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    じ ん

    @Zin_amour いろいろ投げる場所。

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    不二リョ。気持ち不二→リョな雰囲気。はじめてのスキンシップ。

    #不二リョ
    unparalleled

    おやすみ王子様ちかちかと瞼の裏で小さな星が見える、いや見えた、と数拍遅れてリョーマが衝撃を知覚した時には既に不二が目前へと迫っていた。
     
    「……あ、スンマセン」
    「いや、僕の方は何も問題無いけれど。……越前、キミ、大丈夫かい?」
    「大丈夫っス。だから腕どけて」
     
    つい今しがた二人が正面衝突を起こしかけたのには訳がある。真夏日の今日、昼休憩に入るなりコートを飛び出したリョーマは、熱風が頰を打つ外気を煩わしく思いながらお気に入りの休憩スポットを目指して歩いていた。それはもう一心不乱に。そう、目深に被ったキャップが視界を狭めていたのに加えて俯きながら歩いていたリョーマには部室の曲がり角からやって来た不二の姿が殆ど見えていなかったのである。
    幾ら動体視力がずば抜けた二人であっても、出会い頭で一方が前を見ずに急ぎ足で向かって来たとあれば接触事故はまぬがれられなかった。
    そして状況は冒頭に巻き戻る。

    わりと勢い良くぶつかった瞬間、リョーマの身体の軸が僅かにぶれたことに即座に気付いてその華奢な肩を咄嗟に支えた不二の手際は流石と言わざるを得ない。不二ファンクラブの女子学生達が彼を王子様と称えるのも至極納得のパフォーマンスである。
    やんわりとその身を不二に拘束されたまま、離して、危ないから駄目だよ、一人で歩ける、と収拾のつかない応酬を繰り広げるうちにいよいよしびれを切らしたリョーマは、ぱっと顔を上げるなり形の良い鼻を逸らしながら背中を支える手を勢い良く引き剥がした。その行動に不二は小さく笑って肩を竦めてみせた。
    ほっといてくれれば良いのに。

    胡散臭い笑顔だ、と思う。後輩である自分の振る舞いに対して怒るなり小言を呈するのが普通だろうに、ぶつかられて、助けに入った腕を引っぺがされて、挙句睨まれて、それでも笑ってみせるこの人はなんなのだろう。
    僅かな苛立ちを感じるのは暑さのせいなのか、それとも得体の知れない正面の人物に対して湧いて来ているものなのかが判別出来ず、リョーマは帽子の鍔の下から不二の様子を窺い見た。向けた視線の先には、数秒前と何ら変わりない微笑みを湛える美形───人は彼を天才と呼ぶ───が居て、どこか困ったように眉尻を垂らして、此方を見詰めている。
    困ってる?……いや、わからない。とりあえず暑い。

    「もういいスか。ぶつかったことは謝るんでどいて下さい」
    「いや、…でもキミ、朝練が始まった時からふらふらしていたじゃない。タカさんや英二と熱中症なんじゃ、って心配していたんだよ。ほら、おいで。」
    「……え、ちょっ…?!」

    突然腕を引くその力強さにリョーマは思わず瞠目した。どことなく得体が知れない雰囲気を漂わせている不二に対して全く警戒していなかったかと言えば嘘になるけれど、いざとなれば振り切るのは容易いだろうと油断していた。急に強引になるものだから、一瞬反応が遅れた。目を見開いたリョーマが向かわせた視線の先、トリコカラーのジャージの袖から覗く手首は骨筋張っていて、けして太くはないけれど案外男性らしい形状をしていた。さらに言えばやたらと爪の形が綺麗で指も長い。
    ああ、この人も男なんだっけ、と最早自分の体調とは関係無い事柄に想いを馳せながらリョーマは不二に腕を引かれるがままに歩く。試合中の鋭い視線や、蒼い焔を瞳に宿してラケットを振るう不二の一面を知らない訳では無い。雨で中断した紅白試合の中にその焔の熱さを肌で感じたばかりのリョーマは、その時のスリルを思い出して小さく息を呑んだ。
    レギュラー陣の中でも実質No.2の実力を誇り、天才と呼ばれ、けれど驕らず周囲に媚びもせず、ただ優雅に微笑んでそこに居る。不二周助とは、そんな真昼の月のような人物である。だからこそ此方が求めぬ介入をしてくるとも、積極的な干渉をしてくるとも思わなかったのに。なんのつもりなのか。

    「どのみち、休もうと思っていたんだろ?横になりなよ。本当はもっとちゃんとした所で休んだ方がいいけど、とりあえず」
    「……なんで、ココ…」
    「ほら、やっぱりぼうっとしてる。キミね、気付いてる?顔、随分赤いよ」
    「そんなの、さっきまで動いてたんだから当たり前じゃん」
    「…口の減らない子だね。とにかく座りなさい」
    「……はあ、」

    驚いたのは、不二が存外よく喋る事実に対してではなく、導かれるがままに行き着いた先がもともとリョーマが訪れる予定の場所だったからだ。
    校舎裏の老木の下は、心地よいリョーマの隠れ家だった。此処ではテニス部部員どころか人に会ったことは一度も無い。それなのに不二は初めからこの場所を知っていたかのように、まっすぐにこの木陰へと辿り着いた。そもそも部活以外の場面でまともに会話を交わしたことが無いのだから、不二が元々この場所を知っていたのだとしてもリョーマが休憩もといサボタージュに利用している事実まで把握しているとは思えない。じゃあ何故。いやでもこの人なら何も言わないだけで色々知ってたりして。そういや3年にはデータマンの乾先輩も居るし。

    「……やっぱり謎」
    「え?」
    「……ベツに、なんでも」

    そよそよと風が吹き、葉擦れの音が沈黙の隙間に入り込む。木の根元の座り慣れた定位置に腰を下ろし、リョーマは極めて態とらしく溜息を吐いた。

    「……ねえ」
    「ん?…なんだい、さっきから何か言いたげだね」
    「いや、休むなら一人で出来るんで。なんでまだアンタここにいんの」
    「……さあ、何でだろう」

    全然会話にならない。漸く一息つけると思ったら、今度はまさかの質問返しだ。調子が狂う。

    いつのにまにか不二の穏やかなマイペースさに翻弄され、現場回避の念を消失したリョーマは、思考を手放して目を閉じた。テニス以外の事項に関してエネルギーを割くのも面倒だし、今は話してどうこうする手間よりもさっさと休息する方がイイ。

    ──不意に、香る花のような甘い香りがした。

    「……え、」

     あまりに自然な動作で、不二の膝の上にころりと頭を転がされる。
    どうやら花の香りは不二のジャージから漂って来ている。女子かよ、と視界に広がる慣れない光景を眺めながら内心リョーマはツッコミを入れる。
    いつの間に隣に座ってたんだ、とか、なんで膝枕なのか、とか。脳裏に次々と湧いて出る疑問は顔の上に被せられた愛用のキャップに覆われ、喉の奥に落ちて消えた。

    「……起こしてあげるから、寝てもいいよ」
    「起こしてなんて頼んでない」
    「じゃあ、今すぐ一緒に部室に戻ってお昼ご飯を食べようか」
    「………ヤダ」
    「だろうね。……おやすみ、越前」

    ああしろこうしろと指図されるのは部活中だけで充分だと反論したいのは山々だったけれど、諭すように、宥めるように響くテノールはやけに心地良い。開きかけた唇を引き結び、横になったせいか薄ぼんやりとしてきた意識の中で、頭上から降る声は案外嫌いじゃないと、そう思った。途端に身体の力が抜けていく。


    ぱたりと草の上に投げ出された腕を見て、不二はようやく落ち着いたかと目下の少年へと視線を落として細い首筋に手を伸ばす。短い襟足の生え際を指の腹で辿るけれど、リョーマは身動きひとつしなかった。早々に眠り込んだのか、はたまた狸寝入りか。
    どちらでも構わない。

    一定のリズムでリョーマの頭を撫でる不二の指先は絶え間なく降り注ぐ熱光線とは裏腹にひんやりとしていた。
    その冷たさもとい体温の低さが実はちょっとした彼の緊張のしるしだと言う事は、不二周助その人のみぞ知る、ここだけの秘密なのであった。
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