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    conatan111

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    conatan111

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    クロエちゃんとマンドランのお料理教室

    オムライスを探せ!「なぁ、槍兵さん。今日の晩飯作ったのって、あんただろ?」
    「え、わ、私のことですか?確かに、今日の食事当番は私でしたが……」
     クロエが天幕で食事の後片付けをしていると、突然マンドランがひょっこりと顔をだした。予期せぬ訪問者に、クロエが首を傾げる。
    「ちょっと頼みがあるんだがよ、俺にも料理を教えてくれないか?」
    「マンドランさん、でしたよね?それは構いませんけど、急にどうしたんですか?」
    「俺まったく料理はできねえんだけど、こないだあんたが半エルフさんに料理を教えてるのを見て思ったんだ。別に今からでも覚えたら良いんじゃないかって。んで、あんたの作る飯がいっとう旨いし、できればあんたに教えて貰えたら嬉しいんだが……」
    「そう言って貰えるのは嬉しいですね!そういうことでしたら、構いませんよ。私としても、部隊に料理できる人が増えるのは有難いことです」
    「お!ありがとうよ!」
    「ちなみにマンドランさんは、お料理されたことはありますか?」
    「狩りをするから、獲物を捌くのはできるんだ。でも、料理ってそういうことじゃないだろ?」
    「なるほど。ちなみに、作ってみたいお料理は決まっているんですか?」
     クロエに問われて、マンドランは虚を突かれたような顔をした。
    「あぁ、そうか。料理をするってことは、まずは何を作るか決めるところからなのか」
    「そうですね。皆さんにお出しする料理を手伝って頂くのでも良いのですが、それだと分担作業になってしまうので、まずは最初から最後まで自分で一品作ってみるのが良いと思います」
    「なにか希望はありますか?マンドランさんの好きなお料理でも、思い出の味とかでも良いと思います。あんまり難しい料理だと、私もお役に立てないですが……」
    「思い出、思い出ねえ」
     マンドランは首をひねる。生まれてこのかた、真っ当な料理を食べてこなかった。子供の頃は、死にそうなくらいひもじくて、人並みの食事を取れるようになったのは、盗賊になってからだ。あの頃は、あんまり味を感じなかったな、と思う。皮肉なことだ。エルヘイム義勇軍になってからの、更には解放軍に入れて貰ってからの食事がことさら美味く感じるのは、そんな背景もあるのかもしれない。
    「例えば、お母さんの得意料理とか、好きだったお店のメニューとか」
     横からクロエが助け舟を出そうとしてくれているが、あまりマンドランの参考にはなりそうも無かった。
    「あ」
     突然、天啓のように思い出が蘇った。
     子供の頃に食べたオムライス。そう、あれはギャメルが持ってきてくれたのだった。妹が調子を崩して食べられなくなった。せっかく母さんが作ったのに、もったいないからお前が食えよ、とそう言って。あの頃は、そういうことが度々あった。病弱な家族がいると大変だなと思っていたが、今ならそれがギャメルの気遣いだったのだろうと分かる。
     もちろん料理はその都度違い、豆のスープや黒パンとチーズ等様々だったが、中でも初めて食べたオムライスは、マンドランの一番のお気に入りだった。布を敷いた木製のバスケットの中、上にかけられた防水布をめくると、まだ温かい鉄の皿に乗ったオムライスがふんわりと湯気をあげているのだ。薄焼きの玉子をスプーンで崩しながら、大切に、大切にちまちまと食べていたら、「鳥の餌じゃねえよ。さっさと食え!」と頭をはたかれたものである。
    「お、何か思い付きましたね!」
    「オムライス、オムライスがいいな。俺でも作れそうか?」
    「いいですね!どういうオムライスが良いんですか?プロの方が作るような物は難しいと思いますが、ご家庭で作るようなものでしたら、お教えできるかと思います」
    「は?オムライスに種類があるのか?」
     マンドランの頭に疑問符が浮かぶ。
    「そうですね。まず外側の玉子が、薄焼きだったり、ふわとろだったりでかなり違いますし、中身のライスも、味付けがトマト系だったりデミグラス系だったり、色々ありますよ」
    「デミグラスってなんだ?」
    「前途多難ですね……」

    「うーん。今ある材料で、私の実家のオムライスが作れそうです。まずはこれを食べてみて、方向性を考えてみましょうか」
    「恩に着るぜ」
     そうしてクロエが作ってみせたのは、高さを出して盛り付けたバターライスに、とろとろの玉子をふわりと纏わせた美しいオムライスであった。鮮やかな玉子の黄色とトマトソースの赤色の対比が華やかだ。
    「いかがですか?」
    「おぅ!美味いぜ!でも、こうして食べてみると、あのオムライスとは見た目からして全然違うな。あれはもっとこう、平べったくて、玉子が薄くて、具材なんかももっと少なくて……なんでこんなに違う料理が同じ名前なんだ。ややこしいだろ」
    「では、続きはまた明日にしましょうか。明日食料品の買い出しに行きますので、その時にオムライスの材料も買ってきますね」
    「俺も一緒に行ってもいいか?荷物持ちくらいにはなるぜ」
    「いいんですか?助かります」


    「駄目ですか?かなり美味しくなったと思うんですけど」
    「いや美味いか美味くないかで言ったら、もちろん美味いんだけどよ。なんかちょっと違うんだよな」
    「こだわりますね」
    「あぁ、昔ダチがくれた、思い出の味なんだ。俺にとって思い出の味ってことは、きっとダチにとっても思い出の味なんだろ。俺、あんまり家族とかって分かんねーけどよ、母親の味って嬉しいもんなんだろ?」
     マンドランが少し考え込む顔をする。
    「最近あんまり眠れてないみたいだし、これ食ってちょっとでも元気になってくれたら良いなと思って」
     そしてクロエの顔を見て、ぎょっとした。
    「え、なんでちょっと涙ぐんでるんだよ!?」
    「ギャメルさんですね。分かりました!そういうことでしたら、私も頑張っちゃいます!」

    「教わるばっかじゃ悪いし、俺にもなにかできること無いか?」
     そう言って、クロエが食事当番の日は、マンドランも調理に同席することが多くなった。調理、配膳、後片付けまでを手伝った後、「今日のオムライス」を作るのである。
     思い出のオムライスの味を再現することは困難を極め、練習は幾日にも及んだ。
     まず、料理の経験が無いと言うだけあってマンドランは、調理前の食材の姿から、調理後の味を想像することが難しかった。例えば、生の玉ねぎサラダと、油で揚げられたオニオンリングと、くたくたになるまで煮込まれたポトフの具材である玉ねぎが、同じ玉ねぎであることが分からないのだ。ここに第一の困難があった。
     さしものクロエも、「なんか、細かく刻んだ肉や野菜が入ってたぜ!」という情報だけでは、その具体的なオムライスの具材を特定することはできない。結果として、二人は一般的にオムライスに入っていそうな肉や野菜をひとつずつ虱潰しに調理し、試すこととなった。
     作るだけでなく、行軍の合間を縫って二人で宿屋に食事に行くこともした。様々な国の色々な味付けや調理法を経験することは、レシピの推察に大いに役立った。五人前のオムライスを二人で平らげた際には、おなかがはち切れそうになった。
     
     そして遂に「思い出のオムライス」が完成する時が来た。
     数え切れないほどに試作を重ねた中で、哀しい程に貧相な作りのオムライスである。ギャメルの故郷の近くで採れる、少しの野菜、少しのキノコ、少しの肉が入った、ライスの味付けも侘しく、そのライスを包む玉子も薄さの限界に挑むようなオムライス。完成に近付くにつれ、徐々にクロエの顔を曇らせていったものである。
    「あんたの教えたかが上手かったお陰だぜ。付き合ってくれてありがとな!」
    陶器の皿を持ってきたクロエに、マンドランが首を振る
    「あ、この鍋のまま持っていきたいんだよ。皿に移すと、冷めちまうだろ」
     彼は持参した木製のかごに厚布を敷くと、その上にオムライスの入った鍋を置き、丁寧な仕草で上から布をかけた。持ち運ぶ間に冷めないように、土埃や雨の雫がかからないように、少しでも温かく美味しい状態で食べて欲しい。かつて、ギャメルがしてくれたであろう動作をなぞることで、当時の彼の心遣いを初めて感じる。

    「おーい、ギャメルー!」
     両手で大切そうにかごを持って、マンドランが小走りに駆け寄ってきた。何故かその後ろにクロエの姿も見える。ギャメルは怪訝そうに首を傾げた。
    「槍兵さんに手伝ってもらって、オムライスを作ったんだよ。お前に食べて欲しくてさ」
    「オムライスゥ?そういや、お前好きだったもんな。料理なんてできたのか」
    「だから手伝ってもらって、って言っただろ。ほら」
     手渡されたかごを、ギャメルは両手で受け取る。上にかけられた白い布をめくって、ぱちくりと目をしばたかせた。
    「は?俺のオムライスそっくりじゃねえか。何やってんだお前」
    「え!あれ、お前が作ってたのか?」
     ギャメルがはっきりと、しまった、という顔をした。
    「ちがっ!いや、あれは母さんが作ったのを、お前に」
     珍しく取り乱した風のギャメルが、しどろもどろに言葉を重ねるが、誰も信じよう筈が無いのである。ぽかんとしていたマンドランの口角がゆるゆると上がる。
    「そうか~、あれをお前がなぁ。嬉しいぜ、ギャメル~!」
    「うるせぇ!ひっつくな!お前も、慈愛に満ちた顔をするな!!」
     八つ当たり気味にギャメルが叫ぶ。そのまま二人はしばしぎゃいぎゃいと言い合っていたが、さすがに分が悪いと思ったのか、ギャメルは大きく息を吐くとあぐらをかいて座り込んだ。その膝の上にオムライスの入ったかごを乗せる。
    「なあ、俺、頑張ったんだぜ。食べてみてくれよな」
    「分かってるよ」
     添えられた木製のスプーンで、端から崩したオムライスをすくって口に運ぶ。
    「……うまいよ」
     ギャメルの顔が、ふっとほころんだ。
    「ほら、お前も食え」
    「なんか、懐かしいな」
     あの頃のように、二人で並んで座りひとつのオムライスを分け合って食べる。童心に帰った心地がした。正直に言って、貧しい食事である。作るほどにクロエの顔が曇っていった程に。今では幸いなことに、これよりも美味しい食事をたくさん食べることができている。セレストのお陰であり、そしてまた解放軍のお陰である。それでも、これはマンドランにとっては特別な食事なのであった。
    「ありがとな」
    ぶっきらぼうにギャメルがそう言うので、マンドランはそれだけですっかり満たされた気持ちになったのだった。


    ++++++


    「っていうかお前、槍兵さんの分はねえのかよ」
    「あ、私はもう何回も味見しててお腹いっぱいなので、どうぞお構いなく」
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