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    osomatumint10

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    osomatumint10

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    陸ちゃんと香音人さんがカレーを作るだけの話

    今日の晩御飯はいつもと少し違う。香音人はお玉で鍋をかき混ぜながら、鼻歌交じりに微笑んだ。
    鍋の中身はカレーである。大量の玉ねぎを飴色になるまで丁寧に炒め、市販のルーを使わずに多種多様なスパイスを調合して入れた本格的なもの。肉は豪勢に国産の牛肉を使ったし、じゃがいもと人参も大きめに切ったものがゴロゴロ入っている。
    残す工程は盛り付けだった。皿にご飯をよそってカレーをかける。ただそれだけ。
    米は洗って炊飯器にセットしてあるので、ぬかりはない。そう思って香音人が手伝ってくれている陸太の方を見ると、しゃもじを片手に直立不動で蓋の開いた炊飯器の中を見ていた。
    「どうしたの、陸ちゃん」
    「あっ……」
    陸太の背後から香音人が覗き込めば、釜の中には水に浸ったままの生米。水加減を調整して仕込んだものの、スイッチを入れ忘れて米が炊けていなかったのだ。初歩的なミスである。
    やってしまった。米を炊いたと思っていた香音人の顔は、みるみるうちに青ざめていった。今から早炊きで炊いたとしても、空腹の同居人に拷問のようなお預けを味あわせてしまうのは確実だ。
    「ご、ごめんね……陸ちゃん……」
    真っ白になった頭にようやく浮かんだのは謝罪の言葉。きっと、呆れられたに違いない。くらくらする頭を右手で支えながら、香音人は恐る恐る陸太の様子を伺う。こんなミスをしでかしてしまったのだ。失望した陸太にどんな目で見られるか。想像するだけで、香音人の体は恐ろしさで震えそうになる。
    「だ、大丈夫ですよ、香音人さん」
    けれど、返ってきたのは明るく励ます大きな声。陸太は台所の買い置きをゴソゴソと漁ると何かを取り出した。
    「あったこれ温めたらご飯用意できますよ」
    出てきたのはレンジで温めて使う白飯のパックだ。陸太の足元にある買い置きの入ったスーパーの袋には、即席麺やレトルト、缶詰や真空パックなど、簡単に調理が出来る商品が入っていた。
    白飯のパックの蓋を少し開け、電子レンジに入れて表記の通りにセットする。ピッピと軽快な電子音。レンジはカタカタとわずかに揺れながら滞りなく温めを開始する。
    これでカレーに合わせるご飯の心配はなくなった。顔を見合わせた二人は安堵の息をホッと吐く。
    「いざというときに使えるよう、買っておいたんです。俺は料理とか……香音人さんみたいに出来ない役立たずだし……香音人さんが風邪とか引いた時も……きっと、おかゆすら作ってあげられないだろうから……」
    頭を掻きながら、陸太は恥ずかしそうに俯いた。手は次第に頭から離れ、お腹辺りで何かに耐えるよう、硬く握られる。
    「陸ちゃんは……役立たずなんかじゃないよ」
    目を伏せた陸太の、痛々しいほどに握られて赤くなり始めた拳を、香音人は労るようにそっと両手で包み込む。
    「そんなこと言わないで。今日に限ったことじゃないんだよ。陸ちゃんの優しさに、僕はいつも救われてる」
    そう言って、香音人が優しく微笑んだ。温かい太陽のような笑みだった。
    そんな表情を見た陸太の瞳は、瞬く間に潤み、水面のように大きく揺らいだ。
    そして最後には、大粒の涙がその頬を伝っていた。

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