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    為エー、エージェントの名前「ノア」
    社交パーティでナンパしてくるモブに取りつけられた食事会に恋人のふりをした為士を連れていってめちゃくちゃにするエーの話

    ##為エー

     シャンデリアの下で、瞳と同じ色をした液体が注がれたワイングラスを翳して、目をわずかに細める神威くん。極上の場所で、極上の美しさをきらめかせる彼は、店内の他の席からもちょっとした注目を集めているのがわかるくらい絵になっていた。しかし、そこに映った自分の顔を見つめていると知っているのは僕と彼だけだろう。知らん顔で鰆のムニエルを口に運ぶ僕の向かいには、名前を呼ぶことが躊躇われる相手——仮にYさんとしよう——が唇をわななかせていた。
     僕は口元をナプキンで控えめに拭った後、にっこり微笑んでYさんに問いかける。
    「あ、ご趣味は」



    「恋人のふり?」
     ランチタイムのピークが落ち着いた仮面カフェには彼ら以外の客がおらず、秘密の計画を立てるのにはうってつけだった。
    「うん、一回食事に付き合ってくれるだけでいいから……ダメかな?」
    「なぜ俺がそんなことをしなければならないんだ」
     仮面越しに神威くんの怪訝そうな表情が返ってきて、僕は言葉を選びながらことの次第を説明した。
     財界の社交パーティのような集まりに顔を出すことにも少し慣れてきたのだけど、ここ数ヶ月そこでできた人間関係に頭を悩ませている。コスモス財閥の若き当主(浮いた噂なし)という肩書きが一人歩きをしているのか、明らかに私的なラインを踏み越えて関係を深めてこようとしてくる人がいるのだ。こちらとしては仕事で来ているのに婚活パーティだとでも思っているのか、きっぱり断っても付きまとわれて、セクハラまがいの下卑た質問を投げかけられたこともある。相手にもこちらにも立場がある以上失礼な態度は取れなくてほとほと困っている。その人——名前を呼ぶことも躊躇われるのでYさんとしよう——に、今度無理矢理取りつけられた食事会の約束があるので、そこに神威くんを連れていってめちゃくちゃにしてやろうと思っているのだ。
     社交の場にも慣れているといえば雨竜くんが思い当たるが、まだ若いし、財界には顔を知られすぎているし、忙しくてこんな馬鹿げた計画には乗ってくれないだろう。僕と年齢が近くて、非日常的な空間でも自分らしく振る舞えて……あと暇なのは神威くんだけだろうと思っている。
     経緯を話すと、「そこまで言われたら仕方ないな」と、意外にも彼は乗り気だった。
    「途中から褒められてなかったぞ?」
     阿形さんが隣の席で苦笑している。
    「そういうわけで、一日の夜、神威くんをお借りしていいですか」
    「構わないよ。ノアもご苦労さんだな」
    「ナルシスト野郎が帰ってこねーとせいせいするぜ」
     虫を追い払うように手を振る荒鬼くんに神威くんが噛みついて、僕の一世一代の告白(もどき)は、いつもどおりのマッドガイの空気に押し流されていった。
     そう、今回僕が神威くんを誘ったのは、彼らに話した理由ももちろんあるのだけど、彼が好きだからという気持ちが存分にある。この話し合いがあっけなくうまくいったことが怖いくらい、私利私欲にまみれたものだった。
     会計をしたときに阿形さんに目を合わせて頷かれて、たぶん彼には魂胆はバレていたと思う。苦い表情で肩をすくめていた荒鬼くんも同様だ。ちなみにレオンからは「応援いたします」というお墨付きをもらっている。
     神威くんは本当に僕の下心に気づいていないのだろうか、それとも。思い出すと顔がぶわっと熱くなって、バックヤードでぶんぶんと一人頭を振って誤魔化した。
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