障子が、そんなに悪いものでもないような気がしてくるから不思議だ。
「うちでもやってみようかしら。あんな風に花いっぱいに!」
「やめてくれ!」
しかし、セレストがそう続けたので、ギャメルは思わず悲鳴のような声を上げてしまった。
初めてセレストの家を訪問した時、その立派な家構えに顎が落ちそうになったものだ。レンガ造りの煙突を見て、(この家にはサンタクロースが来るんだろうなあ)などと現実逃避のように思ったことを、今でも妙に覚えている。通された家の中はなんだかいい匂いがして、ピカピカに磨かれたフローリングに、薄汚れた自分の靴下の跡が付くんじゃないかと気を揉んだものである。
そんなに悪いものでもない、などと思ったのは一瞬の気の迷いだ。ボロの障子はボロの障子である。次に穴を開けたら…ではなく、すぐにでも障子を張り替えよう。そう、今週末にでも。天気が良ければ。すぐに、だ。