56の日冷蔵庫が空っぽでコンビニに惣菜買いに出た二人。
弟が一人レジで店員さんに商品をピッピッとスキャンしてもらっていると、その背後から太宰が来て、買い物かごに何かをすっと入れた。目をやると、それは”0.01”と大きく記された小箱だった。
「ちょうど切らしていたからね」
ニコリと満足気に微笑む太宰。弟は「ちょっと…!」と目線で訴えかけるも、太宰は気にせず腕を腰へと回してくる。
会計中ゆえ兄を追い払うことも出来ず、コンビニを出て、弟はようやく不満をぶつけた。
「いきなりかごに入れないで下さい!」
「何故だい?ああ、若しかして薄いものより枚数の多い方が良かったのかい?今日は積極的だねえ」
「避妊具の話じゃありません、心の準備の話です!」
兄と関係を持って暫く経つが、矢張り避妊具を二人で購入するのはどうにも羞恥心が勝る。いかにもこれから行為をする、と宣言しているような気がして。
太宰はそんな弟の顔を覗き込み、揶揄うようにふっと笑った。
「心の準備、ねえ。案外慣れないものなんだね、…何度も躰を重ねてきたというのに」
夜の小道で、太宰が耳元にこそりと低音を響かせる。薄暗い街灯に人気のない其処は、二人きりの空間と化していた。太宰がレジ袋を持っていない方の腕で、再びそっと弟の腰に手を添えると、その細い腰がぴくんと甘く震える。
「ふふ、今日は随分と素直だね。私の美声が腰に響いたかい?」
「ちがっ、今のは不意打ちで」
「私の声が好きなのは否定しないのだね」
太宰はそう意地悪っぽく囁く。図星な弟は何もいえず、静かに俯いた。
そんな弟を見て、太宰は揶揄ったことを少し後悔する。
今日抱くつもりなどなかった。だが、普段はツンとしたそっけない反応を見せる弟が、こんな生娘のような反応をしているのだ。なので、ほら。
「…勃った」
弟は目線を下にやる。その先には下袴を押し上げるものがあった。
一体何処に欲情する要素があったのか。弟は、先程の善い感じの雰囲気がパリンと子気味好く割れる音を聞きながら、目の前の実兄に軽く引いた。
「僕は先に帰っておきますね。今兄さんの隣を歩きたくありません」
弟は太宰を残し、スタスタと先を歩いていく。
夜道に一人残された太宰はふいに、手に提げたレジ袋を一瞥した。
「……帰ったら抱こう」
そう小さく呟いた言葉は、夜の静寂に溶け込むように、ぽつりと残った。